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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻3号

1962年03月発行

雑誌目次

展望

Blind Loop Syndrome—腸管外科とmalabsorption syndrome

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.165 - P.173

はしがき
 Blind loopあるいはcul-de-sacという術語はわが国でもすでに久しく使われている.Blind loop syndromeというときのblind loopは,しかし,いくぶん語調内容が特異で,blind loopという表現は適切でないようだ.空置された部分の腸管がself-fillingであつても,self-emptyingではなく,したがつて拡張充満し,その結果として一種のmalabsorptionを呈する状態をいうのである.胃切除後ではpostgastrectomy syndromeが内外ともに注目されているが,小腸手術後のblind loop syndromeは案外に注意を惹いていないようである.
 Blind loop syndromeは小腸手術に限るわけでなく,前号に述べられた小腸憩室症においても,また後に述べられる胃手術後の十二指腸脚においても発生しうる.これらを除き,小腸手術にもとづくblind loop syndromeは文献に100例ほどが報告されているにすぎない.しかし,小腸手術後のblind loop syndromeはもつと遙かに多いのではあるまいか.腸手術後の腹痛・腹部膨満・体重減少・貧血などの患者では,癒着・慢性狭窄などのみでなく,malabsorptionを十分慎重に考慮し精査しなければなるまい.

臨床病理 リンパ節の腫瘍--病理より臨床にささげる

第14回 好酸性白血球の浸潤を手掛りとしてリンパ節腫大を洗う—とりわけEosinophilic granulomaを如何に扱つたらよいか—/第15回 リンパ組織と腺組織との隣接共存を手掛りとして頸部リンパ節腫大を洗う—いわゆるLymphoepithelial lesionsの考え方—

著者: 所安夫

ページ範囲:P.175 - P.184

第14回
 Ⅰ.
 「エオジノフイル」ノ白血球ハ,肥胖細胞ナドトチガツテ,組織標本ノ中デハ,誰ノ目ニモスグ気ノツク便利ナ「ケジメ」ノ手掛リデスカラ,コノモノガアル程度以上出現スルト,何ヨリモソレニ寄リ添ツテ像ヲ判定シタクナリマスシ,事実ソノ考エ方ハ10中8,9正シイモノデス.ケレドモ,何事ニモ「便利スギル」事柄ニハキマツテ死角トナル「安易サ」「投ゲヤリ」「逃ゲ路」ガアリマスヨウニ,コノ場合モ,ソノオカゲデカエツテ,病気ノ本当ノ姿ガクラマサレルノハ,ヤムヲエナイトハイイ条否定デキナイ厳粛ナ事実デス.コノ事実ハ,今モツテ,カナリ「気儘ニ」,文献界ニ安住シテ,ソノ日限リノ安心ノ陰ノ中ニ良心ノ苛責ナシニ,消エテイルヨウデス.
 今回ハ,舞台ヲリンパ節ニ合シテ,コノ問題ヲトリアゲ,コノ課題ニ向ウ私ドモノ心掛ケヲ整理シテミマス.

研究

強力超音波による腹水癌破壊実験

著者: 長嶋恒義

ページ範囲:P.187 - P.194

緒言
 超音波の生物学的作用は1927Wood & Lomis,1930 Harvey,Dognon,1940 Pohlman等により報告され液体腫瘍に対する超音波の作用を検討した研究は本邦においては釜洞矢口が超音波作用後の移植能について観察しているに過ぎない.
 今日までに観察された超音波の生物学的作用は原理的に次の事頃に大いに関連するものである.1°もつとも重要なことはキヤビテーション(特に原形質の内部からの)である.

手術野消毒の一考察

著者: 西本忠治

ページ範囲:P.195 - P.198

緒言
 皮膚消毒剤の備えるべき条件としては,皮膚に常棲する細菌residents,usual inhabitants,にも仮棲する細菌transients,casual contaminants,にも有効であり,表面張力が低く,有機物の存在においても有効で,広い抗菌スペクトルを有し,永続性大で,皮膚を刺激しないものでなければならない.しかも価格の安いものであることが非常に望ましい.
 現在行なわれている殆んどの皮膚消毒は,Gros-sich(1908),Young(1919)の方法を踏襲しているものである.私は,最近術者の手指消毒剤として陽性石鹸の優秀性が実証されているのに着目し,これを手術野の消毒に使用しいささかの知見を得たので,ここに発表して,御批判を仰ぎたいと思う.

統計

最近7年間に当外科に於て経験した新鮮下血例(肛門疾患を除く)の統計観察

著者: 鈴木快輔 ,   藤井浩一 ,   内藤正司 ,   永野克郎

ページ範囲:P.201 - P.206

1.はしがき
 広い意味での下血とは,すべて肛門から血液が排泄せられる状態をいうが,ここにいう新鮮下血とはもつと狭い意味での下血,すなわち一見血液とわかるような比較的新鮮な血液が排泄される場合を意味する.教室の経験では,かかる下血の症例が第1表のごとく最近増加する傾向にある.すなわち昭和29年では全入院患者に対して0.7%であるが昭和35年では2.1%を占めている.しかもそれらのうちのあるものは新鮮下血を唯一の症例として,他の症例がきわめて少いか,あるいは全く欠くものがある.すなわちかかる疾患において下血の占める意味はきわめて重要である.そこでわれわれは当教室の最近7年間の新鮮下血例(ただし肛門疾患を除く)の統計を行つて消化器病の外科的臨床面に役立たせたいと考えた.

