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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科13巻10号

1958年10月発行

雑誌目次

外科的見地からみた潰瘍性大腸炎

著者: 槇哲夫 ,   安田正男 ,   笹村雅人

ページ範囲:P.933 - P.941

I.まえがき
 潰瘍性大腸炎については,数年前から他の地方にさきがけて,東北地方の消化器病及び外科の学会に於いて,主として黒川,武藤門下の人々により,色々論議されて来た.これは黒川門下にはレントゲン診断に堪能な士が多数おられたからでもあると思われる.私自身もこの問題に多少とも興味を持つようになつたのは,全く松永教授の同僚として奉職の機会を持つたからである.この点同教授に感謝すると共に,今回の内科学会に於ける宿題報告が多大の感銘を与え,本症について広く啓蒙する所のあつたことを祝福する次第である.今回編集部から本問題について,外科的立場からの執筆を乞われたが,凡らくこれは私が多数の手術経験を持つていると想像されたからかも知れない.しかし残念乍らその経験は僅か6例に過ぎず,本問題を論ずるのに,必ずしも十分とは云われない.しかし先に松永教授2)が我国主要病院にアンケートを発して調査したものによると,1病院に於ける手術経験例はまだまだ少なく,多くても2〜4例と云う所らしい.

潰瘍性大腸炎の内科的療法の限界

著者: 山形敞一 ,   渡辺晃

ページ範囲:P.943 - P.954

I.はしがき
 潰瘍性大腸炎はWilks & Moxon1)(1875)によつて記載され,Boas2)(1903)によつて赤痢菌によるものでないことが強調されて独立疾患と見做されてから,既に半世紀を経過したが,尚お現代医学の直面している最も困難な且つ未知の点の多い疾患の1つである.
 欧米においては比較的多い疾患で,近年増加する傾向を示しており,殊にドイツでは1953年に開かれた第17回ドイツ消化器病学並びに新陳代謝病学会において宿題報告としてとり上げられた.しかるにわが国では従来少ない疾患と考えられていたが,稲田3)(1928)が10例の臨床観察を初めて発表して以来,少しずつ症例報告が見られるようになり,われわれの教室4)でも典型的な症例を報告している.しかし最近では一般に信ぜられているよりもはるかに多いと考えられてきており本年度の内科学会総会では宿題としてとり上げられるに至つた.

術技

硬膜外麻酔法

著者: 西邑信男

ページ範囲:P.957 - P.963

 硬膜麻酔は従来の脊麻とは,特に生体に対する影響がより少ないことで,種々の手術時に有力な麻酔法であることは,多くの1-3)研究者のみとめるところであり,特に最近はXylocaineをはじめとして種々のより有力な薬剤の発見により,英米に於いてはpopularな麻酔法となつてきている.
 しかし我国4,5)に於いては2,3の報告者をのぞけば多くの麻酔医はすゝんでこの方法を試みようとする努力にかけている.その原因にはまず2つあげられ,1つは硬膜外腔穿刺の困難さであり,他は薬剤の使用法をよくわきまえていないことにある.

検査法

膵臟並びに脾臓外科に必要な検査法

著者: 飯島登

ページ範囲:P.964 - P.967

 膵臓は腹壁,胃腸管を隔てて脊柱の前に付着しているためなかなか触知し難い.たまたまそれらしきものを触れ得ても直ちに膵臓であると断定し得ない.またレ線造影によつて直接これを表現する方法は現在見当らない.従つて形態的に例えば人工気腹法を用いるにしてもレ線を使用するにして間接的な方法によつて診断を下す以外なく,胃腸等との関係を求めて後に推定するに過ぎない.しかしこのような診断も一刻を競う急性膵臓炎などでは実用的ではない.そこで機能検査法が重視されるわけである.さて膵臓と肝臓とは解剖学上の位置から見ても極めて近く存在し且つ十二指腸への開口部を一にしまたInsulinが膵臓の内分泌機能の重要な位置を占めると同様に,肝臓に於ける糖原が種々な意味に於いて肝能の主役を演じ両者は不可分の関係にあることは云うまでもない.従つて膵臓疾患に於いては,他の腹部外科に於ける以上に手術施行に関して肝機能が重大となる.
 外科臨床に於いて経験する疾患には急性膵臓壊死,急性化膿性膵臓炎,慢性膵臓炎,膵臓膿瘍,膵臓腫瘍等であり,これらに必要な検査法を臨床的解説を加えて記述する.更にこれらの臨床検査は急性膵臓炎の治療に対して内科療法か外科療法かの決定にも直接の繋がりを有し忽かにし得ないところであろう.

