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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科13巻9号

1958年09月発行

雑誌目次

急性膵臟炎と外科的療法

著者: 齊藤淏 ,   佐藤作治

ページ範囲:P.829 - P.834

 急性膵炎.今日は日本でも英米流にこの名称が広く使われるようになつているが,以前はその多様な病理像にしたがつて膵卒中,急性出血性または壊疽性膵炎,急性膵臟壊死(疽),急性膵浮腫などと呼ばれていた.この発生病理については多くの研究はあるが,膵酵素による自家消化(Chiari1902)を出発点と見ることには最早異論はないと思われる.従つて細菌はその誘発に重要な働きかけをしていても病理像発生の直前における主要な役割は酵素の逸脱にあるものであつて細菌性膵炎をもつて基本病体とみることの出来ないことは已に明らかにされている.二次的感染によつて化膿性膵炎または膵膿瘍が招来される可能性を考えてみるときに始めて細菌感染が問題となるものである.筆者もか様な考え方に従うこととする.こういう意味に本命題の急性膵炎を取りあげることとし,純粋の細菌感染をもつて終始する膵の単純性化膿性炎症は実在するであろうがここではふれない.
 飜つて箪者の本疾患に深い関心を持ち始めたのは塩田外科教室において実見した大出血を伴なつた一症例にあつた.その後同教室における経験例に併せて当時の本邦文献例を加え,94例について検討を加えた(昭和10年).以来機会ある毎に各症例の治療について考究を重ね内・外の状況をもみて参つたのである.

膵臓炎の内科的治療とその限界

著者: 小田正幸

ページ範囲:P.835 - P.841

1.はじめに
 先ず最初にことわつておきたいことは,膵臓炎に関しては従来外科医の方が内科医よりもその病像をくわしく知る機会に恵まれていたことである.膵臓壊死の如き重症剖検例を除き病的所見を確めることは前者において初めて可能なことであつた.膵臓炎として軽症型の膵臓浮腫の存在は古くKörte1),Archibald2),Zoepfel3)等外科医によつて気付かれている.
 また膵臓浮腫が病勢の進行と共に膵臓壊死にまで移行する事実はQuick4)により最初に報告されている.彼は最初の開腹手術で膵臓浮腫のみを認めた例で,2日後の開腹手術時壊死性病変に移行していたことを確認している.

綜説

虫垂炎患者の虫垂組織フォスファターゼ反応に就いて

著者: 南泰之 ,   浜崎昭二

ページ範囲:P.842 - P.844

緒 言
 炎症病巣にフォスファターゼ(以下「フ」と略す)の存在する事は,高松—武内1)により注目され,殊に急性炎症に際しての本酵素については,武内等2)3)4)5)の記載があり,中川6)はそのアルカリ性並びに,酸性「フ」に就いて詳細に検討し,武内7)の云う所謂病巣「フ」殊に炎症病巣「フ」の基礎的知見を提供した.武内2)7)によれば炎症病巣には,その急性期には浸潤細胞,殊に多核白血球に著明な「フ」の産生が認められ,病巣の破壊と炎症の強さに比例するにつれて白血球「フ」は増強し,その修復機転が進行し瘢痕化するにつれて「フ」は漸次消失し,遂には証明されなくなる.この様な所見から「フ」は炎症病巣の清掃浄化,消化吸收に極めて密接な関係があり,生体の急激な防衛反応には必須のものであると考えられる,吾々は日常急性化膿性炎症疾患として屡々虫垂炎患者に接するので既に虫垂炎患者の血球「フ」反応に就いて南2)が発表したが,今回は虫垂炎患者の切除虫垂に就いて化膿巣「フ」の組織学的検索をしたので此処に報告する.

出血性乳房に就いて

著者: 陳茂棠

ページ範囲:P.847 - P.852

1.緒 言
 出血性乳房とは,乳嘴より血液 又は血性分泌物を漏出する症候名であるが,通常乳腺内に腫瘍或いは炎症等の病的変化を有する.名和1)の本邦例の統計にみる如く,過半数に,悪性腫瘍または悪性化が認められる故に,臨床上留意を要するものである.久留2)は慢性乳腺症と乳癌の発生に関し,分娩と授乳の関係に注目しているが,私共も分娩回数少なく,而も,殆んど授乳せず,その後3回,人工妊娠中絶を行つた婦人に見られた出血乳房の1例に遭遇し,些か知見を得たので,こゝに報告すると共に,本邦例77症例の統計的観察を試み度い.

