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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科16巻7号

1961年07月発行

雑誌目次

綜説

股関節形成術

著者: 天児民和

ページ範囲:P.613 - P.619

 股関節は球関節であり,下肢の運動はただ股関節の可動性にのみ頼ることなく骨盤の共同運動に大きく影響せられているところであるのでその手術効果の判断は甚だ困難である.その為に同じ一つの手術方法にしてもただ股関節の機能という点のみを論ずる場合と骨盤を含めて下肢の運動を論ずる場合とにより効果判定に著しく相違を来すものである.それ故に従来報告せられている股関節の形成術に関する批判を読む場合に常にこのことを念頭において読まなけばならない.
 九大整形外科においては古くからこの方面に関心を有し,その成果は神中教授により報告せられているところである.神中教授はその報告に当り,可動性,跛行と歩行状況に分けてその成果を検討していられる.これは当然のことと思われる.このような細かい分析の結果,その総合判定はその人の生活環境,換言すれば職業と生活様式等によりて判定すべきものと思われる.可動性の判定に当つては肘関節,膝関節の如き一方向の運動のみでなく,股関節は球関節である為その運動方向も多方向であり,その可動性の可否を判定することも必ずしも容易ではない.このような一つの効果判定に関する困難性を前提にして私は現在行われている股関節形成術に関する批判を試みたいと思う.

開放骨折の治療

著者: 玉井達二

ページ範囲:P.621 - P.626

はしがき
 最近は交通事故の頻発のために,皮下骨折のみならず開放骨折を取扱う機会が多くなつた.自動車による交通事故では,一見健康と思われる皮膚が広汎に亘つて壊死を招くものがあり,また最近の農村機械化による損傷,例えば耕運機等によるもの等では,その受傷する場所から非常に汚染されているものが多い.しかし,この開放骨折の治療も抗生物質の発達,あるいは麻酔,手術法の進歩に伴つて良い成績を納める様になつたが,未だに大した考慮なしに簡単に切断されてしまうものが少くない.また一応治療してあつても,結局高度な化膿を来し,切断の止むなきに至るものがあり,この中には正しい治療が施されたならば当然治癒したと思われるものが決して少くないのである.この様な事実に接する時,開放骨折の取扱いの概略について述べる事も決して無駄ではないと考えられる.

特発脱疽における尿エストローゲン排泄

著者: 髙尾英吉 ,   金本正弘 ,   小沢進

ページ範囲:P.627 - P.628

 外科でとりあつかう末梢血管の疾患に多くのものがある.静脈炎,脈瘤,拡張,外傷など,また脳,脊髄など部位においても,きわめて多種多様である.動脈を主変化とする日常のものにBuerger病,Raynaud病などがある.われわれはBuerger病14例に尿中エストローゲンを測定する機会があつたのでその測定値を中心として本症を考えてみたい.尿中エストローゲンと本症とは直接的関係にたつているとは考えられない.血中エストローゲン,ことに末梢血管壁の本ホルモンが重要であろう.しかし,これらも,すべて病態生理の一面を明らかにするにすぎないであろう.また末梢血管の神経支配,支配神経のホルモン作用も重要な関心事である.教室角は各種ホルモンの末梢神経への影響を探索し,エストローゲンに亢奮抑制作用のあることを明らかにした.しかし,その作用機序がすべて末梢性要因によるとは考えられない.また直接作用にしても,実験条件下の大量ホルモンが生体で作用することも極めて稀である.
 われわれの行つた測定法はハイドロキノン,コーバー法であるが,可検エストローゲン値が5〜10γであるとされる.もつと鋭敏な螢光光度計による方法が今は行われている.諸種の事情で桑原,稲垣,小島等の行つた生物学的検査法はわれわれは行つていない.

外科領域疾患における血清コリンエステラーゼの臨床的意義について(2)

著者: 三樹勝 ,   守谷林太郎 ,   大川共一 ,   田所孝 ,   田中竜彦 ,   藤島義一 ,   飯田安彦 ,   内藤委仲

ページ範囲:P.629 - P.639

Ⅳ.肝コリンエステラーゼと血清コリンエステラーゼとの関係について
 前述のごとく血清ChE活性値と諸種肝機能検査成績との間には疾患の相違によりそれぞれ程度の差はあるが統計的にも明らかに相関関係が認められたのであるが,それではこのさい肝臓自体に含有されているChEは如何なる変動を示し,肝ChEと血清ChEとの間には如何なる関係が存するかが問題であろう.そこでこの点を解明するために一群の臨床的ならびに実験的研究を試みた.

臨床病理 リンパ節の腫瘍--病理より臨床にささげる

第3回 大小多数のFollicle構造の存在によつて注目された一種のリンパ節腫瘍—Giant Follicular Lymphadenopathy—の本態とその臨床的意義

著者: 所安夫

ページ範囲:P.641 - P.648

Ⅰ.今回の課題の目的
 はれた一つのリンパ節を検鏡して,普通予想もしてないような多数の大小さまざまの透明な胚芽中枢の在存に,びつくりする事があります.つまり,腫瘍と思われて私共におくられた腫大したリンパ節の組織像に,明瞭なFollicle構成を発見するからです.
 これが凡そ今から45年位前に,初めて注目されました.この病気が,臨床家にたいして,如何なる意義または値打ちを持ちうるか,今回はそれを述べたいと思います.

