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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科19巻10号

1964年10月発行

雑誌目次

グラフ

経皮的胆管造影法

著者: 卜部美代志 ,   津田昇志

ページ範囲:P.1297 - P.1301

 胆道系の造影法としては,経口的ならびに経静脈的な排泄性胆道撮影が,従来から一般に行われているが,経皮的胆管造影法(percutaneous trans-hepatic cholangiography)は強化的な意味をもつ確定診断法として用いられるものである.
 ある程度以上の肝機能障害や,総胆管閉塞による胆汁流出障害が存在する場合(血清ビリルビン値が2〜3mg/dl以上,黄疸指数では,Meulengracht指数30〜50以上,BSPで45分値20〜30%以上)には,経口法や静脈法では胆道系の造影は困難である.これに反して経皮的肝内胆管造影法は,造影成功率も高く,簡単な器具装置で容易に実施できて,しかも治療的な面にも役立つものである.

進歩する超音波診断法

著者: 和賀井敏夫

ページ範囲:P.1330 - P.1335

 耳に聞えない音"超音波"の応用が近年いろいろの分野でめざましい発展をみるようになつた.超音波の応用は通信的応用と動力的応用に大別される.前者は広義の計測で,医学領域では超音波の診断的応用ということになる.後者は超音波によつてなんらかの影響や変化を与えることを目的とするいわゆる強力超音波応用といわれるもので,医学的には広い意味での治療的応用といえよう.音を用いる診断法は古くから診断学の一つの基本をなしてきたが,超音波を用いることにより生体組織のいろいろな音響的特性が判明し,得られる情報の分析やこれに基く診断の精度が増し,また指向性が鋭いのでいろいろの走査法を用いて人体径部の断面像を明瞭に画きうるようになつたことは,超音波を用いる診断法の将来に期待をいだかせるものであろう.新しい形の超音波治療としては超音波の光学的取扱いに基く集束超音波(超音波メス)による手術の応用などがその代表的なものである.

外科の焦点

膵頭部十二指腸切除術の術後管理

著者: 今永一

ページ範囲:P.1303 - P.1308

 約30年前,膨大部癌にたいし膵頭部十二指腸切除がはじめて成功して以来,今日までに数多くの変法が考案,発表され,これが外科技術の進歩,麻酔学の発達,抗生物質の発見等とともに次第に手術成績も向上して来たのであるが,いまだ必らずしも満足すべき状態ではない.本手術が,腹部外科のうちで最も手術侵襲の大きなものの一つであることは周知のごとくであるが,その消化管再建にあたつても膵空腸吻合,胆管空腸吻合(胆嚢剔除術後),胃空腸吻合を行なわなければならず,このいずれの部の縫合不全も致命的となり得るものである.ことに膵空腸吻合は重要で,現在でも,なおこの縫合不全による腹膜炎が手術死の多くの原因となつている.一方,われわれ外科医が膵頭部癌や膨大部領域癌にたいして本手術を施行する時期は,すでに黄疸はかなり高度で,しかも長期間継続している状態であるのが大部分の現況で,本手術成績を良好ならしめるものは,まず早期発見,早期手術であることはいうまでもない.しかしながら,合理的な手術術式の選択,および適切な術後の管理もまた,きわめて重要な問題である.したがつて,私は本手術の術後管理を論ずるに先立ち,私の行なつている手術術式について説明し,その術後管理についていささか所信を述べたいと考える.

論説

心臓外科における輸血後肝炎の発生状況について

著者: 林久恵 ,   橋本明政 ,   岩本淳子 ,   斉藤洋子 ,   荒井康温 ,   川田高俊 ,   中島一己 ,   和田汪

ページ範囲:P.1309 - P.1313

はじめに
 近時輸血後肝炎は発生頻度が高率であり,いつたん罹患後慢性化して肝硬変に移行する症例もあり,その予防,診断,治療についても種々論議されていて,社会的にも大きな問題となつている.昭和39年3月の日本輸血学会第12回総会では輸血後肝炎がシンポジウムとして取り上げられ,島田信勝教授より発表された全国統計によるとその発生率は顕性黄疸5.5%,不顕性黄疸8.4%であつた.一方外国では発生率は低くせいぜい2〜3%程度であり1)2),わが国における罹患頻度の高率なのは輸血制度によるものも関係あるかと考えられ,肝炎対策の重要性が強調されている.心臓外科は大量輸血を必要とする分野の一つである.われわれは教室における心臓手術症例のみに限り過去4年間の手術症例の輸血後肝炎発生状況を調査したがその発生頻度は過去4年間の統計で1054例中102例,9.8%に黄疸発生をみた.他の病院における一般外科領域での発生率の報告とほぼ同程度のようである.