脊麻の病態生理

著者: 三浦成元 ,   斎藤俊彌 ,   荻原浩

ページ範囲:P.853 - P.859

I.緒言
 麻酔法は単に手術部位が無痛で患者に苦痛を感じさせないばかりではなく同時に筋弛緩が完全であるとか,腸管が鎮静な状態におかれ術者にとつて手術がやりよいとか更に患者にとつて安全であることが大切な条件であり又同時にわが国の如き経済的に余裕の少い国情の下で,しかも人手も充分に得られない状況に於ては米国等の状態そのまゝをあてはめようとしても無理である.こうした見方をすると最近流行の新しい麻酔法が特殊な場合を別として必ずしも最も適切な方法であるかどうかは難しい問題であるが従来腹部外科の大部分は脊麻によつて行われ且つて脊麻ショック,脊麻偶発症等の概念の下に脊麻が危険視されたが脊麻が果して危険か否かは手技の問題も考えられるがこれらも含めて脊麻の病態生理を解明する必要がある.こゝに於て私は脊麻において最も重要な問題である呼吸相と循環相の二つを取上げ根本的な問題について検討して脊麻の安全さを確信すると共に最も有効な対策について少々知り得たので発表する.

術技

Parkinson症候群の治療としてのCooper氏淡蒼球破壊術

著者: 星野列 ,   松永守雄 ,   伊藤隆

ページ範囲:P.861 - P.864

 人脳に対する定位的腦深部手術装置は,1947年にE.A:Spiegel&H.T.Wycisによつて始めて発表されたが,ややおくれて我国に於ても楢林等が独自の装置を考案し,Parkinson症候群を主とする多数の不随意運動症患者に対して,淡蒼球の定位的破壊を試み,極めてすぐれた業蹟を挙げている.その後,彼等自身を含めてかなり多くのものが,新型あるいは改良型の装置を発表しているが,いずれも腦内に設定した互に直交する3平面上における坐標を気腦図から計算して穿刺を行うもので,装置はかなり複雑なものとなつている.
 一方,1954年I.S.CooperはMonro孔の中心より5mm後方の垂直前額断面において,頬骨弓の直上部と第3腦室の最上部とを結ぶ線(AB)は同側の淡蒼球内半部を通過し,かつ淡蒼球内半部の中心はこの線上で側頭葉皮質表面から4.5cmの深部にある(第1図)という解剖学的所見を基礎として,簡単な定位装置による淡蒼球破壊法を提唱した.第2図はCooperの原図に従つて我々の作製した装置で,3コの固定釘によつて頭部に固定するのであるが,先端の固定釘(1)の方向と針保持器の方向とが厳密に同一線上にあるように設計してあるので,この線が前記の頬骨弓直上と第3腦室最上部とを結ぶ線(AB)に一致するように装置を頭部に固定し,針を腦表面から4.5cm深部にまで進めれば淡蒼球に刺入する訳である.

ファーター氏乳頭部分的切除術後に於ける再手術例の検討

著者: 中村豊 ,   佐藤丈夫 ,   盛岡敬二

ページ範囲:P.865 - P.870

 我国胆道疾患に於ては,ファーター氏乳頭部の病変乃至は機能異常が重要な役割を演じているものが多い.教室ではそれ等症例のあるものにはファーター氏乳頭前壁部分切除術を施して略々満足すべき結果を得ている1).しかし今迄の手術例中2,3の不満例を得,これに再手術を施したものもある.今それ等症例を報告し,若干検討を加えてみたい.

検査法

肝臓並びに胆道外科に必要なる検査法(其の2)

著者: 飯島登

ページ範囲:P.871 - P.873

レ線検査法
 濃厚な胆汁の充満した胆嚢,殊に所謂(Limybile)が存在する場合,またその壁の著しく肥厚した胆嚢で石灰化を示すものに於いてはレ線単純撮影のみで胆嚢の影像を読みとることが極めて稀にはある.また胆道外科で重要な胆石症に於いてはレ線的に結石を直接証明するにはその化学的組成と周囲のメヂウムとの二つの条件が造影に密接な関聠を有することは勿論である.即ち水のレ線吸收率を1.0とすれば炭酸石灰15.15,ビリルビン石灰1.015,ヒヨレステリン0.504であるから石灰層の含有量大なる程レ線吸收率が高く従って単純撮影によって証明し易い之に反してヒョレステリン,ビリルビン成分の多い程レ線証明が困難となるわけである.そして幸運にも単純撮影によつて造影された場合その結石はしばしば多数の層から成立つた美しい輪状構造を見ることが多い.

