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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科16巻11号

1961年11月発行

雑誌目次

綜説

胃癌の組織発生

著者: 卜部美代志 ,   水上哲次 ,   安井格 ,   山本恵一 ,   高野利一郎

ページ範囲:P.917 - P.932

緒言
 胃癌の発生に関しては前世紀末から多数の重要な研究報告が発表され,種々に論議されている.胃癌の発生母地として従来挙げられているものは(1)胃潰瘍,(2)慢性胃炎,(3)胃ポリープ,(4)胃壁内迷入組織の4つである.
 Cruveilhierは1839年に胃潰瘍から発生したと考えられる胃癌について肉眼的の記載を行つたが,組織学的の精細な検索を伴う潰瘍癌の記載はHauser(1883)12)を以て始めとする。彼は慢性潰瘍としての充分な条件を具える病変の辺縁にだけ癌細胞をみとめた場合潰瘍癌と診断し得ると定義し,癌化の原因は辺縁粘膜の異型増殖にあると述べた.その後Verse42)43),Payr37),Orator36),Will-son & Mac Carty,Sternberg39),山極44)45)等によつて胃潰瘍癌の存在が確定された.胃潰瘍を母地とした胃癌の存在を肯定せんとする意見に対し,Stromyer41)は潰瘍癌と云われているものはすべて原発性胃癌の二次的潰瘍であると反駁し,潰瘍癌の存在を否定している.1924年Moszkowicz27-29)は胃潰瘍の癌化はその再生粘膜に原因すると述べ,その異型増殖の原因を胃小窩に存在する細胞の再生作用によると考えた.再生現象は未分化上皮によつて行われ,反覆再生を起す過程において再生の過誤が起り,未分化上皮が漸次誤つた方向に変態を起すことによつて癌の発生を来すと考えた.

膝関節形成術の経験

著者: 河野左宙

ページ範囲:P.933 - P.942

 私は昭和23年に開かれた第21回日本整形外科学会総会において,私の恩師神中正一教授が九州大学において25ヵ年間に施行された関節形成術407例の臨床経験に基いた宿題報告を神中教授に代つて演説した.その報告で私が担当したのは再癒着防止法についての研究が主要部分であつたが,クローム硬化自家筋膜(JK膜)を関節形成術に応用した点で一つの新しい試みであつた.その当時,関節形成術の対象となつた関節は膝,肘,股の3関節がその大半を占めていたが,その手術成績は膝,肘がもつとも優れ,股関節はかなり劣つていた.とりわけ長期観察例で股関節手術症例の約半数は疼痛のため杖の使用を必要とする状態であつた.
 この論文で私は肘,股関節については省略し,膝関節形成術について,私が新潟大学における過去10ヵ年間の経験を基にして述べてみたいと思うが,この10年間の私の手術経験は,九州大学のそれに比べて症例が少なく,31例に過ぎない(第1表).

高年者手術症例の検討

著者: 太田八重子 ,   金井美津 ,   伊野照子 ,   岩淵汲

ページ範囲:P.945 - P.957

 近年老年病に関する研究がとみに盛んとなり,外科分野においても高年者手術症例の増加と相まつて多方面にわたる研究が数多くみられる.これらの研究をみても高年者においては手術侵襲に対する予備力の減少が問題とされ,従つて手術侵襲に対する耐容度に関して呼吸循環器系の研究が多くみられる.
 私共もこの度,私共の教室における高年者手術症例について高年者の生理生化学的特異性を吟味し,さらに術前の循環器系の状態を血圧,胸部レ線像,眼底所見,心電図および負荷試験による血圧変動等の面から検討し,これらと疾患因子,年令因子ならびに術中経過との関係について検べてみた.

