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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻11号

1962年11月発行

雑誌目次

外科の焦点

遊離癌細胞について—少数細胞の意義

著者: 佐藤春郎

ページ範囲:P.1105 - P.1108

癌細胞には放浪癖がある
 突飛なことと思われるかもしれないがまあきいて戴きたい.癌に転移形成という性質があることは誰れでも御存知である.余りに普通に起ることなので,転移がないと却つて癌かどうかを疑つてみたり,転移が起つてから,ああ,あの時はやはり癌だつたのだとひそかに安心(?)したりすることもあるようである.この"転移"という現象が癌細胞の放浪癖と大いに関係があることもすぐに想像されることであろう.例えば胃癌,子宮癌あるいは何癌の場合でもよいが,リンパ腺とか肝とか肺とかに転移巣が見出され,あるものは鶏卵大にもなつていたとする.この場合その大きな転移巣がそのままの形,大きさで原発部から移動してきたのではないということは今さらいうまでもない.すなわち始めはごく少数の癌細胞が原発部から遊離して,先ず組織間隙にさまよい出る.それから血管系かリンパ管系かまたは他の輸送ラインにのつて遠隔の臓器または組織に至り,そこで定着し増殖を重ねて遂に一大転移巣を形成するものであるということは容易に想定しうることである.
 そこでこの癌細胞の遊離放浪性という性質を端的に捕足しようという企の一つが.例えば流血中の癌細胞の研究などではないかと思う.だが放浪癖といつても人によつて漠然と旅にあこがれる程度から一所不住とばかり世界中を流転する凄じいのまであるといつた具合でその程度に差があるように,癌細胞のさまよい癖にもそれぞれの癌によつて個性があるらしい.

綜説

頸動脈閉塞症に対する外科的治療—いわゆる脳卒中の手術治験例

著者: 木本誠二 ,   和田達雄 ,   上野明 ,   菱田泰治 ,   村上国男 ,   佐藤富蔵

ページ範囲:P.1109 - P.1114

序言
 いわゆる脳卒中の症状を呈する症例の中に頸動脈閉塞に基づく,脳血行障害に起因するものが在存することは,比較的古くから知られているが,近時脳血管撮影の技術が一般化するとともにこのような症例が臨床的に診断されるようになつたばかりでなく,血管外科の進歩によつて頭蓋外の頸動脈に対する血流再建手術が可能となつたために,この疾患はにわかに注目を集めるところとなつている.
 すでに欧米では頭蓋外の主要血管に比較的限局して存在する動脈硬化性閉塞に由来する脳血行障害が極めて高率に存することが剖検1,2)によつても,動脈撮影3,4)によつても確認されており,急性脳血管障害の約20%が頸動脈の閉塞性疾患によるものといわれている5).しかもそのような症例の中の多くのものが血管外科的手術によつて救われている6)のであるから,中枢性の神経症状を呈する症例とくに卒中患者を診療するにあたつては,常に本疾患を念頭におく必要がある.

胃癌の間質反応と手術成績

著者: 卜部美代志 ,   水上哲次 ,   山本恵一 ,   高野利一郎 ,   綱村史郎 ,   宮崎誠示

ページ範囲:P.1115 - P.1126

緒言
 胃癌に対する胃切除術は,外科治療面の進歩によつて,今日では,極めて安全な手術となつている.しかし,この手術の遠隔成績は,他の臓器癌のそれにくらべて,必ずしも良好でなく,長期生存率はさして高くないのである.
 胃癌の手術成績を左右する因子については,従来種々のものがあげられ,それぞれよく研究されている.すなわち,患者の状態,腫瘍およびその周辺の肉眼的所見,切除標本の病理組織学的所見等が参考にされ,殊に組織学的に検べた腫瘍の拡がり,胃壁における深達度,転移の状態等の所見は予後判定の有力な資料となつている.例えば,胃癌組織の発育について,Borrmannの分類,Brodersの分類,CPL分類,PC分類,SM型分類等が行なわれ,これと胃癌手術成績との関係をみたものなどがそれである.

