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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科19巻12号

1964年12月発行

雑誌目次

特集 外科と保険診療

外科と保険診療

著者: 武見太郎

ページ範囲:P.1585 - P.1587

1.大局的見地から
 外科における保険診療についての問題点を考えるときに,現行社会保険制度そのものからきている問題と,現行制度の中において外科だけの特殊問題と,さらに,婦人科や整形外科などのメスザイテとの関連において考慮すべき問題とに分類整理することが大切な態度だと思う.
 提起される問題について,上述の3点から考えてみると自ら解決の方向が見出されるはずである.社会保険の現行の仕組みは臨床医学の構造特性は無視してはじめから出発したものであることは銘記されなければならない.

病院側から見た外科保険診療

著者: 守屋博

ページ範囲:P.1587 - P.1590

 現在,病院にくる患者の9割以上が,何かの保険によつて支払れている.病院は保険を考えないで経営することは不可能である.病院は完全に保険の網の虜になつている.
 元来,医業は自分の経済的責任で仕事をする代りに自由に患者との間に話し合いの取引をすべきであるのに患者の方は必要な診療を全部まとめて,保険者に委託したために,診療者側は,料金について,患者の代理者である保険者と一括話し合わねばならぬことになつた.否正確に云えばあい手は保険者でもなく,政府自身が指示した報酬額を,保険者から支払れる仕掛になつているのである,政府も報酬額を決定するときには,社会保険中央医療協議会の意見を聞くことになつているが委員中,医療担当者の頭数は常に50%以下であるのでなかなか診療者の思い通りの値上ができぬのである.

献血と保険問題

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.1591 - P.1593

 近頃輸血後の血清肝炎がとみに頻発する傾向があり,かなり世間ではやかましく本問題をとりあげている.ことに新聞,雑誌,放送などによつてかなり詳細にいろいろ述べられているが,ときに真実がゆがめられているような記事がないでもない.
 元来輸血制度のあり方については,日本輸血学会が血液銀行設置当時からいろいろ当局に意見を具申しており,とくにここ5〜6年前からは,あるいは口答で,あるいは要望書を提出して以下述べる輸血の関連問題について改革,改善策を望んできたのであるが,まつたくなんらの反応も回答もなかつたのである.学会関係者にしてみれば起るものが当然起つたと考える人も多いことと思うが,あまりにも無為無策な当局のやり方にはむしろあきれ果てたというのが識者の本心ではなかろうか.本誌のもとめに応じ,献血と保険問題に関して日常私の感じていることを書き連ねてみる.

救急医療と健康保険

著者: 岩本正 ,   岩本正信

ページ範囲:P.1593 - P.1598

 わが国の医療保険には多くの種類があるが,その診療報酬は社会保険診療報酬規定が基礎になつているようだ.社会保険(以下,健康保険とよぶ)には,沢山のよいところもあるが,速急に改善を要するところも少なくない.今回は外科的救急医療に関する健康保険の規定について痛切に感じられた問題についてのべて事態の改善に資したいと思う.
 その前にまず外科的救急医療とはどういうことであるかということを決めておかねばならない.従来から救急処置,応急処置などといわれていたものは,特殊な学会などで論ぜられるものは別として,どうもわが国ではずいぶん簡単なものであつて,たとえば主として創傷の処置,それも小さい切創とか,挫創,打撲傷,挫傷,範囲のせまい熱傷などに対する処置をいつているようであり,救急法と銘を打つた成書をみても,家庭医学的な創の消毒法とか,包帯法とか,またはceremonialな血管指圧止血法などの域をでていないものが多いようである.健康保険においてもそうした程度の考えにとどまつているらしいことは,そのいろいろの規約をみてもわかるし,後に示した2,3の具体例からも明らかである.

小児外科と保険診療

著者: 守屋荒夫

ページ範囲:P.1599 - P.1603

 成人の診療に比較して,小児の診療には多くの特殊性があり,手間と経費が余計に必要なことは,いまさら説明するまでもない.しかるに,技術や労力よりも,使用現物への評価が優先する現行の保険制度の枠内にあつては,小児医療の特殊性はほとんど無視されている.技術料をやや高く認めたといわれる甲表の診療点数表においても,小児医療にたいする特殊加算額は,第1表に見るように僅か8項目であつて,これは全算定基準項目671にたいしてわずか1.2%にすぎない.
 さらに,使用現物についてみても,高価薬,とくに抗生物質やシロップ剤などは,小児の使用量ではかえつて欠損となる場合が多く,良心的な診療を実施する上に大きな支障となつている.

