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外科の焦点
悪性腫瘍の生化学的知識
著者: 三浦義彰1 手塚統夫1
所属機関: 1千葉大学医学部医化学教室
ページ範囲:P.433 - P.439
文献購入ページに移動 悪性腫瘍——あるいはもつと局限して癌——の生化学的知識について述べる前にここにいう癌とは何を指すのか,をはつきりさせておく必要がある.なぜなら外科医が日常扱つているのはほとんどが人間の臓器に原発する癌であり,一方生化学者がとりくんでいる癌は多くはダイコクネズミやハツカネズミの,それも移植可能な癌細胞である.両者の間には当然のことながら相当大きな差があるからである.遠藤1)は癌の定義として「体細胞が不可逆的な変化をうけて無制限な増殖をとげ転移をおこしてやがて宿主をたおすにいたる未分化な細胞(群)」であるとしている.この定義にてらすなら人の原発癌も動物の移植癌もともに癌と呼ばれて当然のものであり後者に関する基礎的研究が前者の本態を明らかにし,また診断や治療にも役立たせ得ることが首肯される.癌の生化学的知識に寄与した実験の多くが動物の移植癌によつて行われ,さらに一見無縁とさえ考えられる細菌やヴィールスを使つてなされたことを思えば,「人癌の研究こそが癌研究の主流である」といつた考え方は狭量に過ぎよう.今日,生化学の分野における癌の研究は増殖,調節機構,遺伝,変異,分化などの主題ときりはなしては考えられず,またそのおのおのが癌研究に多くの知見をもたらしているのである.これらの知見のなかからここでは特に発癌機構,癌の特異性,診断および治療面における応用の四項について生化学的な面をとりあげてみたい.
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