肝外肝管閉塞による黄疸に対する一対策

著者: 奥山実 ,   元木良一 ,   半沢幸一 ,   星野俊一 ,   小関雅之

ページ範囲:P.1314 - P.1318

 肝外胆道の閉塞による黄疸に対する外科的治療は日常行なわれているが,肝外肝管は短くしかも肝門部に接しているため手術操作が困難である.したがつて癌浸潤または炎症による肝外肝管の狭窄または閉塞に対する胆道再建はほとんど不可能と称しても過言ではなく,かかる肝外肝管の閉塞に対しては多くは肝腸吻合術が行なわれている.
 肝腸吻合術の長所,短所については諸家の報告をみるが,短所として出血,感染等の報告もみられ,また効果の不確実もあげられている.

鎖肛手術の検討—(第2報)瘻孔を有するもの

著者: 伝田俊男 ,   勝俣慶三 ,   森末久雄 ,   秋山洋 ,   遠藤大滝 ,   一色昇

ページ範囲:P.1319 - P.1329

 肛門直腸部の先天性形成異常(鎖肛)の頻度は,欧米の文献では約5000人に1人,本邦では三谷1)は3430人に1人,小畑2)は3200人に1人と述べているが加藤3),赤岩4),星井5),木村6),飯田7)らの古くからの報告例でも欧米に比べてはるかに少ない.しかし最近若林8)は3年間108の大病院で167例の手術例を集計し,石田9)は15年間に30例を報告している.われわれ慶大外科教室においても31年1月より37年12月までの7年間に21例を経験したことからも,本邦においても必らずしも少ない疾患ではないと考える.従来鎖肛の手術はただ,排便口をつくるということに専念して行なわれ,患児の将来に対しての考慮が少なかつた.しかし最近とくに小児外科の進歩とともに注目され排便口を作るという目的ばかりでなく,一生正常の排便機能を営み得るように種々の努力がはらわれてきている.本症では肛門部以外に排便口(瘻孔)を持つものと,持たないものではその治療上に大きな差がある.後者については前回10)報告したので今回は慶大外科で経験した鎖肛症例21例(第1表)中瘻孔のないもの6例をのぞいた瘻孔を有するもの15例について検討を加えてみた.

カンファレンス

輸血と血清肝炎(その1)

著者: 木村忠司 ,   稲本晃 ,   長瀬正夫 ,   鈴木司郎 ,   二宮和子 ,   内藤良一 ,   恒川謙吾

ページ範囲:P.1336 - P.1342

 恒川 ただいまから輸血と血清肝炎のテーマのもとに座談会を行ないます.お話をうかがいます順序としまして外科の立場からこの問題に対する関心の程度といいますか,その知識について外科の長瀬先生にお願いします.ついで基礎的な問題をビールス研究所の鈴木先生に臨床的研究および肝炎予防対策を麻酔科の二宮先生にお願いします.最後に血液の供給側として日本ブラッドバンクの内藤先生に発言していただきます.以上のお話が終りましてから質問に移ります.では長瀬先生から始めていただきます.

