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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科12巻6号

1957年06月発行

雑誌目次

綜説

特発性脱疽の遠隔成績よりみたる治療効果

著者: 宮村敏男 ,   於保義雄 ,   河田幸一

ページ範囲:P.453 - P.459

緒言
 特発性脱疽は現在なお難治性の血管系の疾患として重視されている.本症の記載は古く1879年WiniwarterによりEndoartritis obliteransとして明らかにされ,また1924年BuergerがThromboangitis obliteransと名付けてからBu—erger氏病ともいわれている.米国では最近他の壊疽性疾患をも含めてPeripheral vascural dis—ease or disorderとして一括してのべている.
 本症の病因論については,過度の喫煙,寒冷凍傷,全身伝染病による血管系の変化,血管アレルギー,ホルモン失調,自律神経機能障碍,血液膠原性の変化など種々論議されているが今日なお多くの疑問を残している.従つて本症の治療に関しては決定的な治療法がなく,古くから色々の方法が試みられてきた.しかし交感神経節切除術が行われるようになつて治療効果は改善され,現在はこれを中心としてその足らないところを他の方法で補つている傾向にある.本症の原因,症状経過並びに治療に関する統計的観察は,すでに多くの業績があるが,私共は敢て再びこれをとりあげ,昭和23年より同30年までの8年間に本疾患により第一外科教室に入院治療をうけた患者の治療効果を,やゝ観点を変えてその遠隔成績より検討してみた.

破傷風30例の統計的観察

著者: 山田英藏 ,   大柳裕 ,   奥口昭三

ページ範囲:P.461 - P.462

 余等は10年間に遭遇した破傷風30例に就いて統計的観察を行つたので報告する.
 1.細菌侵入に就いては,外傷によるもの23例,開腹術及新生児臍帯断端よりとみるもの各1例,不明5例で,外傷によるもの77%で最も多い.田村例は44例中39例,河野,杉江例は30例中29例,伊東例は17例中15例は外傷であり,開腹例では田村,瀬田及犬塚は夫々2,1乃至2例をあげ,伊東は流産,産褥後2例報告,新生児破傷風報告は稀である.余等の外傷による23例の受傷部位は,頭部,顔部,顔面,躯幹各1,上肢7,下肢13,擦過傷1,切傷1,挫創13,複雑骨折6例で大多数は創傷深部に及んだが,浅い擦過傷でも本症を発生することを知つた.四肢が大部分であるのは勿論受傷し易い為で諸家と一致する.

準備麻酔(Premedication)の再検討

著者: 西邑信男 ,   山城幸子

ページ範囲:P.463 - P.466

 完全な麻酔を行うためにはまず充分な準備麻酔を患者にあたえなければならない.
 麻酔は麻酔前数日より始まる患者の評価及び準備麻酔に始まり,麻酔後数日にわたる患者の管理に終る.この準備麻酔は基礎麻酔と異なり,あくまでも主麻酔をより平滑に無事故に経過されることを目的とする.一方基礎麻酔は次におこなわれる主麻酔と同価値を有するものである.一般に中枢神経系及び呼吸系の深い抑制をもたらすようなものはむしろ基礎麻酔に属せしめるべきである.

骨関節手術の出血量—特に骨髄出血量に就いて

著者: 中野謙吾 ,   広畑和志 ,   坂田政泰 ,   永野猛

ページ範囲:P.469 - P.473

1.緒言
 手術時出血量は,ショックを起す危険予知のみでなく,術後死亡率に重要な関係を有する故に重要視されて来た事は謂う迄もない.(Bonica,J.J.)而して術中出血量を測定,確認して置く事は,不必要に多くの輸液をしない為に重要な事である.(Oppenheim,A.)
 出血量の測定は,1924年Gatch,W.D.及びLittle,W.が最初に,最もありふれた手術の出血量を発表してより,測定の方法,許容出血量(Coller,F.A.& Crook,C.E.,福田及渋沢,)又は麻酔,輸液其の他全身状態との関係(White,J.C.)等に就いて研究されて来たが,手術の種類は主として胸部,腹部臓器手術であつて,骨関節手術に就いては附随的に報告されて居るに過ぎない.

整形外科領域に於けるノブロン注の効果—主として術後疼痛緩解を目的として

著者: 難波雄哉 ,   奥村耆

ページ範囲:P.475 - P.478

 痛みを解決するための努力は医学の発祥と共にその歴史は旧く,疼痛から患者を解放することは吾々医人の最大の関心事である.近時麻酔学の進歩は現代医学が成し遂げた功績の一つであり,疼みに対する不安から手術を危懼することは,まつたく昔語りとなつた感がある.
 しかるに術後,即ち,麻酔覚醒後の疼痛対策は今日なお充分とは云い難く,術者は勿論,医療にたづさわる者にとつて解決をせまられている重要な課題の一つと云うことが出来る.

