icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科14巻4号

1959年04月発行

雑誌目次

綜説

イレウス時に於けるアセチールコリンについて

著者: 代田明郞 ,   三樹勝 ,   守谷林太郞 ,   津端求 ,   大川共一

ページ範囲:P.341 - P.357

Ⅰ.緒言
 松倉教授1)は第54回日本外科学会総会宿題「イレウス」に於てイレウス死因の有力なる一因子として松倉教授の謂うイレウス抗原を抗原とする自家抗原抗体反応によるアナフィラキシー・シヨックの発来性を臨床的並びに実験的に立証すると共に,更にイレウス時に於ける血中有効物質の本態は種々なる角度より検討した結果ヒスタミンに非ずしてアセチールコリンなることを確認され,かくしてイレウス時生体はアセチールコリンの過剰産生により甚だ重篤なる障碍を蒙り死に到るものと推察結論されたが,更に松倉教授2)3)は第55回及び56回日本外科学会総会に於てイレウス時の脳脊髄中枢神経系に於けるアセチールコリンの動き,脳下垂体後葉及び血中の抗利尿物質,副腎皮質ホルモンの動き等一連の臨床的並びに実験的研究成績からイレウス時アセチールコリンの血中への移行は肝機能の障碍,脳下垂体後葉より抗利尿物質の分泌亢進,剖腎皮質機能の障碍を招来し,この肝機能並びに副腎皮質機能の障碍は抗利尿物質の非活性化の低下を来たし,抗利尿物質の分泌亢進は水分電解質の体内分布異常を来たし原因は結果を生じ結果が再び原因となる悪循環が招来せられ,生体はその生理機構の攪乱に悩みつつ遂に死に到るものと推察結論されている.

若年者悪性甲状腺腫の外科

著者: 佐野進 ,   山崎元宥 ,   渋谷三郞 ,   野口秋人

ページ範囲:P.359 - P.364

 甲状腺疾患患者が1941年前後を境として急激に増加し,特に悪性甲状腺腫発生頻度の上昇が注目されている.又,臨床的に良性の結節性甲状腺腫と診断し手術されたものの中で病理組織学的検索の結果悪性甲状腺腫であつたものが意外に多く,丸田1),井上2)等によると19.4%より20%であつたと言われる.
 悪性甲状腺腫は一般癌腫に比較して,稍々若年者に多いが,1954年のHorn3)の報告は,1931年及び1939年のBarthel4),Pemberton5)等の報告より一層若年者に多い事を示すものである.

良性及び悪性結節性甲状腺腫に於けるシンチグラムの臨床的応用—附 シンチグラムによる甲状腺疾患と其他の前頸部腫瘍との鑑別

著者: 大原梧樓 ,   徳光恭一 ,   森岡豊美

ページ範囲:P.365 - P.371

1.緒言
 Bauer1)2)やAllen2)3)が甲状腺に対し,I131によるscintiscanningを行つてから甲状腺腫の重量測定と同時に其の投影像が臨床的に意義を有するものと考えられる様になつた.結節性甲状腺腫や悪性甲状腺腫のシンチグラムに就いては既にAllen19),Boehme6)やJohnson4)による報告があるが,我国ではscintiscanningが行われてから未だ日も浅く,此の方面の報告がない.
 我々は過去1年間に於ける良性結節性甲状腺腫46例,悪性結節性甲状腺腫14例,甲状腺腫以外の前頸部腫瘍6例,片側悪性甲状腺腫4例にシンチグラムを作成して臨床的意義を追究し,その一部を第18回日本臨床外科学会に発表したが,その後更に種々の点につき検討を重ね知見を得たので報告したい.

統計

指趾畸形,特に多指・駢指の統計的観察

著者: 小西陽一 ,   大島照夫

ページ範囲:P.373 - P.378

Ⅰ.緒言
 指趾畸形の研究,並びに統計に関しては,比較的多く報告されて居り,本邦に於ても,小林,河村,飯野,喜多氏等によつて発表されている.
 私共は,昭和21年3月1日より,同33年4月30日迄の12年1カ月間に亘つて,名大整形外科学教室を訪れた,先天性指趾畸形患者190名に就いて,其の統計的観察を試み,畸形の種類,男女別,左右の頻度,部位,形式,他の畸形の合併,及び遺伝的関係に就いて,本邦諸氏の統計と対比し考察を行つた.

