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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科15巻8号

1960年08月発行

雑誌目次

綜説

胃癌再発に関する2〜3の問題

著者: 犬塚貞光 ,   溝口政澄

ページ範囲:P.649 - P.658

1.緒言
 胃癌外科において,最近著るしく進歩したものは,胃切除乃至は胃全摘施行率の上昇と,手術死亡率の低下であるが,その反面,胃癌の根治成績という点になると,決して満足し得る現状ではない.その理由としては色々のものがあげられようが,術後ほど経ずして再発死亡する事もその1つである.然るに,従来の胃癌再発の場合は,これに再度根治手術を行なうことは,初回手術のそれより困難で,多くは姑息的治療を余儀なくされて来た.飜つて,胃癌には一応根治手術を行ない得ても,その大半を再発の為に失なうとすれば,外科医として全く残念な事でもある.従つて,再発胃癌の外科的治療も,胃癌の根治を期する点で重要な課題であると思われるし,更に術後再発例の臨床所見より,胃癌根治手術を反省して,その根治成績を向上せしめることも肝要であろう.
 最近,私達は斯の様な観点より,胃癌根治術後の再発乃至再発の危険のある例について外科的処置を行ない,僅かな経験ではあるが,胃癌再発の治療に関して極めて示唆に富む2,3の知見を得たので,茲に症例をあげて聊か論述し,大方の御批判を仰ぎたいと思う.

横隔膜下盈気像よりの術後気腹の観察

著者: 新橋義一 ,   上条信次 ,   加藤允 ,   服部光男 ,   田中勝治

ページ範囲:P.659 - P.664

 開腹術後の合併症のうち,案外看過されているものに術後気腹がある.術中腹腔内に入つた空気が術後若干残存することは当然であるが,通常は短時日に吸収されて問題とはならない.しかし時として異常に大量かつ頑固に残存することがある.これが術後気腹症(postoperative pneumope-ritoneum)と名付けるもので,甚だ不快な症状を発現することがある.術後気腹に関してはすでに1922年Lewisの研究をはじめW.H.Gerwig(1940および1944),J.E.Bannen(1944および1945),D.Keiser & K.Lemmertz(1947),S.A.Sergievskiy(1947),I.Harrison & H.Litwer(1957)等の報告があるが,わが国では比較的関心が薄く,僅かに国見(1952),石山(1953)の少数例の報告に接するのみである.われわれは偶然定型的術後気腹症の1例に遭遇したが,当初その気腹の空気量が余りに大量であるので,その診断に苦しみ甚だ困惑したことを動機として,術後気腹の認識不足を痛感し,後述のごとき観察を試み,いささか知見を得たのでここに報告して諸賢の御批判を仰ぐ次第である.

後腹膜嚢腫について

著者: 大同禮次郎 ,   中山幸雄 ,   辻俊三

ページ範囲:P.667 - P.670

 後腹膜腫瘍は稀有な疾患であるが中でもその嚢腫に関する臨床報吉例は極めて少ない.1829年Lobsteinが始めて後腹膜腫瘍の定義を公にして以来,内外諸家の報告も時に見られるが,私も最近左下腹部に発生した興味ある後腹膜嚢腫を剥出全治せしめた1例を経験したので文献的考察と共に報告する.

術技

脊椎分離症,辷り症に対する後方固定術(河野法)の検討

著者: 有馬純郎

ページ範囲:P.671 - P.673

 脊椎分離症,辷り症のうち,臨床症状の軽度のものには保存的療法が用いられているが,保存的療法で効果のないもの,臨床症状の重いものには観血的療法が行われる.
 本症に対する観血的療法には,Albee,Hibbs,Henle,Otterloo等によつて始められ,その後もDonking,Ma Bride,Lau,Bosworth,James,光安,中野,森,西などによつて報告された後方固定術と,Burns,Mercer,Jenkins,Friberg,島,岩原,近藤,鈴木等によつて行われた前方固定術とがある.