COMMENT

輸血問題について(厚生省の立場から)

著者: 山形操六

ページ範囲:P.1347 - P.1348

 最近,輸血後肝炎(血清肝炎)の多発ならびにそれが常習売血者の提供する保存血液に起因するとの解釈から,売血制度そのものの批判と常習売血者を供血源にもとめている一般血液銀行の業務のあり方について強い反省をうながす報道が,新聞,ラジオ,テレビなどによつて連日伝えられている.数年前から保存血液の供血源に関する問題は事ある毎に話題にのぼつてはいたが,ライシャワー大使が負傷後日本の病院においてなされた輸血が原因で血清肝炎を併発し,ハワイで療養されているというニュースが報道されるに及んで血液問題が大きな祉会問題となつたことは事実である.また,山谷,釜ケ崎などに居住する入たちの中で,自己の健康阻害を承知して供血安易に現金を入手しようとする一部の固定供血層の問題も大きくクローズアップされた.
 低比重血液,いわゆる"黄色い血"が直接血清肝炎を誘発するかのごときニュースを散見されるが,現実として献血による保存血液の製造量は全体の3%にも達しない今日売血を一切中止することの困難をどう押し切つて行くのかということになると,国の対策上なかなか問題点は多いのである.現在,諸施策を早急に実現すべく努めているが,根本的な考え方を御披露して諸賢の御叱正を得たいと思つている.

血清肝炎の予防献血預血を中心にして

著者: 大林静男

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 最近わが国では,輸血の後に起こる肝炎が著しく多く,各方面の関心を引きつつあることは,御承知の通りである.このいわゆる血清肝炎を恐れるあまりに,必要な輸血をためらうという現象さえあるといわれている.外科医にとつて輸血は,なくてはならない大切なものでありながら,その本質については,あまり考えられていなかつたといえよう.今年の3月に札幌の北海道赤十字血液銀行所長を辞すまで前後10年間の経験を与えられた私は,大阪の朝日新聞の5月12日号に"地域社会の果たすべき課題—献血運動"という一文を書いた.それは輸血事業というものは,地域社会の果たす問題であることが十分理解されねばならないと思つたからである.そのため本年3月末の輸血学会で発表した北海道の状況を紹介した.本來医療は地域社会に欠くことのできないものであり,現在では広く公衆衛生をも含めて,地域住民の健康保持のためその活動が広げられつつある.その一環として,大戦後各国とも各地域に血液銀行を整備して,常時健康な血液を保有し,輸血に関するサービスの中心として,輸血センターと呼ばれる活動をしている.すなわち地域社会の健康人によつて支えられた血液銀行が,輸血を通して地域の病人を支えている理である.

講座 境界領域

Reticulosarcoma(細網肉腫)のレ線像と組織像(その1)

著者: 伊丹康人 ,   赤松功也 ,   東海敏夫

ページ範囲:P.1350 - P.1356

はじめに
 本腫瘍は古来からまことに議論の多い腫瘍である.Ewing以前は,この種の腫瘍はすべて円形細胞肉腫として一括して論ぜられたものである.
 1921年James Ewingは臨床的・レ線的特徴,放射線の感受性の強いこと,さらにその組織像が既知のいかなる骨肉腫・骨髄腫とも異なる円形細胞肉腫の形態を呈していることから本腫瘍が血管内皮系の細胞から発生するとの考えに到達し,1つの独立疾患として"diffuse endothelioma"または"endothelial myeloma"of boneなる名称を附した.それ以来もつばらEwing's sarcomaなる名称のもとに,Ewingが記載した諸点に一致しないものまでが一緒に論ぜられるにいたつた.

手術の実際

横隔膜下膿瘍切開法

著者: 長洲光太郎 ,   岩崎隆

ページ範囲:P.1358 - P.1362

Ⅰ.診断上のポイント
 横隔膜下膿瘍は特発することはまずない.必らずこれに先行して腹腔内臓器の化膿性疾患がある.たとえば中垂炎や胃・十二指腸潰瘍穿孔による急性腹膜炎,急性胆嚢炎あるいは以上のものにつづいておこる肝膿瘍,また上腹部開腹手術後の発生などがそのもつとも大きい原因である(第1図).
 したがつて一定の原病の経過があり,その経過が急速に悪化しておこる場合と,少くとも,およそは順調な経過のごとくみえても,何か解熱がおくれたり,右上腹や背痛があるなど少しく異常な経過をみているうちに,明らかに膿瘍性の高熱,下部肋間の圧痛,右肋骨弓に沿う疼痛,右季肋部や右下胸部の呼吸性自発痛および圧痛,デファンス,当該部の皮膚をつまんでみると健康側より浮腫状に厚く感じられるなどの諸症状があらわれてくる.

