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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科13巻11号

1958年11月発行

雑誌目次

前立腺腫瘍の外科的療法の限界

著者: 黑田恭一

ページ範囲:P.1017 - P.1022

I.はしがき
 前立腺腫瘍の代表的なものは癌腫で,これに比べると肉腫は頻度が極めて低く,日常遭遇する機会に乏しい点で臨床的重要性が少い.今一つ前立腺肥大症はその主要な病理学的変化が腺腫であり,一般に良性腫瘍と看做されている.
 前立腺肥大症と前立腺癌は,共に高年男子に限り頻発する泌尿器外科的疾患で,前立腺外科の主要対象となる点では共通性を有するが,発生病理並びに臨床像を全く異にし,治療の面に於いても劃然たる区別が存する.而して今日では腺腫の悪性変化による癌の発生という一元説は完全に否定せられているが,この全く別個の両疾患が同一人の前立腺内に同時に存在し得ることは一般に認められ,而かも併発型が相当高率に存在する.又完全に肥大症の臨床像を呈する群の中に,顕微鏡的小癌病巣を有する潜在性癌(occult carcinoma)と称せられる型がある.併発型にしても潜在性癌にしても何れも前立腺癌の範疇に属すべきものであるが,潜在性癌は臨床診断が殆んど不可能に近い関係上,臨床的には肥大症として取扱われる場合が多い.潜在性癌以外の所謂普通の前立腺癌と肥大症とは,外科的療法に対する態度を異にし,手術術式は勿論,手術に対する適応の限界に於いても大きな差異が見られるので,夫々別個に記述することにする.

前立腺腫瘍のホルモン療法

著者: 田村一

ページ範囲:P.1023 - P.1028

1.まえがき
 われわれが日常遭遇する前立腺腫瘍は前立腺肥大症と前立腺癌とである.これらの腫瘍の治療法としては,前立腺肥大症に対しては腺腫の剔除,前立腺癌に対して全前立腺剔除を施行することが,依然としては最も選ばれた優秀な方法である.
 しかしながら,常に観血的にこれ等の手術を実施することが出来るとは限らない.一般に患者が高齢者であつて,説得しても手術を承諾しない場合もあるし,合併症のためにそれが出来ないこともある.特に前立腺癌はその症状が自覚的に漠然としているために,発見の時期が遅れ,診断したときには進んでいて手術の適応にならぬことが少くない.時には己に骨等に転移を来たし,それから逆に原発巣が発見されることもあるので,根治手術を実施出来る症例が比較的に少いのである.癌に対する関心が深い米国に於てさえ1940年頃までは前立腺癌で手術の適応となる症例は5%に過ぎないといわれていたが,その後45歳を過ぎた男子は少くとも年1回は泌尿器科医の直腸内触診をうけて早期発見につとめるように唱導されたために,その適応症例は増加して来た,それにしても未だ20%程度のものである.英国に於ては今尚5%以下であるとのことである.

腎結石治療の限界

著者: 川井博

ページ範囲:P.1031 - P.1037

緒 言
 腎結石の治療はその結石が自然排出の可能性が期待されるもの以外は出来るだけ早期に結石の摘出術を施行するのが原則である.そしてその手術の根本方針とする所は如何にすれば患者への侵襲及び腎機能障害を最少に止めて結石を完全に摘出し,且つ術後の再発を最大限に防止し得るかに懸つているので,術者は患者の一般状態,年齢,合併症の有無,結石発生の原因的素因はもとより,結石の性状,位置,大きさ,数,罹患腎の機能障害,感染の有無,他腎機能等を慎重に考慮検討した上で最善の治療方針を決定しなければならない.即ち腎小結石の摘出にも各個の症例に応じた治療が必要となり,茲に腎結石の治療は「治療の個人化」が絶対必要と叫ばれる所以があり,又困難性もある.近時の腎に対する外科技術の進歩と,各種抗生剤の台頭により従来比較的危険視されていた腎切半術(renal bisection)腎部分切除術(partialnephrectomy)も腎結石の保存療法として積極的に試みられる様になり,外科的治療の範囲は大いに拡大されて来たが,今日尚お腎結石治療に関しては諸家の報告を見るに統一された方針の確立が見られない所以も茲にあるわけで,腎結石治療の限界は一つにその治療適応の決定にあると云うも過言ではないと信ずるので著者はこの点について述べて見たい.

