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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科12巻9号

1957年09月発行

雑誌目次

綜説

強化麻酔と腰椎麻酔との併用について

著者: 高松新一 ,   佃努 ,   米川和郞

ページ範囲:P.689 - P.692

まえがき
 最近全身麻酔が次第に普及,発達するにつれて腰椎麻酔を実施する機会は漸次減少して来てはいるが,腹部手術に関する限り充分な筋弛緩が得られる点で腰椎麻酔には捨て難い魅力がある.又,腰椎麻酔は麻酔の実施が簡単且つ短時間に出来,特殊な器械も必要でなく,人員も少くてすむし,麻酔時の患者管理も複雑でない等,種々の利点を有している。それ故,腰椎麻酔に或程度の全麻的要素が加味され,しかも腰麻自体の持つ種々の副作用が抑制出来たら申し分のない麻酔法であるともいえる。かゝる見地から,私共は腹部手術に際して強化麻酔を腰椎麻酔に併用してみたので,既に山村1),宇山ほか2)3)等の報告がみられるが私共の成績を発表して諸賢の御批判を仰ぐ次第である.

幼小児に於ける麻酔

著者: 西邑信男 ,   野村公子

ページ範囲:P.693 - P.700

 現在の麻酔学の進歩はめざましいものがある.我々が麻酔の選択にあたり,麻酔は患者に対して安全で,精神的にも生理的にも出来るだけ害がなく充分な麻酔がえられ,その上外科手術に都合のよいものでなければならない.しかし幼小児の麻酔には未だ幾多の困難がある.即ち幼小児では解剖学的死腔1)が非常に大きく,それに反して幼児の呼吸量は非常に小さい.この比較的大きな解剖学的死腔に対して,更に少い生理的な呼吸気量2)を少しでも減少することは出来ない.もし減少すれば,肺胞換気量の著明な減少にともなつて,hypoxia及びCO2蓄積を来して来る.
 近来まで,唯一の麻酔法として幼小児に対して使用されて来た.エーテルによる開放点滴麻酔は非常によい方法ではあるが,導入期に酸素不足,CO2の蓄積を伴うことが多く,術中気道分泌の増加を来し,種々の循環,呼吸及び体内代謝の変化を伴い,術後長い期間にわたり不快な合併症として,悪心,嘔吐を伴う他,回復時間が長く,エーテル臭気を伴う.而し一方広い安全閾を持つており,麻酔の深さに相当し,典型的な徴候を持つので,比較的広く用いられて来た.幼小児では生理的平衡の範囲が狭いため,いかに短い時間でも正常な状態からはずれることは非常に危険である.

各種麻酔の術後急性肺水腫発生に及ぼす影響について

著者: 脇坂順一 ,   倉本進賢 ,   中川義 ,   上田和夫

ページ範囲:P.703 - P.713

Ⅰ.緒言
 近年の外科,特に胸部外科の進歩は麻酔の発達に負う所が大きい.麻酔は手術時の疼痛を除く手段から発展して,現在では無痛は勿論,手術施行に最適の状態を作り,而も術中,術後に起る危険から患者を守ることまでが原則とさえなつて来ている.このためには,解剖,生理,病理,薬理,神経反射,外科疾患或は手術による諸反応等を充分理解し,あらゆる面から患者の状態を観察して適切な処置を行い,生体を管理しなければならない.今日の様に手術侵襲が大きくなると,麻酔管理の重要性は益々増大するものであつて,術中の偶発症は勿論,術後の経過,諸合併症,ひいては患者の生命さえも麻酔管理の如何によつて直接重大な影響を受ける訳である.
 偖て,近年アメリカに於いて急速に発展した閉鎖式麻酔器による吸入麻酔,特に気管内麻酔法は術中の酸素供給が容易に行える点で開胸手術の安全性を高め,治療成績を著しく向上せしめて居り最近これは我が国に於いても著しく普及し,胸部手術等に広く用いられる様になつている.

