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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科11巻6号

1956年06月発行

雑誌目次

綜説

末期乳癌に対する去勢ならびに腎上体亞全剔出術

著者: 桑原悟 ,   高山重信 ,   木村正

ページ範囲:P.369 - P.375

 乳癌にたいする治療は現在,早期発見,早期根治手術が最良の方法である.しかし根治手術を行つたものでも5年後60〜70%の高率において再発する.これら再発,転移を起したものは一般に外科適応の外とされている.
 こゝにおいて内分泌的処置が考慮される.G. T. Beatson(1896)は去勢Ch. Hugginsら(1952)は腎上体剔出を末期乳癌におこなつた.われわれは本邦において,はじめて末期症例(2例)に去勢ならびに腎上体亜全別出術を行つた.その結果,自覚症状はほとんど100%なくなり,他覚的には1例では再発腫瘍の消失,他の例ではレ線陰影の好転,赤血球数,血色素量の増加,血漿蛋白の著明な改善をみるなどの好成績をおさめた.

下顎骨腫瘍について

著者: 井上一郞 ,   広沢孝一郞 ,   田中聰

ページ範囲:P.377 - P.382

 顎骨は其の構造上種々なる腫瘍が発生する部位で,歯系要素の外口腔粘膜に接著する為他の一般扁平骨とは稍々異なつた腫瘍発生様相を呈するものである.吾々は最近相継いで下顎骨腫瘍の3症例を経験したので,茲にその概要に教室の統計を加え,最近の文献を若干参照して報告するものである.

重度脊髄損傷の椎弓切除術経験

著者: 木村元吉 ,   伊藤三郞 ,   和野邦義 ,   宮沢昭四郞

ページ範囲:P.383 - P.392

まえがき
 重度脊髄損傷患者がわれわれに与えている治療上の諸課題は,周知のごとくまことに広範にして,かつその解決への道もまたいちじるしく難渋を極めている.その困難な道は受傷直後から始まり,救急処置から本来の治療への道を辿り,漸くにして更生指導への拠点を経て,職業補導を与え幸に職場に復帰あるいは転換せしめ得ても,その後の管理の道は彼等の生涯を通じて行われなければならないものである.そのどの部面をとつてみても難解であり,かつまた整形外科医を初めとして,外科医・皮膚泌尿器科医・精神科医・内科医等のあらゆる部門に携わる多くの医師と理学療法師・看護婦・栄養士等々の絶えざる綜合結集的な努力を必要とするものである.
 東北労災病院は,その性格上,勢い脊髄損傷患者の集積する傾向があり,開設以来現在までに44例の患者が入院し,これを対象として上述諸課題につき逐次検討をすゝめているが,本論文はその一部である手術的療法,ことに椎弓切除術経験について述べたものである.

非特異性急性腸間膜リンパ腺炎—急性虫垂炎と類似せる

著者: 飯塚積 ,   平沢進武 ,   大塚恒治

ページ範囲:P.394 - P.396

 急性虫垂炎の臨床診断の下に開腹手術をしてみると,虫垂には肉眼的に殆ど炎症性変化がなく,廻腸下部及び廻盲部の腸間膜リンパ腺が累々と腫大している症例を屡々経験する.これはHeusser(1923)がLymphadenopathia mesaraiceとして報告し,続いてPribram(1924),Hertel(1937),Brawn(1937)等により研究されたもので,本邦に於てもさほど珍しい疾患ではないが,われわれは過去2年間で本症例を14例経験したので少しく検討してみたい.