直腸癌の統計的観察,特にその手術遠隔成績

著者: 伝田俊男 ,   中山祐 ,   比企能樹

ページ範囲:P.1127 - P.1133

はしがき
 直腸癌の根治手術術式としてMilesが1908年領域リンパ節の広範囲廓清を伴なう腹会陰式直腸切断術を発表したが,本法が直腸癌の原則的手術方法としてわが国で広く行なわれるようになつたのは近々20年来である.一方癌研田村の報告にもあるように姑息的手術(準根治手術)においても術後4年生存率は4.8%を示している点,他の癌と同様に5年生存例を以てその遠隔成績を検討しなければならない.われわれも本法による根治手術を行ない,5年以上経過した症例を中心に遠隔成績を検討したのでここに報告する.

外科領域の癌化学療法—手術との併用を中心に

著者: 鮫島夏樹 ,   磯松俊夫

ページ範囲:P.1141 - P.1147

はじめに
 癌の化学療法剤としてNitrogen mustard以来今日まで多数の制癌剤が使用されて来た.癌化学療法の理想は凡ての癌を薬物のみによつて治癒せしめることではあるが,現在では白血病,ホジキン氏病あるいはある種の肉腫に僅かに延命効果を認めるのみで,臨床家の最もしばしば遭遇する消化器癌には,これらの効果は殆ど期待出来ない状態である.勿論一時的にせよ自覚的あるいは他覚的効果が見られることは決して軽視出来ないが,制癌剤の真の価値は癌患者に対する延命効果において決定されるべきものであろう.確かに動物腫瘍に対する制癌剤の優れた効果は,人の癌治療に少なからざる希望を与えるものであるが,スクリーニングに用いられる可移植性動物腫瘍は自然発生的人癌とその態度を異にするもので,動物実験あるいはin vitroの実験を人体にそのままあてはめることは出来ない.
 Greenstein1)や中原ら2)による癌生体の生化学的変化に関する知見,ことにPool3)らやEngell4)によつて積極的に進められた癌患者流血中の癌細胞の証明などの事実は,癌は最早や局所の病変に止まらず全身的疾患として考うべきことを教える.治療面における局所療法としての外科手術または放射線治療の遠隔成績が,2,30年来足踏みしていることからも,癌に対する治療概念を更めて考えなおす必要があると痛感させられる.

手術後無気肺の予防法

著者: 片岡一朗 ,   蟹江弘之 ,   駒崎富士男 ,   加藤恒康

ページ範囲:P.1149 - P.1153

 手術後の肺合併症には手術後気管支炎,手術後気管支肺炎,手術後肺虚脱,急性肺水腫,肺栓塞脂肪栓塞,肺膿瘍,Pneumonitisおよびlow gr-ade Pneumoniaなどと呼ばれるHypoventilationの状態があり,その他肋膜炎,併存肺結核の悪化なども考えられるが,その発生頻度の最も高率なのは手術後気管支炎,手術後気管支肺炎,手術後肺虚脱などの無気肺群であつて胸部手術,腹部手術などにおける不快な合併症の一つとして術後の経過を不良にするため,日常外科臨床上その予防に重点が注がれている.
 術後の肺合併症の発生頻度を諸家の報告にみると,古くは瀬尾(1939)は3002例の手術のうち103例(3.4%),石山(1939)は胃十二指腸手術では13.7%,胆石手術では12%と報告している.都築,福田外科(1953)における12年間の腹部手術5,782例のうち128例(2.8%)に発生したといい,最近では尾形ら(1960)は1,608例の腹部手術のうち24例(1.49%)に,高橋(1962)は最近6年間の開胸手術を除く手術1,371例のうち9例(0.7%)に発生を見たと報告している.

手こずつた症例

胃切除後における輸血,輸液の苦心症例

著者: 高山坦三 ,   福井四郎

ページ範囲:P.1155 - P.1160

1
 患者に手術治療を施すわれわれ外科医は,たえず不慮の危険の偶発を覚悟していなければならない.患者の家族歴をはじめ既往歴を十分に聴取し,考えうる必要性に応じて周匝な諸検査をおこなつて病名を診定するのみならず,それと同時に患者の生理機能についての十二分な知識をもつて手術にのぞんでも,なおかつ手術所見はつねに必ずしもわれわれの診断と完全に一致するとはかぎらず,さらには手術中において,あるいは手術直後,さらには手術後数日を経過したのちにおいても,予測しなかつた不慮の事態が発生してわれわれ外科医を悩ませる.これらの問題について絶えず反省するとともに,これを検討して次回への対策を練ることによつて,われわれの経験は生きた体験となつてわれわれの血肉となり,われわれを外科医として成長せしめる.編集者が「私の経験した診断と治療上の困難症」というテーマによつて本課題を真摯にとりあげた所以もまたそこにあると思う.
 われわれはここにわれわれの経験したこれらの症例の2,3を紹介して,諸氏の参考にしたいと思う.症例1は後出血,症例2は術後ショック,症例3は術後低カリウム症のそれぞれ症例である.

