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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科12巻11号

1957年11月発行

雑誌目次

特集 乳腺腫瘍

乳癌根治手術法の現況

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.849 - P.852

 癌の早期発見,早期治療に関しては医師のみならず,国民大衆も大きな関心を払うようになつたことは事実である.而も各種臓器癌のうち乳癌は表在性の腫瘍として現われてくるため,今日のような注意が一般に持たされているならば,その治療成績も一段と向上すべきものと想像されるが,事実は決して治療成績の向上をみない.即ち10〜20年前のそれと比較して左程の改善がみられないというのが現況である.
 勿論悪性腫瘍に対するメスの限界が既に到達しているとはいえ,何等かの方法によつて治療成績の向上をはかることが学徒の責任でもあり使命でもある.このような意味から現在実施されている乳癌根治手術法の現況について記述することも無駄ではあるまい.本誌の需めに応じ大略を述べることにする.

乳腺腫瘍の内分泌療法

著者: 稲垣秀生 ,   小島敏雄 ,   中西昭夫 ,   桑原悟 ,   宮川鉄男

ページ範囲:P.853 - P.861

1.序
 乳腺は2次性徴といわれるごとくホルモン支配が最も大きいものであります.乳癌治療については去勢,妊娠予防,妊娠中絶,早期分娩,授汁停止,副腎,下垂体摘出など種々行われていますが,本日はいわゆるマストパチーのホルモン療法および末期乳癌の内分泌外科的療法について述べたいと存じます.

人乳癌の発生と成長に関する研究

著者: 藤森正雄 ,   矢走英夫 ,   石塚稔 ,   泉雄勝

ページ範囲:P.863 - P.882

 乳癌の発生と成長の過程を明らかにするためには,従来から前癌性疾患として問題とされてきた慢性(嚢胞性)乳腺症との関連において,これを追求することが最も適切な方法であると思われる.
 ところで,乳腺症の発生原因としては,卵巣を中心とする内分泌変調が関与するというMoszko—wicz1)の説が,現在多くの人々によつてみとめられている.他方,乳癌の発生に関しては,乳癌が乳腺症と密接な関係のあることを形態学的に検討して体系づけたKückens2)更には久留3)4)の組織発生論が多くの承認をかち得ている.

乳腺腫瘍の形態発生と内分泌

著者: 增田強三

ページ範囲:P.885 - P.899

緒言
 最近我々の教室を訪れる乳腺腫瘍患者が戦前よりも多くなり,また年齢的にも戦前に比べてやゝ若くなつて来た.更にその性生活環境を詳細に調査してみると,未亡人や別居生活中のもの,或はバスコントロールを行つているもの乃至は人工妊娠中絶のものが多い事に青柳教授が注目されたのが,我々の乳腺腫瘍と性ホルモンの関係を検討する端緒になつたのである.
 乳癌が性腺と関係がある事を指摘したのは新しい事ではなく,1889年にSchinzingerが卵巣と重要な関係がある事を既に指摘しBeatsonは1896年,実際に卵巣剔出を乳癌の治療として試みたのである.

慢性嚢腫性乳腺症の臨床病理組織学的研究

著者: 間島進 ,   小野仁壽 ,   原田裕 ,   伊藤宏一 ,   田代鼎 ,   高橋富

ページ範囲:P.901 - P.914

 吾々は従来慢性嚢胞性乳腺症(以下単に乳腺症と略記する)及び乳癌で剔出された標本の病理組織学的検索成績を基礎として,乳腺症に於ける癌発生機序及びその悪性化頬度に就て数回にわたり発表1)2)3)4)5)して来たが,之等は手術材料に就ての一部分的観察に過ぎない.そこでこの欠点を補正する為に今回一般成年婦人の乳腺集団検診及び剖検例より得た乳腺の組織学的検査を行い,成年婦人に於ける乳腺症頻度の調査を行つた.そして本年の外科学会総会に於ける共同研究「乳腺腫瘍」に際して,之等検査成績を基に乳腺症に対する吾々の見解を述べた.しかし総会に於ては時間の関係上吾々の見解を充分に述べ尽せない点もあつた.今回本誌より乳腺症に就て記述する様依頼を受けたので,総会での発表を骨子とし,その際の足らざる所を補足しつゝ以下記述する次第である.

