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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科18巻1号

1963年01月発行

雑誌目次

「臨床外科」刷新の辞

著者: 「臨床外科」編集同人

ページ範囲:P.4 - P.4

 「臨床外科」が戦後の荒廃のさなかに発足してから,今日にいたるまですでに17年の歳月を経過した.最近の外科学の進歩は生理学・生化学・薬理学・病理学などの基礎医学の進展に支えられて瞠目に値する飛躍ぶりである.しかも明日の外科学は,ただに基礎医学の成果を摂取するに止まらず,工学・理学関係の隣接領域にもわたつてその成果を積極的に採り入れてゆくことになる.人工臓器の進歩発達には,そのような領域における成果がものをいうことであろう.
 如上の事実は,外科学の進展が隣接科学や基礎医学の進歩の土台の上に構築されている面のあることを認識させるものであるが,そのことをもつて外科医が隣接科学や基礎医学の分野に身を挺する要請にはならない.外科は臨床の学問体系であり,あくまでも臨床の場においてその成果が問われなければならないからである.外科医に要請されることは,今日の診療の進歩にふさわしい知識を各方面から摂取してそれを臨床の場に生かしてゆくことにほかならない.今日と明日の外科医に要請される開眼は,そのような問題意識を持つた学問的情熱である.

塩田廣重先生—医学教育功労者として 第15回日本医師会設立記念医学大会 最高優功賞受賞

ページ範囲:P.5 - P.6

 塩田廣重氏略歴 明治6年11月14日,京都府の宮津に生れた.同32年東大医科を卒業.爾来,外科を専攻して大正11年東大医科教授となつた.「塩田外科」の名声は内外に高く,かつ多くの業績を残した.日医大の前身済生学舎で講師をもつとめ,私学教育にも貢献した.昭和13年から35年まで日本医科大学学長,同15年教育功労者,29年文化功労者として表彰された,東京都名誉都民,日本外科学会名誉会長,日本対ガン協会長,東大名誉教授,日医大名誉学長.執刀余60年,日本外科学会の草わけである.当年90歳.

外科の焦点

胸腺外科の新しい問題点

著者: 片岡一朗

ページ範囲:P.7 - P.12

 胸腺については今日なお明らかにされていない種々の問題が多い.正常の胸腺は思春期に最大となつて,それ以後は漸次退縮して,その機能は外からの侵襲を防せぎ,とくに抗体産生に,あるいは生長に関係があり,また内分泌器管の一つとして副腎や甲状腺に拮抗するといわれているが,正常の胸腺自身についてもほとんど明らかにされていないというのが現状である.そこで私は胸腺を外科の立場から最近注目されている2〜3の問題点について御紹介することにする.

グラフ

直視下心臓手術

著者: 榊原仟 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.13 - P.18

私共が日常行なつている軽度低体温(直腸温32°〜30℃)と人工心肺を併用した心臓内直視手術の全体の状況を順を追つて写真に示します.ここでは細かい,個々の心臓内の手術術式については触れません.

論説

老年者外科における副腎皮質反応及び水分電解質代謝

著者: 卜部美代志 ,   山城則亮 ,   牧野勉

ページ範囲:P.19 - P.29

はしがき
 近来における世界的共通現象である人間の平均寿命の延長は社会における老年者の占める割合を増し,必然的に外科の対象となる老年者をも増加せしめた.患者数の増加と共に老人医学も年々と隆盛となつてきたが,外科におけるこの方面の研究は未だその緒についたばかりである.
 Brook (1937)1),Bradford (1953)2),Cole (1953)3),Stewart (1954)4)は青壮年患者に比べて老年者は手術死亡率,術後合併症が高率であつて呼吸循環系の合併症が重要な死因となつていることを指摘している.老年者手術にあつてはもちろん冠硬化,高血圧,動脈硬化,肺気腫等が合併症の重要な基盤となつていることは当然考えられることである.

血中癌細胞遊出と癌細胞間の結合力におよぼすナイトロミンの影響について—術前使用の意義の検討

著者: 佐藤博 ,   徳岡淳一 ,   溝田成 ,   常松匠 ,   徳山英太郎

ページ範囲:P.30 - P.38

I.はじめに
 癌治療成績向上のため,近年多くの手術法,診断法の改善が行なわれて来たが,その結果は余り効果を上げ得なかつたといつても過言ではないであろう.特に胃癌については1946〜1955の間に胃切除後5年生存率にさしたる向上なく1),また1930〜1950の間に胃癌患者の胃切除率は増加して来たが,さらに困つたことには,胃切除後の再発率もまた増加しているように思われる.(Jeme-rin2):切除率42%,再発率51%→切除率52%,再発率60%,Shahon3):切除率22%,再発率41%→切除率43%,再発率75%,Welch4):切除率25%,再発率52%→切除率50%,再発率72%)すなわち,胃切除率は,20〜40%のものが50%程度にまで向上したのであるが,再発率もまた40〜50%程のものが60〜80%位に上昇して居る.
 手術と制癌剤の併用による癌治療法も,この切除後の再発率を低下させることに主たる日的があることは論をまたない.この方面でも内外に多数の研究が報告され,実験的には,この方法が優れたものであることが証明され5),また臨床的にも手術と制癌剤の併用療法は多少の効果を上げていることが認められて来つつある6)