骨端部損傷に対するステープルの応用

著者: 山谷儔 ,   平尾隆義 ,   西本忠治

ページ範囲:P.675 - P.679

緒言
 Staple(かすがい)は,Laneが1914年に骨折治療に用いたのを始めとして,Blountが長管骨の成長抑制に利用し,さらにNachlas(1950年)らは,脊柱側彎症の治療に,Burnsらは,足関節固定術に応用するなど,広範囲に用いられるようになつた.
 我国でも,すでに,水野,島,玉井,諸富,津下,宮城等によつてその使用経験が報告されている.われわれも,Stapleを,主として,骨端部損傷に対して使用した.症例は僅かだがその結果を報告し,御批判を仰ぎたいと思う.

剖検

外傷(骨折)により発生せる肋骨肉腫とその剖検例

著者: 高見嘉重

ページ範囲:P.681 - P.684

 外傷が肉腫の発生原因になり得ることは以前より知られ且つ報告され多々異論もあるが,われわれは最近明に外傷により発生したと思われる例を経験したので茲に報吉し,且つ抗腫瘍剤の大量使用に拘らず,その効全く無く肝臓に転移を来し,遂に死亡せる例につき臨床経過並に剖検所見につき記述してみたいと思う.

薬剤

アミノ酸利用率に対するナイレバールの影響について

著者: 井坂功 ,   袴田章二 ,   山際昭男 ,   木村邦夫 ,   長谷川泰造

ページ範囲:P.685 - P.687

緒言
 蛋白の同化を促進する物質が,治療上大いなる価値を有する事は古くから認められていた.1935年Kochakian et al.1)が,男子尿エキスを犬に注射した際,男性化作用のみならず窒素蓄積作用のある事を指摘して以来,アンドローゲンには窒素,カリウムおよび燐の尿中排泄を減少2)させ同時に,これら要素の蓄積を起させ得る事が,明にされるに到つた.
 而しながらアンドローゲンには,強力な男性化作用がある為,蛋白同化の目的に使用する場合,しばしば好ましくない結果を生じた.

創傷面pHの測定およびトリプシンの効果

著者: 綿貫喆 ,   北川龍一 ,   池田貞雄

ページ範囲:P.689 - P.693

 創傷の治療は外科医にとつて根本的重要な問題であるが,最近の化学療法の発達はめざましく創傷治療において大いに益することがあるのは周知の事実である.しかし創傷のなかには,一斯癒合を営むことが不可能なものもあり,組織の壊死などが創の治癒を妨げる場合も多い.このようなものにたいして近年種々の蛋白質分解酵素の利用がさかんに行われている.
 酵素化学の進歩により,種々の蛋白質分解酵素が分離精製され,enzymatic débridementとして臨床的応用が行われるようになり,いずれも創傷治療にいちじるしく良好な成績をあげている.なかでも1931年Northrop等により膵臓より結晶として取り出されたtrypsinおよび1945年Tillet等により溶血性連鎖球菌より分離精製されたstrepto-kinaseとstreptodornaseとからなるvaridaseが,広く利用されている.

症例

特発性総輸胆管拡張症の1例

著者: 島田彥造 ,   別府俊男

ページ範囲:P.695 - P.697

緒言
 特発性総輸胆管拡張症は総輸胆管が嚢腫状に異常に拡張し,胆汁の停滞をきたす疾患であつて,Idiopathische choledochus cyste,Dilatation of the common bile duct,Megalocholedochusなどと呼ばれているが,この本態よりして特発性総輸胆管嚢腫,特発性総輸胆管拡張症というよりもむしろ先天性総輸胆管拡張症と命名すべきであると主張するものが多い1)2)
 本疾患はLavensonによれば1923年Vater,次で1817年Toddの報告があるがこの2症例には硬化性膵臓炎の合併があり,果して本症か否か疑問視されている.従つて1852年のDouglasの報告をもつて第1例と考えられる.以来,今日までその報告数は300例以上の多きに達している.Shallow3)4)は182例を集め詳細に考察を加えている.

膵単独皮下損傷の1治験例

著者: 鈴木茂能 ,   小出仁 ,   岩堀二郎

ページ範囲:P.699 - P.700

緒言
 膵の皮下損傷は,解剖的な関係から頗る稀といわれ6)7),しかも単独に膵のみが損傷を蒙ることは,更に稀である.私どもは最近膵の単独皮下断裂の1例を経験し,幸いにも手術的に救助し得たので,報告する.

