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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科18巻2号

1963年02月発行

雑誌目次

恩師赤岩先生を思う

著者: 三宅博

ページ範囲:P.137 - P.138

 先生ほど生涯を自分の天職に忠実に捧げつくした人も珍らしいと思う.それで一見先生には,余暇や,道楽というものは殆んど無かつたように印象づけられている.しかしそのような謹直な大学教授生活にも永い間には幾多の「ユーモア」が秘められてあつた.これも私自身の経験したとつときの秘話である.
 当時赤岩外科教室の手術日は必ず三台の手術台で午前8時半に一斉執刀する慣わしであつた.その日も,私に予定されている先生の助手をすまし,「やれやれ」の解放感を以て屋上に新鮮な空気を呼吸し,浩然となつていた.と,けたたましい小鳥の悲鳴(?)と羽搏の音がする.これはただごとではない.

後藤先生を偲ぶ

著者: 広瀬信善

ページ範囲:P.139 - P.140

 紙面の都合で,能う限り省筆します.御履歴その他本誌昨年1月号(以下別誌と記す)の座談会を御参照願います.
 無慾恬淡の癖に,勲章だけは妙にお好きでした.いわゆる童心の発露でしょうか.仍て茲に瑞1拝受満悦の写真を掲げます.別誌28頁のは,満79歳の時の門弟のスナップです.

グラフ

慢性硬膜下血腫

著者: 森安雄信 ,   山本亨

ページ範囲:P.141 - P.148

頭部外傷による頭蓋内出血のうちでも慢性硬膜下血腫は手術的療法の絶対適応ともいうべきもので,また術後なんら後遺症状をのこさず治癒する場合が大部分である.近年頭部外傷の激増にともない頭蓋内出血の症例も増加し,日常われわれが診療する機会も多くなつてきたが,慢性硬膜下血腫は診断が比較的容易であり,診断が決定すれば,手術もさして大きな侵襲ではないので,今後この疾患の手術例はますます増加するものと思われる
 われわれの教室でも過去3年間に本症例30例の手術を行なつたが,全例とも手術成績良好で術後の後遺症状もみとめない.最近経験した1例を示すと,患者は41歳の男子で,昭和37年9月25日単車に乗車中電柱に激突,左前額部を強打した.約2時間の意識喪失があつたが,意識回復してからは歩いて帰宅している.その後は頭痛,嘔吐,発熱等はなく,四肢の運動および知覚障害もないまま平常通り仕事をしていた.同年11月14日前頭部痛とめまいがあり嘔気を催したが、約10日間の安静で軽快した.12月2日になつて朝から頭痛を訴え,嘔気嘔吐をともない漸次増強するため来院した.外傷後の臨床経過および脳動脈撮影によつて硬膜下血腫なることを確認したが,この症例は頭部外傷後約2カ月のlatent intervalを経て症状をあらわした慢性硬膜下血腫である.

外科の焦点

下垂体剔出の新しい問題点

著者: 半田肇

ページ範囲:P.151 - P.158

Ⅰ.緒言
 1953年Luft&Olivecronaが50例の転移を有する乳癌患者に下垂体剔出を行ない,20例に効果を認めたと報告した.その後,Pearson, Ray,Kennedy, Brown, Perkinson, Leonard, Bulbrook,Etter等の報告が次々発表せられ,今日では末期乳癌のみならず,重症糖尿病,重症高血圧症,Cushing病,Graves病,Acromegaly等に対しても下垂体剔出が著しい効果を示すことが広く認められるようになつて来た.
 これと同時に,外科的に下垂体剔出を行なうことは侵襲が余りにも大きく,而もたとえ手術をしても下垂体を完全に別出〜破壊することは殆んど不可能であることが明らかになり(Harper etal.),外科的に下垂体剔出を行なう代りに,放射性Isotopeを用いての下垂体破壊術Radiation-Hypophysectomy,殊に定位的に経鼻的に行なう方法が広く行なわれるようになり,これによつても十分効果が得られることが明らかになつて来た.