乳腺における前癌性変化の組織化学的研究

著者: 谷口積三 ,   安井徹志 ,   広瀨俊太 ,   大植直樹 ,   村上綠葉 ,   竹田津永昌 ,   今西幸雄 ,   森下智 ,   杉本侃

ページ範囲:P.917 - P.930

1 緒言
 乳腺に於ける前癌性疾患としては,古くから慢性乳腺症なる疾患が論議されて来たのであるが,近年久留教授21)22)23)が臨床的並びに病理組織学的見地から,其の重要性を強調されて以来,本邦に於ても一層深い注目を浴びるに至つた.其の癌化率についても多数の報告があるが最も多い数字としては,Konjetzny5)(1954年)の50%,比較的少い数字としてはSchimmelbuschの7%を挙げる事が出来る(第1表).
 本疾患はAschoff及びMoszkowiz14)15)等も記載している如く,その発生原因には内生殖腺の機能異常が大きな関聠を持つものと考えられ,其の上皮及び結締織の増殖の程度は,下界に於て生理的変化と明らかに境界を定め得ないものから,上界に於ては癌前期或は肉腫前期とも見るべき程度に至るまで各種の段階が存在し得るのである.従つて其の分類に於ても極めて多数の人々3)5)6)7)9)11)12)13)23)31)30)によつて,それぞれ独自の立場から行われ 或は其の悪性化の程度に従い,或は又組織形態学的変化に従つて為されて居り,実際的問題として,其のいずれに依るべきか甚だ困難を感ぜざるを得ないのである(第2表).

症例

胃腸管の広範囲に発生した高度なポリープ症の1例

著者: 高山祿郞 ,   中川活治 ,   宇都宮利善

ページ範囲:P.931 - P.935

 およそ癌腫の早期発見治療が叫ばれている折柄,胃腸管のポリープ症は癌腫の前段階として最近著しく注目せられて来ている所である.われわれはこゝに極めて顕著な胃腸管ポリープ症の一例を経験したのでその症例を報告し,大方の御参考に供する次第である.

興味ある経過をとつた膵嚢腫の一治験例

著者: 佐藤湑 ,   三浦慶造

ページ範囲:P.937 - P.942

緒言
 膵嚢腫は従来稀な疾患であり,わけても所謂仮性嚢腫を除けば少く,本邦では河合等の集計に依ると57例にすぎない.著者等は最近非常に興味ある経過を辿つた膵嚢腫の一治験例を経験したので茲に報告する.

卵黄管退化不全による臍部畸型の4例

著者: 鹿島幸治

ページ範囲:P.943 - P.947

 臍部にみられた種々の畸型のうちでも,卵黄管(Vitelline duct,Dottergang)の完全遺残による卵黄管瘻は極めて稀なものとされている.欧米では比較的多数の報告があるが,本邦の報告例は,私の調べ得た範囲では末だ10例にも満たない.吾々の教室では最近,高度の腸管脱出を呈した卵黄管瘻の2例を含めて,4例の卵黄管退化不全による臍部畸型を経験したので報告する.

左腸骨動脈栓塞症の1例

著者: 曲直部寿夫 ,   小林芳夫 ,   淸水宏

ページ範囲:P.949 - P.951

 我々は左腸骨動脈栓塞症に於いて症状発生後23日目に血栓剔出術を行つた症例を経験したので茲に報告する.

吐血を主訴とせる仮性膵臟嚢腫の1例

著者: 林美栄 ,   大山正信 ,   宮坂茂男

ページ範囲:P.952 - P.955

緒言
 膵臓嚢腫は稀有な疾患ではないが,その示す原困発生,臨床症状,転帰治療には臨床的に興味あるものがある.著者等は膵臓嚢腫の示す圧迫症状が反覆吐血を招来,術前胃潰瘍と診断手術し,開腹して仮性膵臓嚢腫なることを確認した一症例に遭遇したので主としてその臨床経過に就いて報告する.

大腿動脈塞栓剔除術(Embolectomy)の1例

著者: 本吉正晴 ,   松本外史郞 ,   稲田潔

ページ範囲:P.956 - P.958

 最近心臓血管外科の進歩はめざましく,心臓,大血管に直接侵襲を加える機会が多くなつてきた.末梢動脈の急性塞栓は比較的稀なものであり,外科医の対象となること少く,また多くの場合既に手術的療法の時期を失しているため,外科的療法を行つても予期の効果を挙げ得ない.急性の末梢動脈塞栓症としては,血栓によるものや,組織片によるものなどがあるが,本邦では欧米に比し閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis oblite—rans)は稀であり,したがつて本症にさいし屡々伴う.急性動脈血栓症の報告は皆無である.塞栓症に対する塞栓剔除術(Embolectomy)に関する報告も外国に比し極めて少く,今日までに赤岩1),甲賀2),横田3),木本4)5)等数氏の報告があるにすぎない.かつ此等の症例の多くは,塞栓症発生後相当時間を経過しているため手術目的を達していない.最近,僧帽弁狭窄症に対する弁切開術が本邦においても多数行われているが,弁切開術に時に合併する末梢動脈塞栓症に関する報告例も見当らない.
 最近,私達は興味ある本症の一例に遭遇し,かつ塞栓剔除術を行つて,ほぼ満足すべき結果を得たので簡単に報告したいと思う.

十二指腸壁内副膵の2例

著者: 野崎成典 ,   相星市郞 ,   直島康仁 ,   守屋万喜男

ページ範囲:P.959 - P.961

緒言
 副膵Pancreas aberrataとは,本来の位置に存する膵のほかに,膵組織,膵基質,または膵胚芽が見出されたばあいを意味し,Engel(1840)の例を嚆矢として以来しばしば散見するようになり,わが国においては,山極(1895)の報告に始まり,現在までに36例の報告がある.
 わたしどもは十二指腸潰瘍の診断のもとに十二指腸壁の硬結をふくめて胃切除をおこない,病理組織学的にその硬結が副膵であることを確診した2例を経験したので報告する.

