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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻12号

1962年12月発行

雑誌目次

外科の焦点

外傷性神経症の新しい問題点

著者: 木村元吉

ページ範囲:P.1197 - P.1204

まえがき
 私は精神神経科の医者ではない.たんなる一労災病院に勤務する一整形外科医にすぎない.しかし,たまたま労災病院という比較的特殊な患者が集まる病院に働いているため,よく観察すれば外傷性神経症であつたという病院設立当初のたびたびの苦い経験から,本疾患に興味を抱き,若干これに関する内外の書籍に目を通し,日常の診療に役立てているにすぎない.したがつてこれから述べる本疾患も整形外科領域からながめたものであることをあらかじめお断りしておく.しかしどの科から観察しても本疾患の根本概念には変りがないと思つている.

綜説

直腸癌の発生と治療

著者: 卜部美代志 ,   深谷月泉 ,   山本恵一 ,   荒川竜夫

ページ範囲:P.1205 - P.1221

はしがき
 直腸癌は,私共の日常扱う消化管系臓器癌の中で,胃癌程多くはないが,しかしまたさほど稀な疾患でもない.また治療法さえ適当なれば,直腸癌の治療成績は,他臓器癌にくらべ良好な部類に属するので,私共は,この疾患の外科を重要視しなければならないと考えている.
 本年4月の日本外科学会総会において,私共は直腸癌についてのシンポジアムに参加し,また本問題について臨床特別講演の機会を与えられた.そこで私共は,直腸癌の発生を観察し,その手術術式を工夫し,従来私共のあげ得た本疾患の治療成績をとり検べたので,ここにその大要を記述し,諸賢の御参考に供する次第である.

大網の単純性炎症性腫瘤について

著者: 田中早苗 ,   折田薫三 ,   神村政行

ページ範囲:P.1222 - P.1229

Ⅰ.はじめに
 腹腔内手術や既存の炎症,あるいは不明の原因によつて大網に炎症性腫瘤が発生してくることは,1874年にはじめてMüller2)によつて報告された.すなわちMüllerは57歳の女性の剖検例で,慢性腹膜炎が原因と考えられた大網の異常な慢性炎症性肥厚に気付いて報告している.しかし,それよりさきすでに1853年Virchowは,大腸の単純性炎症についての研究にさいし孤立性癒着性大腸周囲炎の存在を指摘し,大網の肥厚および萎縮に関する報告をおこなつているが,その頃から腹腔内単純性炎症性腫瘍は外科領域において徐々に脚光をあびてきていた.
 1899年にはSchnitzler3)によるヘルニヤ手術後の大網膜に発生した炎症性腫瘤の報告があるが,1901年にBraun4)が大網膜腫瘤の症例を集計しその成因に関する報告をしたときをもつて,網膜の炎症性腫瘍が他の疾患からかなり判然と独立分離されたといつてよい.その後多数の論文が欧米において発表されているが,本邦では意外にも本症に関する報告例はすくなく,明治39年田中5)が腹部大動脈瘤破裂による死亡の剖検例で,偶然に大網膜の下端に虫卵を含有する線維性の厚い鳩卵大の大網膜腫瘤をみいだしているのがおそらく本邦第1例目であろう.以来,報告例が漸増してきてはおるが欧米のそれに比し大変少なく,われわれは前記田中の報告以来の本邦文献を可及的漏れることなく集計し50余例を得たにすぎない.

慶大外科において経験した胃良性腫瘍

著者: 礒利次 ,   大槻道夫 ,   山田雅宏 ,   小沢博 ,   三富利夫 ,   湯浅瞭介

ページ範囲:P.1237 - P.1248

 胃良性腫瘍は比較的稀なものとされている.Marshall1)によると手術例の胃腫瘍総数1700例中良性腫瘍は82例で4.8%にあたる.われわれが最近6年間に経験した胃腫瘍は総数585例で,胃癌は554例をしめ94.7%である.癌以外は良悪性腫瘍,炎症性腫瘍を含めて31例で5.3%,肉腫の4例を除外し,良性のものは4.6%となる(第1表).炎症性腫瘍と考えられる腫瘍,すなわちポリープ,胃壁好酸球性肉芽腫を除き,真性の腫瘍中,胃癌に次いで多くみられたのは滑平筋腫(良性5例,悪性4例)であり,脂肪腫,線維腫はそれぞれ1例である.ここに胃良性腫瘍の真性腫瘍,すなわち滑平筋腫5例,脂肪腫1例,線維腫1例(中2例は胃癌と併発)について報告する.