外科医としての希望

著者: 福田保

ページ範囲:P.1603 - P.1606

はじめに
 今より30数年前健康保険制度ができた当時は,労働者救済のために定められたもので,医師側でも好意を示して,保険制度の軽費診療に協力したものであつた.当時は主として自由診療であつて,軽費診療の%は極めて僅であつたので,経済的にも十分カバーできたものであつた.
 ところが,保険診療が著るしく発展し,保険組合が続出し,現在では国民保険まで制定され,正に国民皆保険に発展したことは,日本国民としてはきわめて幸福なことで,双手を挙げて替成するものである.

疑義解釈委員世話役の立場から

著者: 林周一

ページ範囲:P.1606 - P.1607

 日本外科学会の健康保険に関する委員会の世話役の1人として,この委員会の構成と現状を述べて参考に供したい.
 日本医師会は全国の地方医師会,あるいは会員個人からの社会保険に関する疑義を処理するために疑義解釈委員会をつくつている.この委員会は,学会から選出された各科の専門家1名ずつと,厚生省の技官1名,医師会の理事1名のメンバーで構成されており,毎月1回の割合で会合を行なつている.外科学会からは慶大井上雄講師が長く代表として出席されていたが,2年前に私と交代して現在にいたつている.

外科学会と保険診療

著者: 織畑秀夫

ページ範囲:P.1608 - P.1611

 長年にわたつて,日本外科学会は社会保険制度の改革に努力してきましたが,残念ながらまだまだ不十分であります.しかも今後の見通しもよくありません.そこで今後は単なる制度改革の問題だけでなく,学会としての体質改善によつて,学会自身の手でこの窮境を克服して行く道を開かなければならないと思います.その1つは医師の教育に力を入れることであると考えます.

診療報酬明細書よりみた外科保険診療

著者: 松井文英

ページ範囲:P.1611 - P.1614

 毎月東京基金に請求される社会保険診療の明細書の中からときに問題となつた症例より保険診療における外科的疾患について手術,抗生物質,輸液,輸血等の内容を紹介し,さらに日常よく見られる疾病についていろいろ検討を加えて見たい.ここに紹介した10例の手術例は何れも大学病院,あるいは綜合大病院から請求された症例ですべて重症,難症例でありそのほとんどが死亡しているものである.その1カ月の診療費も33万円から65万円といつた高額におよんでいる.もちろんこれらの症例は全体としては極く少数例であるが,いずれもその手術適応.術中の不慮の出来事,あるいは術後の合併症,さらには第2回,第3回と手術が反復行なわれ増々重症,難症の度が加わり診療内容は専ら救命的治療に終始している.症例の中で腸管癒着症といつたごくありふれた症例があるが当初の虫垂炎手術から始まつてなんと11回の開腹手術が行なわれている.また腎膿瘍の症例では腎切開→腎剔→出血→開腹→死亡といつた例である.僧帽弁狭窄の例は術中体外循環の装置が故障して低酸素血症を残しそれから出血傾向→血尿,さらに縫合不全を起して衰弱死亡している.直腸癌の例は腫瘍剔出不能で部分切除を行ない組織間液の漏出ひどく前例と同じく衰弱死亡している.食道癌の例は術後縫合不全,自然気胸→肺合併症→死亡.胃穿孔性腹膜炎の例は術中総輸胆管を損傷し,引続き合併症を起して死亡している.

基金顧問の立場から

著者: 篠井金吾

ページ範囲:P.1614 - P.1616

まえがき
 私は正直にいつて,医療保険にはズブの素人である.素人ということは無関心ということではなく,細かいルールをよく知らないということで,そのような人間がなんの機縁か,基金の顧問に就任することになつた.そこで先ずその理由や心境について一言して置くことが至当であろう.以前まで基金の顧問をされていた方は,学会の大長老で,すでに第一線を退いて実際画から遠ざかつた大先生方ばかりで,貫録からいつて顧問という名に相応しい方ばかりであつた.しかし,医学の進歩のテンポはあまりにも早く,また,細かく分科してきた今日では,実際に第一線に立つている現役の人から顧問を求めなければ,実際の役目は務まるまいという考え方が,基金幹部の方針として打ち出された.これにはまつたく同感の意を表さない人はないといつてよいたろう.心臓外科の進歩の途上においては保険審査に当つて幾多の問題が派生したことを聞いている.例えば,人工心肺が臨床に用いられる段階になつたとき,いまだこれは実験的階段のものとして否定された顧問がいて,そのため人工心肺がいまなお保険に認定されていないということを仄聞している.もしそのとき,現役の心臓外科をやつている人が顧問であつたとしたら,今日どういう結果に変つていただろうか.こう考えると,顧問の責任は重大で,医学の進歩と保険診療の正しい運営を結びつける橋渡しの役目を果さなければならぬと考えられる.