下大静脈より発生せる稀有なる平滑筋肉腫の一治験例—並びに血管系腫瘍の統計的観察

著者: 飯塚紀文 ,   秋山暢夫

ページ範囲:P.963 - P.965

 所謂血管腫を除く血管系腫瘍は甚だ稀なものであるが,我々は下大静脈より発生した平滑筋肉腫の治験例を得たので報告する.

高年者の肋骨に原発した多形細胞骨肉腫の1例

著者: 鈴木敏道 ,   杉本良一 ,   下地晋 ,   安保秀勝

ページ範囲:P.967 - P.969

緒言
 骨腫瘍のなかで骨肉腫はしばしば経験される疾患であるが,その大部分は長管状骨に好発し,肋骨に発生することは比較的にまれであるとされている.われわれは,最近,女性,しかも70歳の高齢者に,右側胸背部において,肋骨に原発した骨肉腫の1例を経験したので報告する.

肺腫瘍を疑われた肺舌状部化膿症の1例

著者: 楊烐林 ,   小路力男

ページ範囲:P.970 - P.974

 肺腫瘍と肺化膿症とは時として鑑別困難なことがあるが,著者等は最近,肺腫瘍を疑われて入院し,術前完全に肺腫瘍を除外し得ないまゝ,手術によつて左肺舌状部に限局せる化膿症であることが判明した,所謂中葉症候群に属すべき1症例を経験したのでこゝに報告し,併せて若干の考察を行いたい.

多発性胆嚢ポリープの1例について

著者: 大植直樹 ,   西岡正之 ,   中田弘 ,   林亨 ,   弓削則之

ページ範囲:P.975 - P.976

緒言
 胆嚢に於ける良性腫瘍は比較的稀なもので,W.WalterはMayo Clinicで1906年より1938年に至る32年間にポリープを認めた症例は,わずか45例であつたと述べている.本邦における報告例は10例に満たない.
 我々は最近,偶々,多発性胆嚢ポリープの1例を経験した故茲に報告し,諸賢の御批判を仰ぎたいと思います.

急性イレウス手術後に於ける気管枝内蛔虫迷入症の1例について

著者: 吉賀道弘 ,   三輪明弘

ページ範囲:P.977 - P.978

 外科的蛔虫症は我が国に於ては今次大戦後種々論議されているが,特に蛔虫迷入症に就ては今日迄多数の報告例がある.昭和24年以降の我が国に於ける報告例の調査は第1表の如くであり,稀有な症例として中耳及び外耳道迷入,喉頭及び気管内迷入が各1例ある.我々は最近,イレウスの術後,気管枝内に蛔虫が迷入し,為に窒息死を来した極めて稀有な症例を経験したので報告する.

胸壁に発生した巨大軟骨腫の1例について

著者: 貴家益男 ,   內田義雄 ,   関根迪弌

ページ範囲:P.979 - P.981

 胸壁に発生する腫瘍は比較的稀なものであるが,吾々は最近左側胸部に発生した巨大な軟骨腫の1例を経験したので茲に報告する.

孤立性膵臓結核の1例

著者: 原田種一 ,   秀島宏

ページ範囲:P.982 - P.984

 膵臓に於ける結核は,その原発性なるを問わず,非常に稀なものとされている.
 我々はこゝに,従来何等結核の既往症或いは自覚症なく,急性虫垂炎の手術時に偶然発見され,而も肺を始め他の臓器に著変を認める事の出来なかつた膵臓結核の1例を経験したので報告する.

卵巣嚢腫と誤診された廻腸滑平筋肉腫の1例

著者: 樋口愼之助 ,   於保義雄

ページ範囲:P.985 - P.987

緒言
 腸肉腫は稀な疾患であり,且つ特有の症状を欠除する為に,手術前に確実に診断する事は不可能で,術後組織検査により始めて確定されるものである.大藤氏によると小腸に原発した肉腫は本邦では64例中,術前確実に診断されたのは,わずかに3例のみであつたという.またUlman,Abeh—ouseらによる91例中,術前に診断されたのは2例のみであるという.私共は卵巣嚢腫の診断のもとに手術を希望せずして放置されていた患者の未期に試験開腹を行い,組織検査により廻腸に原発した滑平筋肉腫であつた1例を経験したので報告する.

悪性甲状腺腫に続発せる細網肉腫症の1例

著者: 守屋薰 ,   雨宮定夫 ,   近藤尊彥

ページ範囲:P.988 - P.989

 約1年前悪性甲状腺腫(組織学的には乳嘴状癌)にて手術を受け,術後1年を経ずして之と全く無関係に細網肉腫症に罹患した興味ある1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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