悪性甲状腺腫について

著者: 原野愛生 ,   山口洋一郎 ,   三浦敏夫 ,   山本尚司 ,   伊福真澄 ,   古賀保範 ,   田崎亟治

ページ範囲:P.1249 - P.1258

Ⅰ.緒言
 戦後急速な医学の進歩にともない,甲状腺腫に外科的治療を行なう機会も著しく増加し,従来比較的まれとされていた悪性甲状腺腫も13)18)34),他臓器の悪性腫瘍と同じく,近年その発現頻度の増加が広く注目されるに至つた31)48)50)64)
 しかし,悪性甲状腺腫は他臓器の悪性腫瘍と聊かその性格を異にし,完成された悪性腫瘍症状をすべて具備するものは少なく,臨床的に結節性甲状腺腫と診断されるもののなかにかなり多数の悪性甲状腺腫が包含されていて6)35)41)63),病理組織学的検索によりはじめて診断が確定する場合が多い.

紹介

熱傷研究のメッカ

著者: 藤田五郎

ページ範囲:P.1259 - P.1261

 熱傷は病理学的にも極めて特殊な創傷の一つであり,救急処置の段階から機能回復までは一貫した治療が必要である.米国では,第2次大戦や朝鮮戦争における数多くの経験のほか,社会生活が高度化するに伴つて加速度的に増加する熱傷患者の実情にもとづいて,劃期的な努力を傾注して熱傷研究ととり組んでいる.米本国では,1954年の1年間に6,800人の熱傷患者が死亡しているとも云われ,わが国でも昭和35年の1年間には,約7万人の人々が熱傷患者として医療を受けていることになつている.経済的,肉体的に,はたまた精神的に苦痛の大きい熱傷の治療について真けんに考えるべき時機がきているのではあるまいか.今後は,各種工業の飛躍的発達や自然災害増加の現況にかんがみて必然的におこりうる集団熱傷患者の発生に対する対策も考えておく必要があるのではあるまいか.熱傷にかぎらず,集団災害外傷患者対策は医療を担当するものに課せられた使命であるとおもう.その際,医療活動に従事するものの能力と,"一時に降つて湧いたようなmass casualties"との間に生ずる質的,量的の大きなギャップを如何にして埋めるかがこの難問を解決する鍵ではあるまいか.
 かのアラモのとりでの所在地として有名なテキサス州サンアントニオの町に,勇将の名をとつてフォートサムヒューストンと呼ばれている広大な軍施設がある.

外国文献

炎症,他

ページ範囲:P.1263 - P.1269

 M.Allgower編でProgress in Surgeryというシリーズが出初め,その第1巻の冒頭の論文がこれで,Her-lichは米Pennsylvania病理教授.本文は英文で書かれ独・仏語の要約が付けられている.炎症変化は催炎因子の物理化学的性状と組織の側の物理化学的変化とで定まるわけで,催炎菌にはM-protein,aggressin,tuberculo-proteinなどの蛋白,ペプタイド,糖,燐脂質およびendotoxin,O-antigenのようなlipid-polysaccharide-protein複合体が傷害作用,線溶現象,発熱,Shwartz-man反応などを惹起する.こうした菌体成分のほかst reptodornase,hyaluronidase,collagenase,coagulaseなどの酵素成分が局所変化に重要な役割をもつことはいうまでもない.組織の側では形態学的に基質膨化・遊離水分増加,肥満細胞破裂,線維芽細胞腫大,athrocytosisなど,化学的には解糖・蛋白破壊・ヒスタミン—セロトニン等の遊離などが見られる.蛋白破壊によるペプタイドにはMenkin諸因子,Spector因子,bradykininなどがあり,局所変化に大きく寄与する.またアシドージス・滲透圧増加も重要である.

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臨床外科 第17巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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