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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻12号

1960年12月発行

雑誌目次

綜説

アルコール内保存動脈移植片の長期遠隔成績—特に十二指腸内に破裂穿孔せる再発腹部大動脈瘤の手術治験例について

著者: 木本誠二 ,   和田達雄 ,   橫田徳雄 ,   菱田泰治 ,   秋山洋 ,   藤森義蔵

ページ範囲:P.977 - P.984

緒言
 著者らは血管外科研究の初期においてアルコール内保存同種および異種動脈の移植に関する実験的ならびに臨床的研究を行ない,満足すべき成績を得ていることを報告した1)-4).しかしその後,腹部大動脈に移植されたアルコール内保存異種動脈(馬)が強い変性のため動脈瘤を生じて9カ月後破裂した症例を経験し,また犬の胸部大動脈に対する移植実験において,合成代用血管に較べて,アルコール内保存動脈が成績不良であることを認めたので5),合成代用血管の研究に力をそそぎ,昭和32年以来,臨床的に合成代用血管を使用する方針をとつていることは,度々報告した所である6)
 しかしなお一方では,我々はアルコール内保存動脈を移植した症例の遠隔成績を厳密に観察していたのであるが,最近アルコール内保存同種および異種動脈(羊)を移植してからそれぞれ7年3カ月,および6年6カ月無症状に経過した症例に大動脈撮影を行ない,はからずも2例共に動脈瘤が再発していることを認めた.そのうちの第1例は,再手術を奨めていたところ移植7年7カ月後に突然吐血をおこして来院した.これは移植片から生じた動脈瘤が十二指腸内へ破裂穿孔したもので,幸いにも合成代用血管の再移植に成功し,患者の一命を救うことが出来た.

先天性幽門狭窄症について

著者: 志村秀彥 ,   永光慎吾

ページ範囲:P.985 - P.991

はしがき
 先天性幽門狭窄症は新生乳児期,特に生後2週前後から始まる激しい嘔吐を主訴とし,適当な治療がなされねば栄養障害の為め死に至る極めて印象的な先天的疾患である.本症については1717年Blairにより始めて報告され,其の後Armstr-ong(1777),Beardley(1787),Hirschsprung(1889)等により臨床的或は病理解剖学的に,其の病態が明らかにされた.
 欧米では比較的多い疾患であり,Schaefer,Ward,Ladd,Gross,Raisch,等により数千の手術症例が報告されているが,本邦に於ける報告は少なく,坂内(1934)の報告以来70数例に過ぎない.欧米でもアングロサクソン族,ゲルマン族はローマ族及びスラブ族より頻度が高いとされている処からすれば,種族的差異も多少は存在するものと思われる.然し其の原因に関しては,全く未知の領域にある.本邦では外科的治療を必要とする例が少ない.其の理由として本症はしばしば他の疾患と混同され又内科的に治療される例が多い為とする者もある(相沢,里見).

黄疸を伴なう外科的患者における肝流血量に関する臨床的研究

著者: 世耕克巳

ページ範囲:P.993 - P.1005

緒言
 肝臓は生体内物質代謝の中心的臓器であり複雑多岐な機能を営んでいる.外科領域においても,肝機能の重要性に関しては多くの業績があげられている.すなわち,手術や麻酔後における肝機能障害の発生が知られ,ときにはかかる肝機能の破綻が致命的な結果をもたらし,いわゆる肝臓死,肝腎症候群として恐れられてきたところであり,術前肝機能の良否は手術の予後決定に関与する重要な因子と目されるに至つている.ことに肝の重要な機能の一つであるビリルビン代謝における障害の標示である黄疸の発現に際しては,(従来から指摘されているごとき肝機能の障害に解離性があるとしても),多かれ少かれ,そのたの肝機能も障害されるものとされ1),大野2)は「肝障害のない黄疸はない」とも述べている.また外科的黄疸に際しては肝機能障害の程度が強く,術後肝不全,肝臓死を来たすことが稀でないことが三宅3),桂4)等によつて指摘されている.
 一方近年,臓器循環の重要性が認識せられてくるとともに,臓器循環の障害は臓器の無〜低酸素症を惹起し,臓器機能に多大の障害を与えることが知られ,肝臓においても肝のアノキシアは術後の肝機能障害,肝不全あるいは肝臓死の要因として,またFine5),あるいはShorr6)の説にみられるごとく不可逆性シヨツクの因子として重要視されてきた。

Conference

臨床外科懇話会記録(11)

著者: 日本大学医学部外科

ページ範囲:P.1007 - P.1011

肺結核症に合併した動脈管開存症の1例
 肺結核症に対する左上葉S1+2区域切除術を施行した際,動脈管の開存を発見し,同時に動脈管結紮術を行つた症例を経験した.
 患者:45歳,男子.