日本人小児の手部,足部骨格発育の正常像と骨格変異に関するレ線学的研究

著者: 杉浦保夫 ,   田島宝 ,   杉浦勲 ,   村本健一 ,   呉文徳 ,   野上宏 ,   伊藤英雄 ,   山田順亮

ページ範囲:P.39 - P.67

 発育途上の小児の手部,足部骨格においては軟骨性骨端核および軟骨性骨核の骨化成熟過程が進行しており,そのレ線像は部位により,また骨化機転の進捗程度により,きわめて多彩な様相を示しており,その実態は必ずしも正しく理解されていない.したがつて正常発育過程中に観察される正常レ線影像が病的変化として取扱われたり,しばしば認められる骨格変異が,骨折その他の外傷性変化と誤診されたり,稀有変化として症例報告されたり,骨端炎その他の疾患と混同されたり,あるいは変異のすべてがMongolism等の全身性疾患の随伴症候と見倣されたりしている現況である.
 このような誤解は,健康集団のレ線撮影に基いた骨格発育とその変異についての統計的調査,経年推移に関する研究が今まで十分行なわれておらず,病的変化判定の前提となるべき正常レ線像とその変異に対する正しい知識が不十分なために生じたものと考えられる.

頸部リンパ腺癌転移を初発症状として発見される咽頭癌について

著者: 新津勝宏 ,   佐々木純 ,   高橋孝 ,   小田島昭二 ,   寺山邦昭

ページ範囲:P.69 - P.73

緒言
 咽頭癌は比較的稀なもので,組織学的興味の他,診断面でも治療面でも困難な問題を含んでいる1)2)3).上気道腫瘍中最も誤診され易く,最も理解不足の領域であり,早期に発見されることは少い.それは中咽頭以外は簡単にみることができず,特に上咽頭癌は軟口蓋の陰になるために後鼻鏡検査による以外に発見されることはなく,また扁桃腺癌は単純な扁桃腺炎または扁桃腺肥大と誤られ易く初期にはその発見が必らずしも容易ではない.殊に,これ等の部位は一般外科医にとつては専門外の部位であり,この領域に悪性唾瘍の原発巣の存在することを忘れがちである.しかも疑問をもつて耳鼻科的検査をすれば案外容易に発見できるものであるのに,原発巣が鼻閉,鼻出血等の耳鼻科的症状を欠くため,どうしてもこの領野に注意がむかない憾がある4)
 われわれは最近頸部の硬いリンパ腺腫大を初発症状として来院した2例が,いずれも組織学的に癌転移であり,食道,肺,胃,腸の精査では原発巣が発見できず,結局上咽頭癌ないし口蓋扁桃癌が原発巣であつた症例を経験した.このように頸腺の癌転移が初発症状の場合,肺癌,胃癌などの検索に目がむけられ易く,簡単に行ない得る咽頭の精査が怠りがちとなることは大いに慎しまねばならない.

同一回路血液使用による反復2例連続人工心肺回転症例の術後変化の観察

著者: 林久恵 ,   千葉智世 ,   大沢幹夫 ,   田中孝 ,   清水寿子 ,   岩本淳子 ,   橋本明政 ,   堺裕 ,   市川博之 ,   松村剛

ページ範囲:P.75 - P.84

緒言
 直視下心臓内手術のさい使用する人工心肺装置には大量の血液を必要とする.最近手術例数が増加する一方供血者が減少して血液不足を来しつつあり,血液節約の必要に迫られている.そのために人工心肺装置の小型化1),新鮮ヘパリン血の代りに保存血を使用しての体外循環2)-4),供血者血液を使用せずに行なう体外循環5)などが研究されている.
 わが教室でも1954年以来低体温法に人工心肺を併用するという独特の方法を創案実施し,またできるだけ少量の血液ですむ装置の研究を行なつて来たが,さらに血液を節約する必要上,H.Swanによつて創始された方法,すなわち同一血液型の二人の患者は同じ日に同一回路血液の人工心肺装置を反復使用して連続的に手術する方法により,使用血液量の半減を計つている.

