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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科11巻8号

1956年08月発行

雑誌目次

綜説

人大脳半球剔除術に就て

著者: 中田瑞穗

ページ範囲:P.507 - P.514

 人間に於て大脳半球を手術除去する適応症があると聞けば愕いて,脳外科医というものは随分乱暴なことをやるものだと憤慨する人もあるかも知れない.しかし,脳外科を永年やつて,脳のあらゆる手術に経験をもち,脳を知り,又現在までの脳外科並びに神経学の知識をもつた専門の人々は,敢て愕ろきもせず,又これが批難さるべき不当な手術でないことも大体理解出来るのである.それというのは,すでに過去に於て,大脳半球の全滅して生存した症例の知られているばかりでなく,又動物実験における大脳除去の観察知識のみでなく,大脳に広がつた悪性腫瘍に於て,その病半球を剔除し,それが反対側の半側麻痺と半盲をのこす以外に,其他の神経機能には,殆んど損失なく,精神機能にも著しい悪影響は及ぼさないで,麻痺以外には常人とあまり変りのない生活をなし得ることが30年も前に,Walter E.Dandyによつて数例試みられ,ひきつゞき大脳腫瘍の特定の例では世界各国に於て時々この大手術が行われている事実を知つているからである.Dandyも右利の人の左半球剔除は,失語とか失認失行という,生きながらえて甲斐なき不幸な症状をのこす可能性から,この手術を禁忌としていたけれども,すでに左半球の腫瘍で失語,失認,失行症に陥つているとすれば,それにも不拘,生命だけは助けたいという家族の熱望があれば,腫瘍の状態によつては,左の大脳半球剔除さえ絶対に禁忌とはいえないかも知れない.

尿管補填に腸管の応用—尿管・腸・膀胱吻合術

著者: 百瀨剛一

ページ範囲:P.515 - P.521

[I]緒言
 尿管外科の進歩は,一部の尿管瘻,尿管狭窄に対して極めて優秀な成績をあげているが,広汎囲の狭窄,比較的上位の尿管瘻の対策は古くから問題であり,病変部尿管を種々な生物的或は非生物的なもので補填,代用する試みがあり,臨床的に例えばWayman,Bettman,Dornes,最近では牧野等の小数成功例の報告もあるが未だ一般的適用は困難と思われる.一方Boari, Baidin或はHiggins等にょる膀胱弁形成法は合理的とは思われるが,其長さに限界があり,術後尿管と膀胱吻合部の狭窄発生或は管腔の萎縮等を来す恐れがある.
 斯様な場合に補填物として腸管の利用は当然考えられる所で空置腸管を以て尿管の代用とし膀胱より尿排出を計る尿管・腸・膀胱吻合術,所謂橋梁式術式の臨床的応用は1904年Shoemakerに始るが,其実施の気運が濃厚になつたのは1950年以後の事である.

広島,呉地方の毒蛾及び毒蛾皮膚炎に就いて

著者: 竹岡英二

ページ範囲:P.523 - P.526

まえがき
 昨年(1955)6,7月頃東京以西の殆んど各県下に毒蛾が蔓延し,広島,呉地方にも之が多発して其の被害が問題となつた.問題を起した蛾は黄毒蛾又は単に「ドクガ」と称せられているEupro—ctis flava Bremerで,之は我国では明治22年宮城,岩手,山形各県下に大発生を起してより現在まで28回発生の記録があり,(但しそのうち3回は朝鮮に於ける記録である).昭和になつてからでも14回大発生しており,其の度毎に,多少とも被害を起している訳で決して本年が珍らしいものとは言えない.
 斯る大発生の原因として,暖冬,暑い空梅雨,天敵の減小,幼虫が殆んどあらゆる種類の植物の葉を餌として生活出来る事等其の他種々の要因が考慮さるべきで,決して1,2の事象のみで解決出来る問題でないが,毒蛾が螢光燈を慕つて集る傾向のある事は事実らしい.

