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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科14巻8号

1959年08月発行

雑誌目次

綜説

診療に関連した急死の種々相

著者: 八十島信之助

ページ範囲:P.793 - P.799

1.はじめに
 医師は特有の知識と技能とによつて,医療と保健指導に当つている.その診断や,治療,処方,注射,手術などの診療行為は,勿論健康をまもり,疾病を治す目的の為に行うものであるが,時にはその行為の為に,または当然するべきであつた行為をしなかつた為に,かえつて健康を害し,悪い経過に追いやり,不幸な場合には患者を死亡させることさえある.もし医師が必要な注意を怠つた為に,悪い結果をもたらした場合には,刑法上の業務上過失傷害,または業務上過失致死の罪に当り,また民法上の責任を取らなくてはならない場合も生じるものである.
 東京都監察医務院が1948年3月に開かれてから10年余,1958年12月までに扱つた死体は5万体に近いが,その中の137例すなわち全例に対して約0.3%は診療に関して生じた急死であつた.その内容は次の表の通りである1)2)3)

動脈栓塞症について

著者: 神谷喜作 ,   大村豊 ,   都築尚典 ,   井上章

ページ範囲:P.801 - P.804

 動脈栓塞症の治療が成功するか否かは早期診断とその適切な治療によることは言をまたない.しかし一般に,この余り日常遭遇しない疾病に直面して直に診断を下し適切な治療をなすことは現在のところ極めて困難である.ここに4例の動脈栓塞症について,われわれのにがい経験をのべ反省を行い,将来に資せんとするものである.

外科的侵襲における肝ノンヘミン鉄,銅及びカタラーゼ活性度の変動を中心とした研究

著者: 野原不二夫

ページ範囲:P.805 - P.820

Ⅰ.緒言
 生体内の各種重金属は細胞内酵素と密接な連関を有し,エネルギー代謝上極めて重要な要素と推定されているにも拘らず(Lehninger1)),外科的侵襲におけるこれらの変動に関する報告は極めて少い.ことに鉄を除いては(Shorr2),Zweifach3)等)ほとんどないと云つても過言ではないであろう.この外科侵襲が生体のHomeostaticな防衛反応を凌駕して加えられるとき,種々の酵素系障害が諸臓器の無酸素症と併行しておこり,エネルギー代謝の失調を助長していわゆる不可逆ショツクにまでも移行して行くことは漸次解明されて来たところである(Le Page4)5),Engel6),Rosenthal7)).
 そしてこの侵襲に対する生体反応の場として肝臓が占める主導的位置の重要さに関しては何人も異論なかろう.

甲状腺癌14例について

著者: 中作修 ,   佐々木郁次 ,   蕭華山 ,   重本裕 ,   岡野正敏 ,   野村正吉

ページ範囲:P.821 - P.824

緒言
 最近悪性甲状腺腫の出現率が高くなつて居ることが注目され,ことに結節性甲状腺腫(以下結甲と略す)と悪性甲状腺腫(以下悪甲と略す)との関係について多くの人によつて論ぜられて来て居るが,最近われわれの教室で臨床的に良性甲状腺腫(以下良甲)および甲状腺炎と診断された43例(ただしバセドウ氏病は除く)を組織学的に精査して5例に悪甲ないし甲状腺癌(以下甲癌と略す)を発見したので,臨床的にも甲癌と診断された8例および甲状腺腫瘍と診断され組織学的に甲癌であつた幼児の1例と併せ報告する.

急性腹膜炎時の腹膜吸収能力—放射性同位元素を用いた実験的研究

著者: 星子直躬

ページ範囲:P.825 - P.839

Ⅰ.序
 腹膜炎時の腹膜吸収能力は臨床的に極めて重要な問題である.外科臨床的に最も問題となるのは,急性汎発性腹膜炎であり,その時間的経過,発生部位等は,手術時期,予後の判定等に重要な指標となる.したがつて腹膜吸収能力に関する研究は数多くみられ,近時,放射性同位元素を追跡子として使用した諸種の研究報告もかなりみられる.しかし,放射性物質を使用して,急性汎発性腹膜炎時の腹膜吸収能力を観察した報告は少ない.本研究は家兎に急性汎発性化膿性腹膜炎を惹起させ,腹膜吸収能力の変化を,放射性同位元素32Pを追跡子として使用し,腹膜炎惹起後時間を追つて追求し,さらに腹膜炎発生部位との関係をみようと試みたものである.