統計

上肢骨々折の統計的観察

著者: 有馬純郞

ページ範囲:P.968 - P.973

緒言
 昭和30年より32年迄の3年間に我々の外来を訪れた骨折患者1827例中,特に上肢骨々折に就いて統計的観察を試みた.この間の上肢骨々折は717例(39.2%)で,その中上腕骨々折は381例(20.9%),前腕骨々折は231例(12.6%),中手骨,指骨々折は105例(5.7%)であつた.
 又此等の上肢骨々折総数に対する比率は,夫々上腕53.2%,前腕32.2%,中手骨,指骨14.6%であつた.上腕骨々折381例中,近位端24例(6.3%),骨幹部36例(9.4%),遠位端321例(84.3%)で,前腕骨々折231例中,近位端18例(7.8%),骨幹部84例(36.4%),遠位端129例(55.8%)で何れも遠位端が最も多くなつている.

薬剤

全身麻酔下手術における低血圧,脈圧減少に対するCarnigenの効果(第2報)

著者: 川田繁

ページ範囲:P.975 - P.980

まえがき
 低血圧や脈圧の減少は患者管理上よい臨床指標となり得るものである.全身麻酔下の手術に於いては,麻酔の影響ばかりでなく,出血,迷走神経反射,酸素欠乏,各種刺戟等の種々の因子によつて術中屡々低血圧,脈圧減少,あるいは不整脈を生ずることがある.麻酔医は直ちに適切な処置を施し回復に務めなければならない.
 私は前回「全身麻酔下手術における低血圧,脈圧減少に対するCarnigenの効果」において,アデノシン含有ヌクレオシド製剤とラセミ・パラオキシフェニールメチルアミノプロパノール塩酸塩よりなるCarnigenが,1.0〜2.0ccの静注後,約1〜2分で徐々に血圧上昇作用を示し始め,約5〜10分後に最高に達し,同時に脈圧増加作用のあることを報告した.その後引続いてCarnigen静注による効果を確め,また少数例ではあるが,術前及び術中,筋注を試みたのでその成績を報告する次第である.

症例

結核性腱鞘炎に就いて

著者: 広谷速人

ページ範囲:P.981 - P.985

 軟部組織の結核は従来から稀とされ,結核性腱鞘炎は本邦文献上約20例を数えるに過ぎない.私はさきに京大整形外科に於いて1例経験し既に京都外科集談会に発表した8)が,最近更に1例を観察したので茲に併せて報し,若干の文献的考察を試みた.

腸重積症と誤られた稀有な乳児廻盲部結核の1例

著者: 井上利之 ,   榎本二郞

ページ範囲:P.987 - P.988

緒 言
 小児結核,殊に乳児に於いてはその死亡率の示す如く予後は極めて悲観的であるが,乳児ではその感染源が比較的明瞭であり,一度び菌の侵入をみるや発病から進展の速やかなる事も又論をまたぬ事実である.その病型は殆んどすべてが初感染より発病して粟粒結核,髄膜炎又は中枢神経系の結核へと進むのが常で,乳児の腸結核は頻回なる菌の嚥下よりして数多く発見されていゝ筈であるが案外少なく,まして乳児の廻盲部結核腫瘤は文献にも散見する程度である.私達は母親の充分な注意と庇護の足りなかつた為とは言いながら,臨床症状より考えて夢にも廻盲部結核を疑わず,腸重積症として夜間救急手術の結果,廻盲部結核なるを認め組織検査により結核性なるを確診した一例に遭遇し,切に既往歴,家族歴の精査の必要性と,乳児廻盲部腫瘤にも結核の疑いを以つて診断し適切なる治療の重要なことを痛感したので,若干の考察を加えて報告する.