腸間膜淋巴腺の観察

著者: 加藤貞三郞 ,   加藤敏昌

ページ範囲:P.397 - P.399

緒 言
 腸間膜は腹腔の広汎な部分を占め,内に腸の全機能を司る神経血管淋巴系を有しているので,腸間膜の病変は直接重大なる影響を腸に与えるものである.事実先見により腸間膜の重要視すべき事が強張されて来た.余等は数年来開腹時に腸間膜の状態を其のつど観察して来たのであるが今回は腸間膜淋巴腺の観察結果を報告する.材料は上腹部開腹患者200例下腹部開腹患者250例に就ての検索で之の内には結核癌等の特異性淋巴腺腫脹は含まれて居ない.元来腸間膜疾患としては非特異性淋巴腺炎,瘢痕性腸間膜炎,腸間膜淋巴腺結核の三者が述べられているが之等は何れも淋巴系に密接な関係あり,私も瘢痕の原因が明らかに淋巴系の炎衝によると考えられる数例を経験した.又腸間膜蜂窩織炎の型のもの3例を見た.勿論腫脹淋巴腺は周囲の血管神経に障碍を与え腸間膜自身にも浮腫や充血が来て之等が色々の症状を示すものである,即ち虫垂炎や移動盲腸の症状時に吐糞症や腹部狭心症の型,又胃カタル腸カタルの型をとるのもある.

薬物冬眠時の代謝と直腸温

著者: 阿久津哲造 ,   川島光晴

ページ範囲:P.401 - P.404

I.緒 言
 1951年Laborit及びHugnenard等に依つて始められた人為冬眠法は,数年来,吾国に於いても盛んに研究されるに至り,之に関する業績も極めて多く1)2)3)4)5),ショックの予防,強化麻酔等外科的方面に用いられるばかりでなく,内科6),精神科7)の領域に於いても応用されつゝある.
 これらは何れも自律神経遮断に依る生体防禦反応の抑制と,緩徐な体温低下若しくは,同時に積極的冷却を加えた場合の体温低下に依る生体代謝低下等を重要な目的としている事は内外諸家の一致した意見である.

ハイドロコーチゾン経口投與の経験

著者: 吉野良平 ,   尾辻浩二 ,   中島勇 ,   小松原良雄 ,   稻垣浩 ,   小竹淳一 ,   加賀完一 ,   東田光浩 ,   松島政夫

ページ範囲:P.405 - P.411

1.いとぐち
 1949年Henchにより関節リウマチに於けるコーチゾン(Kendall's Comp.E)の素晴らしい効果が報告されて以来,より豊富で廉価にこの疾患を抑制すべき他の化合物の追求がなされ,50種以上のステロイド化合物が試みられ,それらの中の1つとして化学構造の極めて類似したハイドロコーチゾン(Kendall's Comp. F)は抗リウマチ剤として有望である事が判つていたが不幸にも此のホルモンはコーチゾンより乏しく高価であつた.
 コーチゾン,ACTHによる関節リウマチの治療に於て,その有効性を持続さす事が出来ない事は今日の一般的見解である.それ故関節リウマチの如き慢性疾患に於てその症状改善を維持する為にはかゝるホルモン投与を持続する必要があり,ホルモン維持量は直接に改善の度合を支持するのに必要である.一般に疾患の重篤な場合,これらはホルモンの副作用の強度,頻度は主として薬剤の1日量により決定される.

新局所麻酔剤キシロカインの臨床使用経験

著者: 德岡俊次 ,   緒林健治 ,   武田智汎 ,   福島正

ページ範囲:P.413 - P.420

緒言
 1884年ウィーンのK.Koller及びS. Freundが新局所麻酔剤としてコカインを使用してから既に70年,Einhornがプロカインを紹介してから50年になるが,その間2000にのぼる夥しい局所麻酔が踵を接して紹介された.しかしその殆んどが何時の間にか淘汰されていつて,今日一般に信頼して用いられているのはコカイン,プロカインヌペルカイン,メチカインの4種に過ぎない.ところがこの4種のものも決して理想的な局所麻酔剤とは云いがたく,例えばプロカインは麻痺の発現は比較的速かで,安全性も亦大きいが,麻痺持続時間が短く,溶液中で不安定であるという欠点がある.メチカインは持続時間は前者より長く,溶液中でも安定であるが,麻痺発現迄の所謂潜伏時間が比較的長いという憾みがある.コカイン,ヌペルカインはプロカイン,メチカインに較べると,その表面麻酔力は確かに大きいが,注射の目的には注意を要する欠点がある.