手術の実際

腸管癒着症ならびに曠置症の外科

著者: 木村忠司 ,   髙槻春樹

ページ範囲:P.85 - P.93

緒言
 われわれ大学の外科に働くものは最新の医学に精進することを本来の目的とするのであるが,他方第1線病院において手術の結果が思わしくない場合や不測の合併症のため治療上困難を感ずるような場合などに転送されて来る症例がかなりの数に達する.すなわちわが国においては大学の外科はまた後方病院として,これらの複雑な症例,特に術後の合併症に対して修復的治療を行なう使命を帯びているように考えられる.然し修復とか再建に関する記載は特殊のものについて散見するのみであつて系統立つたものは無い.そこで修復外科の実際を記載してこのような症例について第1線病院の外科とわれわれ後方に働く者との間に密接な連絡を保ち,お互に認識を深めようとするものである.

雑談室

ソ連の研究所

著者: 石垣堅吾

ページ範囲:P.93 - P.93

 ソ連では,大きい手術はその地方の中心的な研究所に集めて行なわれる.研究所は,各診療所から集まつてくる患者を中心に研究が進められる一方,第一線の診療所で働らく医師の再教育の任務を負つている.それ故,研究所の手術室,講堂は何時も再教育を受けにきている医師で埋まつている.

ソ連の医療制度

著者: 石垣堅吾

ページ範囲:P.102 - P.102

 今回,ソ連医学アカデミーの招待でソ連医療の見学をする機会をえた.ソ連医療制度の特長を一口でいえば,全国民を対照とした.無差別,平等の医療が無料で行なわれることを保証していることといえます.すなわち,全国民は,各職場毎に,その他は地域別に,必ず担当の診療所に登録され,ここで無料の医療が受けられる,例えば,私の見た“モスクワ中央鉄道員診療所”はモスクワ地区の鉄道員およびその家族5万入を対象とし作られた.全科外来診療所で,病気のあるなしにかかわらず,全員の病歴が中央カルテ室におさめられています.外来診療所といつても,綜合病院の外来を分離したようなもので,広大な物療室,人院室まで持つています.午前9時から午後8時までの診療時間を,医師150名が,6時間交互で勤務していました.医師の勤務時間の半分は外来ですが,あとの半分は担当した国民の,予防接種を始め各種の予防活動および定期の健康診新に当てられます,すなわち,ソ連の第一線の医療機関は,疾病治療とともに,担当地域の予防活動の責任を負つているわけです.このように,治療と予防が統一化され,一本の機関で行なわれているのは,資本主義社会ではみられない特長です.しかも,これらのすべての活動は全部無料で行なわれています.

検査と診断

腸管の新しい診断法—診断用腸紐

著者: 斉藤淏 ,   大江国雄 ,   金内秀士 ,   加藤富三

ページ範囲:P.95 - P.102

 癒着腸管の処置の困難さを思うとき,その診断,すなわちその存否と状況を詳細に知ることの必要性については今さらいうことはない.われわれは臨床的観察のほかにBaによるX線検査にたよつて来たが,多くのばあいそれでよかつた.たまたまイレウス管を使用して癒着性イレウスの解除されたとき腹壁に癒着固定している閉塞部をイレウス管の走行によつて明らかにし得ることを知つた.そこでとくに診断用の目的で特殊な腸紐を発表し(昭和35年),その後多数の臨床経験をつみ.今日では大方の試用をすすめてよいと考えるに至つた.ここに得られた経験例の一部をかかげて解説する.本検査法によつては癒着固定された腸管を発見し,その部位をも明らかにすることができる.また腸管の走行と腹腔内の位置を明確にするので腸吻合などの行なわれているばあいにはその発見と腸内容の移動状況をも知るにも役だつことがある.これに関連した2,3の興味ある症例をもかかげることにする.

講義

小児外科,手術の限界

著者: 若林修

ページ範囲:P.103 - P.115

 本日,私がお話しする「小児外科の限界」というのは,大体手術を中心として見た場合の小児外科の限界ということであつて,私はたびだびこのような話をするが,要するに昔はこのような手術のなかつたことは,事実で,私自身,昔5年間東大の青山外科医局にいた間に,新生児の内臓の手術というものは1例もなかつたのである.
 そういう意味で新生児や乳幼児でも現在では相当の大手術に耐える.従つて大手術をやれば,新生児では死ぬというような観念は,もう古いのである.それで私共は赤ん坊にも大手術は可能であり,そして助かるのだということを強調してきたわけであるが,しかしそれが勿論全部助かるというわけではない.

学会印象記

第15回 日本胸部外科学会印象記

著者: 新井達太

ページ範囲:P.117 - P.118

 第15回日本胸部外科学会は,10月30,31日に仙台市の新装なつた東北大学記念講堂において開かれた.会長は東北大学,鈴木千賀志教授.
 開会前日の29日には,教育講演が行なわれた.

保険の話

社会保険医療問題(1)

著者: 織畑秀夫

ページ範囲:P.119 - P.120

現在.各方面で関心を呼んでいる社会保険診療の問題についての読者の場として本欄を設けました.建設的なご意見ならびに不平,不満などを係宛お寄せ下さい.長文の場合は適宜短縮させていただきます.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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