胃捻転症の1例

著者: 大沼弘治 ,   川南千万夫

ページ範囲:P.701 - P.702

 胃捻転症については1866年Bertiが剖見によりこれを発見し,臨床例としては1897年Bergが始めてその2手術例を報告した記載がある.本邦では明治44年山村による手術例を第1例としているが,その後本症の報告例必ずしも多しとしない,われわれも急性胃捻転症の1手術治験例を得たので報告する.

臍帯ヘルニアの1治験例

著者: 汐崎公太 ,   和田博義

ページ範囲:P.703 - P.706

緒言
 臍帯ヘルニアは比較的稀な先天性奇型の1つであるが,最近当教室において大腸および小腸を内容とする本症の1例を経験し,手術により治癒せしめ得たのでここに報告する.

蝶形椎体の1例

著者: 山谷儔 ,   平尾隆義 ,   西本忠治

ページ範囲:P.707 - P.709

1.緒言
 蝶形椎体Schmetterlingswirbelの報告例は,1914年にFretsが,骨格標本の1例を発表して以来,今日まで30例に満たず,一般に稀有のものとみなされているが,本症は,臨床症状が軽微なので,看過されるものもかなりあると思われる.
 われわれは,最近本症の1例を経験したのでここに報告し,いささか考察を加えてみたいと思う.

新刊書紹介

—Markowitz,Archibold,Downie著—Experimental Surgery(実験外科学)

著者: 浜口栄祐

ページ範囲:P.709 - P.709

 動物実験手引きの種類は少なくないが,その多くは実験用動物の解剖,習性,飼育,繁殖などに関するもので,手術術式や手術手技に関する記載は全然ないか,あつても極く簡単で,申しわけに付け足した程度のものである.そのなかにあつてMarkowitzらのExperimental Sur-geryは常用実験動物における手術書であつて,特に各種の手術術式とその手技を詳細に記載している点では類書にその比を見ないものである.今回改版の第4版(1959)を手にしたので,旧版(第3版1954)と比較対照してみたところ,かなり書き改められていることが判つた.それは主として次のような点である.
 旧版は32章851頁であるが,新版は35章931頁で,約10%増頁である,始めの32章の項目は旧版と殆んど変りがないが,そのうち第7章ではPhysiological Effects of Re-versal of Peristalsisの項目が加わつて胃腸の切除術や吻合術の種々の術式,小腸や大腸の広範囲切除術などの後の消化管運動の変化をレントゲン連続撮影で追究している.第21章移植術では各臓器組織の移植に関して特に筆を加え,新項目も加わつて一層詳しいものとなった.第26章心臓の手術は殆んど全く新しくなり,第28章自律神経系も随分加筆されている.新しく追加されたのは第33章前立腺,第34章冬眠および低体温法,第35章中枢神経系である.

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集談会

著者: 堀口泰良 ,   日野和雄 ,   大島昌 ,   柳沢文憲 ,   清水健太郎 ,   都築正男 ,   尾見安朗 ,   泉雄勝 ,   田中大平 ,   織本正慶 ,   大井実 ,   田中憲二 ,   蛯名寿家夫 ,   野口晃平 ,   中村嘉三 ,   高倉永政 ,   吉田充 ,   島田信勝

ページ範囲:P.710 - P.711

第581回東京外科集談会
1)頸部動静脈瘻について
 ⅰ)14歳女子.主訴は心悸亢進,体重減少,甲状腺腫大.基礎代謝率+61%,Ⅰ吸収は15分46%,60分65%で甲状腺機能亢進.収縮期雑音聴取.頸部動静脈瘻に対し結紮,切離を施行したが術後急性胃拡張,嚥下性肺炎合併,全身の強直性痙攣のため死亡.
 ⅱ)14歳男子,左顔面腫脹,発赤,歯齦出血あり,静脈圧迫により腫脹は増強.X線で左室の拡大,心電図は高電位,収縮期雑音聴取.頸動静脈間瘻を疑い手術施行,結紮,切除するも良好でなく,総頸静脈切除により軽快.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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