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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻10号

1962年10月発行

雑誌目次

特集 麻酔

気管内挿管法

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.1025 - P.1029

 気管内麻酔法は吸入麻酔法の上では大きな部分を占めるもので,この方法ができないものは吸入麻酔を行なう資格がないといつてもよいであろう.
 さて,気管内麻酔を行なうということになると,気管内にチューブを挿管しなければならない.この挿管の技術は麻酔を行なうときのみでなく,気道閉塞の場合や,心停止の蘇生術を行なうときにも非常に役立つものであり,是非とも正しいやり方をおぼえておかねばならない.

脊麻の調節

著者: 北原哲夫

ページ範囲:P.1031 - P.1036

Ⅰ.緒言
 脊麻の調節ということばは,広く解釈すれば麻酔の強さや持続についてもいえようが,普通は麻痺高を任意に調整することを意味する.この点に関してBier以来各種の工夫がこらされては来たが,それにもかかわらず未だ真に満足すべき段階には達せず,麻痺高の調節が意のごとくならないのが,急変事故の問題とともに,脊麻の欠点として指摘されている.
 いま先人の足跡をたどつて見ると,Bierは5%トロパコカイン液1mlに髄液4mlを混じて下肢の脊麻を,また髄液9mlを加えてさらに高位の脊麻を企て,Pitkinはスピノカインと称するノボカイン低比重液を作り,主として骨盤高位の角度を加減することにより麻痺高の調節を試みた.KillianはPitkinの変法として水平位でスピノカインを注入,適当な麻痺が現われてからTren-delenburg位に移して薬液の上昇を阻止する方法を提案した.しかしこの程度のことで十分なコントロールができるとはとうてい考えられず,かくてKirschnerは独特の創意に基づく帯状脊麻法を発表した.その根拠は比重の異なる2液をきれいに重ねるには,重い液の表面に軽い液を静かに注ぐ以外にないとの考えから出発し,まず髄液に界面を作るため高度の骨盤高位で腰仙部より空気を注入,その量を加減することにより髄液面を適当の高さに押しやつた.

硬膜外麻酔について

著者: 西邑信男 ,   鈴木和徳

ページ範囲:P.1037 - P.1042

はじめに
 昭和31年8月アメリカにおける2年半の麻酔科レジデントの生活をおえて,はじめて日本麻酔学会に顔をあらわした.この頃私自身の問題は,いつたい日本に帰つてどんな研究をのばしてゆくかであつた.この第3回日本麻酔学会にも私は静麻の一種であるNeravalの仕事を発表したのであるが,静麻の研究にはものたらなさを感じていた.
 丁度この学会に奈良医大の恩地氏等が硬膜外麻酔の仕事を発表され,衆目をあびたのである.私自身アメリカにおいてはあまり腰部の硬膜外麻酔をやつておらず,その頃でもプロカインを使用した仙骨麻酔および持続仙骨麻酔が広く使用されていた.

外来手術の麻酔

著者: 綿貫喆

ページ範囲:P.1047 - P.1053

いとぐち
 外来手術は小手術であるからその麻酔は簡単であるという考えは全くあやまりである.小手術といえども完全無痛であることは絶対に必要である.しかも外来手術には入院手術とはことなつたいくつかの特色がある.その第1は,手術が終わつたら外来患者は帰宅しなければならないことである.近頃の交通状態では混んだ電車やバスでもまれながら帰らなければならない患者もある.したがつて患者の全身状態に大きな影響を及ぼす麻酔法,合併症や危険の多い方法はさけなければならないし歩いて帰れなくなるような方法でも困ることになる.すなわち麻酔自身の作用ができるだけ早くなくなり,麻酔がさめた後も患者に影響がのこらないしかも簡単な麻酔法がよいことになり,このような点を考え合わせると局所麻酔が一番適していることになる.しかし特殊な場合には全身麻酔が必要になることもあるがこれについては後に述べる.
 次に外来患者は入院患者とことなり術前の十分な検査が行われていないことである.患者は主訴の疾患についてのみ述べ医者の方もそのことのみを問診して患者の既往歴については触れない場合が大部分である.患者は一見健康そうにみえるが呼吸系,循環系あるいは内分泌系の疾患を有している場合がある.このような患者にたいしても精密検査は行われずに直ちに手術を行うことになつてしまう.