検査と診断

日常外科に必要な胃検査法—とくに外科領域における

著者: 佐分利六郎 ,   加藤裕一 ,   田林晃

ページ範囲:P.1364 - P.1369

 胃疾患診断法について教科書的に順序よく書き揃えても無意味と考えて,外科医の立場から現在どんな考えで日常事に処しているかを述べて御参考に供したい.胃切除という手術が割合に安全に,かつ広く行なわれるようになつて来た結果として,胃切除後の病態生理が順次明らかとなり,いわゆる胃切除後症候群というべき愁訴が意外に少なくないことがわかつてきたように思われる.とくに慢性胃炎患者の胃切除後に40%前後に愁訴が残存し,20%以上にDumping症状のあることは広く知られ,反省されてきた.しかるに一方胃癌はますます死因の重大なものとなつてきており,来院患者の60〜70%に切除可能であるにすぎず,その40%前後が根治的切除術を受けている.このcurable resectionをうけた患者の40%に永久治癒がみられているので,結局来院患者の15%程度しか5年生存を果していない現状である.そのため早期診断の重大さが強く主張されて来たことは喜ばしいことであるが,一方あまり熟達していないX線診断で簡単に早期胃癌の疑診をおき,簡単に慢性胃炎患者に胃切除を行なつている傾向が無いとはいえない.
 外科的胃疾患に対する胃切除後Dumping症状発生率は5〜15%と考えられるが,周知のごとく胃癌患者手術後にはこの症候群の発生はきわめて少ないものである.

外科領域

外科領域における栄養管理(その2)

著者: 日笠頼則 ,   松田晉

ページ範囲:P.1370 - P.1378

Ⅰ.基礎的概念
2.三大栄養素相互間の動力学的相関性
 外界からの熱量摂取が不足すると,個体はその貯蔵熱源や体構成分を利用してこれに対処するが,従来はただ漫然とまず糖質についで蛋白質が利用されてゆくものとされて来た.
 しかし,近時内分泌学的研究の進歩とあいまつて,その際個体が示すMetabolic patternは以上のように割切つて考えられるような簡単なしかも単純なものではなくして,外界からの熱量摂取が不足した際,個体がその貯蔵熱源や体構成分をどのような配分のもとに消費,利用するかは,当該個体の食餌歴によつて大きく左右されることが明らかにされるに至つた.

乳幼児外科における水分電解質の諸問題(その6)

著者: 石田正統 ,   沢口重徳 ,   大部芳朗

ページ範囲:P.1380 - P.1383

Ⅹ.病的状態における生体の水分電解質耐容限界
 前講までは健康状態における水分電解質代謝調節機構についてのべた.生体には正常の体液構造を維持するために種々の代謝調節系が備つており,これらの調節系はそれぞれ関係する物質を必要に応じて蓄積しあるいは排泄して体液の恒常性を維持している.しかしながら,この調節機構がその機能を発揮するためには必要な素材が十分かつ生体の耐えうる範囲内で供給されることが前提となる.健康状態における生体の水分電解質の耐容範囲Homeostatic limit,すなわち最小必要量と最大耐容量の幅は非常に広いが,輸液療法を必要とするような患者においては多少とも狭められているのが普通である.本稿においては病的状態における乳幼児の耐容限界についてのべようと思う.

アンケート

ジギタリスの使い方

著者: 杉江三郎 ,   田口一美

ページ範囲:P.1384 - P.1385

1.適応
 外科—臨床で取り扱う疾患で,術前術中,あるいは術後にジギタリスを使用する場合は,むしろそれほど多いというものではない.一般の開胸あるいは開腹手術でも,心肺機能に著しい低下がない限り,積極的にジギタリス療法を行なう妥当性はむしろ少ないといえる.したがつて今日その適応は,主として心臓,大血管手術あるいは高齢背などで,心肺磯能の低下したものなどがその対象となる.一方術前術後を問わず,明らかに心不全に陥つたものではジギタリス療法が絶対的に必要で,これらの場合は内科的使用法となんら異ならない.他方外科で使用する場合は術中あるいは術後に遭遇する急性心不全などが多く,このさいには速効性のジギタリス剤を使用するところにひとつの特殊性がある.

