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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科11巻10号

1956年10月発行

雑誌目次

綜説

門脈圧亢進症—特に肝内動脈植込法の創案を中心とする治療に関する見解

著者: 木本誠二 ,   杉江三郞

ページ範囲:P.635 - P.652

 門脈の外科を恩師福田保教授の下に吾々が血管外科の一項目としてとり上げたのが昭和24年であつて,その後特に門脈大静脈吻合を中心に研究を続行し,殆んど毎年の外科学会総会に報告するとともに,度々誌上にもその成績を発表してきた.今年5月の日本外科学会総会1)で宿題報告の担当者の一つに加えられ,これは従来の詳細な研究成績は省略して比較的最近の教室の業績と現段階におげる吾々の見解を発表するに止めた.その全文は日本外科学会雑誌に近く掲載される筈であるが,本稿には編集者の需めに応じて主要な項目のみについて解説的に記述し,現在の吾々の見解を明らかにしておこうと思う.昨年夏までの研究状況5)6)7)8)9)10)12)は本年2月発行の日本外科全書第24巻Ⅱに簡単に纒めてあり2),その中心のいくつかの懸案は本稿でほゞ解決される段階に達している.

腓骨下端Metaphyseに発見せる骨透明巣

著者: 靑池勇雄

ページ範囲:P.653 - P.656

緒言
 腓骨下端のMetaphyse部にBrodie骨膿瘍に似た透明巣,即ち前後像では直径10〜15mm大の卵円形で骨硬化によつて周囲が境された陰影を見ることは稀れでない.しかしその大半はその境界が不鮮明であるか,骨硬化が部分的であるがために,大した疑問も起らずに放置されていたわけであろうが,もしも,たまたま透明巣が骨硬化で周囲を境されて明らかな場合には問題にされ,しかもそれが病的変化として臨床上Brodie骨膿瘍,Osteoid Osteom,骨嚢腫など種々の透明巣を示す疾患が疑われ.この場合にその腓骨の透明巣の存在する部位やその近くに疼痛なり腫脹でもあろうものなら,一層診断に自信をもつて,疼痛や腫脹などの原因がその透明巣を呈する病変にあると考え,種々な診断の下に治療が行われて来たのである.
 腓骨下端に限局的な透明巣を呈する原因として,現在までにBrodie骨膿瘍,Osteoid Osteom,骨嚢腫等,炎衝,腫瘍によるものが知られている.しかしこれらの疾患が腓骨下端に出現することは甚だ稀れなことであつて,Brodie骨膿瘍,Osteoid-Osteomのうち2〜3%に過ぎず,文献上に現われたものは各々10例にも達しないようである.

筋電図学よりみた腰椎麻酔の臨床

著者: 堀浩 ,   渡辺健夫 ,   光信昌明 ,   橫田博胤 ,   酒井謙一 ,   北川晃

ページ範囲:P.657 - P.663

Ⅰ.緒言
 生理学的に神経麻痺を研究する場合,普通用いられる手段は神経切断である.それは機能的及び器質的の両面に於て,切断する方が圧迫,捻挫,薬剤等を用いるよりも完全な神経遮断法である様に思われるからである.脊髄に於ても完全な機能遮断の為には,全切断,部分切断が望ましい訳であるが,薬剤麻痺即ちLumbalanesthesiaなるもの,実験目的によつては極めて興味ある神経遮断法となる事は論を俟たない.即ち本法の完全神経遮断に疑義ある点が逆に又種々な麻痺程度の研究に役立ち,Segmentalの麻痺を可能とするのである.
 一方臨床的にLumbalanesthesiaを眺めると,その歴史は極めて古く之に関する業績を今更論ずるに値しない.かくの如く極めて普及している麻痺法であるから,その際の筋電図所見も既に二,三検討せられているのであるが,さて本質的に麻痺の程度と筋電図のPatternを検討した業績は意外に少い.

