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悪性腫瘍に伴う異常な臨床症状(Ⅰ)
著者: 渋沢喜守雄
所属機関:
ページ範囲:P.649 - P.658
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癌の発生発育または諸症状は各方面から広く開拓されているが,臨床的に深く吟味されなければならない領域もひろく残されているように思われる.ここに取りあつかおうとする異常症状などもまさにそのひとつとおもわれる.つまり臨床家のひろい視野と深い洞察とが,最も必要な方面かと考えられる.筆者はさきに,胸腔腫瘍に異常な内分泌症状の合併しうることを,自験例を加えてひろく展望してみた.そこにあげられた範囲の異常の症状でさえ,その成立は容易に説明しえられるものではないことを痛感する.しかし臨床家が不断の注意を払えば,すでに完成した盛期の異常症状のみでなく,いまだ臨床的に症状として顕現しない開花前のsubclinicalの状態を発見し,その成立機序を窺い知る可能性があるように思われる.本稿で取りあげる異常症状もまた同様である.悪性腫瘍がときに低血糖症を呈することは,古くDoe-ge(1930)によつてはじめて紹介された.同様の症例は,それ以来いくつか報告されてきたが,低血糖症が単に偶然の合併でなく,腫瘍の存在が必然的に低血糖症を惹起するという異常な機序が注目されはじめたのはこの2〜3年の短い歴史にすぎない.この腫瘍がかなりの大きさに達するとき,はじめて低血糖症状が臨床的にあらわれ,腫瘍がさらに十分に発育すると高度のhyperinsulinism・低血糖症となつてWhipple三徴を典型的に発呈するようになる.
癌の発生発育または諸症状は各方面から広く開拓されているが,臨床的に深く吟味されなければならない領域もひろく残されているように思われる.ここに取りあつかおうとする異常症状などもまさにそのひとつとおもわれる.つまり臨床家のひろい視野と深い洞察とが,最も必要な方面かと考えられる.筆者はさきに,胸腔腫瘍に異常な内分泌症状の合併しうることを,自験例を加えてひろく展望してみた.そこにあげられた範囲の異常の症状でさえ,その成立は容易に説明しえられるものではないことを痛感する.しかし臨床家が不断の注意を払えば,すでに完成した盛期の異常症状のみでなく,いまだ臨床的に症状として顕現しない開花前のsubclinicalの状態を発見し,その成立機序を窺い知る可能性があるように思われる.本稿で取りあげる異常症状もまた同様である.悪性腫瘍がときに低血糖症を呈することは,古くDoe-ge(1930)によつてはじめて紹介された.同様の症例は,それ以来いくつか報告されてきたが,低血糖症が単に偶然の合併でなく,腫瘍の存在が必然的に低血糖症を惹起するという異常な機序が注目されはじめたのはこの2〜3年の短い歴史にすぎない.この腫瘍がかなりの大きさに達するとき,はじめて低血糖症状が臨床的にあらわれ,腫瘍がさらに十分に発育すると高度のhyperinsulinism・低血糖症となつてWhipple三徴を典型的に発呈するようになる.
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