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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻1号

1960年01月発行

雑誌目次

綜説

大動脈縮窄症の外科的治療,とくに異型の大動脈縮窄症について

著者: 木本誠二 ,   和田達雄 ,   中島穰 ,   上野明 ,   佐藤雅昭 ,   宮本清 ,   橫田徳雄 ,   野原不二夫 ,   菱田泰治

ページ範囲:P.5 - P.14

序言
 大動脈縮窄症(Coarctation of aorta)は,もともと大動脈弓と下行大動脈との境界部,いわゆる峡部(Isthmus)にみられる大動脈の狭窄に対して名づけられたものであるが,この狭窄は峡部にかぎらず,異常部位にみられることがしばしばある.いずれにしてもこの狭窄が原因となつて,狭窄より求心側の動脈内圧は亢進し,高血圧に基く種々の症状を呈するほか,心不全,脳合併症,亜急性心内膜炎,大動脈瘤などの合併症を来すことが多い.
 治療としては,この狭窄部を外科的に切除し,正常の太さの動脈に再建するわけであるが,臨床的な最初の根治手術成功例は1944年Crafoord1)氏により,ついで1945年Gross2)氏により行われ発表されている.これらの手術方法は,何れも狭窄上下を鉗子で遮断し,狭窄部を切除し断端を引寄せて縫合する方法であつて,狭窄部が長く動脈に伸展性のない場合には不可能な方法である.このような症例に対して,1948年にGross3)氏が最初に行つた同種大動脈移植の成功は,今日の血管移植の隆盛を招く端緒となつたもので,本症の手術によつて現在の血管外科の繁栄がもたらされたといつても過言ではなかろう.

腹部手術後の肺合併症

著者: 尾形利郎 ,   平畑欣一 ,   大槻道夫

ページ範囲:P.15 - P.21

 腹部手術後の肺合併症は,麻酔法の進歩,化学療法の発達,術前・術後管理の改善等によりその発生頻度,とくに致命率は著明に減少している.しかしPoor-riskの患者,たとえば高齢者の場合はCardiopulmonary insufficiencyの状態を発生し致命的になることがある.また致命的にならない場合でも術後の軽快・治癒を遅らせ,医師,患者をなやます点臨床の実際においては軽視することが出来ない.
 そこで私共は,麻酔・化学療法・術前術後管理が一応のレベルに達した現在,過去4年間に発生した24症例につき統計的に検討し,同時にその予防ならびに治療について考察を行つた.

イレウス時におけるヒスタミンの再検討

著者: 代田明郎 ,   三樹勝 ,   守谷林太郎 ,   大川共一

ページ範囲:P.23 - P.32

Ⅰ.緒言
 松倉教授1)は第54回日本外科学会総会宿題イレウスにおいて,イレウス時の血中有効物質の本態は種々なる角度より検討した結果,ヒスタミンに非ずしてアセチールコリンなることを確認すると共に,本有効物質はイレウス時血中ならびに腹水中に著しく増量することを立証し,イレウス時生体はアセチールコリンの過剰産生により甚だ重篤なる障害を蒙り死に至るものといわゆるアセチールコリン説を提唱され,爾来アセチールコリンがイレウス時の有効物質の本態である幾多の事実を発表2-11)されている.
 ところで従来よりいわゆるイレウス毒物の本態としてヒスタミンが有力視されているので,われわれは松倉外科教室におけるイレウス死因の本態に関する研究の一環として,ヒスタミンに就いても再検討しているのであるが,今回はイレウス時の血中ならびに諸臓器組織におけるヒスタミン,これが分解酵素たるヒスタミナーゼならびに生成酵素たるヒスチジンデカルボキシラーゼの変動に関するわれわれの研究成績の一部を次に報告しよう.