門脈損傷に対する低温麻酔適用例の検討

著者: 岡村宏 ,   渡辺晃 ,   千葉猛二 ,   藤木良平 ,   豊島純三郞 ,   澁谷三郞

ページ範囲:P.715 - P.718

緒言
 近年急速なる麻酔学の進歩に伴つて,従来絶望視されていた種々の手術も可能となつて来た事は周知の事実であるが,尚poor risk症例に対する麻酔法に関しては,種々検討を要する面があり,第Ⅳ回の日本麻酔学会のシンポジアムにも之が採り上げられたのは当然の成行と思われる.我々は先の第Ⅲ回麻酔学会に於て,「低温麻酔の臨床経験」1)について発表し,更に数年来の低温並びに超低体温麻酔の実験的研究を行つた成績2)を基礎として,「低体温麻酔に関する考察,特にpoor risk症例に対する臨床応用」3)なる論文を発表した.今回は最近入手せるcooling blanket使用による低温麻酔を,70歳の高齢者で然も全身状態の悪い胆道癌を思わせる症例に適用し,術中浸潤のある門脈を損傷,瞬時に2500ccに及ぶ大出血を起し,門脈血行の1時間10分に至る遮断を行つて,門脈血管縫合を行つたが,幸にも救助し得たので,この症例を報告すると共に低温麻酔のpoor riskへの適用意義について考察したので述べる.

心臓手術後疼痛に対するノブロン注Bの使用経験

著者: 飯川豊彥

ページ範囲:P.719 - P.722

 外科方面に於ける最大の進歩の一つに,心臓外科があることは異論ない処である.吾々の処でも,手術例は既に1000例に近い.
 かくの如く心臓外科が急速に進歩したのは,正確なる手術適応の決定,麻酔法,手術手技,患者管理法の改善向上によるものである.

ウインタミン及びピレチアジン混合注射による腰麻の強化

著者: 峯山泰 ,   高橋幸男 ,   木村健也

ページ範囲:P.723 - P.725

 近来,交感神経抑制剤であるクロールプロマジン,副交感神経抑制剤であるプロメサジンにオピリジン等を混合して用い,腰麻の強化が試みられている様である.
 之等の薬剤は点滴注射により,各種測定を行いながら,調節下に用いられることが望ましいと思われるが,吾々は一応,多過ぎることのない量と考えられる次の薬剤を選び,腰麻前に筋肉内注射を行い,腰麻効果の増強,及び手術侵襲による血管收縮や謝の上昇を防ぎショックの防止を期待した.

ノブロン臨床経験

著者: 長岡淳一 ,   高島久 ,   前田巖

ページ範囲:P.727 - P.731

 我々は新鎮痛催眠剤ノブロン注射液に就いて,主として術後の鎮痛効果を観察したので,その臨床使用経験を簡単に報告する.
 ノブロン注射液は,1管2cc中にグレラン(ピラビタール)0.2g,クロルプロマジン12.5mg,及び塩酸ジフェンヒドラミン20mgを含有する水溶液で,クロルプロマジンに更に従来慣用されているグレラン及び抗ヒスタミン剤たる塩酸ジフェンヒドラミンを加え,3者の協力作用に依り効果の増強を企図したものであり,我々はこれを用い 1)疼痛に対する可及的速かなる抑制 2)効果持続性の長時間にわたる事 3)投与に依り他に悪影響を及ぼさぬ事 の3条件を略々満足させ得る結果を収めた.

症例

遷延性心内膜炎に随伴せる化膿性動脈血栓の1例

著者: 神谷喜作 ,   水谷忠男 ,   中村金平 ,   竹內和夫 ,   山口恒夫

ページ範囲:P.733 - P.736

 動脈の化膿性の炎症は稀なもので,多くは続発的に附近の化膿性疾患,伝染創,蜂窩織炎,化膿性骨髄炎等に際して,血管の外部より侵されることが多いが,時には細菌が血行中に入り,血管の内部より炎症を起し化膿性血栓を作り,末梢動脈の閉塞,壊疽を来すことがある.最近我々は急性腎炎症状で始り全経過4年半に及ぶ遷延性心内膜炎の患者に左足趾の壊疽を併発し治療中死亡,剖検により左大腿動脈に長さ12 cmに亘る化膿性血栓を作り,更に他諸臓器にも栓塞を伴つた一例を経験したので報告する.

