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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科17巻9号

1962年09月発行

雑誌目次

外科の焦点

冠不全の外科の新しい問題点

著者: 麻田栄 ,   武内敦郎

ページ範囲:P.941 - P.946

 ここで筆者等がいう「冠不全」とは,冠動脈の狭窄ないし閉塞によつて,その配下心筋が乏血ないし虚血に陥つている状態を指すものとする.このような状態は臨床的には,1)いわゆる狭心症の発作,2)狭心症発作はないが,心電図の異常とくに労作時に著明なST・Tの変化,3)定型的な心筋梗塞症状等の形で現われることは周知の通である.
 このような患者の心臓を病理学的に調べてみると,冠動脈枝相互の間の副血行路──いわゆる冠内性副血行路Intercoronary Collateralsが発達し,閉塞配下の心筋が周囲の冠動脈枝から血液の補給をうけていたことが考えられ,一方また,心筋の乏血部に外部から心膜が癒着して,その癒着部に血管吻合がみられ,これが冠外性副血行路Extra-coronary Collateralsとして心筋の乏血を多少とも和らげていたと考えられる症例がある.かかる事実に立脚して,冠不全に対する外科的療法としては,いわゆるMyocardial Revascularizationなる一連の手術が1940年頃から行われて来た.

綜説

所謂早期胃癌の組織形態

著者: 卜部美代志 ,   水上哲次 ,   山本恵一 ,   高野利一郎

ページ範囲:P.947 - P.963

緒言
 胃癌の組織発生については古くから多数の研究報告があり,その発生母地としてpolyp,慢性胃炎,潰瘍があげられている.polypからの胃癌発生についてすでにVerse(1909)27,28)がpolyp腺腔がその揚で(an Ort und Stelle)癌化して腺癌を発生することを述べている.胃潰瘍からの発癌についてはHauser(1883)5)が有名な病理組織学的証明を確立して以来,Duplant Fuetterer,Wilson & Mc Carty,Payr21)等のこの問題についての報告がある.胃炎癌の発生についてはKonjetzny(1913)8-10)の研究がまた有名である.彼の説によれば,polyp,潰瘍,萎縮性胃炎等の状態はすべて慢性胃炎の結果生じ,結局胃癌もまた胃炎を基盤として発生することになる.次いでMoskowicz(1924)の研究は胃癌発生における多中心性発生を論ずる端緒を開き,さらにKonjetznyの胃炎説に批判を加えている.すなわち胃癌の母地となる萎縮性胃炎において,上皮細胞の再生過程の変異を問題とすべきであるとしているのである.
 一方米国方面においてBroders1)等によつて異所性を示さない異型性のみを示す癌の存在が提唱され,Mallory12),Swilling(1935,1936)等によつて粘膜のみに限局する胃癌においてBrodersのcarcinoma in situが承認された.

初期乳癌の新しい問題点について

著者: 久野敬二郎

ページ範囲:P.965 - P.968

1.まえがき
 一般にどの臓器についてもその初期癌の概念を論ずることは相当に困難であろう.昨年福岡で行なわれた第4回癌シンポジウムにおいても初期癌の概念の決定的の結論は出なかつたようである.乳腺の初期癌についても同様で,特に病理組織学には問題が多い.またどの程度まで小さい癌腫を初期というのか,リンパ節転移のないものを初期とするかいろいろの問題がある.
 初期乳癌の定義に関する論述はさておき,癌研外科において1946年から1960年迄の15年間に入院手術した乳癌830例について検討してみる.遠隔成績については1946年から1955年迄に手術した417例のうち根治手術401例について検討する.

特別寄稿 ソ連の外科--縫合器について

血管外科における器械縫合,他

著者: アンドロソフ

ページ範囲:P.971 - P.975

 外科において血管を簡単に,かつ正確に縫合することは,最も重要な課題の一つである.1945年から1950年の間に著者と共にソ連のエンジニアと外科医の共同研究グループが,この器械による血管縫合法を実用の域まで発展させて来た.すなわち血管縫合器によつて,血管壁の厚さを計算に入れても外径1.3から2.0mmの血管を環状縫合することが出来る.さらに単一縫合多発装置を用いれば,血管の側壁縦縫合を行うことが出来,これらの縫合はすべて冖字形のタンタルムで作られたクリップによつてなされる.
 この器械縫合では縫合材料であるクリップが血管内腔に出ないので,吻合部での血栓形成がある程度防がれるわけである(第1図).

手こずつた症例

術後管理に困難であつた新生児腸管手術後の下痢について

著者: 駿河敬次郎 ,   高田真行 ,   角田昭夫 ,   吉田順

ページ範囲:P.991 - P.996

 Ⅰ.
 新生児の腸管手術は,今日なお検討すべき問題が多い.例えば,先天性腸閉塞症の中,手術成績に関する最近の報告で,死亡率Clatworthy2)27.4%(1957年),Polleck48%10)(1961年),Santulli60%12)(1961年)といずれも高率であることを見ても,手術の困難性が明かに了解される.
 新生児腸管手術に関する種々の中,問題の手術後見られる下痢等による体液喪失は術後の管理上苦労を要するものの一つである.以下われわれの経験した3症例を概略して,本問題に関する2,3の点について述べて見よう.

