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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻11号

1960年11月発行

雑誌目次

綜説

大動脈弓動脈瘤の一時的Bypassによる切除移植手術

著者: 木本誠二 ,   和田達雄 ,   上野明 ,   鈴木昭彥 ,   原田幸雄 ,   丸山雄二

ページ範囲:P.881 - P.887

緒言
 胸部大動脈瘤,特に上行または弓部大動脈瘤に対する切除.移植手術は心臓自身に対する影響,脳血行の問題,脊髄障害の問題およびそれらに加うるに手術手技の困難さなどから外科治療の未開拓分野として取り残されていたが,1955年De-Bakey氏等により一時的Bypassグラフト1),または体外循環2)を利用して手術を行なう構想が発表されて以来,手術成功例が報告されるようになつた.最近我々は弓部大動脈瘤に対する手術例を経験したのでここに報告する.

肺癌の診断と治療

著者: 須賀井忠男

ページ範囲:P.888 - P.892

肺癌の分類と特徴
 癌年齢といわれる50歳台の患者が咳,血痰,胸痛,換気異常を訴えてきたとすれば一応は胸部X線写真を撮るのが普通である.そこで異常陰影があれば医師はその解像能力に応じていろいろな判断を下すが中には見逃されてしまう場合もある.もし癌を疑わずに他の疾患と考えると対象療法,抗生剤による化学療法が行なわれるのでかなりの日時を費すことになる.肺癌を取扱つた臨床諸家の症例に対するこの間の事情を調べてみると大体のところ患者が訴をもつて診断を受けるまでに4カ月,医師が確診を下すまでに4カ月を費している.肺癌の進展速度はその経過を通じて遅速がありOverholtのいうlatent phase,silent phaseはかなり長い期間があると考えねばならない.原発肺癌の根治療法が肺の切除に期待されている現在症状がsilentでもX線像の有所見者ではできるだけ早く確診せねばならない.そのためにはX線写真以外の補助診断法も粗にはできない.肺に発生する原発巣が気管支であるという観点から気管支癌という言葉が用いられてきたが症例を増すに従つて末梢に位する肺胞道からもまた気管,大気管支粘液腺からも発生する特殊な形態をもつたものが含まれてくるし,更には胎生的に違つた構成成分から発生して肉腫との区別がつきかねるような組織像をもつたものもあるので肺に原発した癌という意味から肺癌というようになつてきている.

リンパ性乳頭性嚢状腺腫—Papillary cystadenoma lymphomatosum(Warthin's tumor)について

著者: 斎藤義一

ページ範囲:P.893 - P.898

Ⅰ.緒言
 元来耳下腺は腫瘍の発生し易い領域であるが大部分は混合腫瘍と悪性腫瘍(腺癌)であり良性上皮性腫瘍は少いもので,その中でリンパ性乳頭性嚢状腺腫(P.C.L.と略す)は組織発生的に興味をひき組織学的所見も特有な像を示すもので外国文献にはそれほど少くないが本邦報告例は稀なものである.即ち昭和10年松島の報告以来,木村,並木,大橋,芝,米川,星氏等の報告に接するのみの様である.外国における報告も比較的多いとはいうものの1950年Thompson and Bryantが自験17例を加えての集計は180でありこの中12は肉腫,癌腫等の疑がもたれるものであるとしているところから考えて,現在の報告例は200例内外であると考えられる.
 そもそもP.C.L.は1898年Hildebrandtが頸部のcongenital epithelial cystとして鰓弓遺残性のものと報告しLecèneが耳下腺のcystic aden-omaとして報告した様に1910年頃迄は側頸部の嚢腫性疾患として考えられてきた.

胃・十二指腸潰瘍に対する胃体部帯状切除の小経験

著者: 真鍋欣良 ,   梶谷勤

ページ範囲:P.899 - P.904

まえがき
 胃体部帯状切除をはじめに行つたのはMikulicz1)で,胃潰瘍の治療に用いたがその成績は余り芳しくなかつた様である.此の術式が文献上に最初に現われたのはRiedel2)(1909,1912)の報告したものであつて,彼はこれを同じく胃潰瘍患者に行つておる.そしてPayr3)(1909,1910),Bier4)(1910)が相次いで此の術式を推奨し,1912年頃5)には特にドイツに於いて多大の支持を得るようになつた.
 然しその後再発が時に見られ6-8)胃の吻合部が砂時計状収縮を呈して障害を残し,内容の通過が遅延する等の理由のために潰瘍治療法としての此の術式は次第に行われなくなつた.そして1950年Wangensteenが再び此の胃体部帯状切除術を復活採用するまで凡そ30年余り,殆んどその影を潜めていた.尚此所で述べる胃体部帯状切除とは稍々趣を異にするが,同じく胃酸分泌の減少を図ることを目的としたfundusectomy(Connell9)1929)やtubular resection(Wangensteen10)1940)が胃体部部分切除の術式として文献に報告されたのは此の間である.