薬剤

白血球減少症に対するAdenineの使用経験

著者: 渋沢喜守雄 ,   斉藤純夫 ,   森田茂 ,   安斉徹男 ,   塩崎秀郎 ,   臼井龍 ,   高野晃寧 ,   大塚浩之

ページ範囲:P.1013 - P.1019

 悪性腫瘍に対する外科療法の前後に,放射線照射並びに制癌剤投与が必要なことは云うまでもない.しかし,これらの治療経過中,白血球減少症がしばしば現われることは衆知のことである.白血球減少症に対しては新鮮血輸血が主として用いられているが,継続的に使用される有効薬剤は数少ないようである.
 Adenineは核酸の構成成分として知られているが,1946年来,フランスのLecoqらによつて放射線障害・制癌剤による顆粒細胞減少症に有効と報告されてきた.

外科領域におけるアイロゾン使用の経験

著者: 北川司良 ,   渡部高久 ,   秋岡義清 ,   秋岡義将 ,   橫田巖

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 外科的感染症の治療に際して,今日もつとも問題となるのは耐性菌の増加であるが,幸いにしてErythromycin,Oleandomycinなどに対する感受性はまだまだ失われていない.
 これは従来用いられたenteric coated Erythro-mycin base Tabletの経口投与が,毎6時間100〜200mgでは効果の発現が弱く,各種Tetracy-clinesほどに濫用されなかつた為でもあるが,さりとてErythromycin単独で急速な症状改善を期待するには大量の投与を必要とし,時に悪心,嘔吐,下痢などの副作用をきたすおそれがあつた.ところがErythromycinをプロピオン酸塩にしたErythromycin propionylは内服により高度の血中濃度が得られるといわれ,又副作用もそれ程強くないと報告されているので,われわれは臨床例に就いてその効果,血中濃度,副作用などを検討してみた.

術後疼痛に対するDedoranの効果

著者: 長岡四郎 ,   倉内昭二 ,   浜昭祐 ,   神谷春生 ,   松下兼二郎 ,   柿沼源一

ページ範囲:P.1027 - P.1029

はしがき
 術後疼痛の除去に用いられる薬剤は多く,その効果についても多数の報告がある.ことにフェノチアジン系薬物の除痛効果についてはわれわれが最初に臨床観察を行つて報告したものであるが,その製剤セデス注についても使用経験を報告10)したことがある.このたび更に新しいフェノチアジン系鎮痛催眠剤Dedoranの術後疼痛除去効果について観察する機会を得たので,少数例ではあるがその経験を報告する.

外科領域におけるグルタミン酸アルギニンの使用経験

著者: 吉葉昌彥 ,   大石孟男 ,   小島昭三 ,   大塚敏文 ,   藤木弘毅 ,   石郷岡政彥

ページ範囲:P.1031 - P.1034

はじめに
 Davidson等1)によつて血中アンモニア濃度の増量が肝性昏睡発現の重要な因子として認められるようになり,更にWalsche2)によつて本症の治療上アンモニア代謝機構に直接働くと考えられるl-グルタミン酸の優れた効果が発表せられ,次いでGreenstein3)は実験的にl-アルギニンがアンモニアの毒性を抑止することを報告し,更にNajarian等4)はl-アルギニンを臨床的に肝疾患患者に応用し高アンモニア血症の治療にかなりの効果があることを述べている.
 即ちグルタミン酸はアンモニアと結合してグルタミンとなるのに対してアルギニンはいわゆるオルニチン・サイクルによる尿素合成に関与してアンモニアを処理するわけであり,その作用機序は全く異つている.

