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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科14巻11号

1959年11月発行

雑誌目次

第9回 綜合医学賞入選論文

下腿短切断端に対するZur VerthのWert Zone批判及び腓骨残存部の転位並びに全剔出に関する研究

著者: 生駒光彥

ページ範囲:P.1137 - P.1152

第1章 緒言
 支那事変からさらに太平洋戦争の勃発するにおよんで下肢切断者も増加の一途を辿るに至つた.陸軍では野戦において受傷,切断された患者の殆んどを東京第一陸軍病院の1病棟に集め,所要の成形手術,義肢装着と共に過去において充分利用されなかつた弊害を除くために歩行訓練に重点を置いて,深い精神的創痍を持って収容された兵士をおおむね4〜6ヵ月の後には希望を取り戻し,充分な活動力を賦興して実社会に復帰せしめ,優秀な成果をあげていた.私もその病棟において1136名の下肢切断患者を取り扱う機会を得た.戦争以外にかくのごとくまとまつた患者を取り扱う機会がないためその受傷原因,受傷部位,切断原因,切断部位およびそれらの相関関係について興味を以て観察した.その間今なお成書に記載されぬ色々の問題,また決定的な既定事実として扱かわれている事柄にも大いに疑問を孕む問題にぶつかつた.私がことに興味を感じたことは大腿切断患者の中には,病歴をたどつてみると下腿の中央以下で受傷して何とか下腿切断に止め得たのではないかと想像できる者,あるいはまた一旦下腿で切断して瘢痕治癒を完了した後にZur Verthの残存価値域図(Wert Zone)を照合して上部8〜10cm迄の短切断端は有害であると云うだけの理由で,膝関節を犠牲にして大腿切断を行つた例が比較的多いと云うこととさらに興味をそそつた問題の1つは短切断端の腓骨の処置の問題であつた.

綜説

外科領域から分離したブドウ球菌の感性成績について

著者: 田中英

ページ範囲:P.1153 - P.1157

緒言
 化学療法剤,抗生物質剤の進歩発展は細菌感染症の治療法を著しく改善したばかりでなく,その著効と相俟て治療が極めて容易になった.
 しかし,一方,細菌のこれらの薬剤に対する耐性獲得も漸次増加の傾向にあり,単にその分離起因菌のみから薬剤を撰定することは難しく,また,必ずしも治癒の目的を達し得ない.

Recklinghausen氏病に対するCortisone療法

著者: 高橋敬亮 ,   大沢幹夫 ,   田中孝 ,   山口繁 ,   山中爾朗

ページ範囲:P.1159 - P.1161

 Recklinghausen氏病,あるいはNeurofibrom-atosisなるものは一種の系統疾患で,皮膚の色素異常,および多発性皮膚腫瘍を主徴とするものである.本腫瘍は神経の結締織の増殖によるものでいわゆる偽性神経腫であるが,神経のシュヴァン氏鞘細胞から発生する組織を含有し,ことに中枢神経に近い部ではこの組織が多く,いわゆるNeu-rinomであることがしばしばある.これは肉腫性変化をなすことがあるとせられている.
 私共は最近Recklinghausen氏病で,右腰部における巨大な腫瘤で悪性変化しかけている腫瘍を剔出し,術後,Recklinghausen氏病に対してCo-rtisone療法を行ない一応の効果をあげ得たと考えられるので,茲に報告し,諸賢の御批判を仰ぎたいと思う.

実験的急性腎不全の病態生理に関する研究

著者: 芦田敬治

ページ範囲:P.1163 - P.1194

緒言
 腎不全には,内科的に取扱われる糸球体腎炎,ネフローゼ,萎縮腎などのほかに,外科的急性腎不全ともいうべき一群の急性腎不全症候群があつて,第2次大戦後とくに注目されるようになつた.
 1917年Borst1),Hackradt2)は第1次大戦中,戦傷後に乏尿ないし無尿となり,尿毒症症状を呈して死亡した症例の病理学的知見を報告した.その後しばらく注目すべき報告がなかつたが,第2次大戦中,ロンドン空襲傷害患者の中から,Bywa-ters3)(1941)が圧挫創のあとに致死的な腎不全の成立しうることを報告し,これをcrush syn-dromeとよんで以来,この方面の研究開拓が急速に進展した.その後これらの変化はcrush syn-dromeにのみ特有なものではなく,重傷筋外傷,重傷熱傷,異型輸血,火傷,妊娠中毒症,植物性および化学的毒物による中毒,アルカロージス,ズルファミン中毒などでも同様の変化がみられることを,Lucké4)(1946)が病理組織学的に明らかにした.つづいて,この方面はMallory5)(1947),Bingold6)(1950),Zollinger7)(1952),Oliver8)-10)(1949〜1953),重傷者研究班11),最近では朝鮮戦線におけるTeschan12),(1955),Smith13)(1955)等の病理学的および病態生理学的研究によつて漸次明らかにされてきた.