消化吸収面からみた生理的再建(B.Ⅰ型及びB.Ⅱ型)に関する検討—殊に代用胃造設手術を中心として

著者: 山本隆彥

ページ範囲:P.905 - P.911

緒言
 胃切除ないしは胃全摘後の吻合再建方式は大別して食餌が残胃又は食道から十二指腸を通過して行くB.Ⅰ法と十二指腸を通過せず直接空腸に移行するB.Ⅱ法との二つの型式があり,その中いずれをとるべきかは,従来主として手術手技としての安全性や難易の面と術後愁訴の面から長年論議せられてきたところである.
 わが教室においては諸家とは全く別個の方法で代用胃に重点をおき,種々なる胃全摘出術式を行い,その欠点を改良しつつ術式の改善に努め,胃超亜全摘術及び上胃成形術を創案するに至り,その研究成果は第60回日本外科会総会において,峯教授より発表せられたところであるが,消化吸収面に関しては生理的通過径路をとるB.Ⅰ法の型式の方がおおむね良好であつた.

統計

胃および十二指腸潰瘍の穿孔—過去10年間における教室例51例の集計的観察

著者: 長尾房大 ,   水永浩二 ,   熊谷文彌 ,   朝戶健志 ,   秋元邑介 ,   遠藤実

ページ範囲:P.913 - P.918

緒言
 消化性潰瘍の合併症のうちで,穿孔は急性死亡の危険が最も多く,潰瘍死亡例の20〜55%が穿孔の合併によるといわれている.
 大井外科教室においては,昭和24年1月から昭和33年12月迄の過去10年間に胃および十二指腸潰瘍の急性開放性穿孔例を51例経験したので,これらの51例について集計的観察をこころみ,あわせて内外の文献的考察を加えてみたいと思う.集計例はすべて潰瘍穿孔であることを手術的に確認し得たもののみであり,被覆性穿孔例および新生児でストレスにより急性潰瘍が穿孔したと思われた1例は,本集計から除外した.

薬剤

末梢血行障害に対するDuvadilan治療経験

著者: 神谷喜作 ,   都築尚典 ,   熊谷太郎

ページ範囲:P.919 - P.922

Ⅰ.緒言
 末梢血行障害の治療は決して容易なものとは云えない.Raynaud氏病の如く末梢血管の痙攣による疾患においては勿論のこと.動脈或は静脈の各種閉塞性疾患においても,閉塞により惹起される其の領域の側副血行路の形成促進,隣接血管の痙攣を除去する目的で各種の交感神経切除術,閉塞血管切除術,各種血管拡張剤の使用が行なわれている.又直接的に血栓剔出術や人工代用血管の移植が行なわれている.
 しかし愁訴の消失軽減は決して容易でなく,又持続的効果は必ずしも期待出来ず,再発も稀ではない.血管攣縮により生ずる間歇性跛行や局所の冷感疼痛を緩解し,又血流の改善を計り,潰瘍の治癒促進のためにも,上記の手術的療法と共に末梢血管拡張剤は当然使用されるべきものである.

白血球減少症に対するLeuconの効果

著者: 石井淳一 ,   鈴木茂能 ,   五十嵐義男 ,   渡辺嵩 ,   入江正美 ,   吉田正 ,   高垣俊

ページ範囲:P.923 - P.928

I.はじめに
 悪性腫瘍の治療として,今日もつとも期待が出来るものは腫瘍の剔出及び所属リンパ節の廓清である.しかしこれには限界があり腫瘍の比較的早い時期において発見し,且ついわゆる根治手術が施行されなければならない.この早期発見に対してはいろいろな試みがなされているが現在のところ,その期待にこたえるには未だ充分とは云い難い状態である.
 一方,近年癌の化学療法として多くの薬剤が発見され,多数例に使用されてその効果が報告されている.また従来行なわれていた放射線療法も,放射性同位元素の発見及びこの治療面への応用により,外科手術療法とともに著しい進展を示しており今後も益々著しい効果を挙げるものと思われる.