最近4年7カ月間に於けるスポーツ外傷の統計

著者: 石塚忠雄 ,   吉永栄男

ページ範囲:P.665 - P.670

Ⅰ.緒言
 スポーツの身体に及ぼす影響に就いては,スポーツの発達とその普及化にともない益々重要性を加えて来た.
 我国に於いては昭和3年スポーツ医事研究会が発足してスポーツによる障害の他に,体力の増進を医学的に検討する事が始められた.また,ドイツに於ては1936年,ベルリンに開催されたオリンピックに際し,スポーツ医学会議が開かれ,新陳代謝と循環器,循環器と呼吸器,新陳代謝,練習衛生,心理とスポーツ.外傷医学,矯正体操,及び生物学的社会的問題などが討議され,系統的な輝しい業績を挙げた.また,昭和9年には,整形外科学会に於いて(スポーツと整形外科)が宿題報告として採用され,故齊藤一男教授が4,000の外傷と1,200名の選手について運動効果と運動障害を述べた.更に,13年は京都で開かれた日本医学総会の臨時分科会として体育医学会が開かれている.その他,齊藤,神中,高木等の業績がある.

脊椎カリエスの発病年齢

著者: 小川正三

ページ範囲:P.671 - P.675

いとぐち
 脊椎カリエスの発病年齢その他に関する統計的研究は,内外文献を渉猟するに枚挙にいとまがない.而して個々の統計によつて数値に多少の差はあつても,その大綱は本邦諸家の統計と欧米諸家の統計では可成著明な差はあつても,少くとも本邦に於ては大体同様の傾向を示している.然しながら輓近の医学の進歩は結核の治療並に予防の面に於ても隔世の進歩をもたらし,既に肺結核にその影響が著明に現れている今日,第二次結核症の一つである骨関節結核の発症にもその影響が及んでいる事は容易に推察され,それが解明の一端としてあらためて脊椎カリエスの発病年齢を統計的に観察し,その時代的推移を検討する事も亦意義ある事と考える.

転移巣より逆に原発巣を発見した症例について

著者: 椿田和彥 ,   成田定男 ,   島野義房

ページ範囲:P.677 - P.682

 臨床上悪性腫瘍の根治的治療を一層困難なものにする因子に転移が早期且つ複雑多岐なことにある.然も原発巣の病感覚なく,無症状であるものが,転移巣の腫瘤又は,それによる症状発現から逆に原発病巣の発見される事が稀にあり,而もかくては,時既に根治療法の時期を失し,万策なく手の施し様のない状態である事が多い.例え対策が出来ても,対症的である事が,かかる症例の特徴である.我が教室では,かかるものが数10例あるが,その代表的で,印象深い数例について報告する.臨床上診断への一助ともなれば幸である.

再開腹術200例の検討—特に腹腔内癒着症について

著者: 島貫常雄 ,   神靖衞 ,   菊地喬 ,   鈴樹文吉

ページ範囲:P.683 - P.686

緒言
 腹腔内癒着症の報告は,内外を通じ膨大な数に上つている.然し乍ら反面,癒着防止対策に就いては未だに確定的な方法が報告されて居らず隔靴掻痒の感を抱くのは一人我々のみであろうか.
 癒着防止対策の方法に,確定的なものが見出されない理由は,癒着発生機転の複雑性にあると思われる.成書或は文献に述べられている癒着発生機転の主なものは,細菌感染,機械的一化学的刺激,個人的体質的素因等であるが,前二者は避け得られるとしても,個人的体質素因に対しては,個人の癒着性体質を,非癒着性体質へと転換せしめねばならぬであろうと考えられ,問題は極めて複雑多岐である.

瘢痕性障碍並びに関節強直に対するナイトロミン局所使用としてのイオントフォレーゼについて—悪性腫瘍の治療

著者: 小縣昇 ,   河野裕

ページ範囲:P.687 - P.691

緒言
 我々は先きにナイトロミンイオン導入に著想し1),その作用機序,実施要領並びに臨床成績について報告し,其後イオン導入自体の滲透性に就いては動物実験を行い,従来の平流電気発生器に比しオーゴスペルの滲透性がより大である事を立証した2).そこで更に外科領域に於て種々の瘢痕,即ち線維母細胞の増殖を基調とする結合織の異常増生症,並びにそれに依る種々の障碍に対し本法を施行し,他の療法では見られなかつた著効を得,又他方皮膚乃至皮膚に近い新生腫瘍に対しても認むべき効果を得たと考えられたので,それらの臨床成績につき少しく検討を加えて見た.

