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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科2巻1号

1947年08月発行

雑誌目次

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外科的腎結核に對する疑義

著者: 武藤完雄

ページ範囲:P.1 - P.3

 腎結核は日常遭遇する疾患であり,其の診斷法や治療方針は既に決定的で,其他何も問題がない樣にも見えるが,日常個々の症例を檢討すると色々の疑義が起る。剔出の都度割面を精査すると腎盂病變の重要性が漸次認識され,腎結核の本態に對する疑義となつた。恩師杉村教授は昭和15年東北醫學總會で本症に就て多年の蘊蓄を傾けられたが,本症病理發生に關し動物實驗では結核菌を靜脈内に注入すると皮質結核が出來るのに,外科的腎結核は皮質でなく,乳頭から腎實質内に蔓延して行き,乳頭先端の崩壞と共に結局皮質表層の方まで帶状に病竈が出來ると,外科的腎結核(以下單に腎結核)の特異性を説明された。
 何故に腎結核病竈は乳頭に始まるか。腎結核の病理乃至發生に就ては種々の見解があつたが有名なWildbolz等(1913)の業績以來氏等の説が一般に(本邦でも)承認されて居る。此の學説に依ると結核菌は腎細尿管から排出され腎盞ニッシエに初發竈を作り,病變は乳頭側面を經て先端を崩壊,又同時に髓皮質に蔓延し多くの場合病竈は乾酪變性に陥り,所謂乾酪空洞型となると云ふ。腎結核が乳頭に始まり之から髓質皮質に蔓延すると云ふ事が定説となつたが,本症にも動物實驗の如く皮質病竈から始まるものはないか,或は皮質病竈から髓質乳頭に蔓延するものはないかと搜す樣になり,外科的皮質結核は極めて稀有な例として珍重された。當教室からも1例を報告したことがある。しかし其後吾々は前述の如く腎結核の本態に疑義を抱いたのである。

脊椎カリエスの豫後判定に就て

著者: 石原佑

ページ範囲:P.4 - P.11

緒論
 脊椎カリエスに關する業績は甚だ多く,枚擧に遑のない程であるが,吾々専門家に於てさへ,脊椎カリエスに就て幾多の疑問があり,其診斷殊に早期診斷確定,個々の治療方針殊にコルセット裝用の期間,觀血的手術適應の決定,其他各種の點に於て此處に一度大廻轉して考へなほす必要がありはせぬかと考へる點が多々ある様である。
 該疾患の豫後に關しても,古來多數の發表があり,凡その見當がつく様であるが,其等の發表では主として,該疾患と併發症特に他臓器の結核合併症とそれによる死亡の統計,唯單に脊椎カリエスの遠隔成績を死亡,治癒等の分類に終止する事が多い。即ち個々の疾患が,それぞれの所見に於て,如何なる經過をたどり,如何なる結果に至るかといふ點,それから歸納される豫後の判定に關する業績に就ては極めて少い樣である。

胃・十二指腸潰瘍穿孔の原則的處置

著者: 東陽一

ページ範囲:P.12 - P.13

 胃・十二指腸潰瘍の急性穿孔の對策としてはその穿孔後の時期と全身状態から次の3つに分ちて考察するのが便利かと思ふ。即ち(1)穿孔後6時間以内,遲くとも10時間までで,全身状態もまだ比較的良好なる早期のものに對しては潰瘍部を含めた定型的廣汎胃切除がよいことは全國外科權威に伺つた質問に對する御解答25通のうち24通まで之に贊成であることからも,早期のものには胃切除が原則的處置といふことは決定的である。
 その反對に穿孔後24時間以上も經過し全身状態極度に不良なる晩期のものに對しては單にタンポンを挿入したり,穿孔口を腹壁に縫合したりして奇蹟的に成功をおさめてゐる人もあるが,かゝる場合の成績の向上は穿孔部の手術技術上の問題よりも腹膜炎といふ見地から全身状態を挽囘する劃期的方法の出現に期待をおくべく,此點ペニシリンは確かに一役を買つてゐると思ふ。

止血劑に關する實驗的研究

著者: 神前五郞

ページ範囲:P.13 - P.16

 現今臓器製劑が止血劑として廣く使用されて居る。而して臓器,組織の抽出液の血液凝固促進作用はWooldridge(1883)以來多くの人により研究されてゐるが,其の作用物質は或はトロンボキナーゼの如きものと云はれ或は又トロンビン樣物質と主張され,其の耐熱性も同樣一致した結論は出てゐない,其のトロンボキナーゼも類脂體であるとされて居たが,最近血友病の研究に關聯して一種の蛋白燐脂質複合體であらうとも云はれる樣になつた。とにかく血液凝固機序の詳しく解明されてない現在,止血劑に關しても幾多の疑問を殘してゐる。
 著者は止血劑の研究に當り先づ舊來周知の過酸化水素氷の止血作用機序を知らうとして種々檢索せる結果,哺乳動物血液より過酸化水素處理法に依り有效な止血劑を得たので夫れに就き報告する。

止血劑に關する研究補遺

著者: 神前五郞 ,   熊澤俊彥 ,   松本邦男 ,   小森一男 ,   橋本忠德 ,   元村篤

ページ範囲:P.16 - P.18

 著者の一人神前は,當教室濱講師の「過酸化水素處理法」に依る哺乳動物血液粉末(血末)が顯著な止血作用を示し,其の直接體外凝血促進作用はトロンビン樣物質に依る事を報告したが,更に非經口的體内輸入の場合も亦同樣に有效な血液凝固促進劑である事を確かめ得たので茲に報告する次第である。

