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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科13巻4号

1958年04月発行

雑誌目次

綜説

心臓手術の麻酔

著者: 織畑秀夫 ,   岩淵汲

ページ範囲:P.297 - P.305

緒 言
 開胸手術の場合,麻酔方法として最も効果を発揮したのは閉鎖循環式気管内麻酔である.初め肺切除術に用いられ,手術の危険を激減せしめたことは未だ耳新しい事実である.その後,本法の価値を更に大ならしめたものは心臓の手術であろう.我々が最初に心臓の手術を昭和26年5月5日,ボタロ氏管開存に対して行つた時,日本製のこの麻酔器で林周一博士(現,順天堂医大外科助教授)及び綿貫喆博士(現,東北大学医学部麻酔科教授)の御両人に麻酔を実施していたゞいて成功したのである.それ以来今日まで総べて心臓手術は気管内閉鎖循環式麻酔器を用いている.この麻酔器による利点は心臓疾患のように低酸素状態にあつて,尚低酸素症発生の場合に抵抗力の少い症例ではこの上もないよい効果を示すものであることは常々我々が深く認めている点である.この麻酔方法がなかつたならば現在みるような心臓手術の発達はとても望めなかつたものと云つても過言ではない.
 現在まで榊原教授による心臓手術は1050例に達しており,この間の麻酔技術の変遷は種々興味あるものがあるが,本稿にはその中特にこれらの麻酔経験の中Poor Riskに対する麻酔とゆう立場からごく一般的心臓手術の場合について述べるつもりである,従つて直視下心臓手術の時の低体温法及び人工心肺の麻酔は省略した.

外科領域に於けるPhenoxymethyl Penicillin(Pc-V)の臨床効果

著者: 羽鳥俊郞 ,   関根迪弌 ,   児島秀行 ,   半谷真 ,   飯田厚三郞

ページ範囲:P.307 - P.314

 我々は経口ペニシリン(Pc)剤としてPhenoxymethyl-Pc即ちPc-V遊離酸及びCa塩を用い,外科領域に於ける感染症及び術後感染防止に対する効果を検討し,副作用及び実験成績の面からも考察を加えたので報告する.

中山外科教室に於ける興味ある黄疸症例について

著者: 佐藤博 ,   鍋谷欣市 ,   山本勝美 ,   小渋雅亮

ページ範囲:P.315 - P.327

 中山外科教室に於て最近10年間取扱つた胆嚢胆道系疾患の中から,主に黄疸の発生した症例を中心として申上げ皆様の御参考に供したいと存じます.
 最近10年間に我々の取扱つた胆嚢並びに胆道症疾患は,第1表の様に入院総数は216例で,その例の内訳と黄疸の発生率は各々表の如くである.

頭部外傷後遺症患者の労働障碍について

著者: 加藤貞三郞 ,   川井一夫 ,   金田秀 ,   渡辺三郞

ページ範囲:P.329 - P.332

緒 言
 頭部外傷患者は累年増加の一途を辿り,又頭部外傷者数に対する後遺症者の発生率も年々増加している.之の後遺症の為に長年労働出来ない事は本人家族は勿論,国家社会にとつても重要な問題である.元来頭部外傷後遺症の基本型とも言われるものは,頭痛,眩暈と心身活動能力の低下を主徴とせるもので之は病巣の明らかな場合と異り診断と治療が非常に困難で,斯るものをFriedmann(1892)はvasomotorischer symptomenkomplexとして記載し,Försterはposttraumatischescerebrales allgemeinsyndromと述べた.即ち斯る例は従来の神経学的検査で客観的所見が見付からないからと言つて直ちに労働能力に余り障碍が無いと言う何らの証拠にならない.又Neuroseとの判明も明らかでない.そこで私達は斯る症例に就いて客観的所見を見出す為色々の検査を行い労働障碍となる脳病の所見的を幾分知り得たと老える.今回は気脳写及び血管像より主として検討を加えた.

術技

心房中隔固定術—安全にして簡易なる新術式

著者: 広瀨輝夫 ,  

ページ範囲:P.333 - P.339

緒 言
 心房中隔欠損症に対する手術は1947年にCohen1)により暗示され,Murray2)により1948年に,心房前後壁を心中隔部に縫い合わせる事により部分的な成功を見たのであるが,実際に完全な人体成功例が報告されたのは1952年1月11日,著者の1人Baileyによる.
 此の手術法の原則は,心房中隔欠損症においては常に余剰で肥大している右心房壁を中隔欠損部に対して折り込ませて,其の周囲を心臓内に挿入せる指の導びきにより,中隔壁に縫いつけるわけである.此の閉鎖方法は「心房中隔固定術」と命名された.其れ以来,幾多の道理にあつた変法が種々の解剖的変異に対処して工夫されて来た4)5)6)(第1図A,B,C).

