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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻10号

1960年10月発行

雑誌目次

綜説

大動脈弓症状群に対する外科的治療—とくに上行大動脈からのBypass移植法について

著者: 木本誠二 ,   和田達雄 ,   宮本清 ,   福田宏 ,   豊田忠之 ,   桜井靖久

ページ範囲:P.801 - P.806

 大動脈弓より分枝する無名動脈,頸動脈,鎖骨下動脈などに閉塞性病変が起こり,臨床的にそれらの動脈の灌流領域の阻血性障害と脈搏の欠除によつて特徴づけられる疾患は,近時大動脈弓症状群(Aortic arch syndrome)1)もしくはMartorell’s syndrome2)と呼ばれ注目されている.
 この疾患は,脈無し病とも称せられ,本邦において発見され記載されたもので,明治41年(1908)に高安氏3)は眼症状について報告し,昭和23年(1948)には清水教授4)らは詳細に病態を研究し,動脈炎による血栓性閉塞と考え,はじめて脈無し病と命名した.この研究が1951年に英文で発表され5)てから,この疾患は欧米においても注目され始め,文献にTakayasu's diseaseまたはPuls-eless diseaseの名がみられるようになつた.この疾患はどういうわけか日本婦人に非常に多くみられるもので,本邦における脈無し病の報告例は1958年末迄に136例に達している6)

脳血管撮影について—Per-Abrodil-Mの使用経験

著者: 斉藤義一

ページ範囲:P.807 - P.814

緒言
 脳神経研究の進歩発展,疾患の増加,と共に脳血管撮影の要求される機会も甚だ多くなつてきた.Egas Moniz(1927)の脳動脈撮影の発表,更に清水教授の経皮的施行(1937)以来広く普及され著者も日常この経皮的方法により行つて未だ血管露出の要にせまられたことはない.一方造影剤の進歩により多数の薬剤の登場をみるが要は生体殊に中枢神経系に無害で非刺戟性で造影能の優れることが理想である.Sugiuron(Disodium 1-methyl-3.5-diiodo-4-pyridone-2.6-dicarboxylate,33%水溶液)が殊にその安全性において優れることは衆知の通りであるが,安全性に満足すれば一層高濃度を希望して造影能力を高めたくなるのも止むを得ないことといえる.
 脳血管撮影の合併症としては死亡を最大の障害として半身麻痺,知覚異常,失語症,精神錯乱,痙攣発作,頸動脈栓塞などが永続的に或いは一過性に現われ更に頭痛,悪心,嘔吐を一時的にみるなどその種類,程度において甚だ多彩を極めるが症例の選択,手技上の欠陥による所も多い一方,使用造影剤の量,濃度,回数などの影響はかなりに決定的要素を含むものといえる.

救急処置としての人工冬眠の経験

著者: 山崎亢吉 ,   松崎一郎 ,   鈴木喜久雄 ,   広川正三

ページ範囲:P.815 - P.820

緒言
 人工冬眠はH.Laborit(1951)の臨床応用に始まり,その後多くの追試者も術後シヨツク予防に効果あることを認めたのであるが,最近は麻酔学の発達の陰に隠れて業績発表も少くなつたようである.しかしながら重症患者の治療に際して本法が在来の治療と反対に,生体反応を極力抑制し,臓器組織に休養を与える方針をとり,しかもその成績が優秀であり,複雑な機械装置を必要とせず,時と所とを選ばず実施できることは今後の疾病治療に示唆貢献するところ少くないと思う.
 余等は最近3年間に極めて重篤なる術後合併症等の5例および出血中の胃潰瘍の1例にウインタミン,ピレアジン,オピスタンのカクテルの少量宛注射および表在血管冷却による冬眠を応用し,はなはだ好結果を得たのでここにその概略を報告するものである.

Conference

臨床外科懇話会記録(10)

著者: 日本大学医学部外科

ページ範囲:P.823 - P.828

左腓骨上部に発生した骨腫瘍の2経験例
 私達は最近引続いて2例に左腓骨小頭部に発生した骨肉腫について経験したので,X線写真を供覧し臨床所見の大要を述べる.

症例

上腕骨尺側上顆骨折の肘関節内嵌入の発生機転ならびに治療法に関して

著者: 富永通裕

ページ範囲:P.829 - P.833

 上腕骨尺側上顆骨折は,上腕骨下端部骨折の中,顆上骨折,橈側上顆骨折に次いで頻度の高い損傷であり,神中氏の報告によれば472例中46例すなわち約10%に認められると云う.Watson-Jonesは,骨片転位の程度を基礎にして次の4つの段階に分類している(第1図).
 第1度:最も軽度な損傷であり,骨片がその床面から少し離れて僅かな転位を認める.

神経鞘腫の2治験例

著者: 安保秀勝 ,   高野教泰 ,   下地晋 ,   鈴木敏道 ,   浅野郁郎

ページ範囲:P.835 - P.837

 神経鞘腫はさほど稀有な疾病ではない.しかしわれわれは最近鑑別診断困難な頸部および下腿腫瘤に遭遇し,剔出標本の病理組織学的検索の結果神経鞘腫なることが判明した2例を経験したので報告する.

肋骨に原発したと思われるEwing肉腫の1例について

著者: 林寬治 ,   馬場正三 ,   山田良成

ページ範囲:P.839 - P.842

Ⅰ.緒言
 胸壁腫瘍中,肋骨腫瘍は最も多い.その種別頻度は良性悪性ほぼ同率であるが,その中Ewing肉腫は非常に稀なものとされている.
 本腫瘍は,1921年,J.Ewing1)が従来の骨肉腫より組織学的に独立せしめ,本邦では,1936年,石原氏2)が始めて報告した.