統計

術後の腹膜裂隙内に腸管が嵌入した1例及び本邦腸嵌頓症の統計的観察について

著者: 木野嘉郞 ,   岸広豊

ページ範囲:P.875 - P.878

緒言
 腸間膜や,大小,綱膜における異常裂隙(裂孔)に腸管が嵌入した症例の殆んどすべては,急性イレウス症として,または剖検によつて発見される.しかし甚だ稀な疾患である.本邦では高安(明42),村田(明43)の報告に始まり,最近まで大凡40例の報告をみているにすぎない,私達の教室においては,過去23年間において,500余例のイレウスを経験しているが,本症は僅かに2例をみたにすぎない,その1例は手塚(昭29)によつて報告された.
 斉藤教授は昭和29年に日本外科学会に宿題報告「イレウス」を,昭和32年には日本臨床外科医会に特別講演「術後イレウス」を担当され,その際過去23年間(昭10〜昭32)における全国大病院,教室から集められたイレウス症例は18120例であつたが,そのうち腸嵌頓症(外ヘルニア嵌頓は含まず)は152例,すなわち,全イレウス例中0.84%であつた.なお私達の調査によると,腹膜裂隙内嵌頓例は,152例のうち35例を占めていた.これは全イレウス例中0.19%,腸嵌頓症例中23%に該当する.すなわち甚だ少いものである.この35例は,腸間膜裂孔25例,大網裂孔7例,小網裂孔,横行結腸間膜及び小綱膜裂孔,円靱帯裂孔の各1例である.しかし後天的の発生原因についてみると,開腹手術が最も深い関係をもつている様である.すなわち,24例は明らかに手術後発生例であつた.(第1表,参照)

薬剤

キシロカインに依る腰麻の経験

著者: 大山正信 ,   金子輝夫 ,   多田慶介

ページ範囲:P.879 - P.883

緒言
 腰椎麻酔はBierの創始以来,好んで使用された麻酔法である.腰麻に際しその望むべき理想は,より安全,より確実と云う事であろうか.古来,本目的をみたすべく各種の腰麻剤が使用されてきた.最近3%キシロカイン(以下Xとする)が市販され,私共も現在迄各種疾患86例に使用する機会を得たが,本報告では虫垂炎に使用した成績に就いて述べ,併せてペルカミンS(以下Pとする),及び高比重ヌペルカイン(以下Nとする)の成績と対比して報告します.

催胆剤ガロゲンの使用経験

著者: 鍬塚登喜郞 ,   橋爪陽一

ページ範囲:P.886 - P.888

1.緒言
 催胆剤ガロゲンは,古くから催胆作用のある事が知られていたクルクマ(Curcuma longa,L.)の根茎の有効成分に由来する合成薬剤で,dl—パラトリールメチルカルビノールd—樟腦酸エステルジェタノールアミンを主成分として含む.之はカルビノール系物質として,P.T.I.C.,フェリクール等と共に催胆作用は注目されている.今度,其の試供品の提供を受け,臨床上の効果を見る機会を得たので報告する.

制癌剤(アザン及びザルコマイシン)の局所使用経験について

著者: 野田常義 ,   相沢靑志 ,   林亨 ,   菱川創一 ,   本多正人

ページ範囲:P.889 - P.892

緒 言
 私達は最近,右前膊部皮膚癌に対し,制癌剤(アザン及びザルコマイシン)を直接局所に使用し,興味ある結果を得たので茲に報告する.