検査法

外科領域で必要な肝臓カテーテルによる肝機能検査法

著者: 飯島登 ,   上野明

ページ範囲:P.841 - P.845

 本稿では主にカテーテルを用いた物理的な,主として血行動態を中心とした門脈系を含む肝臓の検査法を取扱うこととする.現在,外科領域で最もこれが要求せられているのは門脈外科であつてこれの診断に主眼点をおき,肝機能検査としてすでに述べた以外の点について詳述したい.
 肝臓カテーテル法は通常は末梢静脈より肝静脈にカテーテルを挿入し,肝静脈血の物理化学的分析,圧測定等を行う方法を指すが,肝静脈のみならず門脈にもカテーテルを挿入し,圧,酸素含有量,その他生化学的分析を必要とすることが多い.前者は肝静脈カテーテル法,後者を門脈カテーテル法と分ければ正確な表現である.門脈カテーテルの場合は開腹操作が必要であるが,閉腹後も留置カテーテルとして置くことはできる.

統計

癌研究会附属病院外科における直腸癌の統計的観察

著者: 田村龍男

ページ範囲:P.847 - P.858

Ⅰ.緒言
 腹会陰式直腸切断術が,わが国において直腸癌の原則的治療法として広く採用されるようになつて約20年を経過し,直腸癌の治療成績も大いに向上しつつあると考えられるが,治療された症例の詳細な調査研究,とりわけ遠隔成績の検討は甚だ少い.
 私は癌研究会附属病院外科における,1946年9月より1958年8月に至る間の主として腹会陰式直腸切断術によつて治療せられた直腸癌の臨床的および病理学的所見ならびに治療成績について報告したい.

薬剤

ATP製剤アデホスコーワの外科的応用—とくに人為低血圧法について

著者: 羽田野茂 ,   阿曾弘一 ,   広瀨安光 ,   鹿田和夫 ,   米倉増男 ,   福內匡

ページ範囲:P.859 - P.863

I.はじめに
 Adenosintriphosphate(ATP)は,1929年Fiske & SubbarowおよびLohmannによつて同時に発見され,筋肉から始めて純粋な形で抽出されたもので,d-Riboseと結合したAdenineと3分子の燐酸とから成り立つている.このものは細胞内に普遍的に存在し,血液中にも1cc中0.5mg前後の割合で見出され,血液循環の調節と細胞の交易作用ならびに炭水化物,アミノ酸および脂肪等すべての代謝過程に対して生理学的に重要な役割を演じている.しかるに最近までその臨床的応用が一般に注目されなかつたのは,その製造が困難で比較的高価につき,できた製品も生体内では速やかに分解し易く,一部のATP塩は使用方法によつてシヨツク毒として作用することがある等の理由によるものであろう.
 われわれはコーワ化学よりATP-Na製品(アデホスコーワ)の提供を受けたので,本剤の外科的応用として,人為低血圧および人為心搏停止に関する実験的研究を行い,その臨床的応用について若干の考察を加え,さらに最近2例のATPによる低血圧下心臓血管手術例を経験したのでここに報告し,御参考に供したいと思う.

Trostinの試験管内に於ける血液凝固促進作用について

著者: 村上文夫 ,   荒井健一 ,   藤井浩二 ,   吉本弘政 ,   石倉恵子 ,   大羽悠香

ページ範囲:P.865 - P.868

I.はじめに
 現在全身的止血剤として,非常に多くの種類の薬剤が市販されている.その多くは,いわゆる血液凝固促進剤であるが,その作用機序が明かで而も適確な効果を期待し得るものは,極めて少い.私達は,さきに止血剤の選択が如何に重要であるかということを,しばしば強調し1)2),また,1,2の薬剤について,その作用機序の追究をも行つているが3),今般加藤教授等の創製になる全身的止血剤Trostin4)の提供を受けたので,この薬剤の血液凝固促進作用機序を,試験管内実験によつて追求した.

整形外科領域におけるSPAの使用経験

著者: 中原正雄 ,   山田琇一 ,   吉田邦雄 ,   遠山晴義 ,   石川保

ページ範囲:P.869 - P.872

いとぐち
 整形外科領域において,疼痛を主訴としてわれわれの外来を訪れる患者は,非常に多いものである.特に肩凝り,五十肩,腰痛症,腰部捻挫などに関しては,以前から色々の治療が行われているが,必ずしも充分な効果を得られないことが多かつた.
 これらの疼痛を起す原因を迫求し,根本的治療をはかることは第一であることは勿論であるが,いわゆる対症的治療法も実地上ある意義をもつている.われわれは,参天製薬の提供によりSpaを試用する機会を得たのでその成果をここに報告する.

外国文献

抗生物質と手術創感染予防の問題/Poor riskの患者の直腸癌に対する姑息的治療

著者: K.N.

