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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科16巻10号

1961年10月発行

雑誌目次

綜説

骨肉腫の治療

著者: 阿部光俊 ,   三上隆三 ,   渡辺脩助 ,   五十嵐三都男

ページ範囲:P.841 - P.854

序言
 四肢の骨原性肉腫(Osteogenic sarcoma)に対しては,早期発見,即切断が最もよい治療法であると,一般に信じられている.しかし単に切断と云う問題だけでも,もう少し深く分析して見て,例えば,切除術でも完全に腫瘍を摘出できそうなものでも切断しなければならないか,脛骨下端の肉腫に対して,脛骨上部,膝関節,大腿下1/3の三者の中で何れの場所で切断するのが最もよいか,切断術にさいして,中枢部を二重結紮して,その中間で切断することが転移の予防に幾許の効果があるか,術前または術後の放射線照射が果して有効であろうか,もし照射がよければ,如何なる範囲に,どれ程の量を照射したらよいか,等と考えてゆくと,その一つとして,確信をもつて断言できる資料が殆んどないことを発見するのである.
 そもそも早期切断が最高の治療であると云う根拠すら,至つて薄弱である.唯,永久治癒者の中には切断術を受けた者が最も多いと云う事実だけで,斯く決論されるのであるが,早期切断にも拘らず,その80ないし90%が転移で死亡することや,術後急速に転移が明瞭になり,手術が却つて死期を早めた例のあることを思うと,改めてわれわれの治療が,如何に幼稚であるかを告白せざるを得ない.殊に切断を早期に行つた方が良いことを裏付ける統計は全くないのであつて,常識的に早ければ早い程,転移は防止できるだろうと,単に想像しているにすぎない.

乳腺ページェット氏病について

著者: 高橋希一 ,   柿崎真吾 ,   津田敏夫

ページ範囲:P.857 - P.862

 乳嘴部の湿疹様皮膚病変に続発する乳癌の特異な経過をPagetが記載したことに由来するいわゆるPaget氏病の概念は,一般医家には極めて普遍的周知な事実に拘らず,診療の実際においては,その診断にかなりの困惑を伴うことが多いのに驚く.例えば乳嘴部または乳頭部の一側または両側の湿疹を主訴とする患者を診た時,これがPaget氏病であると断言もできなければ,またそれを否定することもできない.一体診断の決定には如何なる時機や条件が要素として必要であろうか?湿疹から癌腫の発生する迄を臨床家は拱手傍観すべきものか,またはそれ以前に積極的に湿疹部に手術侵襲を加え,標本の検索により始めて診断が下さるものであろうか?若し後者とすればそれは一般臨床家の持つ概念たる臨床像を主とする経緯と相異なり主客顛倒したものとなる.さらにはまた,本邦の文献に散見されるPaget氏病(乳腺の)の症例報告においてその趣旨の不確実さがうかがわれる例が少なくないようである.かくてこの臨床や診断の面の疑問やジレンマの解決のためには,Paget氏病の本態についてその古典的なものを回顧し,理解を新たにすることは必要且つ重要な意義あることと考えられる.
 われわれが最近半年間に経験した3症例の実際に基いてこのPaget氏病の臨床所見,組織像等を比較検討する所以である.

先天性僧帽弁膜症の外科的治療の経験

著者: 田口一美 ,   甲斐太郎 ,   小川新 ,   妹尾良夫 ,   栗原儀郎 ,   藤村顕治 ,   加藤寛治 ,   本野謙策 ,   大瀬戶稔

ページ範囲:P.863 - P.870

 先天性僧帽弁膜症は狭窄あるいは閉鎖不全何れにても,極めて稀有なる疾患であり,しかも,その予後は極めて重篤である.しかし人工心肺の発達した今日,これら疾患は根治可能であつて,われわれは最近,広島市民病院において先天性僧帽弁狭窄症および先天性僧帽弁閉鎖不全症の各1例を体外循環を応用して根治せしめることに成功した.これらは何れも本邦における根治術成功第1例であり,外科的治療上種々の臨床的問題を提供するものであるので,報告する次第である.

新しく考案した誘導針による静脈内ポリエチレン管挿入法—末梢静脈並びに門脈内挿入法

著者: 藤江良郎 ,   徳永義則 ,   早稲田睦

ページ範囲:P.871 - P.873

 輸血ならびに水と電解質代謝の研究が進歩した今日,外科領域は勿論のこと,小児科,内科等においては,大量の輸血,輸液がroutineに行われるようになつてきた.それと共にポリエチレン管の静脈内挿入による持続点滴注入法の重要性はまし,静脈内挿入の技術も種々工夫されるようになつた.Gross1),Tuszewski2),Cope3),Gritsch4)等,本邦においては中山5),江口6),神前7)等の詳細なる解説が行われているが,それぞれ実際に使用してみて,まだ種々の欠点があり,内径の大きなポリエチレン管(次からは「ポ」管と省略する)を静脈内に速やかに,しかも容易に挿入するということはできない.われわれは新しく考案した誘導針を応用して,内径の大きな「ポ」管を僅かな皮膚切開を行うのみで,容易に静脈内に挿入する方法を考案したので,その手技を紹介して御批判を仰ぎたいと思う.