論説

救急病院における急性期頭部外傷の治療と予後の判定について

著者: 宇山理雄 ,   林圭之資 ,   若江光一 ,   北村博重 ,   福間誠之 ,   山本実

ページ範囲:P.159 - P.167

 急性期頭部外傷の治療にさいして,第一線の臨床外科医にとつて最も問題となる点は,重症型の治療成績である.その治療方法は一応系統立つた治療方針が既に発表されており,今ここに取上げるまでもない.しかしわれわれが第一線で頭部外傷重症型を多く取扱つた経験から見て,従来の方針通り行なつてもなかなか立派な治療成績をあげ得ないのが実情である.われわれが救急患者のみを収容する特殊な救急病院において最近4年間に取扱つた頭部外傷は第1表に示すごとく総計4442例であるが,その治療成績は必ずしも良好とはいえない.
 今回は重症型のみについて,その治療と予後の見通しを検討し,此処に報告,参考に供する次第である。まず荒木教授の分類によるIII型,IV型179例について,意識の変化を中心に分類を試みた.

胆嚢摘出後の上腹部痛

著者: 秋田八年 ,   浜田義次

ページ範囲:P.168 - P.176

1.はじめに
 胆嚢摘出のあとにおこる上腹部痛を中心とするいろいろな愁訴はこれをその成立機序から,1)誤診や手術適応の適正を欠いた結果おこるものと,2)適正な手術適応のもとに胆嚢摘出が行なわれたにもかかわらず愁訴が残る場合の2つに大別される.なお後者はこれを術後比較的早期におこるものと晩期におこるものとに分けて解説したい.

慢性硬膜下血腫摘出術中に発生した急性肺水腫について

著者: 脇坂順一 ,   倉本進賢 ,   福田俊一

ページ範囲:P.177 - P.183

Ⅰ.緒言
 術後急性肺水腫といえば,多くは胸部外科との関連において考えられがちであるが,中枢神経系疾患と肺水腫の関係も忘れてはならない.既にCameron(1948)1)は剖検材料を調査して心冠疾患,中枢神経系疾患,肺疾患に特に肺水腫を多く見ると述べ,特にCerebral hemorrage 66例中44例(67%),Fractured skull,38例中24例(63%)と心,肺疾患と同様に中枢神経疾患にも高率に肺水腫を発見している.わが国では斉藤2),勝木3),内田47)等の剖検材料から見た統計があり,斉藤2)は中枢神経疾患や心疾患を有するものに70〜80%の高率に肺水腫が見られたといい,勝木等3)は中枢神経疾患でも特に脳橋部障害を伴つた場合に約44%の高率に肺水腫の合併を見たと述べ,また教室の内田47)は西日本に存在する12大学の病理学教室における剖検記録から統計的観察を行ない,中枢神経,脊髄疾患991例中475例(47.9%)に肺水腫の合併を認めている.
 以上は脳神経外科と直接関係ない剖検例の検討であるが,脳手術および脳外傷後の肺水腫について卜部4)は脳手術67例中8例に肺水腫をみており,また脳外傷死亡例に肺水腫を発生したもの11例をみたと述べている.