外国文献

人工心肺を用いた肺動脈狭窄の手術法,他

著者:

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 低体温法あるいは体外循環法を用いて,肺動脈狭窄の手術がなされていることは,周知のところである.GerbodeらはStanford大学外科で55例経験をしたが,うち29例は体外回路を応用した.その大部分は高度狭窄で,28例のうち16例は筋肥大による二次的のinfundibular stenosisを呈していた,早期死亡3例.その2例は灌流操作不慣れのため,1例は第3日目に死亡,到達は最近16例のうち14例は心室経由で,死亡はない,体外回路を用いるのは直視下手術が必要だからで,またそれによつて隔壁欠損の治療も可能である,Infundibular stenosisは弁狭窄を解除しても右室からの送血障害を残すので,患者の予後に大きくまた弁切開後は血液の心室内逆流を招きうる,右室圧の高い症例は甚だ危険ということになる,それで収縮期右室圧90〜249mmHg13例は経室的に入つて筋切除を行つた経室的到達でないと十分に手術できない。

症例

興味ある経過をとつた若年者原発性肝癌の1例

著者: 河野孝男 ,   喜多博

ページ範囲:P.1035 - P.1041

緒言
 従来より肝癌は他臓器から転移せるものが其の大多数を占めていて原発性のものは少く,また其の年齢的関係も一般に他の諸臓器に於ける癌腫と同様に比較的高齢者に多いとされているが,私共は最近松倉外科教室に於て興味ある経過をとつた若年者の原発性肝癌と思われる1例を経験したのでここに報告する.

直腸に発生した滑平筋肉腫の1例

著者: 北条重久 ,   礒利次 ,   山崎寬一郎

ページ範囲:P.1042 - P.1044

 直腸に発生する滑平筋肉腫は,稀な疾患である.1881年Vander Espt1)が初めて,直腸滑平筋腫瘍について記載している.1946年Goldman & Marbury2)は,文献上150例の直腸肉腫を蒐集し,その中滑平筋肉腫は8例のみであると報じている.1952年Neuman3)が之に1例を追加している.本邦では,岩井,菅谷4)が第1例を報告し,藤巻,若桑5)が1剖検例を報告しているのみである.我々は,直腸滑平筋肉腫の1症例を経験したので報告する.

巨大な悪性頸動脈毬腫瘍の1例

著者: 三河内薰丸 ,   鷹栖昭治 ,   今田潔 ,   中沢弘 ,   西脇義也

ページ範囲:P.1045 - P.1049

 頸動脈毬腫瘍は稀な疾患で我が国では現在迄本例を含めて20例の報告があるに過ぎない.我々は手術所見により本例を疑い死後剖検により確診された巨大な頸動脈毬腫瘍患者を経験した.
 本例は生前の組織学的検索で確診が困難であつた点及び腫瘍の大きさが今迄報告されたものの中で最大であつた点が興味があるので報告する.

腸管被膜症の2例

著者: 金谷春之 ,   山崎豪男 ,   堀江信一 ,   沢井靖明 ,   石川育成 ,   中島彰 ,   間山忠

ページ範囲:P.1051 - P.1057

はしがき
 本症は,1907年OwtschinnikowによりPeri-tonitis chronica fibrosa incapsulataとして初めて発表され,その他Polyserositis(Esau 1913),Seltene Peritonitis forme(Eunike 1919),Zucker-gussdarm(Winnen 1921)とも呼ばれているもので,又本邦では1926年,権藤が腹膜奇形として初めて報告し,ついで1927年塩田教授により「腸管膜様包裏」と命名された疾患である.
 私共は,最近結核性腹膜炎並びに胃癌を原発とする癌性腹膜炎による本症の2例を経験し,特に後者において,剖検の機会を得,病理組織学的検索の結果,本症の発生機転について興味ある知見を得たので,その概要を本邦症例の統計的観察と共に外科22巻10号に発表し,被膜形成機序について考察を加え,同時にその名称として,腸管被膜症と称することを提唱した.ここでは主としてその症例について述べ,本症の2例を報告する.

胃エオジン好性細胞肉芽腫の1例—胃ポリープとして来たエオジン好性細胞肉芽腫の1例

著者: 木山敞 ,   近藤日出海

ページ範囲:P.1058 - P.1061

 1940年Lichtenstein及びJaffe1)が本症候群に対して,エオジン好性細胞肉芽腫と命名して以来本症の報告は漸次増加し,本邦でも多数例が記載されている.
 しかし胃粘膜に発生するエオジン好性細胞肉芽腫は比較的まれで,本邦では数例の報告があるにすぎない.

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「臨牀外科」第15巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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