対談

診断と治療のむずかしさ

著者: 河合直次 ,   香月秀雄

ページ範囲:P.985 - P.989

香月 診断と治療のむずかしさを一つ…
 河合 診断と治療のむずかしさはむずかしい.診断と治療のむずかしさということで,思い出すことは,僕の師事していた青山(徹臓)先生の言葉で,これは今も肝に銘じて忘れることの出来ないことがある.それは診断と治療というものは診断が七分で治療が三分だと教えられた.先生は治療の重要さを諭されたのである.全力を診断につくせ,そして正しい適応をはつきりつかめ,そうすれば治療は成功したも同じだ.外科で治療といえば主なものは手術であるが,手術の上手下手はその重要さからみると三分位の価値であろう.勿論手術手技の上手であることにこしたことはない.しかし手技が多少劣つていても,適応が間違つていなければ治療効果は十分に得られる.そういう結論でした.

展望

膵癌をめぐつて—Ⅰ.癌と血栓栓塞症

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.999 - P.1010

はしがき
 すでに本欄で何回か展望されたように,肺癌は実に不思議なる全身症状を,好んで発呈する.全肺癌の20%ほどは,癌巣局所像からは何とも理解しえない,全身症状を呈するといつてよい.
 膵癌もまた,それに劣らぬ多彩な全身症状を,あらわしてくるようである.本欄で述べられた限りでも,Cushing症候群・高カルシウム血症などがあつた.下垂体副腎に原発でない,他臓器癌にもとづくCushing症候群の実に85%は胸腺癌・肺癌・膵癌によつて占められる.上皮小体原発でなく,また腸管の吸収亢進に関係のない,癌性高カルシウム血症の20%は膵癌が占めている.今回はラ島腫瘍については触れないが,また,前立腺癌・子宮癌・肺癌などと共に,線維素溶解・全身出血傾向を招きうるというような周知の事実にも触れないが,それらを除いても,これから述べられるような多くの全身異常を,単なるチャンス以上の有意の相関関係において,発現するのである.すなわち,いわく血栓栓塞症(医学用語では塞栓が採用されるが,しばらく栓塞を使わしてもらう),いわく癌性neuropathy,いわく溶血性貧血,いわくカルチノイド症状,いわくdermatom-yositis,いわく原因不明の持続発熱,等々である.消化管・消化腺の癌は極めて多いものであるが,膵癌を除いて,ほとんどすべて,こういつた全身症状を伴うことがない.

統計

関東労災病院における顔面外傷新鮮症例の統計

著者: 大野恒男

ページ範囲:P.1013 - P.1015

1.緒言
 顔面外傷は頭部外傷とともに,種々の災害による外傷中,次第にその頻度と複雑さとを増してきている.特に交通災害や土建工事の災害などにおいては,治療上重要な位置をしめる外傷の1つである.しかし戦傷の場合と異なつて,平時における顔面外傷にあつては,それのみで直接生命を脅かすことは比較的少ないので,かえつて初期治療が等閑に付され,旧態依然たるものになり勝ちな傾向がみられる.たとえば十分なdebridementが行われないで,挫創面に土や油が付着したままで放置されたり,縫合されたりして,後に瘢痕内に着色を残すとか,顔面骨の骨折が整復されないでいて種々の機能障害や醜形を残すとか,いうようなことがかなりしばしばみうけられるのである.
 著者は関東労災病院において,障害補償の認定などに従事していて,以上のようなことを痛感したので,昭和36年初めより,関連ある診療科の同僚諸兄とともに,顔面外傷に関する診療チームを作つて,適切な初期治療と陳旧症例の機能回復・形成術などに,相互に協力しつつ努力を重ねてきている.

紹介

—Martini, G. A. & Hafter, E. 編—Leber-und Pankreas-Enzymologie

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1017 - P.1018

 Gastroenterologiaの別集Bibliotheca Gastroenterologica第4集,1960年秋のスイスおよびドイツ消化器学会のシンポジウムを内容としている.本誌でちようど酵素が取りあげられるので,本書のごときは,まさに好箇の参考資料になろう.まずはじめに,Bern大学生化学Aebi教授の消化器病学における酵素問題のイントロダクションがある.短い史的考察,酵素の構造,酵素の作用,酵素活生測定における方法の意義などが例をひいて述べられている.基礎医学が臨床を無視して立つているのではない.肝臓の酵素的診断の生理方面はSchmidt夫妻(Kassel内科)で,主にGOT,GPT,GSH,aldolaseなどについて,いくつかの肝疾患における血清濃度のパターンがのべられている.個々の酵素についていえば,いくつかの疾患でオーバーラップがあり,変動があるがいくつか組みあわせると鑑別に役立つパターンがみえる.たとえば急性肝炎または急性再燃時には,GOT,GPT,GSH・アルコール脱水素酵素(ADH)が著明に血清に増加し,乳酸脱水素酵素(LD)・aldolase・グリセリンアルデヒド脱水素酵素(GAPD)はわずか増加,pyruvatekinase(PK)はむしろ低下する.これに比して,肝性昏睡ではLD,ald,GAPDなどが著明に増加し,PKが急に上昇する.といつた工合である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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