蟯虫性虫垂症について

著者: 大宮泰正

ページ範囲:P.989 - P.991

I 緒 言
 寄生虫による外科的疾患は,比較的屡々遭遇する処であり,虫垂炎に於いても,寄生虫が其の原因となる事は稀ではない.而して,虫垂内に検出される寄生虫の種類については,蛔虫,鞭虫,蟯虫,十二指腸虫,裂頭条虫,日本住血吸虫,赤痢アメーバ等があり,そのうちでも,蛔虫,鞭虫等は比較的多く経験される処であるが,蟯虫に関する報告は極めて少ない様である.私は最近急性虫垂炎の症状を呈した婦人の切除虫垂内に,蟯虫の蠢動を認めた例を経験したので,茲に報告し,併せて若干の文献的考察を試みる次第である.

膿胸治療中に併発したブドウ球菌腸炎の1例

著者: 北野正躬

ページ範囲:P.993 - P.996

 抗生物質は各種感染症の治療に偉大な貢献をしたが,その反面之ら抗生物質の普及に伴つて広範囲に安易に投与されるようになり,好ましからぬ副現象の出現が屡々見られる様になつた.その1つとして耐性菌の出現並びに菌交代現象に起因すると考えられる諸症状は夙に注目されているところである."broad spectrum antibiotics"治療によるブドウ球菌腸炎もその1つである.肺切除術後に合併した膿胸の抗生物質療法中に併発したブドウ球菌腸炎をこゝに報告し,抗生物質使用に際しての注意を喚起する次第である.

腹壁結核の1例

著者: 中村和夫 ,   鈴木昭二

ページ範囲:P.997 - P.999

 腹壁結核とは腹壁に孤立性に,一見原発巣の如く発生する結核を云い,近接臓器組織,例えば肋骨,脊椎骨,腎臓,腹膜等から連続的に波及して発生する続発性腹壁結核とは区別さるべき疾患である.臨床上,比較的稀に遭遇するが,われわれは最近,胆嚢水腫の疑いの下に開腹したところ本症であつた一例を経験したのでこゝに報告し,併せて本症の発生機序並びに鑑別診断について若干の考察を試み諸賢の御批判を仰ぎたいと思う.

足穿孔症の2例に就いて

著者: 陳蔚芳 ,   近藤正德

ページ範囲:P.1001 - P.1004

 足穿孔症に関しては1852年Nelatonが初めてMaladie singuliere des os du piedとして報告されて以来,本邦に於いても漸時報告せられる様になつたが其の数は極めて寥々たるものである.本症の特徴として.
 1.何れも足部に発生した頑固なる潰瘍である事.
 2.下腿の知覚異常がある事.
 3.潜在性脊椎披裂を伴なう事が多い事.
 4.足部の変形が認められる事.
 5.其の他潰瘍周囲の腐骨形成,脊椎変形,膀胱直腸障碍等が挙げられている.併し之等の症状は全部が本症に必発するものではなく.亦この外にも種々の症状を伴なつて発生する事も報告せられている.本邦に於いては大正末期から斉藤氏外十数例の報告があつたが之等の症例から通覧するに.本症が神経系統と密接な関聠性を持つている事は其の成因を考察する上に重要な役目を果すものである.吾々も最近本教室で本症例に遭遇し,之を交感神経遮断剤の使用及び局所の免荷,安静,感染の防止に依つて経過を好転せしめ得たので茲に報告する.

狼瘡癌の1例

著者: 細谷貞一 ,   川井忠和

ページ範囲:P.1005 - P.1007

 1857年Devergieが狼瘡癌に関する最初の報告を行つてから外国文献には510例以上の報告が見られる.然し本邦では極めて稀有とされ,尼ケ崎の報告以来,本症例を含めて僅かに15例にすぎないようである.我々は尋常性狼瘡から扁平上皮癌を続発し死の帰転をとつた1症例を経験した.

集談会

第83回北陸外科集談会(32.7.29),他

ページ範囲:P.1009 - P.1011

術後消化性空腸潰瘍穿孔の1例
金大第二外科 清水 進
 37歳男子,約半年前胃潰瘍穿孔性腹膜炎で胃切除術をうけた.術後3ヵ月位から術前同様の呑酸,嘈囃,食後胃部膨満感を覚える様になつたが,術後半年で急性腹膜炎の症状を起した.開腹の結果術後消化性空腸潰瘍が穿孔し,更にブラウン氏吻合に使用した空腸蹄係の間に他の空腸が嵌入して360°捻転せるイレウスを伴つたものであつた.再切除して治癒.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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