薬剤

アドレゾン(静注用)の止血効果に関する臨床的研究—結核肺手術時の臨床応用と出血傾向

著者: 滝原哲一 ,   山下彥王 ,   米本仁 ,   長崎彬 ,   森木精一

ページ範囲:P.379 - P.384

まえがき
 結核肺手術時における出血の節減対策は,その予後,成績との関連特に術後胸腔内血腫形成の面から,又肺結核患者に発生する各種の原因による出血傾向の面からも亦多くの関心が寄せられている.先にAdrezon(静注用),(以下A液と略す)が,肺結核患者の出血傾向に対し効果のある事を述べたが,今回は結核肺手術時に臨床的に応用した成績に就いて報告する.

外科領域におけるKenacortの使用経験

著者: 渋沢喜守雄 ,   西可平 ,   芦田敬治 ,   阿部千秋

ページ範囲:P.385 - P.400

まえがき
 合成コーチコイドの治療界における諸成績は,まことにはなばなしい.Prednisone,Prednisol-one等の使用報告は,わが国にも甚だ多く,それぞれすぐれた効果を伝えている.Prednisone,  Prednisoloneには,尚,多少とも水分およびナトリウムを体内に貯溜する作用があることは周知のところである.Triamcinoloneには,こうした副作用が極めて少いと言われている.今回われわれは,三共よりKenacortなる合成コーチコイドを提供され,外科的諸状態に使用する経験を得た.Kenacortは, CH2OH | C=0 |---OHなる構造式を有し,化学的には,delta-1,9-alpha fluoro,16-alpha hydroxy hydrocortisone,C21H27O6Fで,PrednisoloneのC-16-αにHOを,またC-9-αの位置のHをFで置換したものである.

骨折治療時に於けるA.T.P.の使用経験

著者: 大塚哲也 ,   林瑞庭 ,   笹井義男 ,   淸家隆介 ,   牧野文雄 ,   宮武正弘 ,   古庵雄三 ,   田村哲男

ページ範囲:P.401 - P.406

1緒言
 Adenosine triphosphate(A.T.P.)は1929年Lohmann1),Fiske2)等に依つて発見された物質で,高エネルギー燐酸結合体として注目される様になつた.平山氏3)等はA.T.P.は生体内に於て,1)エネルギーの出納に関与する.2)燐酸供与体として各種の補酵素を介して糖質,脂肪,蛋白代謝等に関与する.3)その他生体内の合成分解過程に関与する等の役割を果しているものと考えられると述べている.又A.T.P.は筋肉自体に対しても筋力回復,筋肉収縮力増強に働くと言われ,その作用の機序はA.T.P.が直接筋の機械的エネルギー源となり,又筋肉内の燐酸代謝系を賦活するのであろうと推論されている.是等筋力回復或は筋肉収縮力増強等に関する使用に就いては既に進行性筋萎縮症,脊髄性小児麻痺,その他種々の麻痺性疾患等に使用されて,その有効性が認められている4)5)6)7)8)9)
 さて整形外科領域に於ては骨折の治療に接する機会は極めて多いが,骨折治療の経過中に筋萎縮を来し,又これと同時に骨折部の隣接関節の拘縮を起す等の為,その後療法に当つては特に頭を痛めるのである.我々はA.T.P.の筋力回復,筋力収縮力増強等の作用に注目し,骨折治療時にA.T.P.を使用した所,良好な結果を得たので報告する.

麻酔前処置としてのHexamid使用経験

著者: 田代英雄 ,   古川哲二

ページ範囲:P.409 - P.412

緒言
 麻酔の前処置として種々の薬物の投与が行われ,鎮静,基礎代謝の抑制,麻酔剤の副作用に対する抵抗,疼痛の抑制等の目的を達せんとする努力が払われて居るが,夫々の薬物には長短があつて,尚満足すべき状態には至つて居ない.ここにNordmark-Wercke科学研究所のL. Schusteritzにより合成された5,5-phenyläthyl-3-(β-diäthyl-aminoäthyl)-2,4,6-trioxo-hexahydropyrimidin-hydrochlorid即ちHexamidが前処置に用いる薬物として極めて優秀であるといわれて登場した.
 この薬物は下記の如き構造式をもつて居る.

