綜説
乳腺ページェット氏病について
著者:
高橋希一1
柿崎真吾1
津田敏夫1
所属機関:
1東北大学医学部桂外科教室
ページ範囲:P.857 - P.862
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乳嘴部の湿疹様皮膚病変に続発する乳癌の特異な経過をPagetが記載したことに由来するいわゆるPaget氏病の概念は,一般医家には極めて普遍的周知な事実に拘らず,診療の実際においては,その診断にかなりの困惑を伴うことが多いのに驚く.例えば乳嘴部または乳頭部の一側または両側の湿疹を主訴とする患者を診た時,これがPaget氏病であると断言もできなければ,またそれを否定することもできない.一体診断の決定には如何なる時機や条件が要素として必要であろうか?湿疹から癌腫の発生する迄を臨床家は拱手傍観すべきものか,またはそれ以前に積極的に湿疹部に手術侵襲を加え,標本の検索により始めて診断が下さるものであろうか?若し後者とすればそれは一般臨床家の持つ概念たる臨床像を主とする経緯と相異なり主客顛倒したものとなる.さらにはまた,本邦の文献に散見されるPaget氏病(乳腺の)の症例報告においてその趣旨の不確実さがうかがわれる例が少なくないようである.かくてこの臨床や診断の面の疑問やジレンマの解決のためには,Paget氏病の本態についてその古典的なものを回顧し,理解を新たにすることは必要且つ重要な意義あることと考えられる.
われわれが最近半年間に経験した3症例の実際に基いてこのPaget氏病の臨床所見,組織像等を比較検討する所以である.