剖検

冬眠療法死亡例の検討—特に病理解剖学的所見に就いて

著者: 田口一美 ,   河西正充 ,   井元進 ,   松岡潔 ,   田中聰 ,   小川勝士 ,   宗謙治

ページ範囲:P.421 - P.427

緒言
 Laborit及びHuguenardによつて始められた冬眠療法或は冬眠麻酔はその後多数の人々により発展せしめられ,一方では直視下心内手術の応用となり,又他方では所謂ショック予防の面より生体に加わるあるらゆる侵襲に応用される段階に至つている.吾々の教室では従来より心臓外科への応用を志し,その病態生理,循環遮断に就いて詳細に発表し,更に発展せしめて選択的脳冷却法による直視下心房中隔欠損縫合術に成功した.これら心臓外科への応用の研究とは別にpoor riskショック,バセドウ氏病クリーゼ等の治療に応用して来たが,これら症例の内現在迄に本法の応用にもかかわらず死亡したものが3例あり,内2例は病理解剖をなし,色々示唆に富んだ経験を得たので,これら3例の臨床経過及び病理解剖学的所見を検討し報告する.

症例

舌結核の1例

著者: 丸山輝夫 ,   沖豊 ,   山田史朗

ページ範囲:P.429 - P.430

 舌結核は全結核症中きわめて稀な疾患で,わが国文献中にもわずかに32例の報告があるにすぎない.しかし報告された症例の大半は口腔外科あるいは耳鼻科方面よりのものであつて,外科医によつて発見された舌結核の多くは癌の疑いで切除した標本の組織学的検索がおこなわれた結果結核であることが判明したものであつて,この点は舌潰瘍の診断上留意さるべきことである.われわれは潰瘍の性状,臨床所見等から舌結核の診断をくだし,これを組織学的に確認したのち一部を観血的に他部を非観血的に治療して軽快せしめた1例を経験したので報告するしだいである.

舌に発生せる神経鞘腫

著者: 馬場甫 ,   二之宮景光

ページ範囲:P.431 - P.435

緒論
 舌に発生する良性腫瘍,殊に神経性の腫瘍は稀で,Froboese(1923)は舌に発生した蔓状神経腫,神経膠腫,神経線維腫症性巨大舌及び神経鞘腫の症例を報告しているが,それらの頻度については従来の文献では明らかな記載を知り得なかつた.我々が茲に論ずる神経鞘腫は,組織学的に所謂"Verocay Neurinom"として1908年に提唱されたもので,従つてその歴史も浅く舌に発生した神経鞘腫の報告も少い.即ちRobertson(1951)は自験例を含め14例の報告しかないといゝ,著者が知り得た本邦に於ける報告も昭和9年の丸山の第1例以来10例に過ぎない.Stout(1935)は末梢神経の伸経鞘腫に就いて論じ,Willis(1948)は神経鞘腫一般に関して述べているが,舌の神経鞘腫に就いての総括的な報告はない.
 最近我々は臨床診断舌癌の下に舌腫瘍の切除を行つた患者で,組織学的に舌の神経鞘腫と診断された1例を経験したので之を報告し,併せて従来の舌の神経鞘腫の報告を総括して述べる.

Dystrophia mesodermalis congenita Typus Marfan(Arachnodaktylie)について

著者: 蒲原宏

ページ範囲:P.437 - P.441

まえおき
 指趾の異常な変形が外見上の特徴とされることから「蜘蛛状指趾症」と言われている先天性奇形は眼科的主訴が多いので眼科領域からの発表が早川氏(1933)をはじめとし可成の報告が行われている.然し整形外科領域からの報告は比較的少いのである.本症は既にMarfan(1896)によりDolicostenomelie(lange-enge Glied)として報告され,Achard(1902)がArachnodaktylieの名のもとに26例を蒐集報告を行つた.本症が屡々家系的に発生することから広汎な家系調査が行われたのであるが,所謂Abortive Formが発見せられ,蜘蛛状指趾のみが主症状でなくBauerの云うように「指趾に限局せられた疾患と云うよりはむしろ"Konstitutionsanomalien"乃至はWaveの云うSystemanomalienの範囲内に入るべき疾患」であるとされ,最近ではValentin,Schwarzwellerなどにより中胚葉系に由来する組織の系統的変化を伴うことが明かにされWeve(1931)はDystrophia mesodermalis congenita TypusMarfanとよびKorrelationsmisbildungの1系列に入れた.筆者も最近この先天性崎形を約1年間に亘り観察調査する機会を得たので,これを基礎として所見をのべてみたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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