創接着剤の効果に影響をおよぼす2,3の因子について

著者: 高橋長雄 ,   岩井邦夫 ,   梅谷惠子 ,   高橋民子 ,   葛西健治

ページ範囲:P.527 - P.534

緒言
 創接着剤の研究はYackel & Kenyon(1842)1)2)らのOxydized Cellulose,Bering(1944)3)のFibrin foamをもちいる被吸收性物質による止血作用の研究にその端緒を発しJenkins etc4)5)Correll & Wise6)(1945)のGelatin spongeによる止血,縫合補強剤としての用途の発見によりGelatinがこの分野にもちいられはじめ,弓削氏により創縁接着作用を主とするGelatin末なるBiogelatinの創製をみた.
 およそ第一期癒合による創傷治癒をうるには,創縁がまず密に接着することが必須の条件である.したがつて理想的接着剤はまず第一の創縁の各組織層を均等に,また皮膚移植のごときばあいには皮膚下面と下部組織が一様に密接して死腔を残さないことが必要である.しかしてこの接着には内外から作用する張力に拮抗して容易に剥離しないだけの物理的強靱さが要求される.

空中細菌並びに病巣細菌の感応性検査成績に就いて

著者: 松井英互 ,   片岡治

ページ範囲:P.535 - P.541

 最近抗生物質の発見発達により,創傷治療は著しく進歩した反面,耐性菌の出現が問題となつている.特にペニシリンに就いては,欧米に於て1943年葡萄状球菌に12%の耐性菌が認められたが,1952〜1953年には75%の耐性菌がみられている.吾国に於ても1946年に14%であった耐性菌が,1953年には50%に増加している.
 我々の教室に於いても,院内空中細菌,病巣細菌に就き感染性検査を行い,一応の成績を得たので発表する.

化膿性骨髄炎の抗生物質療法に対する感応錠の応用について—第2報 混釈培養成績並びに抗生物質投与中の菌の消長に就いて

著者: 佐瀨昭 ,   東梅林博

ページ範囲:P.543 - P.548

緒言
 近時諸種抗生物質の発達により,外科領域における細菌性疾患に好んで使用され可成りの治療成績をおさめているにかゝわらず,化膿性骨髄炎特にその慢性症における化学療法が殆んど初期の目的を達し得ないのは病巣周囲組織の変性がその重大因子とは考えられているが,その他に抗生物質使用上の技術的操作に欠陥があるものと思われ,我々はこの究明にあたつて来た.
 既に数回に亘り抗生物質の無批判投与に対して警句を発して来たが,これ等抗生物質に対する起炎菌の耐性検査は,その技術操作が複雑であり,その為従来の臨床応用は殆んど不可能とされていた.感応錠の輸入により簡単に起炎菌の感受性測定が可能となり,臨床に広く一般に使用されて来ている.我々は第1報において感応錠を使用し起炎菌の感受性測定及び感応錠検査威績と稀釈法成績とを比較する事により数的関係をあきらかにして報告した.(臨床外科10巻9号)

整形外科領域における交通災害について

著者: 寺村正 ,   瀨尾喜郞

ページ範囲:P.549 - P.554

 戦後における交通量の急激な増大に伴い,交通災害は益々増加の傾向を示しているが,其の対策を講ずるためには先ず災害の実態を知ると共に其の特質を明らかに事が必要ではないかと考え,我々は交通災害について統計的観察を試みたところ,いさゝかながら興味ある成績を得たので,其の結果を報告し,皆様方の御批判を願う次第である.
 調査材料は昭和25年より昭和29年に至る満5カ年間に吾々整形外科を訪れた交通外傷患者である.