展望

膵癌をめぐつて—Ⅲ.Carcinomatous neuropathy

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1161 - P.1175

はしがき
 糖代謝障害の患者から,膵癌の好発することを前稿でうかがつたが,さて,糖尿病患者の約半数に非炎症性のpolyneuropathyが合併するように膵癌患者においても,また,idiopathic neuropa-thyがしばしば合併する.膵癌で胆道を閉塞し,胆血症を招来すれば,中枢神経症状の発現は当然である.しかし,体尾部癌で,胆道に狭塞なく,黄疸なしに,また癌巣は限局して,中枢神経系に転移・圧迫・浸潤などの直接的傷害なしに,中枢神経症状を呈することが,偶然のチャンス以上の高頻度に,見出されるのである.おそらく,その最初の記載はLhermitte(1922)であつたろう.体部癌患者が,黄疸なく,中枢神経への転移なしにアタキシー・起立不能・歩行不能などの小脳症状を呈したというのである.ついで,Lovell(1923)は体部癌の1例で,抑鬱症・不安・agitated mel-anchoria・不眠症を,すべての癌症状よりも先に訴えたのを経験し,こうした中枢神経症状を"pa-ncreatic anxiety"とよび,anxiety・agitated me-lanchoria,insomniaが主徴であつて,この症状は膵癌の発見診断に有力であると記載した.

症例

黄靱帯化骨を証した脊髄麻痺の3例

著者: 小泉正夫

ページ範囲:P.1181 - P.1188

緒言
 外傷以外にも器械的障害により脊髄麻痺をおこす例は決して少くはないが,黄靱帯の化骨が原因となるものは余り多く報告されていない.われわれは脊髄麻痺症候を呈している症例に,偶々著明な黄靭帯の化骨を証した3例を経験したが,それらが直ちに化骨した黄靱帯による圧迫麻痺と断定できないが,そのうちの1例は剖検し得たので,その病理学的所見を併せて報告する.

外国文献

小腸カルチノイド

ページ範囲:P.1189 - P.1191

 Mayo Clinicの小腸カルチノイド209例の観察.男は女より2倍多い.50歳以上がふつう.剖検数に対する頻度は0.65%だが,小腸の腫瘍では最も多く28%,ことに回腸ではその腫瘍の46%を占める.回腸終末部に最も多いといいうる.原発巣は直径2.0cm以下の小腫瘤が圧倒的に多く,また小腫瘤ではほとんど転移を形成しない.しかし直径3cm以上の腫瘤はすべて転移をともなつている.また小腸カルチノイドは単発でなく多発または他種の腫瘍を合併することが多い.総数の29%は多中心性にカルチノイドが多発し,おなじく29%は他種の腫瘍を合併した.そのうち結・直腸癌,胃癌,乳癌,肺癌なでが多かつた.カルチノイドは剖検で偶然発見されたものが大部分で,症状は腸間膜浸潤,瘢痕性狭窄が主になる.したがつて初めは間歇性の通過障害・腹痛・下痢・嘔吐・体重減少が主徴で,レ線学的に診断しえない.長い間の通過障害の後に悪性腫瘍の特徴をあらわし,そうなつて初めてカルチノイド特有のホルモン症状があらわれるから,これは早期診断の役には立たない.悪性化しない時期の手術可能カルチノイドの予後はきわめて良い.腸間膜・肝などに転移があつて剔除できなくても,腸の通過障害さえ除去すれば,きわめて長い間生存しうるものである.カルチノイド特有の症状は14例にみとめられた.発病頭初から転移死まで追及しえた28例の平均生存年数は8.1年であつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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