Xylocaineによる四肢伝達麻酔

著者: 山本真 ,   熊谷正哉 ,   原武郞

ページ範囲:P.413 - P.419

いとぐち
 伝達麻酔とは必要な部位を支配する神経の内又はその周囲に局所麻酔剤を注入することによつて,知覚神経の伝導性を一時的に中絶し,その部位からの痛覚のインパルスをなくするものである.伝達麻酔はかなり古くから用いられている局所麻酔法の一つであり,四肢外科にとつては適応が多いものである.例えば災害患者でショック状態にあるもの,四肢の広汎な挫滅創を有するもの,或は出血多量などで血圧の低下があるものは,危救手術の麻酔法としては,まず伝達麻酔の適応を考えてみるべきである.又外来患者や胃に内容物がある時,更に身体機能の低下せる老人,糖尿病等の特殊の疾患で全身麻酔や脊椎麻酔の行われ難い場合,又浸潤麻酔のみでは,術野の無痛を得るのが不充分と考えられるようなときには,いずれも伝達麻酔の適応といえる.
 従来行われて来た如く,浸潤麻酔に簡単に併用できることからも,明らかに有利なものと考えられるにも拘わらず,案外に利用率が低いのは,理解に苦しむものであるが,技術の習熟の煩雑さ,不充分な麻酔への怖れ及び合併症等が普及を妨げるものなのであろう.私達は常日頃用いている伝達麻酔にXylocaine(Lidocaine hydrochloride)を使用することによつて以上の点に幾らかの解決を得ることができたと考えるのでとりまとめてご報告してみたいと思う.諸賢の御高批を頂ければ幸である.

外科に於けるAndrostanolone使用の検討(予報)

著者: 小出来一博 ,   福島義郞 ,   斎藤昭 ,   田所一夫 ,   村松正久 ,   石川創二 ,   檜山嘉也 ,   沢田好明 ,   藤森顕

ページ範囲:P.421 - P.426

Ⅰいとぐち
 われわれは外科領域に於ける栄養の研究に於て,術前術後に於ける高蛋白高熱量食の積極的摂取の必要性及び合理性を強調して来た1)
 然し経口栄養にもおのずから限界があり,その不足量をやむなく輸液で補つている2).然し唯補給するのみで栄養素が生体で同化利用され,生体内で把持されなければ意味がない.特に外科領域に於ては,外傷,麻酔,手術等の大きな侵襲が生体に加わるために,短時日の間に激しい代謝が行われるという特殊性がある.われわれは栄養の綜合的指標としての蛋白代謝を,都合よく調整したいと考えていたが,或種のSteroidに此の作用があるということに注目していた.

骨関節結核の観血的治療に於ける「ネオイスコチン」の使用成績

著者: 中林康二 ,   黑坪弘毅 ,   植田義文

ページ範囲:P.427 - P.430

いとぐち
 従来,保存療法にのみ終始していた骨関節結核に対する治療は,化学療法の発達とともに,観血的治療法の適応を増し,安全且つ迅速なる治療効果を期待し得る様になつたが,すでに指摘されている如く,化学療法はあくまでも現今に於ては,補助的手段であつてこれのみによつて病巣部の完全治癒を期待し得ないことは当然であり,従来の整形外科的治療の下に,併用することが肝要である.
 ネオイスコチンは,従来の他の抗結核剤に比して副作用が少く,臨床効果も認められ文長期連続服用も可能であることは,既に諸家より多く報告されている.著者は,骨関節結核治療に際して,経口投与と共に手術時病巣部への本剤撒布を行いその治療効果につき検討を加えた.

症例

皮膚糸毬腫の2例について

著者: 古屋四郞 ,   北条重久

ページ範囲:P.431 - P.434

 一般に皮膚には毛細管の介在なしに小動脈と小静脈を結ぶ回路があり,指端・爪床等には特に多く,Sucquest-Hoyer氏管という名で知られていたが,Masson(1924)1)はこの吻合部には特殊な神経装置があることを研究し,両者を一括してGlomerum cutaneumと呼び,これから発生したと思われる腫瘍をAngio-Myo-Neurome artérialと名附けた.これは今日ではGlomus Tumor,Glomic tumor,皮膚糸毬腫,グロームス腫瘍等呼ばれており非常に特徴ある臨床像を示し,比較的稀な疾患ではあるが近年報告数が増加しつつあり,この疾患の存在を念頭におかぬと診断に苦しむことが多いと思われる.
 我々は最近本疾患2例を経験したので報告する.