Conference

臨床外科懇話会記録(1)

著者: 日本大学医学部外科 ,   若林修

ページ範囲:P.1195 - P.1201

 日大医学部は附属病院の外科が板橋病院と駿河台病院にわかれ,板橋病院は脳外科,胸部外科,腹部および一般外科,整形外科の4つにわかれ,それぞれ,今尾,森安,宮本,若林,鈴木の各教授が担任しているが,一昨年来,毎月2回,水曜日にこの各教室が教授以下全員一堂に会し,最近遭遇した臨床例について懇談することにしている.面白いこと,つまらぬこと,何でもしやべつてよいことになっているが,実際の症例を見せ合い話し合うのが目的で文献調査等は不充分でも構わないたて前をとつている.中々面白い例もあり,得るところも多いので今後も続ける積りである.各教室の足りない点を補い,若い人達相互の親睦にも役立つていると思う.

外国文献

Bleeding Varices Due to Cirrhosis,他

著者:

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 肝硬変患者の食道静脈瘤よりの出血は門脈吻合手術により軽快することは明らかであるが,生命延長に対する評価はむずかしい.Mayo clinicで1909〜1947の間に脾剔をうけた75例と最近6年間に門脈吻合手術をうけた54例を生存率,術後出血の点で比較した.術後5年の生存率は同様で脾剔群55.6%,吻合群50.9%であつた.術後出血は脾剔の2/3に見られ,吻合群はわずか1/5である.他の論文による非手術の生存率と較べると手術例が成績が良い.これには手術例が手術適応として選択されると共に死亡率の高い急性期を経過したことにより無意識的に選択を受けていることが主因をなす.
 脾剔群が後出血の多いにも拘らず生存率が吻合群と同様なのは,肝機能が良いので死因となる血中アンモニア上昇が起らぬためである.

薬剤

新静脈麻酔剤「オイナール」の外科小手術に於ける使用経験

著者: 栗原重雄 ,   楊大鵬 ,   江村茂夫 ,   岡部純一 ,   北代勇夫 ,   井上武彥 ,   上原秀和 ,   野口房好

ページ範囲:P.1203 - P.1207

1.緒言
 外来の外科小手術時における麻酔は,従来から局麻剤による局所ならびに伝達麻酔が好まれて広く使用されていたが,この麻酔法も病巣の所在,大いさ等によつては必ずしも適当な方法ではなかつた.
 最近Barbiturate系薬剤による静麻法の利用も進歩し,なかでもPentothal,Surital等のThi-obarbituratesがUltra-short actingの薬剤として脚光を浴びている.しかしこれらとて副作用を皆無とせず,呼吸,循環系に与える影響が少くないうえ,覚醒時間が長く,忙しい外来処置では手軽に行いえないうらみがあつた.

手術前後に於けるDextran Gの使用経験

著者: 福田耕作 ,   天方義邦 ,   尾尻正博 ,   小沢逞夫

ページ範囲:P.1209 - P.1211

 在来不可能とされていた外科領域に対する手術侵襲も,手技の向上改善と麻酔および輸液の発展に伴い,驚くべき進歩を見た.外傷あるいは手術に伴う大量出血や,火傷の場合に見られる脱水症状,あるいは種々の原因によるショック並びに腰麻後に見られる体内の血液分布異常に起因する所の低血圧状態等に対し,適確なる強心剤の外に,適量の輸液という処置は誰しも異議のないことである.
 従来よく用いられている輸液の中で,全血液は最も推奨さるべきは勿論であるが急場の用に間に合わない場合もあり,適確な血液型判定の後にでも種々副作用のあることが比較的多いとされている.最近のごとく銀行血液の利用普及化に伴い,その利用度は昔日の比ではないが,逆にその精製並びに保存期間中に起因する鮮度,細菌,溶血現象,血小板数あるいは減少傾向等々今後増々改良さるべき点が多い.乾燥血漿は血液蛋白質および粘度の点では他の代用血漿に比してはるかに優れてはいるが,血色素および血小板等の欠如から言えば他の代用血漿の範疇を出ないばかりでなく,大量使用にさいしては高価につく欠点がある.リンゲル氏液,5%ブドウ糖液は保存,入手の容易なことと安価であることより救急輸液にさいしては血液型判定のごとき操作も不要にて適時用いられるが,その構成成分よりして飽迄補液の範囲を出ず,他の代用血漿のごとく長時間血圧の保持を期待することは難しい.

症例

胸腔内神経性腫瘍の5手術治験例

著者: 石崎昭一 ,   勝山新爾

ページ範囲:P.1213 - P.1218

 胸腔内神経性腫瘍は従来稀な疾患とされ,その手術治験例は少なかつた.最近胸部外科および麻酔学の著しい進歩発達により,手術治験例の報告は急激に増加して来た.当教室においても昭和30年櫛谷の報告せる手術治験例2例を含め,5例を経験したので一括報告し,若干の文献的考察を加えてみた.