検査法

外科に必要な検査法—(I)肺切除に必要な臨床検査

著者: 飯島登

ページ範囲:P.340 - P.344

 診断に重要な根拠を与える各種臨床検査はまた術中,術後の管理面にも重大な使命を果し,外科手術進歩の一因をなしたことは今更述べるまでもない.

統計

胃下垂症の外科的治療の検討—手術方法及び遠隔成績について

著者: 岡本一男 ,   堀向憲治 ,   安部堯 ,   高木啓之 ,   沢有好

ページ範囲:P.345 - P.349

§緒 言
 最近,胃下垂症の手術に関して,種々論議されて居りますので,吾々は,当院に於ける最近10年間の胃下垂手術195例につき,特に胃液酸度,遠隔成績より統計的に検討を加えてみました.

薬剤

術後痔痛に対するノブロンの使用経験

著者: 高松新一 ,   前田宏仁 ,   楠田誠 ,   藤田力

ページ範囲:P.351 - P.354

 最近漸く術後疼痛除去の問題に関心が嵩まりつゝあり,諸家のこぞつて企図するところはアルカロイド属の所謂麻薬系薬剤に代つて,非アルカロイド系の薬剤で術後疼痛緩和を計ろうとしている事である.アルカロイド系薬剤は優れた鎮痛効果のある反面,悪心,嘔吐,尿閉,腸管麻痺,呼吸抑制等の不快なる副作用や,習慣性の問題があつて,使用に当つて自ら制限があり,この点が術後疼痛に対処して出来得れば非アルカロイド系薬剤を使用して行きたいと考えられる理由である.現在まで術後疼痛除去法に関しては甚だ多数の報告がなされ,使用された薬剤も著るしい数に上つている.しかし,何れもアルカロイド系薬剤に比して副作用は少いが最も大切な鎮痛効果に於ては劣つているか或はその使用方法が煩雑に過ぎるきらいがある.私共の教室においても,数年来,術後疼痛緩和法について綾部,井上ほかがその都度,種々の方法について発表して来たところである1)−14).今度は非麻薬系薬剤であるノブロンを術後疼痛に対して使用してみたので,ノブロンの鎮痛効果については既に幾多の報告15)−20)がみられるにも拘らず,私共の使用成績を発表する次第である.

全身麻酔下手術における低血圧,脈圧減少に対するCarnigenの効果

著者: 川田繁

ページ範囲:P.355 - P.359

まえがき
 手術に携る者は術中屡々低血圧,脈圧減少,不整脈に遭遇する.術前の諸検査に於て何等循環系に障碍を見出さずgood riskの状態で手術室に入つた患者であつても,手術の侵襲や麻酔の影響によつて前述の如き症状を示すことがある.術中低血圧を長引かせて不可逆性のショック状態に陥れてはならぬことは論を俟たない.
 McKessonは次の如き条件を備えている例にはショックとして治療を開始する様に教えている.即ち 1)80mmHgまたはそれ以下の収縮期血圧 2)20mmHgまたはそれ以下の脈圧 3)100/分またはそれ以上の脈搏数 吾々は,1),2),3)の何れをも備えた場合,あるいは2つを合併した場合,またはこれらの症状の予測される場合は直ちに強力な輸液,輸血,各種昇圧剤,強心剤等を以て出来得る限り血圧の正常化をはかり,無事手術が終了するよう努力を払つている.

メチマゾール(メルカゾール)によるバセドウ氏病100例の治療—特に手術前処置を中心として

著者: 金地嘉夫 ,   寺田登美男 ,   竹下重晴

ページ範囲:P.361 - P.369

 従来一程度進行せるバセドウ氏病の治療は外科的療法以外にみるべきものがなかつた.内科的にヨード剤血清療法やX線深部治療等はあるにはあつたが,これらは軽症のもののみに効果を期待し得る程度であつた.一方又甲状腺腫切除術の準備に前処置としてヨード剤が一時的に病状の改善を得る目的で用いられ,手術による死亡率を著しく減少させたが,あくまで前処置としての一時的効果を期待するにすぎなかつた.戦後サイオユラシール剤即ちメチルサイオユラシール(メチオジール).プロピルサイオユラシールが出現し,バセドウ氏病の内科療法に大きく貢献するところとなり現在広く用いられるに至つている.又放射性ヨードによる多数の治療成績は内科療法のみによる治癒の希望を実現し得るものというべきであろう.
 唯放射性ヨードは次に述べるような理由によつて随時に誰れでも容易に治療するというわけにゆかない.即ち8日間で効力が半減する貯蔵の出来ない輸入品であり,放射能を有する危険品で取扱いに専門的な知識を必要とすること.その1回の投与の効果は数週数ヵ月後になつて現われるので,薬剤投与の一般原則である薬のきゝ方をみながら投与量を加減するということが出来ず,もし過剰に投与されると永久的な粘液水腫となる恐れがあること.

