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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻4号

1960年04月発行

雑誌目次

綜説

イレウスに対する不手術的治療—胃腸内容吸引法について

著者: 斉藤淏 ,   安藤賢治

ページ範囲:P.289 - P.298

緒言
 イレウス腸管の膨満に伴う病態をとりあげてみるに,腸内容の停滞とその分解,腸内細菌の異常増殖,腸管壁の血行障害,腸壁血管の透過性の増加,腹膜炎,腸管麻痺,腸管壊死,また高度の胃拡張や鼓腸による横隔膜の挙上および腎や下空静脈の圧迫などにもよつて起る肺・心・腎の機能障害,さらにまた肝および全身の血液循環障害など重篤な病態に連なる悪循環が急速に展開する一面を有する.とにかく速かに膨満腸の縮小をはかり内圧の亢進を減退せしめようとする原始的かつ素朴な処置はすでに古くから行われて来たのも故なしとしない.すなわち応急処置として腸瘻設置が行なわれその効果はひろく認められていることは周知のことである.またイレウス患者にはガスを異常嚥下する傾きのあることは筆者らの実験研究によつても明かなことであるから,これを吸引除去することもまた有要な対策と云わねばならない.
 挿管による腸内容排除の歴史は古くSchetma(1908)に始まるという.その後の多くの経験によつて,挿管減圧法(Suction drainage,Intubation decompression)はイレウス治療法として高く評価されるに至つた.

開腹時における門脈圧肝静脈圧および末梢静脈圧の研究

著者: 市川靖一

ページ範囲:P.299 - P.312

緒言
 門脈圧,肝静脈および末梢静脈圧に関しては,すでに詳細なる研究がなされている.すなわちMoll (1892)が動物実験によつて,門脈圧を測定し生理学者の注目を引くところとなり,臨床的にはRouselot,Thompson,Whipple(1936〜1937)等によつて門脈圧亢進症の概念が提唱されて以来,正常門脈圧あるいは,門脈圧亢進症について幾多の報告がある.肝静脈圧については,Brodley Myer(1949〜1950)によつて,始めて臨床的に測定せられ,その後,多くの報告がなされている.しかし個々の静脈における圧の変動についての報告は割合少なく,まして3静脈(今後門脈,肝静脈,末梢静脈の3つの血管をさす.)の圧を同時に測定してその変動あるいは諸因子のおよぼす影響に関する業績は余り見ないようである.
 教室では,主として上腹部疾患の開腹手術時に血管カテーテルを門脈,肝静脈および末梢静脈に挿入して,これ等を教室考案の圧測定装置に連結し,さらに特殊型電子管式電気抵抗記録計によつて3静脈の圧を自動的に連続描記せしめ,その変動,相互関係および諸因子が,圧におよぼ影響等について観察し2〜3の知見を得たのでここに報告する.

イレウス侵襲と下垂体副腎皮質(その2)

著者: 吉葉昌彥 ,   榎本茂 ,   小島昭三

ページ範囲:P.313 - P.321

 前報では今日迄にわが教室においてイレウス時における内分泌の諸相に関して,特に脳下垂体および副腎皮質を中心としておさめ来つた諸成績について文献的考察を試みると共に,さらにそれらを基としてその後われわれの得た研究成績の中で,脳下垂体剔出のイレウス時副腎皮質ホルモンの変動に及ぼす影響,イレウスシヨツク時における血清抗利尿物質の増量とその機序に関する研究成績および血清抗利尿物質と副腎皮質ホルモンに就いて述べ来つたが,今回はさらにその後得た成績に就いて報告する次第である.