研究

橋本病の病理組織学的分類と臨床病態生理

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.185 - P.201

はじめに
 従来文献に橋本病として報告されているものを見ると,その殆どが臨床的に甲状腺悪性腫瘍との鑑別が困難として手術されており,術後の病理組織検査で始めて診断されたものが多いが,ようやく最近になり,この疾患には血清蛋白分画に異常があり,甲状腺ホルモンの合成過程に障害があり,さらに血中に自己抗体が証明されることが明らかとなつたので,これら臨床諸検査によつて組織検査をまつまでもなく診断が容易となつた.この病態生理の解明とともに,従来橋本病の定義は甲状腺全体に上皮の酸好性変性,リンパ系細胞浸潤,およびリンパ濾胞の発現のあるもののみに限定されていたのが,さらに組織変化の枠をひろげ散在性にこれらの炎症性変化のあるものも含める傾向が現われ,組織像の上でも上皮の変性は必ずしも必須の条件ではなく,むしろ甲状腺自己免疫の観点からリンパ系細胞浸潤の方が一義的な病変として重要視されるようになつてきた.
 著者はかかる観点から,さきに研究の一端を発表したが1),その後さらに多くの症例を経験し,今日では専ら保存的療法により経過を観察しているので,ここに橋本病と称せられるものをまず病理組織所見の上から特徴ある型のものに分類し,臨床諸検査成績の診断的価値,経過によるこれらの値の変動,ならびに病理組織像との対比についてあらためて検討を加えてみたいと思う.

統計

手の外傷の統計的観察—産業災害防止の立場から

著者: 荻原一輝 ,   端野博康 ,   井上昌則 ,   花岡道治 ,   富永純男 ,   加古誠

ページ範囲:P.202 - P.209

はじめに
 1.産業災害に関する統計は,今までにも極めて多く発表されており,枚挙に暇がない.しかし災害原因についての統計は,将来の災害防止対策に役立つものでなければならないが,この目的が必ずしも明らかに現われていないように思われる.
 2.もちろん災害の発生には色々の原因(あるいは条件)があり,しかもその多くはこれらの条件の「つみかさね」によつて発生していると考えらる.したがつてその調査,整理は極めて困難であり,個々の資料の十分な整備とそれを裏づける実験を根気よく行なつて対策を樹てる必要がある.従来の報告はこの困難なことを聊かも考慮することなく,単に条件と老えられる項目を列記するだけで,項目自身の整理,成績の検討も不十分である.これらの中から想像による結論を述べたとしても、これは災害の実状を正しく示していないのみならず,安全対策の上に全く役立たないかあるいは誤つた対策を樹てさせる危険がある.

手術の実際

胆道再建

著者: 木村忠司

ページ範囲:P.213 - P.222

 胆石摘出後,胆道痙攣や胆砂による胆汁排出障害を残す場合に如何にして胆汁路を開通せしめるか,また胆道の器質的変化に起因する閉塞例えば損傷,瘢痕性,炎症性,腫瘍性狭窄にさいしてはとにかく胆道再開のための手術が問題になる.ここではVater乳頭癌や膵頭癌などのように膵十二指腸切除を施行すべき場合を除き,胆道再建手術について述べることにする.

検査と診断

小腸癒着のX線診断について

著者: 加藤富三 ,   金内秀士 ,   駒崎富士男

ページ範囲:P.223 - P.234

I.はじめに
 小腸は生体において消化吸収に不可欠な役割を果し,その病態の検索は臨床的に極めて重要であるにも拘らず,そのX線学的研究は消化管の他部に比較して乏しいと云えよう.その原因として,小腸のX線検査は「労多くして功少なし」.と云うような嘆きがしばしば発せられて来た.しかしX線装置およびX線検査方法の進歩と共に小腸のX線診断法は最近とくに注目をひいている.例えば,1950年ロンドンにおける国際放射線学会ではこの問題が大きくとり上げられたし,また,1955年にはフランス放射線学会ではシムポジウムの主題とされ2),わが国では1961年4刀に医学放射線学会総会で篠崎3)が宿題報告を行ない,その後この領域におけるX線診断は着実に進んでいる.
 さて日本医科大学第一医院放射線科において,昭和36年中に消化管のX線精密検査を受けた患者1112例中,小腸の造影検査は66例(5.9%)で,その中約2/3は癒着の診断であつた.すなわち,小腸のX線検査は比較的少ないとは云えるが,総数としては決して無視出来るものではなく,また癒着のX線診断は特に直ちに手術の適否および程度の決定に与かるものであり,外科医にとつて極めて重要なものである.ここに小腸癒着のX線診断について種々考察を加えわれわれの経験を述べることとする.

