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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科13巻5号

1958年05月発行

雑誌目次

特集 外科的・内科的療法の限界

潰瘍合併症に関する手術および胃切除術における切除範囲について

著者: 大井実 ,   本島珪三

ページ範囲:P.401 - P.410

 狭窄,穿孔,出血および癌化の潰瘍合併症が,外科的治療の適応であることは,多くの内科医がひとしく認めるところである.この理由は,手術的療法によらなければ,生命が危険であるからというところにある.しかし,合併症を伴なわない場合には,いかなる時期のものを内科的治療から外科的治療に移すべきか,内科医の間ではいろいろに意見が分かれ,議論されている.外科医である私達は,従来の内科医が考えていたより,もつと広い手術適応があるものとして考えてきたが,この理由を簡単に述べておきたい.
 消化性潰瘍という言葉は,今日では,胃・十二指腸潰瘍と同じに使用されて,なんら不思議とされなくなつているが,これは,胃・十二指腸潰瘍とは酸性胃液により,胃または十二指腸壁が消化されて発生するものであり,潰瘍の発生には塩酸の存在を不可欠な条件とするという学説が,一般に承認せられているためである.外科医が,胃・十二指腸潰瘍の治療上最も効果的な方法として用いている胃切除術は,胃の切除が減酸効果を達するという点において,この学説を裏付けている.また内科医が,内科的治療として行なつている数多くの方法は,安静療法,食餌療法,薬剤療法,照射療法いずれの療法も制酸・減酸を直接のあるいは間接治療目的としているものとみなすことができる.とりもなおさず,内科的治療の場合も,消化性潰瘍の発生には塩酸の存在を不可欠の条件とするという学説にもとずいているものなのである.

胃・十二指腸潰瘍—内科的療法の限界

著者: 黑川利雄 ,   梅藤勇

ページ範囲:P.411 - P.418

I.はしがき
 胃・十二指腸潰瘍は内科的治療により比較的容易に症状の軽快をみるものであるが,しばしば再発をくり返し,時に重篤な合併症を起すことのあることは,われわれ内科医のひとしく経験するところである.
 潰瘍の癌性変化,穿孔,高度の狭窄など手術の絶対的適応症のあることは衆知のことであるが,その他の比較的適応症に際しても,いかなる時期に外科医の手に委ねるべきかは極めて肝要な問題である.

慢性胃炎—外科的療法の限界

著者: 島田信勝 ,   佐藤雄次郞

ページ範囲:P.419 - P.426

 所謂原発性慢性胃炎はKonjetznyによつて,外科的治療が行われ,而も好成績であつたことが報告されている.慢性胃炎が内科医によつて治療されている一方,外科医の間には潰瘍なき潰瘍症(ulcuskrankheit ohne ulcus)という疾患があつて,胃十二指腸潰瘍症の診断で開腹手術を行つても潰瘍が発見出来ず,そのまま腹腔を閉鎖すると,術前の胃症状が改善されないので,理由不明のまま胃切除を行うと,術前の胃困難症状が消失する場合がある.
 最近はこれらの胃困難症状が慢性胃炎としての機質的変化に基く場合の多いことが次第に明らかとなり,昭和29年度日本外科学会に於いて,「シンポジウム」として取り上げられるに至り,多数の学者によつて慢性胃炎の外科的療法に関する知見が報告され,一応我が国に於いても慢性胃炎が外科的に取扱うことが承認され得ることゝなつた.

慢性胃炎—内科的療法の限界について

著者: 沢田藤一郞

ページ範囲:P.427 - P.432

 上腹部痛,食慾不振,胃部膨満感,曖気,胸焼等,慢性不定の胃症状を訴えて内科医を訪れる患者は甚だ多い.かゝる際にレントゲン検査,胃液検査或は触診等で胃十二指腸潰瘍や胃癌とはつきり診断出来ない様な場合には従来やゝともすれば,"慢性胃炎"と云う診断で片附け,その治療もなおざりになる憾みがある.近時,胃鏡検査や胃生検等の診断技術が進歩して胃粘膜の肉眼的乃至組織学的変化が生体について検索出来る様になり,又外科的療法が積極的に行われて新鮮な材料が多数得られる様になつたため,これまで不明確であつた本症の概念も次第に確立されつゝある.
 一方,慢性胃炎が潰瘍や癌の発生母地として重要な意義を有する事は,特に切除胃の組織学的検索からも強調されて居る所であつて,この点に鑑みても本症に対する診断及び治療方針を明確にすることは,本症を診療することの最も多い我々内科医の義務と考える.