両側卵巣に転移をみた鼻咽頭部細網肉腫

著者: 安藤松雄 ,   今村立五

ページ範囲:P.843 - P.845

 咽頭部は広義の淋巴肉腫の好発部位として知られているが,咽頭部肉腫が卵巣へ転移しためずらしい症例に遭遇したので報告する.

直腸壁子宮内膜症の1例

著者: 矢内謙 ,   外田茂雄

ページ範囲:P.847 - P.850

 腺性筋組織増殖症は,子宮内膜症いわゆるEn-dometriosisと呼ばれるもので,子宮内膜様組織が,子宮内膜以外の部に増殖する疾患を総称している.われわれはダグラス窩後腹膜腫瘤の診断の下に手術を施行し,組織学的検査の結果外科的には稀な直腸に発生したEndometriosisなることが判明した1例を経験したので,考察を加えて見度い.

破傷風15例の観察

著者: 今村貞勝 ,   河野均 ,   宮田洋

ページ範囲:P.851 - P.852

 昭和27年より昭和33年に至る7年間に経験した破傷風15例について,統計的観察を行つたので報告する.
 症例を概括すると第1表に示す通りである.15例中男子9例,女子6例で男女の比は3対2となつている.年齢的には(第2表)2歳より84歳までの各年齢層にみられるが,老人が1/3を占めているのが注目される.

円靱帯静脈瘤の症例

著者: 天野尹 ,   笠島欣一 ,   児玉政久

ページ範囲:P.853 - P.855

 妊娠時の円靱帯(子宮鼠径索)静脈瘤について著者の一人天野は1952年3例を報告し,症状,治療,頻度等について考察を加えた1).その後において本邦文献に14例の報告があり,著者等も亦さらに6例を経験したので,ここに追加報告する.この6例中5例は手術せず,分娩後消失した例で,1例は手術後再び妊娠し,大陰唇に静脈瘤が現われた例である.
 安全のためには円靱帯静脈瘤は妊娠中も手術すればよいという見解を1952年の報告においては述べていたが,その後さほど大きくないものに対して十分なる注意のもとに分娩せしめることができるという意見になつた.ただ分娩時静脈瘤の破裂に際して直ちに手術出来る様準備することが必要である.また円靱帯静脈瘤は稀れとされているが精査すれば,妊婦にはかなりの頻度において見られるのではないかと考えるようになつた.妊婦検診の際,歩行時等に鼠径部に痛みを訴える妊婦に対しては,必ず立位で診察することが必要であり,立位で検査することにより円靱帯静脈瘤はかなり多く発見できるのではないかと思われる.

レントゲン癌の1例

著者: 永淵一昭 ,   石黒淳一 ,   三浦武

ページ範囲:P.857 - P.860

緒言
 1895年RöntgenがX線を発見した翌年に,すでに放射線障害の第1例がみられた.けだしX線装置の不備,放射線に関する知識の不足によるものと思われるが,近年にいたるまで,少なからぬ犠牲者の例が報告されている1)2)3)4)5)6)7)8)9)10).最近,原爆や原子力事業の目覚しい発達や,人工放射性物質の応用の進展とともに,放射線障害に対する世人の注意が喚起せられ,放射線業務に従事する者の防禦法,放射線発生装置の改良などにより,放射線障害は非常に減少してきている.しかし,まだ一部には,放射線の取扱い方法,ならびに,その障害に関する十分な知識のない無資格者によつて,重大な危険を招いていることが珍らしくない.われわれも,最近数カ月の間に,4本の手指をつぎつぎと切断するのやむなきに到つた.レントゲン癌の1例を経験したので,ここに報告する.

膝蓋骨骨膜骨髄炎の1例

著者: 有泉正一 ,   本田量一 ,   小熊嘉夫

ページ範囲:P.861 - P.865

緒言
 整形外科領域において日常しばしば経験する化膿性骨膜骨髄炎は大半が長管状骨に発現し,短骨,扁平骨には比較的稀である.その中でも特に膝蓋骨に単独に原発することは極めて稀で内外の文献にもその報告例は少い.私たちはその1例を経験したのでここに報告し,併せてその発生機転に考察を進めたいと思う.

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修復外科に用いられたアロプラスチックス(2)

著者: 北上幸雄 ,   ペトロフスキー

ページ範囲:P.850 - P.850

 患者がすつかり健康になり,みんなと同じように生活し,働くようになつてから,もう2年以上になる.彼女は体内でアロプラスチックス(修復外科用プラスチックス)材料でつくられた人造横隔膜が働いていることを全く感じていない.
 私たちはその後,更に6人のおなじ病気—先天的横隔膜欠除—の患者を人造横隔膜による修復手術によつて,救つた.

外国文献

消化管内蛔虫の移動とそれによる外科的合併症

ページ範囲:P.865 - P.865

 最近10年間に手術を必要とした蛔虫患者178例につき手術,剖検の所見から検討した.剖検によると小腸内の蛔虫の90%は頭を幽門むけた体位をとり上行運動を行う.これは腸の運動により抵抗をうけるが術後の腸麻痺で抵抗がなくなり上行して胃内にはいり吐出される.
 胆道内迷入については犬の実験で蛔虫のエキスを与へると始め2〜3日腸アトニー胆道のアトニーが起り次で蠕道亢進が見られる,胆道内迷入につき病因論的に考慮すべきである.

印象記

第60回日本外科学会総会印象記

著者: 林寬治 ,   三枝正裕

ページ範囲:P.868 - P.875

 第60回日本外科学会総会は,4月1日より3日間,久留勝教授会長となり,大阪市新朝日ビル内フェスティバルホールにおいて行われた.
 第1日は4月1日午前8時30分より,一般演題36,共同研究"術後肺水腫"3題,宿題報告"術後肺水腫"3題が行われた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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