グラフ

リンパ管造影—附・薬剤のリンパ管内投与

著者: 島田信勝 ,   石井良治 ,   馬場正三 ,   吉崎聡 ,   榎本耕治 ,   中川自夫

ページ範囲:P.1581 - P.1584

① 下肢のLymphography イ ンフュージョンポンプ使用
 ② 正常リンパ管anterior me- dical groupは脛骨内側を 走りanterior latera' group は腓骨外側よりしだいに内 側にまわり膝関節部でan- terior medial groupと合流 する.

紹介 院内輸血部—慈恵医科大学附属病院輸血部

著者: 綿貫喆 ,   山崎順啓

ページ範囲:P.1640 - P.1644

 ① この輸血部は業務,倹査,研究すべての機能が一室に同居している.一見雑然と並ぶ器具類の配置にも苦心が秘められている.
 ② 輸血部の運営は一切この運営委員会で討議決定され実行に移される.実際に血液を使う臨床側からも研究的な立場にたつ基礎の側からも活発な意見が交換される.

外科の焦点

救急医療の体系化

著者: 菊地真一郎

ページ範囲:P.1617 - P.1622

 近ごろ,毎日毎日の交通事故や工事現場の災害,それに加えて三河島事件,鶴見事件,あるいは三池炭坑爆発事故など大きな災害が相次いで発生し,新聞にテレビにと大きくとり上げられ,救急医療対策の重要性が問題とされてきた.激増する交通事故や災害事故には,さすが腰の重い役人や,医学教育者も,また国会の代議士はこの時とばかりに大きく問題としてとりあげ,社会的焦点として医学界も,社会も真剣に考えるようになつた.
 なにかことが起きなければ動かないというのが役人や政治家のくせだが,それでもやらないよりはましか、さて外科領域こそは歴史始つて以来,一番最初にとりあげられた医学,医術であると思う.歴史的過程を経て文明の進歩にともない疾病の種類や様相も一変し,その数も増えてきた.寿命による生死の問題はともあれ,今日では外傷による傷者の救命と社会復帰が一番問題になつてきた。結核や癌の治療などには十分とはいえないが一応大学を始めとして,各病院,研究所で積極的に研究が進められてきた.これに反し,救急医療,すなわち,災害事故の激増にともないその対策の体系化,組織化が必要となつたにもかかわらず,実は大変遅れていた.

論説

リンパ管造影—附・薬剤のリンパ管内投与

著者: 島田信勝 ,   石井良治 ,   馬場正三 ,   吉崎聰 ,   中川自夫 ,   榎本耕治

ページ範囲:P.1629 - P.1636

 リンパ管の存在は紀元前4世紀頃,すでに認められておりながらその機能についての研究はまつたく未開拓の分野であり,Kinmonth1)2)が1952年にLymphangiographyを確立するまでは,1世紀近くの間色素吸収による解剖学的検索と,実験動物を用いた胸管リンパ液の研究等が僅かにみられるみのであつた.Kinmonth以後はFucks3),Gergely4)等多くの研究者がLymphangiographyについて方法や造影剤の改良を加え報告してきたが,本邦においては,私どもが1960年4月,日本放射線学会北日本部会(第20回),東日本部会(第118回)合同部会5)において,犬の四肢リンパ管を用いたリンフォグラフィの実験的研究について報告し,さらに翌1961年,第60回日本外科学会総会6)において,臨床例についてリンフォグラフでの成績を報告したのが最初である.その後われわれはリンパ系の外科的応用についていろいろの研究を行なつているので,主として臨床例におけるリンフォグラフィ,胸管造影術,リンパ管内薬剤投与法の成績についてここに記載することとする.

紹介

慈恵医科大学院内輸血部

著者: 綿貫喆 ,   山崎順啓

ページ範囲:P.1638 - P.1639

はしがき
 慈恵医大附属病院に輸血部を作ろうという希望はかなり以前からあつたが,それが具体的に計画され実際に発足したのは昨年から今年にかけてである.輸血部の誕生としては決して早くはない.いやむしろおそい方だといえよう.ただ皆の胸の中に作る以上いい加減なものは作れないぞという老舗大学らしい用心深さがあつてむしろこれがブレーキになつていたと思われる.だがやはり時期が熟したのであろうか,小さいながら一応五体そろつた輸血部が今年の1月にやつと誕生した.今後これをどう育てるかを考える前に昨年の胎動の時期から一通りふりかえつてみよう.