肺化膿症—外科的療法とその限界

著者: 篠井金吾 ,   江本俊秀

ページ範囲:P.435 - P.441

I.まえがき
 肺壊疸は口腔内の腐敗菌による肺の非特異性炎症で,戦前には肺膿瘍に比して多数に認められたが,最近では肺膿瘍との中間型が多く,近年はこれらを総称して肺化膿症と呼ばれているが,両者の差異は,細菌学的には喀痰中の病原菌で見分けられるが,臨床的には簡単に喀痰臭気の有無によつて見分けられる.臨床上は両者の混合型が多く,実際にはこれを判然と区別する事は困難である.併し治療上はこれらを一応区別して置くことが便利であつて,病原菌をみると,肺膿瘍は葡萄菌,連球菌,肺炎双球菌(稀にFriedlender肺炎桿菌)等の好気性菌の感染によつて起り,肺壊疽はこれら好気性菌の外にFusobacterium,Spirocchaeta dentium,θ—Bacillus,Coccobacil—lus, Micrococuus等の嫌気性菌が共棲しているのである.

肺壊疽—内科的療法の限界

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.443 - P.451

1.緒言
 肺壊疽の治療法として,内科的保存療法による可きか,外科的に処置すべきか,又如何なる時期に,内科より外科に移す可きか,時代と共に大きな変遷がある.ペニシリン以前に於いては,保存的療法を数週間行つて,効果のないものは,外科的治療の適応とされた.ペニシリンの出現により,本症の治療は全く一変し,本症の殆んど総べては,ペニシリンによつて,良効が得られ,更に,これに次いだ数種の抗生剤の応用が行われる様になり,本症の治療は,化学療法が主体となつた.更に近年胸部外科手術の進歩に伴い,切除術が広く行われる様になり,化学療法後の遺残空洞や気管支拡張は容易に切除される様になり,又稀に見られる.化学療法にて良好を見ないものも,切除によつて治療し得る様になつた.
 かく本症の治療は,現在は内科的に先ず治療し,必要があれば外科的に処置することが普通と考えられるが,ではいかなるものを外科に廻す可きか,又その判断に際して,どんな事柄が関係するであろうか.その一つは起因菌の如何であり,更に治療後に残つた空洞や,気管支拡張の問題等である.

薬剤

Lanatoside Cの外科的使用法

著者: 藤本淳 ,   芝卓彌

ページ範囲:P.453 - P.458

 ヂギタリス剤は鬱血性心不全患者を取扱う臨床医家にとり必要不可欠の薬剤である.そして現在尚ヂギタリス剤の臨床使用法については丈献が発表されている10)11).最近は使用されるヂギタリス剤として結晶性純配糖体製剤がありLanatosideCやDigitoxinがこれである.これらの製剤の効果の適確性にも拘らず決して普及しているとはいえない.心臓外科が発展して,外科医も鬱血性心不全を伴う後天性心疾患患者を取扱う機会をもつ様になつた.心臓外科の対象者がすべてヂギタリス剤を必要とするものではないが,我々を訪れる後天性弁膜疾患患者の多くは内科的療法の限度以上のものであり,心不全状態のものが多く,手術を行うためにはこの心不全を軽減せしめる必要があるものも決して少なくない.この際のヂギタリス剤としては効果確実で中毒症状の少いものが便なことは当然である.現在一般のヂギタリス飽和にはヂギトキシンを使用しているが,一方ヂギタリス剤の急速飽和を必要とすることも多く,又手術中手術後のヂギタリス剤投与には静脈注射剤を必要とする.我々はこの場合にセヂラニッドを使用して所期の目的を得る事が出来た.その後藤沢薬品より同製剤をヂギラノゲンCとして市販される様になり,現在は該製品を使用している.こゝで現在迄のヂギラノゲンCの使用経験を総括して,臨床効果を批判してみたいと思う.

症例

原発性小腸Leiomyosarcomの穿孔性腹膜炎を合併せる一治験例

著者: 川上弘大 ,   淸水義雄 ,   中山守一 ,   板野寬

ページ範囲:P.461 - P.464

I 緒 言
 腹部の腫瘍はそれが外科的のものか婦人科的のものか外部からは触診その他の検査によつても判らない事があり,特に急性腹部症の場合には精査が出来ない為に診断が困難である.著者は穿孔性虫垂炎の疑で来院し,腹部に腫瘤を触れ其の他の臨床症状より卵巣嚢腫茎捻転と思い婦人科に送り開腹を受けたが,婦人科的疾患でないと判り引続いて著者が手術を進め腫瘍を摘出し,摘出標本の病理組織検査の結果Leiomyosarcomであつた一例を経験したので報告する.

腸間膜膿瘍の2治験例

著者: 川島恵三 ,   伊東虓次郞 ,   高水旭東 ,   吉川英邦

ページ範囲:P.467 - P.471

 腸間膜に発生する膿瘍は比較的に稀有にして,本邦報告例でも僅かに10数例を算するのみであるが,我々は最近腸間膜膿瘍の2治験例を得たので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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