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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科16巻8号

1961年08月発行

雑誌目次

綜説

ダンピング症候群

著者: 友田正信 ,   水谷和正

ページ範囲:P.689 - P.698

Ⅰ.緒言
 近年,胃手術の直接死亡率の著しい低下に伴い,胃手術を安全に行うと云う丈でなく,術後の後遺症を如何に予防し治療するかと云う事が外科医にとつて重要な問題となつて来た.胃手術患者に可成りの頻度に発現するダンピング症状は,脱力感,嗜眠,頭重感,心悸亢進,腹部膨満感等食事に関係した種々の苦痛を患者に与え,摂食量を減少せしめて患者の栄養低下を来す事もあり,術後管理上極めて注目すべき後遺症である.
 ダンピング症候群については古くから注目せられ,Hertz(1913)は胃腸吻合術後,食後に腹部膨満感の現れる患者で胃内食餌の急速排出のある事を指摘し,またZeiseによればMix(1922)が最初にいわゆるダンピング症候群について記載したと云う.その後,Zollinger & Hoerr(1947)はこの症状が食直後または食後数時間で起る事を認め,Adlersberg & Hammerschlag(1947)はダンピング症状を早期ダンピング症状と後期ダンピング症状の2群に分類し,以後,食事中または食後30分以内に発現する早期ダンピング症状と,空腹時に発現する後期ダンピング症状とは本態を異にするものとして別個に論ぜられて来た.後期ダンピング症状は食後の血糖値の変動と関係するものの様であり,間食により治ることが認められている.本稿においてはダンピング症状中特に早期ダンピング症候群について述べる事とする.

胆道癌

著者: 秋田八年 ,   倉内睦雄

ページ範囲:P.699 - P.707

 本稿では胆嚢を含めて肝外肝管からVater氏胆膵管膨大部までの範囲を取扱うことにする.
 従来の記載を見ると肝外胆管の癌を論ずる場台Vater氏膨大部と膵頭部の取扱いがまちまちであり,剖検材料を主とした研究にはこれを区別したものが多いが,臨床材料では実際上その鑑別が必ずしも容易でなく,また古くは両者を分ける意義が軽視されたので総胆管末端部を含めてこの付近の癌を膨大部周囲癌(periampullary carcinomas)として一括しているものも多い.

Carpal Tunnel Syndrome

著者: 高岸直人 ,   森永亨

ページ範囲:P.708 - P.710

緒言
 正中神経がその走行の何れかの部位において圧迫されると,正中神経麻痺の症状が圧迫の程度および部位に応じて起つてくる.これを正中神経圧迫症候群と名付け高岸は第3回手の外科学会において報告した.この中で最も普通に見られるのが,このCarpal Tunnel Syndromeである.手関節屈側において深横靱帯を含めてその内部にある各種の組織の肥厚によつて正中神経が圧迫されるために起る症候群である(第12図).本疾患はさらにmedian thenar neuritis,median neuritis,tardy median palsy,median neuropathyとも呼ばれているが,Carpal Tunnel Syndromeが最も普偏性のある呼称である.本症は1865年Pagetによつて橈骨末端骨折後に過剰仮骨が原因となつて起つた本症が報告されて以来,1911年Huntが2例を報告し,1913年Marie and Faixは80歳の本症を述べ,解剖により原因を確認した.1941年Woltmannは2症例を述べ,第1例は松果腺のレ線療法により症状を改善し,第2例は外科的に横靱帯を切つて示指にあつた潰瘍を治癒せしめ疼痛を消失させ,知覚,筋力を回復させ,手術により本症を治癒せしめ得た第1例とした.以後1945年Zackary,1946年Cannon等の報告が見られたが,いずれも小数例で,例数は少いものであろうと考えられていた.