海外だより

Harvardの外科(その1)

著者: 織畑秀夫 ,  

ページ範囲:P.1386 - P.1389

 Harvard大教授W. V. McDermott氏の御好意により「Structure of Harvard Surgery」の特別寄稿を得た.古い伝統と多くの業績を生んだ「Harvard Medical School」について紹介できることは大変意義深いことと思う.是非,ご一読をお奨めするしだいである.なお,最近Harvard大を訪れた東女医大織畑教授に感想を述べていただいた.

統計

静岡済生会病院における胃・十二指腸穿孔の統計的観察

著者: 岡本一男 ,   堀向憲治 ,   安部堯 ,   高木啓之 ,   岡本晃愷 ,   伊藤喬広

ページ範囲:P.1395 - P.1398

はじめに
 胃および十二指腸の急性開放性穿孔は,現在もなお死亡率の高い急性腹部疾患であるが,われわれは,静岡済生会病院において昭和25年6月より,昭和36年7月まで,11年2カ月の間に,52例を経験したので,昭和36年9月23日,第113回東海外科学会,第45回静岡外科医会および昭和36年10月22日,第14回済生会学会において,その統計的観察について発表したが,その後翌年3月までに,さらに5例を経験したので,これらをあわせて,主として胃および十二指腸潰瘍の急性開放性穿孔について,統計的観察を行なつてみたい.

症例

下大静脈閉塞によるBudd-Chiari症候群を呈した1症例

著者: 斉藤敏明 ,   津村整 ,   石田堅一 ,   山本一郎 ,   勝正孝 ,   西山保一

ページ範囲:P.1399 - P.1404

はじめに
 1846年Buddが肝膿瘍による肝静脈血栓症を報告し,また1899年Chiariがこれの臨床的および病理学的検討を行なつて以来,肝静脈閉塞に起因する一連の症候群はBudd-Chiari's Syndrome,あるいはChiari's Syndromeと呼称されて,興味ある疾患として研究され,すでに欧米では150例,本邦でも数10例の報告がある1),しかしその原因ならびに病態は複雑で,今日,静脈造影法,肝Biopsy,肝カテーテル法など,本疾患にたいする診断にかなり有力なものがあるとはいえ,なお困難な点が多く,また治療上でも少数例に外科的療法が試みられたにすぎない2-4).その原因によつては明るい期待がもたれるとはいうものの,なおまだ困難な問題が多い.
 われわれは最近下大静脈の完全閉塞により本症候群を呈した1例を経験したが,結果的にみて,診断の甘さから手術の選択を誤り,加えて高度の肝硬変のため,不幸な転帰をとつた.剖検上きわめて興味ある所見を見いだしたので聊検討を試みた.

縦隔洞腫瘍自験22例について

著者: 赤尾元一

ページ範囲:P.1405 - P.1410

はじめに
 胸部疾患にたいする早期診断,ことに,集団検診の普及とともに,本症にたいする報告が,著しく増加しつつある.
 縦隔洞腫瘍の主な報告をみると,外国では,Blades et al.1)の94例,Peabody et al.2,3)の855例Derra et al.4)の1500例があり,本邦においては,桂,葛西5,14)らの345例,卜部6)らの93例,岩永7)の140例がみられ,自験例のみの報告についてはDerra8,9)の381例,Lewis8,10)の140例,羽田野11)の87例,葛西13)の39例,卜部6)の21例,武田12)の85例をみる.

若年者に発生せる空腸癌の1例

著者: 千葉淳 ,   若林衛夫 ,   三浦辰彦

ページ範囲:P.1411 - P.1412

Ⅰ.症例
 〔症例〕 18歳 男子
 既往歴・家族歴:共に特記すべきものなし.