動静脈瘻について

著者: 大村豊 ,   伊藤富三

ページ範囲:P.33 - P.39

1.まえがき
 動静脈瘻は戦傷により発生することが多く古くから多くの研究が報告されて居る.本疾患について最初に記載したのはWilliam Hanter(1757)であつて,その後Callander(1920)1)による447例の検討,Hollman(1923,1924)2)3)4)5),Reid(1925,1932)6)7)8)9)等による実験的研究,また最近ではShumacker(1949)10),Thompson(1951)11),木本(昭28)12),Foley(1956)13),Schenk(1957)14).その他多くの報告がある.そして,その病態生理に関しては,かなり詳細に研究されているが,その治療については,殊に先天性動静脈瘻の場合,まだ多くの問題が残されている.
 最近われわれも本症の6例を経験したのでここに報告する.

術技

肘関節側方脱臼について

著者: 山本芳彌

ページ範囲:P.41 - P.44

 外傷性肘関節脱臼は,外傷性関節脱臼中でも肩関節についで多く,Krörleinによれば肩関節脱臼51.7%,肘関節27.2%,掌指関節6.7%の頻度を有している.肘関節脱臼はさらに両前腕骨脱臼(後方脱臼,側方脱臼,前方脱臼,分散脱臼)および前腕骨単独脱臼(尺骨脱臼,橈骨脱臼)に分類されているが,その中稀とされている両前腕骨側方脱臼の4例を経験したので,これについて報告したいと思う.

Conference

臨床外科懇話会記録(3)

著者: 日本大学医学部外科

ページ範囲:P.45 - P.50

猫ひつかき病の経験
 「猫ひつかき病」というのはわが国では報告が非常に少い疾患であるが,最近本例と思われるものを数例経験したので,そのうち2例について述べる.
 症例1.松○賢○ 24歳,男,5〜6週前に小猫に左第2指を噛まれたことがある.疼痛,発熱等はないが,創も治りにくく,また10日程前より左腋窩部にグリグリ様のものがあるのに気づいた.体温36.3℃.一見栄養も良好である.白血球増多もない.

薬剤

感染症に対するスルフアジメトキシン注射液(ABCID注)の使用経験

著者: 菊地金男 ,   伊勢久信 ,   夏目玲子 ,   山中雅夫

ページ範囲:P.51 - P.53

1.まえがき
 近年発見された新サルファ剤が優れた化学療法剤であることは既に諸家の齎しく認めるところであり,われわれも先に化膿性疾患例に新サルファ剤(Abcid)を経口的に投与,その臨床効果を検討し,本剤が副作用なく,少量で著しい治療効果を挙げたことを報告1)した.このたび偶々若干の新サルファ剤Abcidの注射A. B. C液を入手したので,外来および入院患者の感染症症例を対称として臨床応用を試みた.症例も少く甚だ不先分ではあるがその成績について報告する.A. B. C注射液は第一製薬より提供を受けたもので無色透明,無臭,苦味の強い水溶液である.

胸部外科領域におけるノバミンの鎭吐作用について

著者: 長沢直幸 ,   山下政行 ,   仙田善朗 ,   岩瀬敬治 ,   井上スミ ,   中島芳郞 ,   兪長昌

ページ範囲:P.55 - P.58

緒言
 肺疾患に対する外科的処置の後にはしばしば嘔吐がみられる.特に肺手術後における嘔吐は,吐物を気道内に吸引することにより窒息ないし感染を招来する危険があり,また,栄養の経口摂取を困難ならしめている.また手術侵襲に伴う複雑な水分電解質代謝が嘔吐により一層複雑なものとなり,そういったことが原因になつて術後の衰弱を強め,ひいては手術の予後をも左右することになつている.
 鎮吐剤としては,これまで種々のものが市販されているが,いずれも一長一短があり,副作用がなく,しかも鎮吐作用が強く,種々の原因による嘔吐にも奏効するといつたような理想的な薬剤は得られていない現状である.特に手術直後の患者に対しては経口的薬剤投与が不可能である為に,注射による他なく,かかる薬剤の出現が切望されていたわけである.