臨床病理 リンパ節の腫瘍--病理より臨床にささげる

第4回 Hodgkinという人名の付着した疾患(① その歴史の教える貴重な事実)

著者: 所安夫

ページ範囲:P.711 - P.717

 Ⅰ.
 Hodgkinという人名がぴつたりと付着した,いろいろに表現された疾患または疾患状態──Hodgkin's diseaseとか,Hodgkin's sarcomaとか,early Hodgkinとか,benign Hodgkinとか,Hodgkin's paragranuloma等──またはHodgkinという人名が冒頭に付着はしていないが,あとで括弧の中にその人名をはつきり付加したり,または人名を全くかかげてはいないがそれを意味させた病理概念で表現している疾患──LymphogranulomatosisとかPleomorphic reticulum cell sarcomaとかanaplastic reticulum cell sarcomaとかscirrhous lymphoblastoma等──このような,兎も角Hodgkinの名称のつきまとう悪性の全身性のリンパ節の腫大する疾患を,何人にもたやすく理解出来るように,病理の畑からスッキリと整頓してお話しすることは,実の所極めてむずかしいのであります.おおまかの所は,何人にもつかめるのですが,一番はつきりさせたいと思う点について,驚く程混乱がひそんでいます.ひどい云い方をすると,各人各様の観すら,あります

統計

甲状腺疾患600例の検討

著者: 樋口公明 ,   山口忠彦 ,   山田利治

ページ範囲:P.719 - P.724

緒言
 近年各方面での甲状腺疾患に対する関心がたかまり,その報告も多い.われわれも当院に甲状腺疾患外来を設けて以来2年余の間に取扱つた患者は600名を越え,更めてこの種の疾患患者の決して少くないことを知つた.当院の患者は当静岡市内のものを中心に,ほぼ県内各地から来院されたものであり,今回は各種の分布を中心にこれらの患者についての調査を試みた.
 われわれは初診時甲状腺疾患を疑つたものには一般臨床的観察の他に,原則的にB.M.R.,Ⅰ131摂取率(1,3,24時間値測定)およびⅠ131経口投与後24時後の甲状腺レンチグラムの検査を行い,必要に応じP.B.I.血清コレステロール,A/G比赤沈,頸部,胸部レ線検査,E.K.G,T.S.Hテスト等を追加し,毎週ないし隔週毎の経過観察を行つている.

考察

最近5年間に経験した破傷風10例の考察

著者: 森田茂 ,   安斎徹男

ページ範囲:P.725 - P.729

1.緒言
 最近5年間,すなわち,昭和31年1月から昭和35年11月迄に,私達の外科教室でとり扱つた破傷風患者10例について,救命率およびこれに関連する諸因子を検討した.

症例

全身性紅斑性狼瘡におけるレイノウ氏症候群の1例

著者: 佐野開三 ,   中西正三 ,   森谷有為

ページ範囲:P.731 - P.736

 紅斑性狼瘡は,最近内外において著しく増加の傾向にあることは衆知のごとくである.これはL.E.細胞の発見(Hargraves 1948),および本症の組織学的特異性(Lever 1954,Michelson 1949,Ellis 1954)が広く認識されたことにもよるが,他方近年における医学の発達,ことに化学療法の普及につれて感染性疾患が次第に克服され,allergyまたはhypersensitivityに基くと考えられる疾患群が増加してきたことにもよるであろう.Dubois1)は,1948〜1949年に全身性紅斑性狼瘡(Syste-mic lupus erythematosus.以下S.L.E.と記す)を11例診断したのみであつたが,次の2年間(1950〜1951)にL.E.testの導入によつて44例を診断しており,これは彼の病院で経験した急性リウマチ熱患者の半数の発生率であつたとしている.
 われわれは典型的なS.L.E.でレイノウ氏現象を伴つた症例に両側胸部交感神経節切除術を施行し,自覚ならびに他覚的に好転せしめたのでここに報告し,いささか文献的考察を試みた.

肺結核手術後に脳栓塞様症状を呈した2例

著者: 田村政司 ,   西原孝典

ページ範囲:P.737 - P.738

 手術後に発生する脳栓塞は従来甚だ稀な疾患であるといわれていたが,近時その報告も散見されるようになり1)→12),しかもその症状が重篤で幸に死を免れても長く脱落症状を遺すことが多く,患者の予後におよぼす影響が甚だ大であり,今後注目されるべき合併症と推察される.
 国立兵庫療養所で,昭和34年末までに541例の肺切除術を施行し,その中の1例に術後脳栓塞の発生を見,また空洞切開後筋肉弁充填術99例を行つたが術後に脳栓塞様症状を呈した1例を経験したので,これらの症状および経過を報告する.