ナフチオニンの止血効果に関する実験的研究(第1報)—動物実験

著者: 渡辺正二 ,   若山正夫 ,   越智康雄

ページ範囲:P.479 - P.483

緒言
 最近,凝血過程に関する研究は,飛躍的な発展をなした.即ちMorawitzやFuldらが示した.所謂古典的凝血説に,近年Collingwood Mac Mahonらによつて,新しい学説が附加され,凝固反応に与える主因子の役割もある程度釈明され,同時に数多くの止血剤が発見され応用されるに至つた.
 Wedekindらは,コンゴーロートが,網内系を刺戟する事により,フィブリノーゲン及び,グロブリン量を増加し,血液の凝固時間及び出血時間を短縮し,止血作用のある事を認めたが,効果が不確実のために次第に使用されなくなつた.Esteve,Langer(1949)らは,コンゴーロートと構造の類似している.α-Naphthalene-azo-β-naphthol-6-8-disulfonic acidを製し,止血作用のある事を認めたが,使用後一時的ではあるがヘパリン様作用を認めた.次に両氏はこの分子の一構成分たる,α-naphthyl-amine-4-sulfonic acidに強力な止血作用があり,且つヘパリン様作用のないことを認めた.之が1950年,スイスのOm研究所にて合成され,爾後西欧諸国,中南米にて広く賞用され,本邦にては鳥居薬品株式会社が,同研究所と技術提携して,ナフチオニンの出現となつたものである.本剤は次の如き構造式をもつ.我々は,本剤の提供をうけたので,動物実験を行い,次の如き結果を得たので報告する.

手術手袋用滑剤に就いて

著者: 田所一夫

ページ範囲:P.485 - P.496

緒言
 腹膜癒着防止に関する研究は,すでに古くから多くの人々によつてなされてきたが,未だ確実な防止策はみつかつていない.古くして新しい大きな問題の一つである.
 こゝ十年来,腹腔内にも積極的な大手術が行われているにもかゝわらず,化学療法,各種抗生物質の進歩,発展により腹膜炎併発などの癒着の原因となるべきものは少いかと考えられるが,これら薬剤が局所的に使用されるときは術後癒着等憂慮すべき重要な問題を残すことが知られてきた.この様な新しい癒着の原因を詮索する前にわれわれの身近にあるところの手術用手袋の滑剤について眼を転じてみよう.われわれが長年手術用ゴム手袋滑剤として使用して来たタルクの問題である.すなわち,これが腹腔内に撒布されると所謂腹膜間肉芽腫を発生することは,すでに1933年Antopolにより報告され,その後Erb,Owen,Fienberg,Seelig,Lee,Lehman,Eiseman,Postlethwait等多数の入々によつても実験的にその腹膜癒着惹起作用が確認されている.本邦では田北教授(昭和31年)によりこの癒着作用が報告されている.Swingle(1948年)はタルクが明らかに原因と目される術後合併症並びに疾病が近年急速に増加しつゝあると述べ,更にTalcgranulomが無数の開腹術につきものであるばかりでなく究極に於いて死の原因ともなるとのべ,その確な面を強調している.

陳旧性結核性瘻孔に対する亜鉛華油の作用に関する研究(第1報)—亜鉛華油を塗布せる陳旧性結核性瘻孔(骨関節結核)の臨床的観察

著者: 平岡駿一

ページ範囲:P.497 - P.510

緒言
 結核化学療法剤の最近の発展により,骨関節結核に於ける瘻孔,潰瘍も格段と治癒し易いものとなつた.しかしながらその内の一部には,将に閉鎖治癒せんとする状態に達するにも拘らず,その後長期にわたり完全な閉鎖に至らないものがある.Köhneは化学療法下に於ても,骨関節結核480例中の140例が大なり小なりの瘻孔を発生し,それらの21月後に於ける治癒率は61.4%であつたと言い,永井はStmy単独療法によって47.5%の瘻孔閉鎖成績を收め,大矢は化学療法と瘻孔剔出手術を併用して60%の治癒効果をあげたと述べているが,その困難さを物語つているものと言えよう.一方,内藤の実験ではStmyを用いると創面が却つて治り難いとの結果もある.
 局所的に化学療法剤を使用した効果について,金子等はINAH及びStmyの水溶液を12乃至60日間にわたつて瘻孔に用い,INAHでは66%Stmy単独では56%の閉鎖率を見ている.然し,現在では一応化学療法剤の全身的投与と共にStmy溶液等が局所的に使用されており,又骨関節結核病巣の手術後,局所的にStmyを用いることにより瘻孔形成を予防し得るとされているが,最近菌の耐性等によつて再びStmyの瘻孔治療成績が低下したとも言われる.

