icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻4号

1962年04月発行

雑誌目次

綜説

癌の化学療法—殊に外科的立場から

著者: 卜部美代志 ,   山本恵一 ,   高野利一郎 ,   綱村史郎 ,   宮崎誠示 ,   渡辺憙市 ,   津田昇志

ページ範囲:P.241 - P.253

緒言
 悪性腫瘍の治療においては,近来ようやくその曙光をみとめるに至つたかの感があり,殊に癌の化学療法において,最近優れた制癌剤が相次いで発表され,一部の症例に対しては,すぐれた効果を修めている.しかし現段階では,なお,化学療法単独で人癌を完全に治癒せしめえたものはないようである.
 癌根治の決定的手段でないという点では,外科手術もまた,放射線療法および化学療法に比べて著しい差異はないのである.しかし,今日激増する癌患者を前にしては,たとえ決定的な治療法がないからといつて,手をつかねているわけにはいかないのが私共の現状である.従つて,一方では徹底的な根治手術が主張され,その結果として,早期手術より,さらに前癌状態としてみとめられる諸疾患の外科的治療までが強調されると共に,他方では,外科手術と諸種の併用療法が考案検討されている.

胃曲線による胃下垂症の運動機能的分類

著者: 中村武 ,   山本勝美 ,   広田和俊 ,   高橋康 ,   平島毅

ページ範囲:P.255 - P.260

 胃下垂症の愁訴の中心となつている"胃部膨満感""食べものがもたれる"等は胃の運動機能が減退したいわゆる胃アトニーに起因するのもと考えられる.報告によれば胃下垂にアトニーが伴つて現われることがしばしばであり食物の幽門部通過機序に対し,胃の蠕動運動が占める役割は大きい.レ線的に胃アトニーは胃の蠕動機能の減弱と定義されているが,実際の場合従来主としてレ線判定によりそこには主観的なものが入り明確に判定する基準がなかつた.ところが,われわれは外科臨床の立場からアトニーを手術的に治療するとか,下垂症の手術適応をきめる場合の基準や分類が必要と思われるので今回試験対象として胃運動機能減退自律神経症状を訴え,しかもレ線的に胃下垂がある患者の胃内圧を平島によつて2,3工夫したバローン,キモグラフィ法で胃運動曲線を採取し新たに波型による胃下垂症の分類をしたので報告する.

131I Rose Bengalによる肝,胆道疾患の診断

著者: 穴沢雄作 ,   平野重明 ,   中原英幸

ページ範囲:P.261 - P.269

 放射性物質が医学の分野に導入されてすでに久しいが,肝臓,胆道系の機能検査として応用されたのは比較的新しい.1952年Dobsonらによる198Auを利用した肝血流量測定は肝の病理生理の研究に大きい進歩を展開させ,さらに198Auや131Iをtracerとして肝臓のscintigramが描記されるに至つた.一方,放射性同位元素を胆嚢疾患の診断に応用したのはOsserの131I-biliserektanやStirrett,Yuhlの131I-diiodofluoresceinがある.これらとは異なり,1955年Taplinらは131I-rosebengalを用いて新しい肝機能検査を提唱した.これに関しては以後,Brown,Lum,Löwenstein,Cohnらの追試があり,本邦においても三輪,久田らの発表が行われている.Taplin以来これによりえられた肝臓の摂取,排泄曲線から肝循環,肝細胞機能や胆道通過性などを分析して肝疾患の診断および黄疸が胆内外性かの種類決定に役立つとされている.なお本法が肝臓機能検査のみでなく胆道系の機能検査としても有用なことをTaplin,三輪,久田らが提唱している.すなわち131I Rose Bengal検査は肝胆道系の一貫した動的な機能検査であつて種々な疾患の病態を明かにする許りでなく,その診断的意義は極めて大きいと考えられている.

展望

小腸腫瘍およびAfferent loopにもとづくMalabsorption syndrome

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.271 - P.282

はしがき
 小腸の外科疾患,または小腸手術では,その長い経過を追つてmalabsorption syndromeの合併を警戒すべきであることを,前に強調した.消化管傷害にもとづくmalabsorptionの発生は,一括すれば第1表のごとくであろう.
 ここでは肝胆道あるいは膵疾患には触れない.小腸の慢性狭窄・小腸手術・blind loopおよび自然発生小腸小腸瘻については,前回くわしく述べた.また小腸憩室症・cul-de-sacについては前前回うかがうところがあつた.そこで,本稿では小腸腫瘍および胃切除後において見られるmalab-sorption syndromeを取扱つておきたい.この他,第1表のように,限局性腸炎によるmalabsorptionが知られているが,以上で外科において遭遇するmalabsorption syndromeを概観しえたと云つてよいであろう.