カリクレイン・トリプシン不活化剤(Trasylol)を併用せる十二指腸乳頭癌治験例

著者: 武田淳志 ,   角田正良 ,   原修一 ,   三宅一忠

ページ範囲:P.1413 - P.1417

はじめに
 膵頭十二指腸切除術を施行すると,術後胆管吻合部より胆汁が排泄せられ,そこへ膵からのトリプシニン分泌がくわわり胆汁で活性化されてトリプシンとなる.ところが,膵管はすでに乳頭部を欠除していて,膵液の逆流がおこり,膵炎や膵壊死をおこす可能性がある.また時には吻合部よりの漏出により吻合部周辺に自己組織消化がおこり吻合不全をきたす危険も伴う.十二指腸乳頭部癌の根治手術においては適切な手術操作はもちろんであるが,胆管や膵のように重要な臓器の吻合が正しくたもたれることが手術成功の鍵であろう.われわれは十二指腸乳頭部癌の根治術後にカリクレイン・トリプシン不活化剤であるトラシロールを投与することによつて吻合不全を防ぎ,術後36日にして軽快退院し術後2カ月で原職に復帰した症例を経験したのでここに報告する.

MEDICAL Notes

von Hippel-Lindau病,他

ページ範囲:P.1422 - P.1423

 本病の最初の記録はH. Jackson:A series of casesillustrative of cerebral pathology. Med. Times. HospGaz. 2:541,1872だそうで,その後,Pye-Smith(1885),Panas(1879),Fuchs(1882),Dzïalowski(1900)などを経てvon Hippel(1904,1911)の古典的な2症例の精査報告となり,さらに後にLindau(1926)の単行本出現となつて,はなはだ有名になつた.Lindau病とLindau tumorとは別で,L-tumorは小脳hemangioblastomaだけを指し,L病はL-tumorを伴い網膜hemangioblastoma(von Hippel-tumor),膵嚢胞,腎奇形,副睾丸奇形などを呈する遺伝的コンプレックスをいう.本病でL-tumorを合併することが致命的となるが,L-tumorの大部分は小脳後外側にある嚢腫状の腫瘤で,中央線にあるもの,solidのもの,多発のものは約20%で,何れも境界鮮明,小で,L病におけるL-tumorで悪性化例はない.小脳外では延髄,脊髄(主にC3-D1とD7-L1の部),網膜(輸入動脈,輸出静脈など大きい血管の腫瘍でしばしば石灰化す)に血管腫を見ることが多い.腎では良性の嚢胞または転移の少い悪性度低い腺癌が,本病の2/3に合併する.

外国文献

チンパンジー腎をヒトへ,他

ページ範囲:P.1424 - P.1427

 移植免疫問題がうるさくなつてからは腎異種移植という報告はない.本報はTulane大学外科内科泌尿科微生物科共同の研究だが,この種の異種移植はほぼ同じころColorado大学でも行なわれた.さて患者は43歳男,高血圧で腎硬化症となり尿毒症に陥つたが,腎をくれる人がいない.そこでazathioprine,プレドニソロン,actino-mycin Dを1週間与えて免疫抑制をしておいて,41kgチンパンジー(Adam君)から腎をもらうことにした.Adamのクレアチニン清掃80ml/min.,全麻,30℃に冷却,ヘパリン注,両腎,尿管,大動脈,大静脈を一塊としてとる.患者の右腸骨窩で腸骨動脈とAdam大動脈,腸骨静脈とAdam大静脈を端側吻合,尿管は別々に膀胱粘膜下にトンネル埋植.阻血時問39分.吻合終了10分で尿出はじめる.最初の24時間で7200ml,クレアチニン清掃は術前3.7,術後78ml,第4日まで好調,ここで39.5℃発熱し,尿減り,リジェクションの徴あらわる.移植腎照射200γ,azath,プレドニソロンactinoを増加す.24時間後に尿増加し,リジェクションの徴さる.患者はA1,ccDee,M型,AdamはA1,2,cD-,M型.リジェクションの徴の出たとき患者血清中のAdam赤血球hemagglutinin titer 1024倍にまで達したが,リジェクション症状さると,titer 128-256に低下.

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臨床検査の資料(6)

ページ範囲:P.1428 - P.1429

 正確な臨床検査が適確な診断から適正な治療へ導く本誌は東大中央検査室の協力を得て,十分吟味された資料を表覧連載し日常診療に資したいと思う.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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