症例

胸腺腫を伴つた重症筋無力症の1治験例

著者: 都留美都雄 ,   高村春雄

ページ範囲:P.207 - P.212

緒言
 随意筋の慢性疾患であり,ある筋群の易疲労性および筋無力症を主徴とし,症状も悪化と自然寛解とを反復する傾向を持つことで特徴づけられる重症筋無力症に対して,旧くから種々な療法が行なわれてきた.
 1901年Weigert12)は本疾患患者の剖検例中に胸腺腫があることを報告した.その報告に暗示されて,それ以来この疾患に積極的な外科的療法(胸腺剔出術)が行なわれるようになり,その手術症例の増加に伴い,本疾患と胸腺との関連および本疾患に対する外科的療法の可否が論ぜられるようになつてきたが,いまだ万人の認めうる結論には到達していない.

潰瘍性大腸炎の癌化例について

著者: 森本浩平 ,   安原五郎 ,   佐藤雅彦

ページ範囲:P.215 - P.217

緒言
 非特異性潰瘍性大腸炎は従来本邦ではまれとされていたが,最近増加の傾向にあり,一般に考えられているよりはしばしば遭遇する重要な疾患として注目されるようになつた.本症は欧米では日常ありふれた疾患として内外科両域から種々の点について研究されており,とくにその癌化は古くから問題とされている.本邦でも潰瘍性大腸炎の手術症例は次第に増加しているが1,2),なおこの癌化についての報告はみない.最近われわれは潰瘍性大腸炎で結腸全切除,回腸瘻造設術を行い良結果をえたが,術後比較的短期間に曠置した直腸に癌の発生した1例を経験したので症例を報告し,とくに本症の悪性変化について検討し,なお手術方法について若干の意見を述べてみたい.

膀胱腸瘻の2例

著者: 鈴木礼三郎 ,   陳武州

ページ範囲:P.219 - P.226

緒言
 極く希な症例を除いて膀胱腸瘻(以下本症と呼ぶ)は,手術的治療を要するが,内外の文献に照しても,その成績は必ずしも良好でない.その理由は本症の発生原因が種々であり,また瘻孔の部位および合併症等のため,不幸の転機をとると思われる.加うるにそう多く見るれる疾患でない為に,1人で多数例を経験し,凡ゆる場合に適切な処置を講ぜられないのも一因と考えられる.本論文は,治験例ではないが,これに本邦の報告例を合せ集計して考察を加え,これから本症に遭遇したさいの御参考になれば幸である.

外国文献 外科総論,脳外科,心臓外科,脳神経外科

N-Mustardと自家骨髄注射,他

ページ範囲:P.228 - P.234

 南阿では副鼻腔・後鼻腔の悪性腫瘍頻度が高いということで,Nairobi地区では頭頸部悪性腫瘍が全癌の32%,副鼻腔12%,後鼻腔9%を占めるという.これは西欧諸国の20倍ほどになるらしい.そこでその治療に苦労が必要となるが,著者は手術不能の高度進展の副鼻腔・後鼻腔の癌33例に,nitrogen mustard大量(2mg/kg)療法をこころみ,その3例にはN-mustard大量と共に自家骨髄の静注を行つた.まずN-mustard注射前に(30分ぐらい)クロルプロマジン20〜25mg筋注.食塩水点摘開姶.そこでN-mustard液を点滴に加える.N.mはまず0.2mg/kg,5日間(計1mg/kg).これは15例あるが,神経圧迫症状等は改善した.白血球減少はあるが中毒死はない.軽快は2〜3カ月つづいた.再増悪すればまた同じN.m点滴を行い,総計2mg/kgに達する.2mg/kgに達すると網内系の永久破壊がおこり大部分は死亡するので,骨髄移植が必要になる、シリコン加工シリンジで胸骨を数回穿刺,グリセリンを加え凍結封入、必要に応じSolvister法で加工し急速に静注.N.mはどうしても1.5mg/kg以上が必要なので,1.5〜2.0mg/kgに達した3例にこの骨髄静注を行い,3例とも顆粒細胞減少・感染死を免がれ,また癌治療効果をあげえた.骨髄静注を行わなかつた2.0mg/kg 3例は皆死亡した.

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集談会

著者: 橘貞亮 ,   牧野勉 ,   広野禎介 ,   丹保司平 ,   村上誠一 ,   向永光 ,   三浦勇 ,   深谷月泉 ,   大田英夫 ,   中川栄一 ,   仲井信雄

ページ範囲:P.235 - P.235

第111回北陸外科集談会
1.胃扁平上皮癌の1例
 胃扁平上皮癌の多くは食道癌の下方進展とみなされるものが多いが,私共は幽門部粘膜に原発した胃扁平上皮癌の1例を経験したので報告すると共に,その組織発生について文献的考察を加えた.57歳男子の外科的摘出標本で,その組織像は角化を伴う扁平上皮癌の像であるが一部に円柱状腺癌の像をも呈し腺表皮癌と診断すべきものである,内外文献を通じ記載の明らかな胃扁平上皮癌は30例あり,私共の教室においては胃癌症例665例中私の報告例を加え8例でその比率は1.5%となる.扁平上皮癌の組織発生については迷芽説,化生説,未分化基底細胞よりの発癌説があるが前二者が有力とみられ,症例によつてそれぞれの立場を支持する組織形態学的特徴を観察し得る.今回私共の経験した1例は定型的な扁平上皮癌の有勢像を示すにもかかわらず,一部に腺癌構造を観察する点から.腫瘍発生過程における化生の機転を重視せねばならないと考える.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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