綜説
気管内挿管用滑剤並びに滑剤用局所麻痺剤について—キシロカインジエリーの使用経験をめぐって
著者:
高橋長雄1
岩井邦夫1
鈴木正明1
安井愼太郞1
木下良裕1
所属機関:
1札幌医科大学外科麻酔科
ページ範囲:P.281 - P.287
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気管内麻酔法が我国に於ても益々広く利用されるようになり,沢山の症例が経験されるに従つて,従来あまり問題にされていなかつた諸種の部品,附帯物件の重要性が認識され見るべき改良進歩がなされつゝある.気管内挿管用滑剤も其の典型的な例であると思わる.我々の教室に於ける進歩の跡を迹つて見ても,昭和28年春頃までは単に滅菌オレフ油を気管内挿管用チューブの尖端に,わずかに塗布して,チューブを声門裂の間にギシギシと挿入するという状況であつた.同年6月アメリカ駐留軍第161病院の好意によりKYジェリーの試供を受け其の滑かな挿管時の感触に驚いたものであつた.爾来コンスターチ,精製デキストリン,アルギン酸ソーダ,ポリビニールアルコール,そして最近はカルボオキシメチールセルローズソーダを種々の濃度の単味で,或は種々の割合で配合してKYジェリーに似た特性を有するものを自家製造して使用していた.当時我々は気管内挿管用滑剤の具有すべき特性として次のものを考えていた.
(1)気道粘膜に対して局所刺戟作用及び其の吸收による中毒作用を有しないこと. (2)充分な滑性と適度の粘性を有し,且つ過度の糊性を有しないこと. (3)滅菌操作の容易に行えるもの. (4)抜管後に喀出容易な親水性であることが望ましい.