紹介

微量持続点滴管の考案—特に未熟児・新生児等に必要な微量輸液法について

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.283 - P.285

 未熟児,新生児の補液は最近特に注目されている問題であるが,その手技の要点は輸液を始めるに当つての技術と,輸液開始後の維持の問題に大別されよう.すなわち前者は大伏在静脈,頭皮静脈等を選択し,これに注射針を刺入するか,静脈切開を行つたのち,固定をするわけで手技の習熟にも器具の改良にも殆んど改善の余地は残されていない.しかし後者の補液量が少ない場合の流量の正確な維持の問題はむしろ看護婦の管理に委ねられているためもあつて,少ない流量の正確簡便な調節器具は一つの盲点として立ち遅れており,大抵の施設では未だ成人用のセットがそのまま末熟児,新生児にも用いられている.これでは1日の輸液総量300〜500ccを数日間持続する場合,1分間の滴下数を3滴前後に調節せねばならず,正確な流量をうることが甚だ困難であるばかりか,滴下停止の早期発見が遅れ注射針,血管などの栓塞が起り易い.
 著者は数年前から点滴セットの点滴管の液滴を従来の15以下に小さくして1ccを60〜100滴となし,24時間量が500cc以下の場合でも正確で容易な調節ができるよう考案と改良を重ねて来たが,最近ようやく従来の点滴管と使用法が変らず構造も一見同様で,かつ理想的な機構を完成したので,今までに著者が作成した試作品の段階的な紹介を兼ねてその詳細を報告し,諸賢の御試用と御批判を仰ぎたい.

症例

先天性臍帯ヘルニア

著者: 服部光男 ,   松村秀夫 ,   河野良子

ページ範囲:P.287 - P.288

緒言
 われわれは最近,先天性臍帯ヘルニアの1治験例を経験した.これに昭和30年の1死亡例をあわせて報告する.

腎腫瘍を思わせた腎カルブンケルの1例

著者: 並木重吉 ,   高橋洋

ページ範囲:P.291 - P.293

緒言
 1891年J. Israel1)が頸部癤瞳から血行転移性に,腎皮質,1部髄質におよんで発病した,健康部との境界明瞭な,豚脂様組織よりなる腫瘍状外観をていする病巣を腎カルブンケルと命名した.
 以来欧米ではWelch & Prather2)(1949),Pearlman3)(1951)がそれぞれ200例以上の集録を出している.本邦においては,昭和7年菊地,川野らの第1例にはじまりすでに53例の報告があり,比較的稀有な疾患といえる.

肺癌に合併せる両側女性乳房の1例

著者: 藤原証五

ページ範囲:P.295 - P.300

 肺癌患者においては,まれにホルモン異常を示すことがある,Brown(1928)1),Thorn(1952)2)は肺癌で,組織学的にoat-cell carcinomaの症例にCushing's syndro-meを合併した症例を報告している.最近,著者は肺癌に両側女性乳房を合併した症例につき,内分泌学的に検索し,興味ある知見をえた.

術後テタニーに対するOppel手術の1治験例

著者: 原宏 ,   千貫素直 ,   小沢進 ,   松本喜博

ページ範囲:P.303 - P.306

 甲状腺摘出手術にさいして上皮小体を誤つて摘出したり損傷した場合にテタニーを起すことが知られている.すなわちこれらのことにより上皮小体の機能低下が原因で血清Caの低下と血清無機Pの上昇が起つてくる.術後テタニーには内科的療法と外科的療法があり,外科療法では上皮小体移植術骨移植術および骨損傷術が行われているが,後2者が最も良い結果を得ているようである.骨移植術すなわちOppel正手術は教室原により再三報告して来たが同一症例で3回に亘りOppel手術を施行し術後経過観察中の症例について報告したいと思う.

外国文献

小児癌外科の進歩,他

ページ範囲:P.307 - P.313

 小児癌ほど発育速く発育刺激の明かな癌はない.したがつて早期発見,早期治療は小児癌ほどつよく要望される.小児期の甲状腺癌は増加しつつあり,小児の甲状腺結節・頸部リンパ腫の甲状腺癌における意義は益々注目され,胸腺照射は甲状腺発癌を促すというような事実がある.結腸ポリポージス・潰瘍性結腸炎・食道狭窄・肺嚢胞・熱傷瘢痕・放射性皮膚炎等々は小児期には悪性でなくとも前癌性の変化とみるべきである.こうした諸事実をよく弁え,また,FUO(fever of unknown origin),FTT(failure to thrive)というのを仔細に吟味すると小児癌を発見することがある.その他あらゆる可能の診断技術を用いて早く発見する必要がある.著者の治療方針は単に生命を延長することには主力をおいていないらしい.最近の強力な照射法,骨髄庇護法,抗癌剤ことにneuroblastomaに対するビB12などは興味ある有力な方法である.が主たる治療法は成人の場合と同じく手術療法で,小児癌の主なものの手術法を述べている.Wilms腫瘍,必ずしも術前照射しなくもよい.限局していてもかなり大腫瘤となるが,転移がなければcurable.治療開始を一刻も早く,腫瘤操作を最少に,適切な適応をえらび巧みに手術というのがモットー.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?