術技

任意心搏動停止を併用する開心術

著者: 榊原仟 ,   織畑秀夫 ,   長谷健一 ,   菅間直 ,   待山昭二 ,   岩淵汲 ,   高橋敬亮 ,   石原昭 ,   淸水寿子 ,   別府俊男 ,   山口繁 ,   黑田晃司

ページ範囲:P.1039 - P.1045

I.緒 言
 心臓内直視下手術は,低体温法によつて臨床に成功して以来著しい進歩をとげたが,その後広く人工心肺が使用せられるに至つて直視手術の適応範囲は拡大し,安全性を増大した.しかし人工心肺による体外循環中冠循環系からの出血や,大動脈弁よりの逆流血液により,視野が妨げられ手術操作に障碍を来たし,又,心搏動の存在は精密且つ正確な操作を一層妨げるものである.これらの欠点を補う方法の一つとして,一時可逆的に心搏動を停止せしめる任意心搏動停止法が挙げられる.その方法はクエン酸カリを冠動脈内に注入するMelrose氏1)の方法,アセチールマリンを使用するMoulder2),Lam氏3)等の方法,クエン酸カリと硫酸マグネシウムを混合使用するYoung氏4)の方法等が発表され,Kolff氏等5)は臨床に応用して好結果を得ている.本邦においても,亀谷氏等6)7)によつて実験が行われ,木本氏等8)によつて臨床例が報告されている.我々も亦数年前より電気刺戟及びその他による心搏動停止法の研究を行つて来たが,今回既に発表されたクエン酸カリ及びアセチールコリンによる心搏動停止の実験を行い,各々の方法に夫々長所,及び短所のある事を知り,両者を混合使用する事によつて,各々の短所を補い好結果を收め得る事を認めた.

統計

下腿骨幹部骨折の治療成績

著者: 川久保幹彥

ページ範囲:P.1047 - P.1052

緒 言
 スポーツや交通機関の異常な迄に普及発達しつゝある現今,吾々の日常生活中種々の災害に遭遇する機会が増加している.この状況に鑑み従来から幾多の骨折に関する統計的観察がなされており,吾々に重要な暗示と指針を与え,その意義は決して少なくない.しかしながら如何にもその範囲は広範であり,個々の骨折に対する考察はまことに少なく,吾々の要求を満足せしめるに至つていない.
 こうした意味から,私は昭和21年より昭和30年に至る10年間に慶大整形外科外来を訪れた下腿骨体部骨折患者317名につき精査し,少しく知見を得たので報告する.

薬剤

ノブロンの鎭痛・鎭静作用の効果について

著者: 蜂谷徹 ,   落合正夫 ,   石島恵次

ページ範囲:P.1053 - P.1054

まえがき
 鎮痛,鎮静の目的に種々の薬剤が使用されているが,その作用は何れも適確であるとは断定出来ない現状である.今回グレラン製薬株式会社より提供されたノブロン錠ならびにノブロン注を使用する機会をえたので,その効果を簡単にまとめてみた.

肺結核外科に於けるアドゾンVの使用経験

著者: 匂坂浩 ,   賀来隆典 ,   田島憲明

ページ範囲:P.1055 - P.1058

1.緒 言
 肺結核外科療法の最近の特色は,いわゆる重症肺結核症を取扱うことが多い点にあると考える.
 即ち,患者の年齢多く,病歴は陳旧性であり,肋膜の肥厚癒着も高度で,肺活量も少なく呼吸能は全般的に低下しており,病巣の性状も単純な切除療法は不可能であるという様な症例を処理せねばならぬ事が多い.

整形外科領域に於けるアクロマイシン,アクロマイシンVの応用について

著者: 高山瑩 ,   佐藤二郞 ,   井上仁 ,   朝日弘正 ,   小熊嘉夫 ,   小沼三郞

ページ範囲:P.1059 - P.1066

緒 言
 抗化膿性物質の進歩は細菌感染症の治癒率を著しく上昇して来た.しかし現在抗化膿性物質の使用にあたり,その感染菌が抵抗性を獲得するようになつてきた事は衆知の事である.
 我が教室で昭和29年以来,細菌感染症の感性を検査した所,第1図の如くで現在相当な抵抗性を得ている菌が多数現われている.そこで薬物に対して抵抗性をもつ菌に対して,より強力な効力を有するような薬物の必要を痛感せざるを得ない.さてLederleの研究者達がAureomycinから化学的に接触水素添加,或は醗酵によつて作つたTetracyclin(アクロマイシン=AcM或はAcM-V)は各種の細菌に対して示す抗菌スペクトルが広く,且つ副作用の極めて少ない点が特徴とされているので,吾々は整形外科領域に於ける臨床効果について混合感染を有する結核性瘻孔10例と骨膜骨髄炎8例計18例について観察した.