開胸,開腹術後にみられたLower Nephron Nephrosisの1例

著者: 白石幸治郞 ,   林瑞聰

ページ範囲:P.737 - P.740

 外傷性ショック,大手術などの後に引続いて乏尿,更には無尿を来し,これに伴つて高窒素血症血圧上昇などをみることがある.Lucké(1946)1)はこれらの症候を呈する状態をlower nephron nephrosisと名附けた.我々は最近これらの症状のほかに更に黄疸を併発して明らかに肝障碍を示して死亡した1例を経験した.従来これら症候群の成因に関しては色々の説明がなされているがなお充分明らかでない.我々は本症例に行つた肝,腎の病理組織学的検査所見を報告し,又人工冬眠法の治療応用の可能性に就いて考察して見度い.

柿澁による胃腸管結石5例

著者: 二宮和子

ページ範囲:P.741 - P.743

Ⅰ.緒言
 昭和30年10月より12月に至る間に柿渋による胃石二例,柿胃石が腸管に下つて腸閉塞症を来たした三例を経験したので報告する.

急性盲腸憩室炎—その症例と統計的・文献的考察

著者: 朝倉哲彥

ページ範囲:P.745 - P.750

緒言
 腸管憩室に於て盲腸憩室の占める比率は非常に少く,OchsnerおよびBarganによれば結腸憩室151例中僅かに2%が結腸右半に属するものであり,またGreensfelderおよびHillerは5385例の腹部手術に於て2例,400例の剖検に於て2例の盲腸憩室を認めているに過ぎない.Mayo Clinicに於ける31,838例の結腸レ線学的検査に於ては結腸憩室は僅かに5.7%で,同じ年間の剖検例では6.9%であり,それら結腸憩室700例中盲腸憩室は91例(全体の約0.3%)であつたと報告されている.Massachusett General Hospitalの統計に於ても腸管憩室炎のために外科手術を必要とした患者の中3%が盲腸憩室炎であつたと述べられている.Ochsnerは発見された憩室の約14%が炎症像を示したと述べているが,何れにしろ,盲腸憩室及び盲腸憩室炎の頻度は全腸管のそれらの5%を下廻るものとみて差し支えないようである.従つて盲腸憩室炎については多くの病理学乃至外科学教科書には詳細な記載がなく,偶々外科手術に際して発見された場合は結核や癌と誤られて不必要に過大な外科的侵襲が加えられる可能性が多分にある.

正中頸嚢腫の2例

著者: 岩佐博 ,   宮川淸 ,   小澁勝彥 ,   鈴木啓央 ,   增田英治

ページ範囲:P.751 - P.755

 正中頸嚢腫は舌根部盲窩と甲状腺峡部の中間に発生する先天性嚢腫であり,一般に原始胸腺の下降によつて生ずる甲状舌管の遺残物なる上皮細胞より発生するものと考えられている.この嚢腫が外部に自潰すると,正中頸瘻を形成する.本疾患については,既に内外の諸家により臨床並びに剖検所見につき種々の観点から研究されている.最近著者等は比較的高年者に臨床症状を呈した二例を経験し一例は炎症を伴つたのでこゝに報告する.

後腹膜線維肉腫の1例

著者: 飯塚穰 ,   奥井律二

ページ範囲:P.757 - P.759

 結合織性悪性腫瘍のうち,線維肉腫はその発生頻度に於て最も高いものであるが,後腹膜にその発生を見ることは極めて稀である.私共は2ヵ年前に剔出手術を行い,良性の線維腫と診断したが,後来これが再発し,急激な発育をとげ,試験的切除標本で悪性化を証明した一症例を経験したので報告する.

睾丸脱出症の1例

著者: 深見照男

ページ範囲:P.760 - P.761

 陰嚢底部に迄,正常に下降した睾丸が,後天的に何等かの原因により,陰嚢外に逸脱する睾丸脱出症は,極めて稀である.
 著者は最近当外科に於て,胃切除術施行後,嵌頓鼡径ヘルニヤ症状を呈せる.睾丸鼡径管内脱出症及び,他側の腹腔睾丸の1例を経験したので,茲に報告する次第である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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