ページ範囲:P.872 - P.872

 1951年以後5年間のヘルニア,胃,胆道,甲状腺,腸などの手術1400例を,それぞれほぼ同数に分けて,抗生物質投与群と非投与群として比較してみると,手術創感染の発生率は各手術群とも抗生物質の投与の有無にかかわりなく,両群平均でも投与群8.4%,非投与群8.5%であつて,抗生物質をこの目的に用いることは全く意味がないことがわかつた.感染菌はブドウ球菌50%,ブドウ球菌と混合感染13%,ブドウ球菌のない混合感染13%,大腸菌12%,変形菌6%,腸球菌2%などである.これ等感染菌の抗生物質に対する抵抗性を示すものの率は,ペニシリソに対し75%,テトラサイクリンに対し22%,エリトロマイシンに対し10%,オレアンドマイシンに対し4%であつた(1957年調査).すなわちエリトロマイシン,オレアンドマイシンは最も効果があるが,ペニシリンはほとんど効果がない.しかし1956年の調査と比較するとテトラサイクリン,エリトロマイシン,オレアンドマイシンに対する抵抗菌も増加している.
 病院勤務者の菌保有率は,看護関係者120人中52.5%が保有しており,このうち1/4は皮膚に,3/4は鼻咽腔に菌を証明した.

症例

胃腸吻合術後37年に発生した空腸胃内重積症の1例

著者: 清水堅次郞 ,   五十棲忠二 ,   大內十悟

ページ範囲:P.874 - P.876

緒言
 1914年Bozzi1)により胃腸吻合術後の小腸胃内重積症が初めて報告されて以来,本症の報告例は現在に至るまで,Irons & Lipin(1955)2)によれば文献上丁度100例に達するといわれ,またBrad-ford & Boggs(1958)3)によれば欧州に100例,米国に10例の報告が見られるという.一方わが国の報告を見るに,斉藤・大矢(1957)4)は胃手術後の腸重積症を昭和29年から33年に至る5年間におけるイレウス蒐集例中より15例,本邦文献中より24例,教室例その他より8例,計47例を集め得たと述べ,このうち空腸胃内重積症は何例であるかの記載はなく明かではないが,森崎・小谷(1954)5)の胃切除術後の腸重積症に関する蒐集文献13例中,空腸胃内重積症は僅かに星6)の1例を見るに過ぎないことからも,本邦における本症の報告例は上述の欧米のそれに比較すれば極めて少いようである.
 われわれは最近37年前他医の施行した胃腸吻合術後に発生した本症の稀有なる1症例を経験したので,ここに報告する.

腹壁並びに胃に自潰したアメーバ性肝膿瘍の1例

著者: 陳茂棠

ページ範囲:P.879 - P.882

 アメーバ赤痢による肝膿瘍は本邦には多いものでは無い.結腸の既往歴に続いて定型的の肝膿瘍の症状を呈する場合診断も困難でないが,非定型的の場合診断も困難,且つ予期せざる経過も起りうる,すなわち経過において自潰し,さらにまた胃の穿孔をも伴うに至つたものを経験した.混合感染についての検討と共に文献に基き本症に関し若干統計的観察を加え度い.

Arnold-Chiari氏畸形の2手術例

著者: 田中憲二 ,   大友祥伍

ページ範囲:P.885 - P.888

Ⅰ.綜説
 Arnold-Chiari氏畸型は,1894年にArnoldが小脳の一部が舌様に変化し,大後頭孔を通り脊髄管内の延髄の高さに迄下垂延長している一症例を報告したのを嚆矢とし,さらに翌年Chiariが独自に経験した同様な患者21例について報告されたもので,本症の命名は1907年Schwalbe & Gredigが解剖学的な考察を加えた4例の報告のさいに行われたものである.
 その後,1932年に至つてHomreninge & Graftigkが本症に対し最初の外科的な試みを行つたが,1935年にはRussel & Donaldは本症患者の剖検例より,外科的な治療法によつて軽快する可能性を暗示した,1938年PenfieldとCo—burn,Aringによつて外科的な治療を加えたが,いずれも失敗に終つている.

特発性S字状結腸穿孔に因る急性汎発性腹膜炎の1治験例

著者: 山川良精 ,   岡田五郞

ページ範囲:P.891 - P.893

 いわゆる急性腹症の診断で救急手術が施行された症例には術前全く想像もできない意外な原因による場合が稀に見られることがある.今般私達は教室において全く原因不明のS字状結腸穿孔による急性腹膜炎の1例を経験したのでここに報告し併せて考按を試みた.

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集談会

著者: 桝岡勇雄 ,   藤原証五 ,   瀨在幸安 ,   福島道夫 ,   桓花昌彥 ,   渡辺慎一 ,   根本達久 ,   高木国夫 ,   青木三郎

ページ範囲:P.894 - P.894

第575回東京外科集談会
1) 異物による下腿動静脈瘻
 11歳男子,木より転落し竹を左下腿に突刺し患部の腫脹をきたした.次第に左下肢の麻痺をみとめるようになつた.切開により竹の小片を除去した.竹小片により,動静脈瘻を形成し,その圧迫により麻痺を起せるものと思われる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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