術後急性肺水腫に関する臨床的ならびに実験的考察

著者: 千葉智世 ,   林久恵 ,   大沢幹夫 ,   田中孝 ,   清水寿子 ,   岩本淳子 ,   橋本明政

ページ範囲:P.323 - P.332

緒言
 急性肺水腫は胸部外科に合併する重篤な疾患である.一旦発症すれば忽ち高度の換気障害を惹起し,これに原因した急性アノキシアはさらに悪循環を形成し,遂には不良の転帰をとるものが多く,非常に恐れられている.石川氏の統計によれば肺癌を含む慢性肺疾患手術に最も多く次いで心臓手術等に多いとされている1).従つて多くの人人がこの病態生理の追求に多くの実験をこころみ,その原因としていろいろな条件をあげて来たが未だ統一されない状態である.われわれは数年来,実験的研究をつづけ肺水腫の直接の原因は肺動脈圧の亢進にあるという結論を得た.事実,上にのべた多くの条件が肺動脈昇圧作用を有し,これが共通の作用機序をなすと考えられる.すなわち肺剔除それ自身一過性ではあるが肺動脈圧亢進を招き,アノキシア,輸血等は勿論,中枢神経障害時,あるいは心疾患中殊に本症と関連深い僧帽弁狭窄症でも肺動脈圧の亢進をみとめるのである.われわれは今迄とりあげられて来た諸誘因は結局は肺動脈圧上昇という一機転に統一され,これが滲出を招く最大の因子と考えるのである.ここに現在迄行つて来た実験の概要を述べ,あわせて臨床例として仮に心臓手術例のみをとり上げて肺動脈圧の変化を中心に考察したいと思う.

Conference

臨床外科懇話会記録(6)

著者: 日本大学医学部外科

ページ範囲:P.335 - P.341

腹壁に発生した筋肉腫の1例
 筋肉腫は必ずしも稀なものではないが,腹壁に発生した報告例は少い.私の教室でも最近偶々,腹壁に発生した筋肉腫を経験した.
 症例 29歳 主婦

薬剤

胃癌の治療について—(1)外科手術とMH(ヘマトポルフイリン水銀錯塩)(マーフイリン)との併用に関して

著者: 飯島登

ページ範囲:P.343 - P.356

 現代の科学は,かつては漠然と"生命力"として片附けられていた神秘的領域にまでも,迫りつつあるというのは過言であろうか.
 外科領域でも,昔は傍観する以外に手段のなかつた内臓の諸疾患も,次々と外科医のメスによつて積極的に治療される現状である.

腸運動刺激剤としてのパントールの使用経験

著者: 政所修治 ,   大脇勇介

ページ範囲:P.357 - P.359

まえがき
 開腹術,あるいは腹膜に刺激の加わる手術に際して,術後最も重要な合併症の1つに,腸運動低下による腸管内容停滞,腸管膨隆の問題がある.殊にその手術が脊椎麻酔下に行われた場合には,内臓神経,骨盤神経系の麻痺あるいは遮断により多少共いわゆる生理的イレウスの状態となるものであり,この生理的イレウスはさらに増悪して麻痺性イレウスまで発展する場合もあり,術後患者管理に際して,日常われわれがグル音の聴取,腸内ガスの自然排出に留意している所以である.
 従来より腸運動を促進する方法としては,プロスチグミンの筋注,高圧浣腸,メンタ湿布,高張食塩水の静注等が一般に利用されているが,プロスチグミンのアセチルヒョリン分解酵素阻止作用の外には,積極的に腸運動を促進するものはないようである.1951年J.E.Jacquesは術後麻痺性イレウスにパントテン酸を応用して良効果を得,パントテン酸と腸運動との関連性を強調している.最近われわれは,東亜栄養化学の好意により,パントテン酸の新誘導体パントテニールアルコールから作られたパントール注射液を使用する機会をえたので,その腸運動との関係について検索した結果を報告する.

症例

外傷性気管支閉塞に対する気管支形成術の1例

著者: 真田幸三

ページ範囲:P.361 - P.364

緒言
 最近われわれは閉鎖性胸部外傷により,右主気管支部の断裂を来し,さらに該部の瘢痕性閉塞のため右肺の完全無気肺のまま呼吸困難,心悸亢進等を訴えて,受傷後約1年近くも経過せる患者に対し,気管支形成術を行い術後右肺の再膨脹を認め得た興味深い1例を経験したので報告する.