講座 境界領域

内軟骨腫のレ線像と組織像(その1)

著者: 伊丹康人 ,   赤松功也 ,   霜礼次郎

ページ範囲:P.1646 - P.1650

 Enchondroma (Hellar); chondromyxoma(Ge-schicter & Copeland); benign chondroma;centr-al chondroma(Coley)などの名称が用いられている内軟骨腫は,多発性と単発生に大きく分けることができる.

検査と診断

食道の運動機能検査と診断面への応用

著者: 赤倉一郎 ,   中村嘉三 ,   植田正昭 ,   有森正樹 ,   今井康晴

ページ範囲:P.1652 - P.1662

 食道は他の消化管のごとき,分泌,吸収等の機能はなく,運動機能のみが問題となる.食道の運動機能を検討する方法としては,①レ線透視,またはレ線映画,②食道内圧測定,③筋電図,などがある.
 しかしながら,筋電図学的検討を今後開拓されるべき方法であつて,いまだ臨床的応用が確立されていない.

患者管理

外科領域における栄養管理(その4)

著者: 日笠頼則 ,   松田晉

ページ範囲:P.1664 - P.1669

Ⅱ.外科領域における栄養管理の実際
1)術前管理の方針
 外科領域で取扱う患者の一般通則として,入院時既に多少とも咀嚼・嚥下の障害,消化吸収の障害,出血,嘔吐,下痢等による体液の過剰喪失,肝機能の低下,細菌感染,発熱,悪性腫瘍や食欲の不振,食餌摂取の制限等による体構成分の異常崩壊等を伴なつている場合が多いから,なにはともあれ,入院時ただらに低蛋白血症,貧血,脱水,電解質代謝の異常,副腎皮質機能低下の有無,肝機能状態等を十分に精査し,当該個体の栄養状態を正確に把握,判定して,速やかにそれに対処した適当な栄養補給を第1表のような各種の方法を駆使,応用して行ない,患者の状態を一刻も早く,その目的とする手術に十分耐え得る状態ならしめることが肝要である.
 術前の水分補給は,一般に患者の尿量が50cc/kgの水分投与にさいして25〜30cc/kgに,尿比重が1.015程度に,かつ細胞外液量が体重の22〜29%の間に保特されるように行なつておくのが理想とされ,要するに,術前の水分補給は術中,術直後の脱水ショックを防止する意味で軽いOverhy-drationの状態に維特しておくのを原則とする.

乳幼児外科における水分電解質の諸問題(その8)

著者: 石田正統 ,   沢口重徳 ,   大部芳朗

ページ範囲:P.1670 - P.1674

ⅩⅡ 輸液療法に用いられる溶液
 本邦において従来輸液療法のために入手し得る溶液は5%ブドウ糖液,生理食塩水,Ringer液の3者が主で,一部に等張乳酸ソーダ液,乳酸ソーダ加Ringer液が利用される程度であつたが,欧米では過去10数年来これらのほかに各種の輸液用電解質液が市販され,いわゆる"均衡多電解質液"が広く普及している.本講においてはこれら輸液用注入液の各種につき,その特徴,適応,用法につき解説を試みようと思う.

海外だより

Harvardの外科(その3)

著者: 藤本吉秀 ,   堀原一

ページ範囲:P.1675 - P.1677

Peter Bent Brigham Hospital
 この病院はその名の示すごとく,Bostonで事業に成功したPeter Bent Brighamが貧しい人のための病院建設の意図のもとに遺産の大半を寄附したのがもとでできた.1913年開院当初から患者のbest careとともに医学教育と研究に主力を注ぐことがうたわれ,HarvardMedical Schoolに隣接して建てられ,その5番目の附属病院となつた.Harvardの附属病院の中ではもつとも歴史が新しい方であるが,常に一風変つたことをしでかしては兄貴分の他の病院の連中をびっくりさせているというもつぱらの評判である.
 第1代の外科主任は,脳外科で有名なDr.HarveyCushingであるが,彼がこの病院に招かれたとき,来る前から「Medical Schoolの中にResearchをやる場所を確保するように」と主張したそうで.目先の治療だけに止まらず,常に先を見て研究し,医学の最先端をおし進めるような雰囲気がはじめからあつた.またCushingはCushing症状群の病名で有名なようにホルモン異常に関心が深く,このような点から内科と協力して研究する気運が生じ,これは今日においてもPeter Bent Bri-gham Hospitalの伝統的な強さの根源をなしている.