臨床病理 リンパ節の腫瘍--病理より臨床にささげる

第6回 リンパ肉腫の不思議な態度—Poly-polyposis lymphosarcomatosa gastrointestinalis,又はLymphosarcomatosis multiplex polyposa diffusa gastrointestinalis又はMaligne lymphatische Massenpseudopolypose des ganzen Verdauungstraktes又はMultiple lymyhomatous polyposis of gastrointestinal tractを対象に択んで.

著者: 所安夫

ページ範囲:P.875 - P.885

Ⅰ.狙い
 今回は,一寸目先をかえてみます。そして,次のような多くの角度から,それぞれ問題をはらんでいる,いわば極めてまれながら極めて興味ぶかい現象形態を,とりあげます.どれ一つをえらんでも,その眺める角度はそれ自体,多くの内容をもち,それに外接する微妙な領域を拡げています.
 次のような多くの角度なのです.

展望

悪性腫瘍に伴う異常な臨床症状—(3) Polycytaemia

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.887 - P.901

はしがき
 Polycythaemiaは慢性に経過して急激に衰弱を招くことが少いので,たとえ中年の年齢層に稀でない,最終的には致死的の疾患であつても,外科では存外に注目されないようである.原発性の真正赤血病は,慢性骨髄性白血病・myelofibrosisなどと多少オーバラップしつつ,骨髄の"myeloproli-ferative"の疾患を構成する.ここでは,本症が50歳台(平均年齢53.7歳)の男子(♂:♀=2:1)に好発し,ユダヤ人に多いという事実を注目しておきたい.それは,ここで取扱おうとする,ある種の癌に合併する続発性多血症が,やはり,中年男子に好発し,ユダヤ人に多いからである.原発性赤血病は周知のように,赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット・循環血球量の著しい増多のほかに,多くは白血球・栓球にも増多があり,脾腫を示している.その動脈血酸素飽和度には全くhypoxiaの所見がない.また,その多核白血球にはアルカリ性フォスファターゼ活性が強陽性である.これに反して,ここで取あげる続発性多血症には,白血球・栓球の増多はむしろ稀であり,脾腫が少く,動脈血酸素飽和程度がしばしば低く,多核白血球のアルカリ性フォスファターゼは正常である.すなわち,癌に合併する多血症は,あくまで続発性polycythaemiaであつて,原発性pol ycythaemiaが偶然発生したのではない.

症例

日本住血吸虫卵の寄生をみた胃潰瘍の1治験例

著者: 矢野博道 ,   中村康広

ページ範囲:P.903 - P.905

いとぐち
 日本住血吸虫症は特定の地域に発生する地方病として古くから知られ,筑後川流域も亦その浸淫地の一つとして有名である.
 本症は従来,内科的疾患でその虫卵は主として門脈系に寄生するが,外科的障害を惹起することも稀ではない.すなわち,教室の吉岡1)は日本住血吸虫卵と虫垂炎との関係を詳細に検討して,本虫卵の寄生は虫垂の病変を容易に急性化膿性炎症に誘導せしめ得ると報告し,教室の橋本2)は本虫卵によるS字状結腸部の慢性炎症性腫瘍について,また,下河辺3)も直腸狭窄例についてそれぞれ発表している.その他,虫垂壁を除く腸管壁に本虫卵が寄生して外科的障害を惹起したとの報告は比較的多く,40例におよぶ程あるが,胃潰瘍壁に寄生したとの記載は胃癌と誤診した胃潰瘍壁に日本住血吸虫卵をみたとの古賀等4)の1例をみるに過ぎない.

外国文献

大動脈起始部左室の肥厚性狭窄,他

ページ範囲:P.906 - P.910

 肺動脈狭窄があると,右室出口の筋肥厚しそこに狭窄をつくり,弁孔狭窄を手術的に治療してもなお狭窄が残ることが知られている.同じように,大動脈狭窄でもその出口の左室筋肥厚が生じ,狭窄手術19カ月後にこの肥厚によるsubaortic stenosisが発生した等という例がある.こういうのをfunctional aortic stenosis,pseudo-aortic stenosis,familial muscular subaortic stenosisなどとよんでいる.大動脈狭窄様の症状があり収縮期圧勾配の大なる症例で,手術したら弁には狭窄がなく,その出口つまりsubaorticに限局した膜様の線維性の先天的らしい狭窄が見出されたという報告はBrock,Bercu,Brachfeldなどによつて相ついでなされた.これらは弁狭窄の二次的変化でなく,全く独立した疾患である.著者はそうした独立した疾患にidiopathic hypertrophic subaortic stenosisという名をあたえ,前記のfunctional stenosisなどをふくめている.そうした症例14例を自験し,そのくわしい症状を記載しているので,この方面に興味ある研究者には必読の文字である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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