男性乳癌の2例

著者: 吉野二男 ,   幡谷健

ページ範囲:P.435 - P.437

緒言
 女子乳癌に関しては非常に多くの研究,調査,発表があるが,男子乳癌に就いては,発生頻度が少く,諸外国に於ての発表によつても全乳癌の1%前後と云われている.我が国に於ての報告例も少くて,谷口によれば,61例にすぎないと云われ,岡本は文献例に自家経験例2症例を加えて46例の分類を行つている程度である.近時悪性腫瘍に対する関心の高まつている時に於て,乳癌と云えば殆んど女子と考えられ,男子にまれであるとされるが,我々は最近引続いて,2例の男子乳癌を経験したので報告したい.

全身凍傷の1例—主として薬物冬眠との関係について

著者: 広瀨達郞 ,   吉田穰

ページ範囲:P.439 - P.440

緒言
 Laborit,Huguenard等の創始になる人工冬眠療法はその本態も次第に明らかにされつつある今日,それが凍傷に対する効果は未だあまり明らかにされていない.我々は1956年1月雪中に埋れ,低温と饑餓の中に96時間を過し,救助された全身凍傷の一症例を診療する機会を得,之が二次性Schockの防止に人為冬眠療法をほどこした処良結果を得た.更に寒冷及び饑餓と人為冬眠との関係についての2,3の実験を加えて此処に報告する

単純剔出で治癒した動脈穿刺後に発生せる外傷性大腿動脈瘤の1例

著者: 中作修 ,   蕭華山 ,   丹羽賀和 ,   松尾源一郞

ページ範囲:P.441 - P.443

 外傷性動脈瘤は主に切創,刺創,銃創後に発生し,戦時に多発し平時に見られるのは稀とされて居るが,吾々は採血の目的で屡々繰り返えされた動脈穿刺後に発生した大腿動脈瘤の一症例を経験し,これが単純剔出により治癒したのでここに報告する.

Payr氏病について

著者: 今井五郞 ,   三枝義雄 ,   針谷宏 ,   本多正

ページ範囲:P.445 - P.448

緒言
 パイヤー氏病とは1905年Payrが結腸の肝並びに脾彎曲部特に後者に於ける強度の屈曲と,周囲の癒着によつて生ずる良性の慢性腸狭窄症状を呈する疾患として系統的に報告したものである.本邦に於ては本症の報告例は少く,私達の調査によると43例の報告の内手術的治療を行つたものは僅かに20例にすぎない.
 最近,私達は本症の1例に遭遇し手術的に治療を行い,著者の1人今井が既に報告した1例を含めて考察を加えて報告する.

胃蜂窩織炎の1例

著者: 堀尾茂生 ,   塩野谷恵彥

ページ範囲:P.451 - P.453

Ⅰ.緒言
 胃蜂窩織炎は外国に於ては比較的多く報告されているが,我国の報告例は極めて少ない.事実我国に少ないのか,或は術前診断が頗るむつかしく,その上急速に死の転機をとるのが多いので見逃がされてきたのか,いまだはつきりしていない.最近当外科にて胃蜂窩織炎の1例を経験したのでここに報告する.

特発性胆嚢管嚢腫の1例

著者: 吉野信行 ,   三井源藏 ,   蜂須賀照明 ,   市川靖一

ページ範囲:P.455 - P.459

Ⅰ.緒言
 特発性胆嚢管嚢腫は何等認むべき原因がなく胆嚢管に限局して発生した嚢腫を言い,特発性総胆管拡張症とは区別すべきものである.それにも拘らず,この両者が臨床的には解剖学的関係から誤診され易いのである.特発性総胆管嚢腫様拡張症は,1817年Toddが最初に報告し,次で1852年Douglasが精細に記載して以来内外の諸家により既に数百例報告されている.その成因については,四ツ柳,Gross,Atter and Obeid等により種々検討され,診断法も討論されている.しかし特発性胆嚢管嚢腫については,本邦に於てもまだ報告がみられないようであり,外国では僅かにPracyの報告例に接するのみである.最近著者等は幼児に本症を経験したのでここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?