アンケート

シヨック—感染(顕性不顕性)あり輸血に反応しにくい場合

著者: 和田寿郎 ,   井口潔 ,   渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1678 - P.1681

 1) 輸血,輸液
 出血によるショックのばあいは,輸血はそれに反応するしないにかかわらず,かならずおこなうべきで,血液がないばあいでも,ブドウ糖液あるいは代用血漿などを投与し,血液の準備されるのをまつ.いずれにしてもショックのさいにはかならず静脈を確保しておくことが大切であり,輸血,輸液は静脈切開によつて投与されることが多いが,ときには動脈輸血をおこなうこともある.またどこかに出血点があり,出血が続いているばあいには,輸血に反応せず低血圧を持続することが多いので早急の止血を第1におこなうべきである.
 出血のないショックでは循環血液量の低下とともに血液濃縮がおこつていることが多く,電解質と水の補給が必要で,5%ブドウ糖液と生理的食塩水との等量混合液やデキストランなどの代用血漿を静脈確保の意味でも当然投与すべきであると考える.

薬剤

プロトポルフィリンの臨床的ならびに実験的研究—プロトポルフィリンの経口的投与に関する実験

著者: 腰塚浩 ,   久保忠 ,   中村和雄

ページ範囲:P.1683 - P.1689

 われわれは先にプロトポルフィリンの非経口投与に関する実験を行ない,(Ⅰ) Contominschockにたいするプロトポルフィリンの延命効果,(Ⅱ)四塩化炭素による肝カタラーゼ活性度低下の阻止作用,(Ⅲ)肝再生実験におけるプロトポルフィリン投与の効果,(Ⅳ)臨床的にも肝炎等の肝障害にたいして有効であることを実証したのであるが経口投与においても同様な効果が期待し得るとの考えの下に動物実験ならびに臨床的実験を行ない.良好な結果を得たのでここに報告する.

症例

縦隔血管腫の2例

著者: 黒坂真 ,   小野里叡 ,   森重清紀

ページ範囲:P.1691 - P.1693

 血管腫は皮膚,皮下,内臓等に多くみられ決して診らしくはないが,縦隔血管腫はきわめて少なく,最近われわれも2例経験したので,多少の文献的考察を加えて報告する.

超大量保存血輸血の1例

著者: 倉本進賢 ,   野口耕一 ,   高木繁幸

ページ範囲:P.1694 - P.1698

Ⅰ.緒言
 近年,外科領域においては,各種の大手術が比較的安全に行なわれるようになつたが,これには麻酔や化学療法の進歩とともに輸血液の普及発達が大きな貢献をなしたと考えられる.私どもが日常の外科臨床において輸血に依存するところは非常なもので,とくに手術に伴う出血を補うためには輸血が必要量だけ行なわれる現状である.そして最近の傾向としてこれらの輸血は特殊な例を除き,伝染病の排除や給血者の選択,確保の困難さや輸血手技の安全且つ簡単な点から保存血が多く用いられるようになつている.
 しかしこのような出血を補う輸血がいかに効果的であつても,やはり限界があるようで,吉村等は手術中を含めて前後24時間以内に10000cc以上の輸血を必要とした35例につき報告し,その死亡率は約60%であると述べている.

不適合輸血の1症例

著者: 小野里叡 ,   若狭一夫 ,   黒坂真 ,   森重清紀

ページ範囲:P.1699 - P.1700

 不適合輸血の原因は,(1)技術的な誤りによるものと(2)事務的なもしくは管理上の誤りによるものとに分けられ,昨今は(2)のグループに属するものが増えつつあるという.われわれは過去9年間600余例の主として肺結核の手術における輸血について,血液型問題で2例の苦い体験をもつた.1例は交叉試験の結果から型誤判が発見されたもので,患者はすでに麻酔下にあつたが皮切開始には至つておらず不適合輸血を免がれた.血液型の再検査が行なわれたが型判定は非常に難しいものであつた.つぎにここに報告する症例では輸血終了後に異型輸血であつたことが発見され,それに至る過程の推理から,第1原因が管理上の盲点のようなものに発していたと考えられたのであつた.