講義

慢性胃炎の手術適応について

著者: 大井実

ページ範囲:P.235 - P.249

 司会 それでは胃の手術についてさつそく先生に講義をしていただくことにします.

保険の話

社会保険医療改善の要点

著者: 織畑秀夫

ページ範囲:P.250 - P.251

 現在わが国で行なわれている社会保険医療には多数の欠点があるが,人によつてそれらの欠点のどれを重視するか色々である.しかしその判断の規準はまず臨床医が医療を行なう上に医学的良心にしたがうことができるということでなければならない.この規準が犯されているところに現在の社会保険医療の最大の欠点がある.
 社会の人は臨床医の言行を命の綱と頼りにしている.この気持を生かし,発展させることがわれわれ臨床医の最大の仕事であり,同時に医学的良心にも合うのである.

症例

脾嚢腫の症例追加—附.本邦における文献例についての考察

著者: 高橋正樹 ,   阿部義馬 ,   佐藤寿雄

ページ範囲:P.252 - P.256

 さきに当教室井上ら1)および木村ら2)(武藤外科教室時代)は脾嚢腫の手術例を報告したが,最近われわれも,術前に確診し得た本症の1例を経験し,結局教室経験例は合計3例となつた.本症は比較的稀な疾患とされているのでここに症例を追加報告し,併せて本邦報告例について少しく考察してみたい.

精索線維腫の1例

著者: 佐藤進 ,   河村基

ページ範囲:P.256 - P.257

 精索に原発する腫瘍は比較的稀なものとされている.主として良性腫瘍であり,脂肪腫が比較的多いようである,私どもは最近,精索に原発した線維腫の1例を経験した.これは山藤1)についで本邦第2例目であり,極めて稀有なるものとおもわれるので報告する.

遺伝性球状赤血球症に対する1剔脾例

著者: 大波勇 ,   及川登 ,   木村秀枝

ページ範囲:P.258 - P.260

緒言
 本症は1871年Vanlair & Masius1)により初めて記載され,その後Minkowski (1900)2),Chaffard (1907)3)等の検索があり報告例も増加したが,わが国では昭和25年河北4)の24家系79例,昭和15年から31年までの東大内科における19例,昭和34年末までの小児科領域の報告68例5)が主要な集計報告で比較的稀なものと考えられ,さらに剔脾を行つてその効果を術前術後に沿り精しく検討したものは非常に少ないのでここに報告し若干の考察をえてみた.

外国文献

MethicillinとOxacillin,他

ページ範囲:P.261 - P.267

 MethicillinはNa−2.6—dimethoxybenzylpenicillin, OxacillinはNa−5—methyl−3 phenyl−4—isoxazyl penicillinで,penicillin-G拮抗性のcoagulase陽性菌に著効を奏するといわれる.Mは吸収されないから注射するが,液状で必ずしも安定でないので取扱いに注意を要する.第1報ではGに抵抗するcoagulase陽性ブドウ球菌多数株に,MとOとを別に用いた.ともに有効で,Mではmi-nimai inhibitory concentration 4μg/ml,Oでは0.4μg.bactericidal endopointはM4〜8μg, O 0.8〜3.2である.A群β溶血レンサ球菌には,ともに奏効するが,M<0<Gの順である. MはpH 7.0以下の溶液では不安定だから,静注にはpH 7.2〜7.4とする必要がある.Oはよく吸収されるので,経口的に与えられるから,Mより便利だが,空腹時に与えないと吸収が阻害される.Oは血清に結合して存するが,結合しても効果は劣らない.OもMも肝および腎から排泄される.第2報ではブドウ球菌などの感染症について,M34例,O22例を応用した.いずれも抵抗性である.全例奏効した.治療は早く開始し,再発をおこさぬよう長く用いた方がよい.副反応は全くなかった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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