展望

悪性腫瘍に伴う異常な臨床症状(Ⅰ)

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.649 - P.658

はしがき
 癌の発生発育または諸症状は各方面から広く開拓されているが,臨床的に深く吟味されなければならない領域もひろく残されているように思われる.ここに取りあつかおうとする異常症状などもまさにそのひとつとおもわれる.つまり臨床家のひろい視野と深い洞察とが,最も必要な方面かと考えられる.筆者はさきに,胸腔腫瘍に異常な内分泌症状の合併しうることを,自験例を加えてひろく展望してみた.そこにあげられた範囲の異常の症状でさえ,その成立は容易に説明しえられるものではないことを痛感する.しかし臨床家が不断の注意を払えば,すでに完成した盛期の異常症状のみでなく,いまだ臨床的に症状として顕現しない開花前のsubclinicalの状態を発見し,その成立機序を窺い知る可能性があるように思われる.本稿で取りあげる異常症状もまた同様である.悪性腫瘍がときに低血糖症を呈することは,古くDoe-ge(1930)によつてはじめて紹介された.同様の症例は,それ以来いくつか報告されてきたが,低血糖症が単に偶然の合併でなく,腫瘍の存在が必然的に低血糖症を惹起するという異常な機序が注目されはじめたのはこの2〜3年の短い歴史にすぎない.この腫瘍がかなりの大きさに達するとき,はじめて低血糖症状が臨床的にあらわれ,腫瘍がさらに十分に発育すると高度のhyperinsulinism・低血糖症となつてWhipple三徴を典型的に発呈するようになる.

座談会

都築先生をしのんで

著者: 石川七郎 ,   岡治道 ,   川島健吉 ,   篠井金吾 ,   杉江三郎 ,   中谷隼男 ,   斉藤淏 ,   島田信勝

ページ範囲:P.660 - P.668

 島田 都築正男先生がなくなられましたのは4月5日でありますが,きようで18日になります.まだ元気でこの席へ,ちよつとこの写真を拝見するとおいでになられるような感じがします.先生は,日本の外科学界ではもちろんのこと,ことに放射能障害のお仕事で近ごろは国際的に非常に御活躍になつて,お丈夫でおられれば,今後ずいぶん日本のためばかりでなく,国際的にも非常に貢献されたことと思うのでありますけれども,この点かえすがえすも非常に残念に存じております.第61回の外科学会総会が1週間後から仙台市で開催されますので,この機会に都築先生と,あるいは友人として,あるいは研究の方面で,あるいは子弟関係というような,いろいろな関係で,つながりの多かつた先生方にお集まりを願い,いろいろ思い出をお話ししていただいて,そして先生の御冥福を祈ろうというきようの座談会の趣旨でございます.どうぞその点をお含みくださいまして,いろいろ思い出の話しをうかがいたいと思います.
 最初に岡先生に友人の立場としてお話を願つた方がいいんじやないかと思いますが,実は私告別式の時に,岡先生の弔辞をうかがつておりまして,皆さん参列された方は,おそらく目がしらが熱くなつたことと思いますが,ひとつ友人の立場でいろいろ思い出をお話しいただきたいと思いますが…….

症例

筋肉内血管腫の2例

著者: 浅利和成

ページ範囲:P.669 - P.671

緒言
 血管腫は良性の腫瘍として日常よく知られているが,この腫瘍が筋肉内に原発する例は比較的稀である.私は最近教室において,骨格筋内に原発した海綿状血管腫2例の手術例を経験したので,症例の報告と共に,少しく文献的考察を加えてみたいと思う.

直腸に発生した奇形腫の1例

著者: 河村栄二 ,   樋口公明 ,   久田太郎

ページ範囲:P.673 - P.675

 良性の混合腫瘍は卵巣,睾丸,耳下腺,脳,胸腺,甲状腺,腎等にしばしば認められるが消化管内に発生するものは極めて少なく,特に複雑な構造を示す混合腫瘍あるいは奇形腫といわれるものは極めて報告が少ない.
 胃に発生した奇形腫についてはA.N.Selman1)(1943)次いでH.L.Large,McChord WilliamsおよびCharlotte2)(1952)によつて各1例ずつの報告を見るが,腸管に発生したものについては未だ報告を見ない.

鼻腔内に発育せる髄膜ヘルニアによる髄液瘻の1治験例

著者: 石森彰次 ,   平井秀幸 ,   青木明人

ページ範囲:P.677 - P.679

 髄膜ヘルニアは発生学的に頭蓋の何れの部位にも発生しうるが,多くは正中線上あるいはこれに近く特に後頭部に最も多くみられる.しかしその鼻腔,咽頭および眼窩への発生は稀とされている.最近われわれは原因不明の急性髄膜炎患者を治療中,その原因が鼻腔内髄膜ヘルニアよりする感染であることを発見し,髄膜炎の治療に引続き,開頭手術により髄膜ヘルニアの根治手術に成功した1例を経験したのでここに報告し,若干の考察を加えてみたい.

特発性幽門筋肥厚症について

著者: 愛甲隆一 ,   盛田健郎

ページ範囲:P.680 - P.683

緒言
 Primary pyloric hypertrophyについては,1803年Portal,1829年Cruveilhierにより第1および第2例が報告されて以来,欧米においてはかなりの報告が見られ,本邦でも,新産児あるいは乳児の特発性幽門筋肥厚症の報告は必ずしも稀ではないが,成人における本症の報告は極めて稀である.先ず文献に見られる本症の概要について述べる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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