巨大なる漆灰腎(Kittniere)の1例

著者: 大矢清 ,   大久保貞夫

ページ範囲:P.1701 - P.1703

緒言
 漆灰腎は腎結核における乾酪空洞型の末期病変であつて,比較的まれな病変である1)2)3)4)5).われわれは左側腎腫瘍の診断で腎剔出術を施行したところ,手術によりほとんど完成された巨大な漆灰腎の一例を経験したので報告する.

MEDICAL Notes

喪塩性腎炎,他

ページ範囲:P.1704 - P.1705

 Thorn (New Engl.J.Med.231:76, 1944)が2例の高窒素血症患者で,副腎皮質ホルモンに反応せず,食塩投与で症状軽快する独立疾患として記載してから,salt-losing nephritis, saltlosing syndrome, salt-wastingrenal disease, Thorn症候群などとよばれて来ており,最近のHughes (Arch.int.Med.114:190, 1964)までに30例の文献報告がある.尿のNa喪失が大で,食事摂取量(NaCl 10〜20g/24h)をはるかに上回つていると,低Na血症,脱水,高窒素血症,衰弱,悪心嘔吐などの症状を呈してくるのを指している.文献30例は男21,女9.年齢12〜70,平均36.半数は診断確定前に多尿夜尿があつたが,腎傷害を示唆する蛋白尿・尿路結石・尿路感染は1/3に証明されたにすぎない.男子症例の1/3は胃炎・潰瘍の症状あり,数年間多量のアルカリ投与をうけている.この点はCheyne (Lancet1:550, 1954),Peterson (Med.Cl.N.Am.260:210, 1959),Knowles (Am.J.Med.22;158, 1957)らも強調している重要な既往で,外科家も軽軽に看過してはなるまい.

外国文献

古くなつたテトラサイクリン,他

ページ範囲:P.1706 - P.1708

 テトラサイクリン投与でBUN増加・悪心・嘔吐を見ることがある.Shils (Ann.Int. Med.58:389, 1956)によるとテトラガ蛋白のアミノ酸取り入れを阻害するという.尿素がクレアチニン・尿酸より著明にふえる.またテトラはリボフラビン系酵素を阻害するという説もあり,尿にヒスチジン・トリプトファン・スレオニン排泄の増加することがある.さて,すでに日限をすぎ,古くなつたテトラを内服し,Fanconi症候群に一致する代謝性アシドージスを呈し,ついに昏睡に陥つたという症例がGross (Ann.int.Med, 58:523, 1963),Frimpter(JAMA 184:111, 1963)によつて報ぜられたが,また,Wegienka (Arch.int.Med.114:232, 1964)によつて追加された.その主障害は尿細管の〔H〕排泄不全にあり,HCO3再吸収,NH3産生,HPO3不全はない.症状が去つても尿細管障害は長く残るようで,数ヵ月は異常がつづくと見た方がよい.古くなつたものは用いないこと.

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臨床検査の資料(9)

ページ範囲:P.1710 - P.1711

 正確な臨床検査が適確な診断から適正な治療へ導く本誌は東大中央検査室の協力を得て,十分吟味された資料を表覧連載し日常診療に資したいと思う.

あとがき

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.1712 - P.1712

 昭和39年もいよいよおし追つて極力を迎えた.まさに1年の総決算の時期ともいうべき時である.ふり返つてみると文字通り多事多忙のうちに,またたくまに1年の歳月を費した感じがするが,この間にあつて医学の進歩は相変らず目ざましい多種多様な歩みを続けてきた.近頃外国の学会や先進国の大学教室を訪れて感ずることは,地味な研究に多方面の専門家が協力して没頭していることである.例えば臓器移植の問題にしても,稍々もすると外科医は移植術の外科的面にのみ専念したがる傾向がないではないが,その前に自己免疫,一同種免疫等の基礎的理念の研究に各国が大きな努力を払つていることを忘れてはならないと思う.とかく外科医は切つたり,はつたりの派手好みをモットーとし,或いはそのような批判を受けることが多いが,外科学の進歩は矢張り真理の基盤においてなされることを常に心がけておく必要があろう.
 ところで今月は外科と保険診療という多少風変りな特集号である.臨床外科という本誌の使命から考えれば,我が国における保険診療の現状よりおして,当然検討さるべき問題であろう.幸い武見会長始め多数の関係者がそれぞれの立場から執筆下さつたので,大いに熟読玩味して頭のチリを払い落し,新しい見地からその改善に努力していただきたいと思う.

「臨床外科」第19巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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