膝窩動脈塞栓症に継発したガス壊疽の1例

著者: 大杉百合夫 ,   宮田洋

ページ範囲:P.739 - P.741

緒言
 ガス壊疽は主として土壌により汚染された挫創,殊に開放性骨折に継発する疾患である.したがつて戦傷に多く併発する創傷伝染病であり,平時においては比較的まれにしか見られない.殊に外傷に由来しない本症に至つては,極めて少数の報告例1)を文献上に散見するのみである.
 われわれは最近心臓疾患を有する患者に,左下腿の動脈塞栓症が起りこれに引続いて,本症が発生したと考えられる1例を経験し,切開と抗生物質療法により治癒せしめたのでその症例を報告する.

脈無し病の1例

著者: 山崎英夫 ,   宮崎穣

ページ範囲:P.743 - P.745

1.緒言
 1908年高安1)の「奇異なる網膜中心血管の変化の1例」と題する論文が本疾患の最初の報告とされている.しかしこの例では特異な眼底変化の記載のみで,橈骨動脈脈搏が触知できないということには触れていない.このことを最初に認めたのは,高安の講演に追加した大西2)である.以降眼科領域に発表が散見されたが,本疾患の病理・症候・治療等については,不明の点があまりにも多かつた.1948年清水教授は自家経験の6例と,それまでに報告された25例について,極めて詳細な研究を発表され,新しい知見が数多くえられた.その後40余例の症例が発表されているが,最近私どもも本症の1例を経験したので,ここに報告し,考察を加えてみようと思う.この疾患は要するに無名,鎖骨下,総頸動脈に慢性の汎血管炎を生じ,管腔が狭小となるために起るものである.

著明な四肢末端壊疽を来した敗血症の1例

著者: 小林清 ,   河村義博 ,   坂田一記

ページ範囲:P.747 - P.749

 臨床上特異な病像を示し最初Raynaud氏病次いで結節性動脈周囲炎を疑つたが,剖検により遷延性心内膜炎を認め,慢性敗血症と診断しえた1例を経験したので報告する.

外傷性横隔膜ヘルニアの1手術例

著者: 長沼康博 ,   川南千万夫

ページ範囲:P.751 - P.754

 われわれは外傷性横隔膜ヘルニアの1手術治験例を獲たので報告する.

外国文献

一卵性双生児間の骨移植,他

ページ範囲:P.755 - P.758

 著者らはMontrealのRoyal Victorial Hospitalの内科・外科・泌尿器科チーム・一卵性双生児間の骨移植に最初に成功したのは,周知のようにPeter Bent Brigham HospitalのMerrill(1954)であつて,そのMerrill (1960)は二卵性双生児の間で,最近また骨移植に成功した.これで腎移植成功は14例になる計算である.著者らの例は15歳の白人少女,高血圧を伴うテンカンケイレンよう発作で運びこまれた.4歳の時から尿路感染があつた.入院数カ月前から頭痛があつた.3年前扁桃腺手術をうけた.尿蛋白(+++),白血球・キャスト・上皮等多い.NPN82mg/dl,血圧185/140mmHg,両側性の慢性腎孟腎炎で,その結果,尿毒症を発呈したと判断された.その治療を行つているうちに,一卵性双生と思われる同胞がいるとわかり,その同胞の血液・尿検査をするに正常,McGill大学遺伝学教室でしらべてもらい一卵性なることを確認,一族および医事法制上の了解許可を得て,同胞から健康腎をひとつ取つて患者に植えることにした.まず左腎・輸尿管を一組の術者が取る.他の一組の術者は右腸骨窩をひらいて血管吻合・膀胱輸尿管吻合にもある.腎動脈は総腸骨動脈,静脈は総腸骨静脈,輸尿管は膀胱へ吻合し,腎阻血は58分,全手術3.5時間,手術室は厳重な消毒がなされた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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