Chlorozoxazoneの臨床経験

著者: 後藤威 ,   榊喜兵衛 ,   丸山知久 ,   東晃 ,   初山泰弘

ページ範囲:P.61 - P.64

Ⅰ.緒言
 整形外科を訪れる患者数は年々増加の一途をたどつており,これは文明の進化に伴う交通および産業の著しい発展の副産物として骨折等の外傷の増加によることは論をまたないが,一方従来より整形外科患者の多くのパーセンデージをしめている腰背痛,リウマチ,関節痛等の患者が依然として重要な分野をしめていることは,すでに周知の通りである.これに対し絶えず新薬,新治療法が検討されて来ているが,同一症状のものでも,発生機転,経過等において極めて多様性を示しており,治療法についてはなお満足すべき解答が与えられず,治療法の発展が多方面より要望されている現状である.
 一般名Chlorozoxazone (化学名5—Chlorobenzo—xazolinone)は,筋痙攣に関与する多シナプス反射弓を選択的に抑制することを主な薬理作用とする薬品であり,これにより骨格筋の痙攣,疼痛の緩解に効果が期待されている.

「グルタチオン」剤による肝庇護療法の研究〔1〕—実験的肝障害に対するグルタチオン剤の効果

著者: 葛西洋一 ,   稲村実 ,   村戶克郞 ,   宮川清彦

ページ範囲:P.65 - P.80

第Ⅰ章 緒言
 近年における肝臓生理の研究の発展と相俟つて,諸種の肝障害に対する肝庇護療法剤が治療医学の面にも広く普及するに到つたことはまことに喜ばしいことである.
 外科領域においても,手術侵襲に伴う術後肝機能障害が手術の予後に重大な関連を有することが認められ,これらの肝庇護療法は日常必須のものとなりつつある現状である.

症例

心刺創の1治験例

著者: 米倉増男 ,   岡田清資

ページ範囲:P.81 - P.83

 心臓外傷の治験例の報告は,本邦では数例見られるが1-7),いずれも心臓タンポナーデを主としたものである.本例は肺刺創を伴い,また発生後きわめて短時間の間に処置され,したがつてまた,心臓タンポナーデを伴わない等,興味ある症例と考えるものである.
 われわれは,昭和31年3月,左前胸壁を刺した心肺刺創の患者を手術し,全治させることができたので報告する.

左側嵌頓鼠径ヘルニヤ嚢内虫垂炎の1例に就いて

著者: 大山正信 ,   進藤和行 ,   金子輝夫 ,   多田慶介

ページ範囲:P.85 - P.87

緒言
 私共は乳児の左側嵌頓鼡径ヘルニヤの症例に遭遇し,救急手術を施行,嚢内虫垂炎の併存を確認した稀有な症例に就いて報告する.

肝胃吻合に就いて

著者: 相野田芳教

ページ範囲:P.89 - P.91

 胆道癌は頻度は少ないのではあるが,すでに肝門部に迄及んでいて肝外胆道が閉塞されている時あるいは良性の疾患例えば瘢痕組織などが原因をなしている閉塞性黄疸等で,これらを切除して胆道再建をしようにも肝外胆道に利用する余地が無い場合に直接肝と消化管との吻合が治療法として考慮される.
 私は胆嚢癌による肝門部癌転移に原因した閉塞性黄疸症例に対して,肝胃吻合術を行う機会を得たので症例を報告すると共に文献的考察を少しく加えてみた.