外傷性胸部大動脈瘤を疑われた縦隔血腫の1例

著者: 工藤武彥 ,   島崎和郎 ,   深水条輔 ,   緒方昭逸

ページ範囲:P.365 - P.368

 外傷によつて大動脈瘤が生ずることはすでに知られておるが,この種の発表は本邦においては甚だ稀である.われわれは受傷を契機としてX線写真上,大動脈弓部から下行部にかけて次第に増大する陰影を認めた症例で,外傷性胸部大動脈瘤を疑われた縦隔血腫の1例を経験したので報告する次第である.

副腎Myelolipomaの摘出治験例

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.369 - P.372

 副腎皮質下に脂肪および骨髄様組織を最初に認め組織学的に記載したのはGierke1)であり,彼は自験の1例と,Arnoldの教室より与えられた1例を報告している.このような副腎皮質下の脂肪および骨髄様組織にOberling2)はMyelolipomaという名称を与えた.その後1932年Collins3)は文献上15例を集め,それに自験の1例を加えて報告している.その後Gormsen4)2例,Giffen5)7例,Mc Donnell6)4例,Hickel7),Sternberg8),Priesel9),Kovács10),Oberling1),van Dam11),Soós12),Paul13),Schmidt14),Richardson15),Barten16),De Navas-quez17)の各1例およびKruse18)の猿に見出された1例の報告があり,人間では私の調査した所では現在まで42例の報告を見出すことが出来た.これら全症例は副腎腫瘍としての臨床症状を呈することなく,剖検により偶然に見出されたものである.われわれは最近圧迫症状のみを呈し,腎腫瘍の疑で手術を行つた処,副腎の巨大なMyelo—lipomaであつた症例を経験したのでここに報告する.

虫垂炎を合併せる総腸間膜症の4例

著者: 別府俊男 ,   島田彥造

ページ範囲:P.373 - P.379

緒言
 総腸間膜症(Mesenterium commune)とは盲腸および結腸が,小腸と共通の遊離腸間膜を有し,可動性になつている内臓奇型である.すなわち,人類は胎生期第11週まで大腸小腸が共通の腸間膜を有し,これが出生までに腸管の廻転,癒着,固定が行われて,正常の位置を占めるのである.しかるに,回盲部の不完全廻転,腸間膜の後腹壁への固定不充分な場合には総腸間膜症を惹起する7).軽度のものは,盲腸および上行結腸の一部が小腸と共通の遊離腸間膜を有している場合で,これを回盲総腸間膜症(Mesenterium ileo-coecale commune)と称し,高度のものは,横行結腸前半まで小腸と同一の遊離腸間膜を有するもので,回結総腸間膜症(Mesenterium ileo-colicum commune)と呼ばれるものである.また,本症は腸管および腹膜の発育異常や,腹膜の固定異常,大,小網の発育不全および欠損等をも合併することがある42)
 本症は,1850年Bednerが乳児の屍体解剖において発見し,臨床的には1898年Zoege von Ma-nteuffel1)が盲腸軸捻転を合併した本症を発表して以来,多くの報告がある.本邦においては,1928年中田,岡田5)による報告より昭和34年6月までに,記載明らかなものだけでも128例が報告されている.

クローン氏病の2例について

著者: 松尾三千雄 ,   吉田毅 ,   安井拓平 ,   近常恒雄 ,   米田篤

ページ範囲:P.381 - P.383

緒言
 本症はCrohn,Ginzburg and Oppenheimer1)が1932年にRegional ileitisとして発表して以来注目せられるようになつた疾患である.当時Crohn et al.が発表せる14症例は何れも本疾患が廻腸末端に局在せる特徴を有していたが,その後空腸,結腸,廻盲部および虫垂突起,亦時として全小腸が広汎に浸された例2-8)が報告され,クローン氏病なる名称は発生部位の特徴を失うに至つた.
 また本疾患が原因不明のことからも他の疾患と間違われ易く,開腹手術によつて初めて診断のつくことが珍しくない.最近私達は本症の2例を経験したのでここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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