Phenothiazine系誘導体Plégicil塩基による強化麻酔の使用経験(第1報)

著者: 武山仁 ,   松崎喜久夫 ,   天田賢

ページ範囲:P.1067 - P.1069

はしがき
 1950年Phenothiazine系誘導体の一つとしてChlorpromazineが合成されて以来,このChlorpromazineを中心とする薬剤は,その広汎且つ特異な薬理作用とReilly,Leriche,Selye等の影響をうけたH. Laborit一派によつて全世界の注目を浴び,吾が国に於ても此等の薬剤,特にChlorpromazineを中心とする各種の研究及び業績の発表がある.外科領域に於ても手術前後の強化麻酔,冬眠冷却麻酔等に応用され好成績を上げているが,その反面副作用に就て慎重を要し,特に血圧降下,肝機能,神経系への影響等,使用が一般化されるに従つて最近特に強調され,副作用の極めて少ない薬剤の出現が期待されている.
 吾々もChlorpromazine(Contomine),Chlorpromazine sulphoide(Opromazine)を強化麻酔に応用し,その臨床経験並びに副作用,合併症等につき既に紙上(外科の領域)発表したが,最近更に副作用,毒性が少なく且つ作用の強力なPhenothiazine系Dimethylaminopropylacetylphenothiazine maleate(Plégicil三共)の提供をうけたので小数例であるが実験的に使用したのでその臨床成績につき簡単に報告する.

Opystanの静脈内注射に就いて

著者: 稲田豊

ページ範囲:P.1071 - P.1076

 Opystan(Demerol,Meperidine,Dolantin,Dolantal,Pethidine,Endolat,Isonipecaine,Dolosal,Diadone,Mephidine,Pantalgin,Piridosal,Spasmedal,Adolens,Antiduol,Biphenal,Centralgin,Dispodal,Dodonal,Felidine,Gratidin,Dolvanol,Lydol,Operidine,Precedyl,Santeralgyl,Sinesalgine)は1939年にEisleb & Schaumannよつて合成されたMorphine代用品で,化学的構造はEthyl-1-methyl-4-phenylpiperidine-4-carboxylateで水によく溶け酸性で且つ安定である.
 鎮痛作用はMorphineの約1/10であるが,Equipotent doseで投与した場合に於ける精神的効果及び呼吸,循環抑制反応はMorphineと大差がない.Orkinによれば,Opystan 100mg静注後直ちに1回換気量及び呼吸数は著明に減少し,間もなく呼吸数は正常値以上に回復するが,換気量は減少したままに留り,分時換気量の減少はMorphine 10mg静注時よりも大であるという.

外国文献

内外頸動脈の側々吻合術,他

ページ範囲:P.1076 - P.1076

 頸動脈の通過障害は全長にくるものよりも部分的に起るものが多い.すなわち部分的に動脈内層に結合組織増殖と脂肪沈着とより成る動脈硬化性プラク(小板)が生じる.これを基礎として血栓形成がおこるとついに内腔は閉鎖する.さらに血栓は生長して頸動脈全長に及ぶ.このような頸動脈閉塞症はいわゆる動脈硬化症よりやや若い年齢におこり,著者は30〜58歳の4例を経験した.この4例に血栓剔除術を行つたが効果はなかつた.Miller Fischer(1951)は頸動脈閉塞が限局しているときは外頸動脈あるいはその枝を内頸動脈の閉塞部より末梢に吻合して救命しうることを指摘し,著者は2例に内外頸動脈の側に吻合を行つた.吻合に際しては脳血流を一時的に部分的に遮断するので,神経の障害を予防するため30℃の低体温法を用いた.2例中1例は術前頻発した半身不随発作が消失し術後9ヵ月でも吻合部はよく保存されていた.