脊髄腫瘍症状を呈した胸椎カリエスの1例

著者: 山田浩

ページ範囲:P.93 - P.95

緒言
 脊椎カリエスにおける脊髄麻痺症状は,成書によれば一般に緩徐に現われて疲労および脱力感の先行と腱反射の亢進に始まり次いで痙性麻痺に移行し,この時期には知覚障害も軽度に現われる.痙性麻痺は終には弛緩性麻痺に移行するが高度の知覚ならびに直腸膀胱障害は稀であるものとされている.
 私は最近1週間の短期間内に下半身の知覚脱失と運動障害を来たし一見脊髄腫瘍を思わせたが,その経過と手術により結核性病変による麻痺であることを証し得た胸椎カリエスの症例を経験した.

悪性黒色腫の1例

著者: 米光真一

ページ範囲:P.97 - P.98

 黒色腫は1086年LaennecがLa mélanoseと称えてより今日迄にすでに約150年を経,その間幾多の研究が重ねられて来た.すなわちCarci-noma melanodes(Muller,1834),Melanoblas-tom(Handi,1907)と上皮発生説を唱えたに対して,Virchowは1864年黒色肉腫の存在を指摘し,黒色腫には単純性黒色腫,黒色癌および黒色肉腫に分類すべきであると唱えた.その後Chro-matophrom(Ribbert)と称し非上皮発生説も擡頭し1914年筒井,1928年Hermann,Simon等もまたこの説を支持しているが,この黒色腫は数多くの名称が示すようにその発生部位により,あるいは組織学的ならびに生物学的性状において極めて変異に富み,今日なおその本態ないし組織発生について統一的概念を導き得ず,臨床的にも病理ないし腫瘍学的にも特殊の位置を占める腫瘍群である.
 私は最近70歳の男子の踵部の鶏眼に原発した黒色腫の1例を経験したので報告する.

横隔膜下膿瘍治験例について

著者: 寺崎平 ,   泉周雄 ,   島田作 ,   橫山博 ,   松本重喜 ,   矢田昇

ページ範囲:P.99 - P.102

 横隔膜下膿瘍は腹部内臓炎症疾患に合併または続発する重篤な疾患として知られ,虫垂炎,胃十二指腸潰瘍穿孔時によくおこるものとされていたが,最近は胆道,膵臓および脾臓の各手術が積極的且つ根治的に多く行われるようになりこれら手術後続発する報告例も多くなつた1).しかししばしば初発病巣が不明であり,診断もまた困難なものが多くしたがつて治療も容易でない.国立東京第2病院において過去8年間に約8例の同症例を経験したので,諸家の報告も合せ検討してみた.

浄化空洞症例

著者: 上高原勝美 ,   石塚正人

ページ範囲:P.103 - P.104

緒言
 肺結核症の主なる治療対象としては色々あるが,肺病巣の中では空洞が治療の主目標になつていることが多い.空洞の治り方には,被包性治癒,瘢痕性治癒,開放性治癒の型式があるが,なお1つの治り方として,最近浄化治癒の型が報告されている.すなわち,この治癒型式は,空洞内容の乾酪物質が排除され,空洞壁に肉芽組織が形成されて内面を被い,線維化が進んで一種の欠損治癒の状態を呈したものである.われ等も最近かかる空洞の症例を得たのでここに報告する.

鎖骨下静脈注射法の経験

著者: 大橋忠敏

ページ範囲:P.105 - P.107

 緊急に輸血・輸液等を必要とする場合に,乳幼児あるいは成人でも皮静脈が極めて細いため,通常の方法で静脈穿刺が成功せず困惑することはしばしば経験する所である.このような場合に静脈切開・骨髄穿刺等の面倒な手技を要せず容易に目的を達し得る便利な方法として鎖骨下静脈注射法がある.1952年Aubaniac1)が本法の創案と経験を発表して以来,欧米においては2,3の追試報告が見られ2)3)4),何れもその価値を認めているが,本邦では未だこれに関する報告は見当らない.著者は東大分院外科においては特殊部位の静脈血ガス研究に当り,採血の目的でしばしば本法を行い,これについてはすでに発表したが5)6)7),実地臨床上の立場から茲に本法の手技を紹介し,著者の経験を報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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