陳旧性創傷に対するM.M.S Clの使用経験

著者: 木下総一郎 ,   毛受武重

ページ範囲:P.931 - P.936

 1940年頃よりBird,Cheney等によつて生キャベツの圧搾汁の中に抗潰瘍性因子のあることが提唱せられて以後,1955年頃までにE.StrehlerはMethyl-Methionin-Sulfonium Salz(以下M.M.S塩と略)がビタミンUの重要な因子であるとし,このものは胃粘膜の再生を促進し十二指腸潰瘍にも治療的効果があるとのべ1),Cheneyもその後の臨床実験で病因的考察を加え,抗潰瘍性因子(Vit,U)の不足を補うことによつて好転した症例を発表した2)
 E.Strehler,T.Bersin等3)は抗潰瘍性因子のうち特にM.M.S Clが有効安定な物質とし,M.M.Sの薬理作用は,体質的な素因もあろうが,代謝の障害によりメチル基を含む物質が不足し.その補充によりM.M.Sを有する之等物質が,特に細胞の核酸代謝に関与し,蛋白合成に役立つてその再生を促進し,一方肝機能の好転も相まつて,創傷治癒に効果があるものと考えた.

症例

頸部に発生せるGanglioneuromaの1例

著者: 渡辺和三郎 ,   遠藤健七郎

ページ範囲:P.937 - P.939

 神経組織成分からなる真の神経腫瘍の一つであるGanglioneuroma(神経節神経腫)は主として腹部交感神経節系統や副腎髄質から発生するとされているが,著者等は最近,頸部に発生して,しかもリンパ腺結核として約半年間も化学療法を受けていた該頸部腫瘍例を経験したので報告する.

大量皮下注射創より発生したと思われるガス壊疽の1例

著者: 阪口周吉 ,   落合剛 ,   伴精一郎

ページ範囲:P.941 - P.943

Ⅰ.緒言
 ガス壊疽は戦陣外科疾患で平時に於ける発生は比較的少い.最近われわれは大量皮下注射創より感染発生したと思われる本症を経験したので報告する.

ガス壊疽の3治験例

著者: 水永浩二 ,   真山信郎 ,   織田英昭

ページ範囲:P.945 - P.949

 ガス壊疽は,いわゆる戦傷に属し平時には稀な疾患であるが,いつたん発病すれば,その進展は極めて速く,早急かつ適切な処置をとらなければ重篤な症状を呈して死の転帰をとることが多い.次に報告する私達の3症例は幸いに治癒せしめえた症例である.

Vater氏乳頭部癌の1治験例

著者: 依光好一郎 ,   長沼睦己 ,   佐藤元昭 ,   後藤吉太郎

ページ範囲:P.951 - P.954

 十二指腸癌は比較的稀な疾患で,諸家の統計によると,全癌の約0.3〜0.4%である.我々は最近膵頭十二指腸切除術により治癒せしめ得た1症例を経験したのでここに報告する.

特発性後腹膜下血腫の1治験例

著者: 岡村光雄 ,   筒井候彥 ,   戶田慶五郎

ページ範囲:P.955 - P.957

Ⅰ.緒言
 特発性後腹膜下血腫は外科的には比較的珍らしく,その診断は困難で多くは開腹術によらねばならず治療も又定説的なものはない.
 我々は最近虫垂炎の診断で開腹術を施行し,虫垂炎と同時に右側の後腹膜下腔に血腫を発見し虫垂切除後血腫内に排液管を挿入し治癒せしめ得たので報告する.

下血を主訴とせる十二指腸ノイリノームの1例

著者: 越智功 ,   西脇勉 ,   三吉秀彥

ページ範囲:P.959 - P.961

 最近私達は下血を主訴として来院,十二指腸潰瘍の診断の下に手術を施行し,術後検索の結果極めて稀有な十二指腸ノイリノームである事を確認した1症例を経験したので報告する.

四世代にわたり男子にのみ発生した多発性軟骨性外骨腫の1例

著者: 林亨 ,   堀内弘

ページ範囲:P.963 - P.966

 多発性軟骨性外骨腫は1821年Cooper & Trav-ersにより初めて記載され,1925年Stocks & Ba-rringtonによりその遺伝性を確認された疾患で1),全骨腫の約7%,全外骨腫の約40%を占めると云われ,現在迄に1,000例以上,本邦においても戦後14年間に約150例の報告をみている.即ち臨床的には必ずしも稀有ではないが,なお比較的珍らしい疾患である.
 我々は最近その一例を診療する機会をえ,これについて濃厚な父系遺伝を認めたので,ここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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