Finalgon軟膏による皮膚温,関節内温測定ならびにその臨床効果について

著者: 黑河內哲夫 ,   赤塚隆

ページ範囲:P.371 - P.376

はしがき
 関節痛,筋肉痛を惹起する整形外科疾患すなわち変形性関節症,関節リュウマチ,いわゆる五十肩,腰痛症等に対しては従来も数多くの薬物療法が行われて来たが,その多くは鎮痛,消炎作用を主な目的とする注射又は内服療法で塗布剤として鎮痛効果を示すものは比較的少い.
 Finalgon軟膏(F81)は2種の脂肪溶解剤,すなわち皮膚より滲透して主とてし温覚器官を刺戟する1) Nonylic acid vanillyamide O.4%と2)末梢血管を拡張し温熱効果を示すNicotinic acin—β—butoxyethylester 2.5%とからなる局所充血剤で,Plötzeによれば本剤使用後に現らわれる積極的な充血,及び温熱作用は諸種のリュウマチ性疾患,及び神経炎様疼痛に有効であるといい,Brillによれび軟部組織打撲,及びその他の末梢血流障碍にもきわめて良効な効果をあらわすと報告されている.

乳幼児麻酔の新しい試み

著者: 黑田秀夫 ,   松本浩生 ,   田中庸介 ,   佐貫和正 ,   竜田憲和

ページ範囲:P.377 - P.380

I.はしがき
 麻酔が急速に進歩しつゝある現在に於ても,乳幼児に対する外科手術に際し,如何なる麻酔を行うべきかは,尚多くの問題が残されている.乳幼児は恐怖心,依頼心が強く,単に疼痛がないというだけでは手術の円滑な進行は望めず,そこで必然的に,心理的要素を除去しうる全身麻酔が必要となるわけで,その為に古くからエーテル開放点滴法が簡便で比較的安全度が高いため広く用いられているが,この方法も種々の点,即ち前麻酔,酸素の補充,気道の確保という点に困難があり,色々な危険性を有しているため,最近小児麻酔について数多くの新しい報告に接する様になつた.
 吾々は,臨床上の経験から従来の諸方法を改良し,特殊の設備も技術も必要とせず,誰にでも手軽に実施出来る,安全度の高い且つ効果確実な乳幼児麻酔法を考案したので,こゝにまとめて報告し,諸賢の御試用と御批判を仰ぐ次第である.

症例

難治性外瘻の内瘻化の経験

著者: 永野滋之 ,   德倉昂

ページ範囲:P.381 - P.383

緒言
 難治性腸瘻,胆瘻と云えども,之を永く放置する訳には行かぬことが多いが,隣接臓器との広般な癒着は,時として瘻孔切除術を不可能にする.この際吾々は止むを得ず外瘻孔を腹腔内臓器に吻合,即ち外瘻を内瘻化することによつて治癒を図るより方法のない場合がある.
 吾々は最近難治性と腸瘻と覚しき1例,胆瘻1例に該方法を試み,一応の治癒をみた経験を得たので報告する.

悪性変化を来せるRecklinghausen氏病の興味ある1例

著者: 足立正幸 ,   笹富公夫 ,   菅幸哉

ページ範囲:P.384 - P.389

 吾々は,最近Recklinghausen氏病(以下R病と略す)の右臀部に見られた巨大な神経鞘腫(Ne—urinom)を剔出したところ,その後40日目頃から剔出部に極めて増殖の旺盛な腫瘍を生じ,組織学的には,線維粘液肉腫(Fibromyxosarcom)であつた興味ある1例に遭遇したので,茲に報告し,以て諸賢の御高批を仰ぎたいと思う.

直腸悪性黒色腫の1例

著者: 吉井信夫

ページ範囲:P.390 - P.392

 悪性黒色腫の中で直腸に原発するものは非常に少いとされており,我国に於ては数例の報告があるに過ぎないが,私はその1例を経験したので此処に報告する.

レ線撮影により静脈との交通を確認し得た血液嚢胞の一治験例

著者: 関根迪弌 ,   阪口周吉

ページ範囲:P.393 - P.395

 血液嚢胞は稀な疾患であるが,われわれは最近左側頸部に発生,術前レ線観察から静脈系と交通を有する真性血液嚢胞なることを確め,これを別出全治せしめえた一例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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