症例

胃潰瘍を伴つた柿胃石の1例

著者: 久野一郞 ,   大場徹三 ,   劉四郞

ページ範囲:P.1077 - P.1079

まえがき
 胃石に就いての記載は欧米では1779年Bauda—mantが毛髪塊を,本邦では三宅教授が蘭草による植物胃石を報告したのが最初である.以来欧米では毛髪塊が,本邦では植物胃石が多く報告されているが比較的稀な疾患である.我々は最近術前から胃潰瘍症状が極めて著明であつた患者で,しかも手術によつて潰瘍の存在が確認せられた胃内に胃石を発見した.この様に胃潰瘍を伴なつた胃石の報告は今迄のところ本邦では8例を数えるが,胃石生成機転に関する所説のまだ一致を見ない今日,興味ある示唆を与えるものと考え迫加報告した.

小腸亜全切除の1例

著者: 金沢光男 ,   高橋辰彌 ,   三輪浩次

ページ範囲:P.1081 - P.1086

 小腸の切除範囲は,どの程度まで危険なく実施し得るかという事は,日常臨床に於いて問題となる事が多い.叉その切除の長さは同じでも,上部で切除するか,或いは下部でするかによつて,その術後の代償性生理機能は異る可能性があり,種々の実験的研究の報告がある.著者は,最近小児の腸間膜根部大腫瘍に対し,小腸亜全切除を余儀なくされた症例を経験し,且つ,術後臨床経過を観察する機会を得たので,こゝにその詳細を報告し,広範小腸切除の問題を検討してみたい.

膠原病を思わせる腸間膜動脈閉塞症の1例—剖検所見を中心に

著者: 神谷喜作 ,   中村金平 ,   山口恒夫 ,   竹內和夫

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 身体の各部位の血管が種々の原因により閉塞することは屡々遭遇する現象である.これらの血管閉塞の原因を各症例につき一々明らかにすることは容易ではないし,又従来余り関心の払われなかつた領域である.我々は既に頸動脈の著明な狭窄1),上腕動脈の突然の閉塞2)の2症例を報告し,その血管壁の変化を膠原病の概念にあてはめて考察を試みたが,いずれも完全なる剖検をえなかつた.偶々今回経験した1例は腸間膜動脈閉塞による腸管壊死を手術により一旦軽快退院せしめたが,暫時の後再入院死亡したが剖検の検会を得た興味ある症例である.全身各臓器の血管の変化を追求することが出来たのでこゝに報告し,各位の御教示を願う次第である.

生後20日の初生児に見られた足蹠部神経鞘肉腫

著者: 木元正二 ,   小泉嘉久 ,   真岸武郞 ,   古野美喜夫

ページ範囲:P.1090 - P.1092

緒 論
 Neurinomに於いて最も興味ある点はその組織発生に就いてであるが,1908年Verocayによつてその詳細な研究があつてから多数の報告をみている.然し乍ら,その発生部位は背髄及び脳等の中枢神経領域であつて,四肢等の末梢神経領域に発生したものは少なく,西田の統計では第1表の如くである.叉年齢的にみても今迄の報告例では最若年齢はHabitzの6歳の男子の舌に発生せる報告例があるが,最近吾々が経験した症例は,更に若年齢とも云うべき生後僅か廿日の初生児の右足蹠に見られた大人の手拳大のもので,而も之が悪性化したNeurinosarcomであつたので,之迄の報告例と比べて発生部位,年齢,早期悪性化の諸点にその類例なく大きな興味と幾多の示唆に富んでいるので茲に報告する.

孤立性肺嚢胞の1例

著者: 滝田光典 ,   副井新

ページ範囲:P.1095 - P.1096

 胸部X線写真に異常陰影特に円形の透亮像が認められると,直ちに肺結核と診断され,結核の積りで加療されることが尠くない.
 吾々も右上葉に鶏卵大の環状陰影を認め,化学療法,気胸を行つたが,X線上,空洞様透亮像は変化せず又喀痰中結核菌も陰性であつたので更に諸検査を進め,肺嚢胞症を疑い,肺切除を施行し,気管支性肺嚢胞症であることを確認した1例を経験したので報告する.

慢性腸重積症の2例

著者: 西口昭一 ,   垣內誠一

ページ範囲:P.1097 - P.1098

 激しい腹痛を訴えるか,或はそれ程までなく多少腹痛があり,腹部にかなり腫瘤をふれる,嘔吐,血便というものはまずない.一般状態もそう悪くない,腸重積にしてはえらく軽い,何だろうと少しぐずぐずして翌日診るとこの腫瘤がなくなつて患者はけろりとしており,おかしな腫瘤もあるものだと思つていると又同じ事が起つてくる.極端な場合は胃癌ぢやなかろうか等と誤診される病気の一つに慢性腸重積がある.腹部腫瘤の鑑別診断上知つておく必要があるので最近みた2例を報告する.