症例

手術により摘出した食道異物の2例

著者: 塩田欣栄 ,   伊達和 ,   小塚虎治郞

ページ範囲:P.511 - P.515

 摘出困難な食道異物に対し手術的にこれを除去することは比較的稀なものであり,かつまた困難なこととされていたが,最近の外科手術の進歩,各種抗生物質の使用,輝かしい気管内麻酔の発達にともなつて容易に摘出可能となり,予後もまた良好となつてきた.
 しかし早期に手術を行わねば,長期間の異物停滞による刺戟と頻回の食道鏡操作は食道壁並びに周囲組織に炎症を招き,折角異物は摘出し得ても術後の経過の芳しくない場合が多々見られる.われわれも最近第2,第3食道狭窄部に嵌入せし異物を開胸による食道切開術並びに胃切開術により摘出し得たが術後膿胸を併発し,その管理に苦心せし例を経験したので報告し,あわせて食道異物に対する外科的処置についていささか考察を加えたいと思う.

所謂kissing ulcerの胃切除に続発せる廻盲部軸転不通症の1例

著者: 黑沢英六 ,   大橋登 ,   尾辻義則

ページ範囲:P.517 - P.518

 胃潰瘍及びイレウスは日常屡々遭遇する疾患である.しかし所謂kissing ulcerは比較的稀れとされ,又廻盲部軸転不通症も全イレウス中稀なものとされている.吾々は最近kissing ulcerを有した患者に胃切除術を行い,その術後第4日目に廻盲部軸転不通症を発生し,第1回手術後第6日に再手術を行い,辛じて救うことが出来た1例を経験したので,こゝに報告する次第である.

急性虫垂炎と誤られたる卵管溜水腫茎捻転の1例

著者: 今村伸二

ページ範囲:P.519 - P.520

緒言
 1891年Bland-Suttonが卵管溜腫茎捻転を報告して以来卵管溜水腫茎捻転の症例数は,世界で150余例本邦では約30例にすぎない.而もそれ等の報告に於て,術前本症を確診せるものは殆んどなく術前診断としては,卵巣嚢腫茎捻転,子宮筋腫,子宮外妊娠中絶等が挙げられているが,本症を急性虫垂炎と誤診せる報告は余り見当らない.最近私は本症を急性虫垂炎と診断して開腹の結果虫垂には異常を認めず卵管溜水腫茎捻転であつた例を経験したので報告する.

腸閉塞様症状を呈したIlitis regionalisの1例

著者: 梶間寬 ,   奥豊吉

ページ範囲:P.523 - P.526

はしがき
 限局性廻腸炎Ilitis regionalisと云う病名は耳慣れない病名であるが,これは廻腸が限局的に急性炎症々状を呈するものゝ総称であつて,この内最多くは廻腸終末部を冒されるために,終末廻腸炎乃至は廻腸末端炎Ilitis terminalisとして知られている.然し我々がこゝで謂うIlitis regio—nalisなるものは狭義のIlitis regionalisであつて,廻腸終末部より遙かに遠隔せる高位廻腸に於て,同様の炎症々状を呈するものを意味する.廻腸末端炎は現在では左程稀有な疾患ではなく屡々遭遇する機会もあるので診断的にも他の疾患と区別することが必ずしも至難ではなくなつて来たが廻腸の他の部即ち末端部より遠隔せる部位が冒された狭義のIlitis regionalisなるものは報告例も甚だ尠く,その発現する症状は急性乃至亜急性の腸閉塞様症状を呈し,腹部の自圧痛部位も一定しないため,開腹前に確診することは極めて困難であるとも云える.然し乍ら一度本症を経験すれば,既往症の有無,発症の状態,自他覚症状の軽重等の諸要因を元にして慎重な態度を以て臨めば,術前に本症を診断することも絶対不可能とは謂い難い.我々は最近偶々亜急性腸閉塞様症状を呈して来院した患者を開腹して本症を発見する機会を得,少なからず教えられる所があつたので,この貴重な経験を記載報告し,大方の御教示を賜り度いと念願する次第である.

粘液嚢腫を伴える虫垂軸捻転症の1例

著者: 椎谷龍彥 ,   勝井哲三 ,   平田保

ページ範囲:P.529 - P.533

緒言
 虫垂軸捻転症は稀な疾患であり,Ringel氏が1910年始めて虫垂軸捻転症として1例を報告した.しかしこれに先立つこと3年1907年にFink氏がAppendicitis traumaticaの報告の中に,該虫垂が外傷後180°軸捻転虫垂炎をおこしていた1例を報告している.爾後Payne,Bevers,Le—veuf,Seubert等々の発表があり,又本邦に於ては大正7年(1918)宮田氏の2例の報告を以つて嚆矢とする.以後児玉,榊原,古森等の諸氏によつて報告され,現在迄に18例を数える.
 又虫垂粘液嚢腫については1842年Rokitanskyが虫垂の嚢腫性拡張をHydrops vermiformisとして報告して以来,Virchow,Coats,Gruber,Wölfler等の諸氏の報告があり,又本邦にては明治43年(1909)富田氏が虫垂の粘液漏出に就き述べ,明治44年(1911)斎藤氏が始めて虫垂粘液嚢腫として1例を報告し爾来多数の報告を見て50数例に達している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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