頸動脈毬の局所解剖所見—特に神經支配に就て

著者: 野口芳昭

ページ範囲:P.18 - P.20

 頸動脈が頸動脈竇と連絡して居り,多くの神經の支配を受けて居ることを研究するのは,この頸動脈の生理を考察する上に非常に興味深いことである。
 Ask-upmask,Gerard,Rillirgsley,Princeteon氏等は頸動脈毬と交感神經,迷走神經,舌咽神經等との關係を記載して居り,我が國でも九大の佐藤氏が同様のことを述べて居る(1932)。又N. B. Tchibeckacher(ソ聯)は(1938)舌咽神經,頸動脈神經,迷走神經,上頸部交感神經節と頸動脈毬との關係を述べ更に三叉神經との關係まで述べて居る。

氣管支喘息に對する頸動脈腺剔出術の效果

著者: 大內淸太 ,   大友毅男

ページ範囲:P.20 - P.21

 瀨尾,中山教授1)等は氣管支喘息20例に對し頸動脈腺剔出術を試行し其の偉效を報じた。當教室に於ても之が追試を試みた所,症例が比較的多數に達したので茲に總括報告する。

集會

ページ範囲:P.38 - P.38

東京外科集談會
456囘3.15 1. 蛔蟲による腸閉塞症の1例  藤裕 幸
 2. 視紳經交叉部腫瘍例      田中 憲三

特別講演

創傷治癒

著者: バウアスW・F

ページ範囲:P.22 - P.27

序論
 創傷治癒は外科醫に取つて密接な關係のある機轉であるが,最近迄ごく表面の注意しか拂はれて居なかつた。以前は創の破裂を恐れて患者を長くベットに置いたが,現在では早期離牀が安全に行はれるやうになつてゐる。外科醫はすべからく進歩し改良されつゝある創傷治癒に關する基本的の理解を深めるべきである。
 私はこの問題につき,基礎的,實驗的及び臨牀的の色々な角度から話して見たいと思ふ。

臨床例

特發性總輸膽管擴張症の本態,竝に其の手術方針に就て

著者: 渡邊三喜男

ページ範囲:P.28 - P.33

1. 緒言
 特發性總輸膽管擴張症に就ては,1817年Toddの報告,續いてDouglas(1852)の報告あり,極めて稀有な疾患とされて來たが,本疾患の知見の進歩,普及と共に其の報告は次第に多くなり,余は文獻に依り余等の症例を併せて196例の症例を得た。即本疾患は最早稀有な疾患で無く,日常吾人は本疾患の存在を常に考慮すべきであることを知つた。殊に196例中本邦報告は90例に及び本邦に於て特に多い疾患と思はれる點は注意すべきである。
 本疾患は特發性總輸膽管嚢腫とも呼はれてゐるが,本態論に於て後述する如く先天性總輸膽管擴張症と呼ばるべきものである。

脊髓腫瘍の症状を呈した頸部弓間靱帶肥厚の1例

著者: 宮入鴻一

ページ範囲:P.34 - P.38

緒言
 弓間靱帶(黄靱帶)肥厚によつて脊髓神經根の壓迫症状を惹起した例を最初に起載したのはElsberg氏(1913)である。次いで同氏が2例(1916)を追加した後,十數年間本症に就いての報告は見られなかつたのである。
 然るに,最近腰痛竝びに所謂坐骨神經痛の問題が諸家の注意を引き,その原因の探求に努力が向けられる様になつて以來,歐米に於いては,Jowne,(1931),Pūusepp(1932),Abbott,(1936),Hampton,(1936),Gelbert(1936),Spurling,(1937),Brown,(1938),Nafiziger,(1938),Bradford & Spurling(1939)諸氏によつて腰推部,腰仙部に發生した本症の報告が相次いで行はれ,本邦に於いても,安齋(1923),井上(1940),小林(1940),光安(1942)氏等の自家經驗例の報告及び文獻考察がなされ,昨春外科學會に於いて近藤氏が「所謂坐骨神經痛」の宿題報告中に於いても本症が椎間軟骨ヘルニアに次いで屡々所謂坐骨神經痛の原因となる事を報告した。

醫學談叢

戰爭中の獨逸の想出(2)

著者: 小林一郞

ページ範囲:P.39 - P.44

(6) Drahtzuggipsverband
 1939年軍顧問外科醫答申陸軍の治療指針によれば,大腿骨射創骨折は二期に分けて考察を要し,第1期は手術的創傷處置後は感染の危險を重要視して専ら安静を計り,整復のことは考へぬ。第二期は數日後に重症感染の危險なきを確めてから最後迄治療し得る後方病院に輸送し此處で整復する。といふのでKirschnerの意見が強く反映してゐる。その結果前線では不良位置のまゝでGipsをかけることが流行した。Wachsmuthは此の方針に強く反對して,先で鋼線牽引により整復し直ちに鋼線刺入のまゝ牽引状態に於てGips包帶することを提唱した。鋼線をギプスに固定するための特別の留め金も考案した。大腿骨々折治療法としては鋼線牽引ブラウン副子使用が優秀な事は明瞭だが本法は戰時には不適で殊に輸送不可能のこと,ブラウン副子は Röhfenabszessを作り易い缺點がある。(伸展位ギプス固定では3.8%だがブラウン副子では16%あつた*)。之に反して鋼線牽引伸展位に於て腰部以下ギプス固定すれば,完全なる安静の下に創傷治療も可能で,後に整復を要せず,又適當の病院に後送後再び牽引療法を實施し得る外,軟部の削痩のためギプス更新を要する如きことはない。又Rueckertの統計では14:34%だ

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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