臨床病理 リンパ節の腫瘍--病理より臨床にささげる

第7回 症状に乏しい頸部リンパ節腫大にまつわる私の右往左往—Zerviko-nuchale LympadenitisとOligosymptomatic lymphadenopathia toxoplasmoticaとの結びつき

著者: 所安夫

ページ範囲:P.959 - P.966

Ⅰ.Regionäre Zerviko-nuchale Lymphadenitisに初まる私の疑問
 どちらかというと20〜40歳の若いまたは中年の女性で(しかし10歳台や50歳台の男性にも全くないことはないのですが),その頸部一帯のどこかに(つまりZerviko-nuchalに),あまり大きくないリンパ節の腫大を発見し,少しばかり気になるので医家を訪れて剔出してもらい,医家はそのリンパ節をおそらく悪性のものではない筈としてProbeに出したところ,さて──病理学者が迷う所見にぶつかりました──その所見というのは,──原形質ガウス赤ク染マル丁度Epithel-oidzellenト云イタイヨウナ細網細胞性ノモノガ,小集団ヲナスカマタ個在シテ,主ニリンパ節ノ皮質ノ方ニシカシリンパ節ノ到ル所ニ,アラワレテイマスガ,何ヨリモ肉芽性炎症デハナク(!!),目立ツタVerkäsungヤGranulomトイウ印象ハアタエズ,必ズシモLanghans型巨細胞ハミラレルト限ラナイモノデス.コノEpitheloide Zellenノ体内ニハ時アツテ核ノ破壊シタモノガフクマレタリ,マタ銀デ染マル小サナEinschlüsseイワバPropigmentト云イタイEinschlüsseヲミツケタリシマス.(Einschlüsse?ノヨミトリガ,実ハ意外ニ決定的ナ鍵トナルノデスガ,コレハ別ノ全然動機出発経過ヲ異ニシタ研究ノ方カラ,同情スルコトニシマシヨウ).

展望

悪性腫瘍に伴う異常の臨床症状—(Ⅲ)Polycytaemia(つづき)

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.969 - P.980

3.補遺
 前項で腎腫瘍に続発したpolycytaemia 49例,水腎症・腎嚢胞に合併した同症15例を展望した.校正のさい,文献を改めて吟味したところ,1961年4月までに,なお,つぎの症例が脱落したので追加する.DeWeerd(1959)の48歳婦人右腎のhypernephromaは前稿に加えられたが,つぎの6例を補遺する(DeWeerd 1959).47歳男,2カ月来左側腹部腫瘤,血尿,チアノーゼにて入院.Hb 20.7g,赤血球663×104,白血球7400,Ht 66〜68%,脾(−).左腎の25×8cm大,多中心性の第3度腺癌を全剔,症状全く去る.1年後腫瘍再発し多血性症状再現,死.53歳男,無症状血尿あり入院血圧150/80,脾(−),Hb 19.4g,赤血球832×104,白血球6400,栓球17.4×104,Ht 71%,血液量90cc/kg,血漿量26cc/kg,血球量64cc/kg.脱血療法18ヵ月つづけ多血症状はそれぞれ一過性に軽快.右腎直径8cm,周囲癒着あるhypernephroma(第2度)剔除.術後8日にして血液所見正常.レ線照射.9ヵ月後再検査にて腫瘍再発なく,血液所見正常.その家庭医よりの報告によると,5.5年後,全く健康という.61歳男,体重減少・衰弱・左側腹腫瘤にて来院.血圧220/142.

外国文献

代用動脈,他

ページ範囲:P.981 - P.984

 代用動脈応用は日常行われるところであるが,英国の報告をみるのも参考になろう.著者はDurham大学外科1955年来5年間のhomograft 40例,Orlon 2例,Dacron 50例の経験を報告している.対象は腹部大動脈瘤24例。腹部大動脈ないし腸骨動脈の閉塞33例,下肢動脈閉塞45例,その他14例,graft自体の合併症はhomograftに5例(漏洩4,大動脈瘤1)発生し,再手術してその3例を救つた.Orlonでは1例に周囲膿瘍発生し死亡.Dacronでは1例感染,1例graft reject (何れも救われる).つまりDacronが最も成績がよいことになる.疾患別では,大動脈瘤で5例の死亡あり,何れも術前破裂ないし漏出していたもの.死因は心不全1,肺合併症2,腎不全2であつた.予想されるごとくであろうか.大動脈ないし腸骨動脈の閉塞に対するgraft 15例(19回手術で)死亡4例.冠・脳・肺の血栓各1,イレウス1であつた.同疾患のthromboendarterectomy 18例では死亡がない.ただ1例は術前から陰茎・下肢の壊疽があり.その切断を行わぬうちに10日目死亡した.下肢動脈閉塞では死亡なし.それで大動脈瘤では,静脈系損傷を避け,術中血流停止部には強力にヘパリンを用い,腸骨動脈に凝血の残らぬよう手術上の注意が必要である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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