先天性短食道の1例

著者: 藤田吉四郎 ,   藤森義蔵

ページ範囲:P.1219 - P.1222

1.緒言
 いわゆる短食道胸胃の記載は1836年Bright5)の剖検例に始まり,1916年Bailey3)によつて,"thoracic stomach"として明瞭に概念づけられた.爾来海外では多数の報告があるが本邦においては未だ甚だ少い.短食道胸胃の成因に関しては奇形説(Clerf6)等),滑脱ヘルニアからの二次的変化にすぎないとする説(Allison1)等)があつて定見はないようであるが最近本教室で先天性と思われる短食道胸胃の1例を経験したのでその概要を報告する.

父子2代に見られたる先天性橈尺骨癒合症

著者: 荒川亮

ページ範囲:P.1224 - P.1226

まえがき
 四肢骨の先天性骨癒合症は,橈尺骨間,脛腓骨間に見られ,整形外科学的に重要な疾患は橈尺骨癒合症であり,しばしば問題になるのは近位端橈尺骨癒合症である.本症は1827年の Lennoireの剖検例を矯矢として1932年にChasinが156例を集計報告している.本邦においては,大圃氏の15例,蕪木氏の12例,柳谷,田島,木村,坪井,中野氏らの報告を合わせて30例を越えるに至つた.私はそれぞれ右左の先天性近位端橈骨癒合症を有する父子の例を経験したので報告する.

大腸ポリポージスを伴つた潰瘍性大腸炎の1例

著者: 宮崎舜治 ,   岡野巖 ,   木暮宏 ,   滝口都三

ページ範囲:P.1229 - P.1232

 潰瘍性大腸炎は1875年Wilks & Moxon1)により記載され,Boas2)がColitis ulcerosaと命名して以来,外国文献には多数の報告があるが,本邦にては比較的少い疾患である.私達は最近,直腸潰瘍,細菌性赤痢,癌等として種々の内科的治療を受けたが重症に陥入つた患者に大腸ポリポージスとして全結腸切除術を一次的に行い,病理組織学的に潰瘍性大腸炎であつた1例を経験したので報告する.

副腎皮質に原発せる副腎腫の1例

著者: 星子卓 ,   高木維彦 ,   荒毛正興 ,   松本英世

ページ範囲:P.1233 - P.1235

 副腎腫瘍は内分泌活性腫瘍と内分泌不活性腫瘍に大別されるが内分泌不活性腫瘍は臨床症状が極めて乏しく,良性腫瘍は臨床的に発見されることは極めて稀である.われわれは最近腎とは無関係で組織学的に副腎皮質より原発したと思われ内分泌不活性を思わせる副腎腫瘍の1例に遭遇,手術的に腫瘍を摘出し経過良好な症例を経験したので報告する.

転移性肺腫瘍3例の肺切除例

著者: 遠藤三郎 ,   本山登

ページ範囲:P.1237 - P.1240

 転移性肺腫瘍の発現は不治を意味するものと考えられていたが,胸部外科の発展と共に,従来治療不能と考えられていた転移性肺腫瘍のあるものは,肺切除術による治癒への再検討がなされるに至つた.
 転移性肺腫瘍に対する肺切徐術は1926年Divisを以て嚆矢とするが,爾来転移性肺腫瘍に対しても肺切除術が行われ,症状の軽快,延命の可能性やあるものでは永久治癒への希望等肺切除術の成果にかなりの希望がもたれるに至つたが,転移性肺腫瘍切除後の長期生存例の報告1)−7)を見るに至り,益々転移性肺腫瘍の外科的治療に対する考え方に大きな進展が期待されて来た.著者も最近転移性肺腫瘍5例の中3例に肺切除術を行つたので報告する.

Peutz-Jeghers症候群の2症例

著者: 服部三郎 ,   石野昌則 ,   中院昭彦 ,   柴田正樹

ページ範囲:P.1241 - P.1246

緒言
 異常色素沈着を伴つた腸管ポリポージスが,家族的疾患であることは,1921年Peutz1)および1949年Jeghers1)により報告され,今日一般にPeutz-Jeghers症候群と言われている.本症は今日なお,稀な疾患とされ,欧米においては約80例1-16),本邦においては約20例近くの報告があるに過ぎない17-19),21).われわれは最近本症の2例を経験したので,症例を追加報告すると共に2,3臨床的事項の考察を試みたい.

十二指腸ポリープの1手術例

著者: 宮治清一 ,   関口守 ,   細田寿穂

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 十二指腸良性腫瘍の報告は極めて少なく,約100年前,初めてCruveilhier15)が剖検で,クルミ大,乳頭状の腫瘤を記述している.本邦における十二指腸良性腫瘍手術例の報告は,文献で7例にすぎない1)−7).私は術前,レントゲン検査により十二指腸ポリープと診断し,胃切除標本の幽門輪直下に発生せる十二指腸ポリープに遭遇し,組織学的に検索してBrunner氏腺腺腫によるポリープであることを明らかにしたので,ここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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