人工蘇生法

著者: 織畑秀夫 ,   岩淵汲

ページ範囲:P.1055 - P.1063

いとぐち
 人工蘇生法には人工呼吸と心臓マッサージが含まれる.この両者は生命の急激な危険を示す吸呼停止あるいは心搏動停止を再び元の元気な状態に戻す最も大切な方法である.
 一般に急激な呼吸障害は動脈血中の酸素含量を減少せしめ,炭酸ガス量を増加せしめ,いわゆる低酸素症(Anoxia,Hypoxia)および過炭酸ガス症(Hypercapnia)の状態をつくる.初期にはこのさい,心搏動数の増加および血圧上昇によつて重要臓器へ酸素供給を十分にしようとする調節力が働くが,やがて心臓の仕事量が供給される酸素量では不足になり,心搏動が弱くなり,血圧は下降し,各種の調節がくずれ,脳機能も低下し,意識喪失ないし痙攣などの変化をきたし,遂に呼吸停止,心搏動停止にと移行するのである.

外科の焦点

膵頭十二指腸切除の工夫

著者: 本庄一夫

ページ範囲:P.1065 - P.1071

 膵頭十二指腸切除の対象となる膵頭癌ならびに膨大部領域癌Carcinoma of the periampullary areaの切除率は,当教室の統計では膨大部領域癌の70%に対し,膵頭癌のそれは約15%に過ぎず非常な低率である.勿論このような傾向は一般的なものであり,Jefferson Davis Hospitalの最近(1949年から1958年まで)の報告を1例にとつても,膵頭癌患者88例中,膵頭十二指腸切除を施行し得たのは16例で,その切除率は18%であり,個人的にこの領域の最も多い手術経験を有するCattellも膨大部領域癌の切除率は25ないし30%であり,膵頭癌のそれはさらにこれを下廻るであろうと述べている.本邦の全国的統計は吉岡氏によつて報告されているが,膵頭癌342例中切除例は86例で切除率は25%であり,膨大部領域癌では56例中切除例48例で切除率は86%に近い.このように本邦集計例では欧米より比較的切除率はたかいのであるが,切除適応範囲のひろいこと他面手術死亡率のたかいこと等を斟酌せねばならないだろう.
 いずれにしても,膵頭癌のすくなくとも主腫瘍剔出は,他の消化器癌のそれに比して困難なることが納得される.

綜説

外科的高血圧症について

著者: 和田達雄 ,   阿曽弘一

ページ範囲:P.1073 - P.1083

はじめに
 高血圧症という名称は,様々の病因によつて生ずる体循環系の動脈圧の上昇という症状を総称するものであつて,単一の疾患に対する病名としては不適当のように思われる.とくに高血圧症の病因に関する研究が推進され,褐色細胞腫や腎動脈狭窄に基づく高血圧症が診断されるようになつた結果,いわゆる本態性高血圧症の範囲が徐々に狭ばめられている今日ではその感が深い.
 現在,手術によつて外科的に治療し得る高血圧症は大別して次の四つに分類されると思う.

展望

膵癌をめぐつて—Ⅱ.癌と糖尿型糖代謝

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1087 - P.1098

はしがき
 癌患者に過血糖の高頻度に見出されることは,すでに古くから注目され,こんにちさらに一層の注意を惹いているように思われる.この方面の最初の報告は,筆者末見であるが,Freund(1885)であつて,彼の70癌患者には,62例の過血糖が見出されたという.ついで,Tuffier(1888)は癌と糖尿との合併の稀ならぬことを肯定し,このさい糖尿がすべての癌症状より先行するとしているのであつた.また,Trinkler(1890)は癌患者血清に還元物質,ことにブドウ糖の濃度が正常以上に高いことを確かめたが,皮膚その他の癌より消化器の癌において,とくにこの所見が著しいと見ていた.当時は糖耐容試験法が臨床に応用されていなかつた.したがつて,癌患者の糖代謝位相が,糖尿病型であるか否か確実ではなかつた.筆者(1962)は別の機会に,糖尿病患者の癌合併頻度を展望したが,癌患者の30〜80%という高頻度に,糖尿型糖代謝異常を見るという報告が多い.これは甚だしく高い頻度といわなくてはならない.そして,こうした糖代謝異常は,癌のすべての臨床症状の最初の発現より,はるかに先に前駆することが少なくない(60%)ようであつた.すべての癌のうち,膵癌と子宮内膜癌とにおいて,この2点がとくに明瞭である.すなわち,糖尿病あるいは糖尿型糖代謝異常の患者から,膵癌または子宮内膜癌が好発するという結論がえられたのであつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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