症例

食道胃重複癌の一手術例—食道癌手術術式に関する若干の考察

著者: 山口逸郎 ,   星正夫 ,   阿保七三郞

ページ範囲:P.693 - P.696

 原発性多発性悪性腫瘍に関しては,久しく以前より報告を見るが,近時癌の多中心性発生と云う事とからんで次第に注目を浴びるに至り,それに伴い,その頻度も可成り高いものと考えられる様になつて来たが,剖見例に於ても食道癌と他の悪性腫瘍との合併例の頻度は尚極めて低いのが現況である.我々は食道癌及び幽門癌の合併せる一例を経験し,之れに対し中部以下食道切除及び胃全剔出を施行,Roux Y.による食道空腸吻合を行つて治癒せしめ得た.食道癌に対する手術は日を追つて安全なものとなりつゝあり,食道胃吻合を行うのが普遍的となつているが,この術式に関しても尚批判なしとはしない.我々はこの症例を報告,その術式の面から若干の検討を加える.

完全卵黄管瘻に就いて

著者: 城巍 ,   岸陽一 ,   佐藤進

ページ範囲:P.697 - P.700

緒言
 卵黄管瘻は胎生初期に卵黄管の退行障碍が起る事により生ずるのであるが,その中でも特に完全卵黄管瘻は甚だ稀な疾患とされている.最近,我々は本疾患に遭遇したので症例に就て報告し,考察を加えてみたいと思う.

睾丸腫瘍(胎児性癌)の一例

著者: 中島十一 ,   小倉利通 ,   瀨谷五郞

ページ範囲:P.701 - P.703

Ⅰ.緒言
 睾丸に原発する腫瘍は,他諸臓器の腫瘍に比し,比較的稀有であり,その形態も種々で,病理組織学的診断は,稍々困難である.我々は胎児性癌の1例に遭遇し,之が文献的考察を試み,珍しい症例であると考え報告する.

外傷に継発したCandida症の一治験例

著者: 前原三郞 ,   高舜琛 ,   佐々田武 ,   眞継猛 ,   中島重雄

ページ範囲:P.705 - P.708

 ペニシリンに引き続く諸種抗生物質の発見によつて幾多の難病も征服せられ,外科方面に於ても感染の危惧なく安んじて手術を行い得る様になつた.その反面之ら抗生物質の使用が普及し,それが広範囲に安易に投与せられる事に伴つて,副作用として最近アナフィラキシー症状を示して死亡した例が相次いで報告せられている.又不感受性菌属の菌交替現象に起因すると考えられる諸症状が現れることは夙に注目せられている事実である.
 最近外傷後の感染に依つて広範囲な皮下蜂窠織炎を起し,強力に抗生物質を使用したがその効なく,甚だ重症となつて吾々の教室に入院した患者の血液からCandida菌を検出し,之を已知のCandida albicansによる凝集反応によつてCa—ndida症と診断し得て之を治療し,貴重な一命を救うと共に下肢切断の悲劇を免かれた症例を経験した.

Finalgon軟膏に依る関節痛に対する臨床経験

著者: 副島義彥

ページ範囲:P.709 - P.713

Ⅰ.緒言
 慢性関節痛,即ちリウマチ様関節炎,変形性関節症,所謂五十肩等,或は又病因の明らかでない関節痛に対しては種々の治療,多種多様の薬物療法等,すでに現在迄枚挙するいとま無き感があり,又特に先に天児教授は上記疾患に対する局所薬物療法の意義を説いて居られ,Hydrocortison等張重曹水等の関節腔内注入に依り,相当の効果が認められているのであるが,実際治療するに当り,之等の患者の大部分は,その疾病の初期に於ては,日常生活に強い障碍を自覚せず,又注射時の疼痛や,通院の煩雑さを訴え,殆んど全治前に放置せる状態にあり,症状進行し障碍高度となつて後に,本格的治療を希望すると言う悪弊を痛感,現在迄臨床諸家に於て好んで用いられる罨法,温泉浴,超短波治療等にヒントを求め,手軽に使用治療可能の方法を考慮中,たまたま田辺製薬提供に依る毛細管を拡張し,皮膚温感器官を刺戟,体温を上昇せしむる作用のNonylic acid vanillylamide 0.4%,及皮膚中に滲透し,血管を拡張し,体温を上昇せしむる.薬理作用の,Ni—cotinic acid—β—butoxyethyl ester 2.5%,混合の2.9% Finalgon軟膏を,当教室外来患者の関節痛を主訴とする数種の疾患について,経験し,可成り良好の結果を得たのでこゝに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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