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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻5号

1962年05月発行

雑誌目次

外科の焦点

早期胃癌の新しい問題点について

著者: 村上忠重 ,   岩波英雄 ,   安井昭 ,   渡辺博 ,   崔相羽

ページ範囲:P.321 - P.330

 胃癌を動物の胃に作る実験は未だ十分成功していない.そこで胃癌の発生のメカニズムを知ろうとするには,人の胃の切除標本にたよるより他に方法がない.
 ところが胃癌は初期の間は特有の症状を表わさない.胃症状が表われてから切除した胃にみられるものは,多くは進行した胃癌で,初期の胃癌というにはほど遠いものが多い.私どもが初期の胃癌の組織像を研究した材料は,誇張していうならば,ほとんど全て誤診によるものとさえいうことができる.その一番多い場合は胃潰瘍ないしはポリープの誤診である.もちろんこのような場合を厳密な意味での誤診と名づけるのは,いささか酷であろう.しかし,いずれにせよ,初期の胃癌の組織像を得ようとすれば,すなわち初期の潰瘍癌,もしくはポリープ癌を探がそうとすると,潰瘍もしくはポリープの標本を詳しく調べるのがもつとも有効な方法であつた.

綜説

無胃性悪性貧血

著者: 友田正信 ,   有吉巍

ページ範囲:P.333 - P.339

Ⅰ.緒言
 輓近医学の進歩に伴い,血液疾患についても外科的処置によつて初めて根治せしめ得るに至つたものが少なくないが,しかしまたその反面外科手術は無胃性貧血という特殊疾患を作り出した.もとより胃機能不全と貧血との関連はFenwick以来注意されていたが,Deganello,Moynihan等による胃全摘後貧血発生の報告,Minst a.Murphyによる悪性貧血に対する肝臓療法の発見,Castle等による有名な内外因子説の提唱,Sturgis等による悪性貧血に対する胃腑療法の創始等によりその関係は一応体系づけられ,次でMorawitz1)により胃切除後各種性状の貧血のみられる事実が報告され,Agastrische Anämienの名称の下に広く一般の関心をよぶに至つた.しかしその後多数学者による研究によつてもこの貧血の性状ないし本態に関しては統一性が認められず,なおこの貧血に対しては漠然とした未解決の貧血症という観念が残つていた.
 私どもの教室においては十数年来多数の胃全摘および胃切除手術を行い,その術後生体代謝に関する胃の生理的意義を研究して来たが2),幾多興味ある知見を得,就中悪性貧血の一応は少ないとせられていた日本人においても無胃性悪性貧血例の発生を初めて確証したので,これに関する研究経過の一端を述べてみたい.

乳幼児手術における副腎機能と水分・電解質代謝の特徴

著者: 石田正統 ,   斉藤純夫 ,   沢口重徳 ,   佐藤富良 ,   中条俊夫

ページ範囲:P.341 - P.349

まえがき
 小児外科という新しい分野がわが国でも次第に認識されつつある.従来でも学令期以前の小児,幼児に対し手術(開腹,開胸)を試みる場合がない訳でなく,例えば先天性心疾患では開胸手術が行なわれているが,近年特に消化管疾患あるいは各種奇形に対して積極的に外科治療を行なうようになつた.これは第一に麻酔学の進歩に負うところが大きく,新生児・乳児でも安全に麻酔が行なえるようになつたことと,術後管理が発達し各種の輸液・輸血などが合理的に行なえるようになつたことに基いている.これらは麻酔科,小児科,産科,外科などの各科の協力を必要とし,手術成績の向上には疾患の早期発見,治療という臨床医学の原則が守られることを前提としている.
 ここで,小児外科の対象年齢を考えると,2〜3歳以上の年齢に対してはほぼ成人に準じて大過がないが,小児外科の主治療対象はさらに低い年齢層である.