胸部手術時血管安定剤アドナの使用経験

著者: 高浦一 ,   宇津尚 ,   中嶋誠

ページ範囲:P.555 - P.557

 これまで止血剤として市販,使用されたものゝ多くは,血液凝固機転を促進して出血を抑制せんとするものであつたが,1943年全く薪作用機序にもとづく新止血剤としてアドレノクロム・モノセミカルバゾンがF.Barconnerにより発見された.本剤は生理的に著明な止血作用を有し,かつ毛細血管の抵抗性を増大し,透過性を減少して血管壁自身を強化し,しかも血液成分にはいかなる変化も与えず,又アドレナリン様の血圧上昇,脈搏数の増加を来すこともない,優秀な血管強化作用ならびに止血作用を示すほか,筋強化,筋代謝作用,糖代謝に対する作用,ストレス緩和作用があると云われている.
 最近,我が国に於ても,このアドレノクロム・モノセミカルバゾンをアドナなる名称で市販される様になつた.我々は胸部外科手術に際して本剤を投与し,術中出血量及び術後排液量に及ぼす影響等を検討したので,その大要を報告する.

症例

気管内挿管麻酔の晩期合併症としての喉頭肉芽腫症

著者: 坂本昌士 ,   伴竜三郞

ページ範囲:P.559 - P.560

緒言
 現在胸部外科手術をはじめあらゆる外科手術方面に閉鎖循環式気管内吸入麻酔法が普及して来た.しかしこれには種々なる合併症を伴う危険を有し生命をおびやかすようなものも少くないが,多くは麻酔経過中の偶発事であり,それらに対しては種々なる対策も講ぜられている.しかし晩期に発生する喉頭肉芽腫は直接生命に危険もなく,症状も除々に現れて来るので等閑視される傾向がある.又本麻酔との関連性に気付かれない事もあり得ると思われる.吾々は最近このような気管内麻酔のために起つた喉頭肉芽腫2例を経験したので,諸賢の御参考に供し度い.

ポリープ様畸型腫による廻腸逆行性5筒状重積症の1例

著者: 沼田公雄 ,   野村照夫

ページ範囲:P.561 - P.563

緒言
 小腸に発生した腫瘍が腸重積症併発の原因となつた症例の報告は比較的屡々見る処であるが,この中5筒状重積症は稀なもので,本邦文献上未だ11例をみるにすぎない.私達は最近組織学的検査の結果,畸型腫とみなすべき廻腸に発生したポリープ様腫瘍に依る極めて稀な逆行性5筒状重積を経験したので報告する.

植物性異物(たけのこ)によるイレウスの1治験例

著者: 前田外喜男 ,   武內重行 ,   桜井一彌

ページ範囲:P.565 - P.566

 消化管に於ける植物性異物は多く胃及び上部腸管又はBauhin氏弁近傍にみられ,これが臨床症状を現す時は同時にイレウスを合併するものが大部分を占めることは丈献の示すところである.又その原因は普通明かであるが,最近私共は原因不明のまゝ複雑な経過をたどり,左上腹部腫瘍の疑診の下に開腹術を行い,初めて大量の植物性異物による胃,十二指腸イレウスであることを確めえた1例を経験した.しかもそれが煮筍によるもので本邦文献にも例をみないのでここに報告する.

壊疽胆嚢の自然脱落排出の1症例

著者: 宮崎五郞 ,   松本和夫

ページ範囲:P.567 - P.569

緒言
 胆石症を主体とする胆道系疾患は少くとも患者の居る静岡県東部に於てはかなり頻度の高い疾患の一つである様に思われる.然しそれらが観血的に取扱われる事は寧ろ少く,多くの場合には単なる鎮痛剤投与か,或は高々抗生物質投与に依つて随伴せる胆道系の炎症を一時的に抑えておく治療が多く行われていると云う臆測は著者が最近経験した連続78例の胆道系疾患者の施術を受ける迄の期間,その間に行われた治療更に総胆管結石嵌頓症例の多い事等より充分に正当づけられると信ずる.此処に報告せんとする症例は急性壊疽性胆嚢炎より横隔膜下膿瘍を発来し,その膿瘍切開孔より壊疽胆嚢が自然に排出されて幸いに全治退院した一例である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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