昆布による急性腸閉塞症の1例

著者: 石居四郞 ,   吉田直哉 ,   橫田博胤

ページ範囲:P.1099 - P.1101

1.まえがき
 腸閉塞症の如き重篤で急を要する外科的疾患では,手術医の急速適確な判断と,それに基づく処理が,患者の予後を決定する最も重要な要素となる.特に小児の腸閉塞症は成人のそれに比べて死亡率が高く,又特異なものが多い.食餌並びに異物によって惹起せる急性腸閉塞症の内外諸家の報告例は,枚挙にいとまがない程多数であるが,余等が経験した一例は,その発生と小児衛生並びに,小児外科的立場に於て,実地医家に多少興味ある問題と考えその症例を報告する.

膀胱臍瘻の一治験例

著者: 代田明郞 ,   川島東策 ,   岡崎太郞

ページ範囲:P.1103 - P.1107

緒 言
 尿嚢管(胎生尿管)の閉鎖不全による膀胱臍瘻はH.Dudgeon1)によれば1550年に尿道閉塞を有する18歳の女子にみられたものが最初で,18世紀には本症の僅か4例の報告をみるのみであるが19世紀以向は欧米に於ては相等数が報告されている.即ちVanghan(1905)は本症の46例を,Begg2)(1927)は58例を,又Rieder(1934)3)は27例を夫々蒐集報告,最近ではS.Metrick4)等が1950年以後1956年までの7年間に報告された本症例について述べ,特に先天性腹壁筋欠除を伴う本症の6例を認めたと述べている.此れに反し本邦に於ては大正10年船越5)の32歳の男子にみられたものを嚆矢とし,爾来,小林(昭和15年)6),畑(昭和11年)7),田沼(昭和23年)8),辻(昭和24年)9),岡(昭和31年)10)等の本症に関する詳細なる報告があるが現在までに未だ41例を算するに過ぎない.
 私共は最近松倉外科教室に於て本症の1例を経験すると共に尿嚢管を剔出治癒せしめることが出来たので茲に報告する.

大腸癌再発を思わせた巨大糞性腫瘤の1例

著者: 小西等 ,   松本外史郞

ページ範囲:P.1109 - P.1111

 Burns, Galle u. Küttnerは糞石を,塩類より成る真に固い結石である「腸石」と,種々の異物を中心とする糞便の硬固なる塊状物である「糞石」と,破砕し易い糞石である「糞腫」の三つに分類している.腸管内結石症に関する報告は多いが真に腸管内で生成された結石に関する報告は少い.1953年藤井,松尾はHirschsprung氏病に併発した巨大糞石症2例を報告しているが,最近われわれは大腸癌手術後の患者に於て大腸癌再発を思わしめ,それが巨大糞性腫瘤であつた興味ある1例に遭遇したので報告する.

膝膕動脈瘤に対する同種血管移植の2手術例

著者: 高橋頴 ,   佐藤正助

ページ範囲:P.1113 - P.1116

 症例1 17歳,女.5ヵ月前より右膝関節の運動に際しての疼痛及び伸展障碍を訴え,3ヵ月前より右膝膕部の腫脹を来し,之等愁訴は次第に増強して来たので入院.
 全身所見:全身所見に特記すべきことなく,血圧110〜80mmHg,血液ワ氏反応陰性,赤血球420万,白血球6600,血色素ザーリー93%であつた.

集談会

第82回北陸外科集談会,他

ページ範囲:P.1117 - P.1122

1)橋腫瘍の1例
        金大第一外科 中村 晋・他
 5歳11カ月の女児,生来健康,1955年8月より左手の運動が拙劣となり,11月上旬より斜視を認め,12月上旬より右耳鳴を訴え歩行不能となる.12月14日入院外旋神経,右側麻痺,左側不全麻痺,三叉,顔面及び聴神経,右側不全麻痺,顔左半に著明な発汗,平衡失調あり左方に倒れて起立不可能,脳室穿刺に依り,脳圧正常,脳室の変形を認めない.後頭下開頭を行つたが,術中より脳浮腫が著しく遂に死亡した.剖検の結果,橋の上端より,延髄の下端に達し,稍々右側に偏する暗赤色の腫瘍であつた.殊に橋中央の高さに於て最も著しく,腫瘍はその断面積の殆んど8割を占め,第4脳室を殆んど閉塞せる血管膠腫であつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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