展望

他のMalabsorption syndromeとショックを惹起する直腸腺腫

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.351 - P.361

はしがき
 消化管の形態変化にもとづく,したがつて外科治療の対象となりうるmalabsorption syndromeは,およそ以上のごとくである.限局性腸炎および潰瘍性結腸炎を故意に除いたのは,次の機会にprotein-losing enteropathyとして一括して窺いたいからである.
 なお次の二,三の疾患は,外科においても,malabsorptionを来すものとして,注目すべきであろう.

紹介

簡易血管心臓造影法

著者: 榊原宏 ,   小河博之 ,   林健二 ,   本渡劦 ,   大沢幹夫 ,   堺裕 ,   田辺勝二郎

ページ範囲:P.363 - P.370

はじめに
 血管心臓造影法(Angiocardiography:以下A.C.G.法と略称する)は血管に造影剤を急速に注入してこれが心臓,大血管内を移動する状態を高速X線撮影法をもつて記録し,心臓,大血管の形態的変化および血行動態を観察するもので,心臓および近接大血管の疾患,肺疾患の診断および治療方針決定には不可欠の検査法である1,2,3,4,8,9)
 本法にはカセッテ変換,ロールフィルム等によつて直接フィルムに撮影する直接法,螢光板上のX線像を光学系を介してカメラ内のフィルムに縮写する間接法(例えばオデルカミラーカメラ),螢光増倍管を用いて映画として記録する.特殊法等があるが3,5),いずれも大容量のX線発生装置を必要とするか,あるいは高価であり一個人病院でこれを設備することはなかなか困難である.

海外だより

これから欧米に旅する人々のために(欧州編)

著者: 鈴木礼三郎

ページ範囲:P.373 - P.380

 アイレ国,ダブリン市で開催の国際外科学会に出席することが決つてから,先ず体力脚力の訓練と,英会話の勉強を始めた.私は戦時中海軍々医として駆遂艦に乗組み,如何に体力が必要であるかを痛感していたので,当然頭に浮んだ第一条件であつた.平常は頭の良い人でも二,三日も戦斗が続くと,体力の無い神経質な人は,ボーットなつてコンマ以下になることを知つていたからである.
 次に他人の紹介状によつてある人を尋ねたり,あるいは大名旅行をせずに,一個の日本の外科医が世界の外科医を相手にどれだけの価値をもつものかをも試してみたかつた.世界一周は自分の子供の時からの夢であつた.愈々実現する段階になつたが限られた経済と時間の関係で欧州は医学と離れて日本人として種々の国の民情を知り,現在の国際情勢を見て見聞をひろめ,米国において自分の専門分野の外科,ことに膵臓,肝臓,胆道系疾患についてその道の専門家と意見の交換を考えた.

外国文献

自家免疫病,他

ページ範囲:P.383 - P.389

 自家免疫として知られているものに,まず最初の後天的溶血性貧血,sedormidその他薬物紫斑病,EL,Has-himoto病,甲状腺疾患,リウマチ,Sjögren病などで自家抗体が知られてきた.進行性肝疾患にも自家抗体が見出された.その他・慢性膵炎・悪性貧血・Addison病・男子不妊・潰瘍性結腸炎も自家免疫に関係があるといわれている.しかし,この反応がどうして疾患を惹起するかその機序は明かでない.甲状腺や脳では自家または同種組織で実験的に自家抗体を容易につくりうる.抗体が出現してから甲状腺なり脳に変化がおこる.しかし抗体を証明しえないで,相当する疾患が発生することがあり,他面,高単位抗体を正常動物に注射しても相当疾患が発生しなかつたりする.それで循環抗体というよりも,リンパ球を介するdelayed typeのhypersensitivityにむすびついて,組織損傷がおこるのではないかと思われる.人体でも疾患を直ちに循環抗体にむすびつけるには躊躇する.心筋梗塞では特異抗体が血清にでるが,それは梗塞の結果であり,原因ではない.自家免疫甲状腺炎の患者血清は甲状腺組織培養に対し細胞毒である.しかし自家抗体は抗原含有組織に有害とは定まつていない.自家免疫病ではdelayed type hypersensitivityに見るような,組織学的にcompetent cellを証明しえない.自家免疫病では,細胞学的な基礎が欠けている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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