セデス注の臨床使用経験

著者: 池田恵一 ,   寺岡広昭 ,   大塚正年 ,   中島喜夫

ページ範囲:P.893 - P.898

緒 言
 最近の麻酔の進歩は目ざましく,外科手術は往時にくらべて比較にならぬ程患者にとつて苦痛なく行われる様になつて来た.術後疼痛に関しても,色々研究が進められ,モルヒネ,パントポン等のアルカロイド鎮痛剤のみに頼らず,塩酸プロカイン,アルコールの静注,レスタミン,ルミナールの皮注,ヌペルカインオレーフ油の局注,クロルプロマジン単独或いは麻薬との併用,或いはクロルプロマジンを配合した,ノブロン注の注射等が試みられ,夫々の効果について報告されている.
 吾々は最近塩野義製薬会社で発売された麻薬を含まない鎮痛剤セデス注を,主として手術後の疼痛に対して使用して良好な成績を收めたので茲に報告する.

破傷風に対するプレジシルの使用経験例

著者: 斎藤義一

ページ範囲:P.900 - P.901

緒 言
 破傷風患者の死亡率或いは治癒率の実態を把握することは困難であるが重症例の治療のむずかしいことは古今東西変りない様であり著者も再三苦汁を味つた.
 予防措置についても免疫血清或いはトキソイドの問題があり治療にも解明されない点が多い.その問題点は,(1)破傷風血清の使用量.使用方式に明確をを欠く,(2)痙攣に対する対策は,(3)合併症の防止,(4)栄養補給の問題,(5)化学療法等である.

外科領域に於ける「セデス注」の使用経験

著者: 大野豊 ,   水戶豊 ,   寺井敦夫

ページ範囲:P.902 - P.904

1.緒 言
 近年麻酔法の進歩は,手術に於ける疼痛除去を,殆んど完全なものとした.又一方手術の適応も,大いに拡張されて来ているが,術後の疼痛,或いは癌末期の頑痛に対しては,依然として阿片製剤を主とする,種々の鎮痛剤を使用して,猶満足すべき結果が得られていない.
 疼痛除去に効果のある麻薬製剤は,その副作用のため使用に際し十分なる注意を必要とし,その為にこれらに代るべき非麻薬製剤の鎮痛剤が用いられて来たが,何れもその鎮痛効果が麻薬製剤に比し,不十分であつた.

整形外科手術に於けるマネトール使用経験

著者: 村地俊二 ,   柴田宏

ページ範囲:P.905 - P.909

 整形外科が本来保存的療法を主として,先天性並びに後天性変形の矯正乃至予防に力を注いでいた時代から,現代整形外科の体系にまで瞠目すべき飛躍酌発展を遂げるに至つたのは,近代外科手術法の導入に負う所極めて大なるものがある.嘗ては切腱刀(Tenotom)1本のみによつて整形外科治療のメスを揮つたとすら言われる状態に比すれば,現代整形外科領域に於ける手術の種類は極めて多様多岐に亘り,その治療形態の変貌は誠に顕著と言わねばならない.
 かくの如く手術による観血的治療法が盛んになると,こゝに患者の全身状態,病巣局所の治癒経過,更に術中の操作の円滑化等の諸点から,「出血」という問題が真剣に考えられねばならないことは当然である.

心臟手術々後のカルニグンの使用経験

著者: 待山昭二 ,   別府俊男

ページ範囲:P.911 - P.922

1.緒言
 心臓手術の術後には往々高度の低血圧を来しその治療には輸血,昇圧剤等が使用されるが,必要以上の輸血は低下した心力に却つて有害な影響を来す場合があるので常に輸血にのみ頼るわけにはゆかない.従つて昇圧剤の使用も亦甚だ重要である.昇圧剤としてはアドレナリン系の薬剤がよく用いられて有効であるが,その作用が激しく且つ持続時間が短く,また多くの場合伴つている頻脈を更に助長する傾向にあるためにその使用には非常な慎重を要する.著者等は最近この様な心手術々後低血圧症へのカルニゲンの使用経験を得たのでその2〜3の症例につき報告する次第である.

症例

巨大なる橋本氏甲状腺腫の1治験例

著者: 西村菊夫 ,   川井忠和

ページ範囲:P.923 - P.926

 1912年橋本氏14)が甲状腺間質の淋巴濾胞形成を特徴とする症例を発表して以来,これが独立疾患として認められ,Struma lymphomatosaと称せられるに至つた.この橋本氏甲状腺腫は必ずしも稀でなく,内外共に少なからぬ報告を見るが,我々は最近巨大な橋本氏甲状腺腫の一例を経験したので,こゝに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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