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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科2巻3号

1947年10月発行

雑誌目次

特集 頸動脈毬

頸動脈體の手術について

著者: 齋藤十六

ページ範囲:P.1 - P.6

 昭和9年協同研究者櫻澤は高血壓症と頸動脈洞および大動脈神經反射とについて日本内科學會に宿題報告をした。その後も引きつづいて,この方面の研究に從事しているが,頸動脈體もその目的の一つである。頸動脈體の機能については,現在のところ反射感受體であるということ以外はまだ確證しえないので,私たちは體といつている。頸動脈洞反射は洞壁からも,頸動脈體からも出ると考えられている。ただし,今日の知見では洞壁反射と頸動脈體反射とをはつきり區別しにくいのであるから,私たちは普通,頸動脈洞反射とよんでいる。
 頸動脈洞反射の研究の初めから,この反射が洞壁から出るか,頸動脈體から出るかについては,議論があつた。H. E. Heringが頸動脈洞反射を完全に記載した翌年,Drüner(1924)は,頸動脈體がHering反射の出發個所であり,血壓の感受體であると同時に,血液の化學成分の變化にも應じる化學性感受體であろうとのべた。1925年,Heriugは本小體を血壓感受體と見ることの根據について檢討して,Drünerの推論を否定した。形態學者de Castro(1926)の考えかたにしたがつで,Jacobovici,Nitzescu,Pop(1928)も頸動脈體をHering反射の源とした。これらの人たちは,いずれも外科醫であつたので,手術例について實驗している。かように人體の頸動脈體を刺戟したり,剔出したりすることは今から20數年も前から行われている。私たちがこの研究に手をつけはじめたころ,呉先生はHeringのこの批判を話して下さつた。Heringは先生の留學先きの指導者であつた。Heringは生理畑の人であるから,私たちが形態學的にDrüner,Jacoboviciらの業績を檢討するようにいわれた。私たちは,まず舌咽神經頸動脈枝だけを切ろうとした。總頸動脈分岐部のあたりでは到底,頸動脈枝を切りつくすことができないことを見て,舌咽神經幹から頸動脈枝の分岐する状態をしらべた。その結果,犬猫・家兎では舌咽神經幹が頸靜脈孔から出て,まず分れる第一枝,またはそれと第二枝が普通,頸動脈技となることを知つた。また迷走,頸部交感,ときには舌下神經からも分枝が來て,頸動脈洞神經叢をつくる。

頸動脈毬(腺)の外科提唱に就いて

著者: 中山恒明

ページ範囲:P.6 - P.7

 今春の外科學會の演題にこの頸動脈毬剔出に關する演題が21題集つた由であつたが,小澤會長が100例以上の經驗を述べる演題のみを取り上げた由で實際に學會で演説せられたのは其の5題であつた。これに演題として取り上げられなかった各教室から澤山の追加報告があつた。この學會で小澤會長から本年の解剖擧會でこの臟器を頸動脈毬と呼ぶ事に決定した由通告せられたので,私もこの臟器を解剖學會の決定に基いて頸動賑毬と呼ぶ事とする。私はかく廣く恩師瀨尾教授並に私が昭和17年11月東京外科集談會に於て初めて投げた石が擴がつて日本全國にこの樣な反響を得た事に對して地下の恩師の靈も勿論の事と思ふが私も心から嬉ばしく感ずると共に本手術法が正しい術式に依つて正しい意味に於て施行せられん事を希望してやまないのであつて,本年の外科學會に於て追試,御報告を戴いた諸賢に心から感謝すると共に其の際感じた事並に最近私が耳にした種々の間違に對する處置及び本臟器の機能並に除去に依つて得られる所見と現在行はれて居り確に效果があると考へられる諸點に就いて簡單に綜説的に書いて見る。
 私が既に2,3の雜誌に書いてある通りに本毬剔出が臨牀的に或種の疾患に確かに效果があると氣付いたのは特發性脱疸患者に本毬剔出を行ふと確かに疼痛の減少もしくは消失がある。

氣管枝喘息の頸動脈腺「レ」線照射療法

著者: 松倉三郞 ,   佐藤欣一 ,   古屋昊 ,   田山力 ,   西澤一男

ページ範囲:P.8 - P.13

 緒言 氣管枝喘息に封するレ線照射療法は隨分古くから行はれてゐたもので,今文獻を繙いて見ると最初に本療法を施行したのはTh. Schillingである。彼は1906年喘息患者のレ線透視檢査を施行した所喘息發作の停止,喀痰量の減少Curs—chmannのSpiralenの消失等好結果を得た。これに力を得て喘息患者のレ線治療が本格的に研究されるに至つたのである。
 次いでSteffanは喘息患者のレ線照射療法を施行し發作囘數の減少,血中エオヂン嗜好細胞増多症の減少,CurschmannのSpirallen,Charcot—LeydenのKrystal消失を認めて居る。

頸動脈腺に關する研究

著者: 來須正男 ,   藤田政孝 ,   富田勝已 ,   奧田豐二

ページ範囲:P.14 - P.21

緒言
 余等の教室に於ても氣管枝喘息其他適應ありと考へられる諸種疾患に對し頸動脈腺摘出術を施行しつゝあるが,その治療效果を發揮する作用機轉に關しては尚明らかでない。余等はこれが理論的根據に就て究明せん處あり。茲に報告せんとするものである。

所謂Buffer nervesの外科

著者: 若原英夫

ページ範囲:P.21 - P.24

第1章 緒言
 1924年KölnのH. E. HeringはMarien—badに於いて,彼の研究した所謂竇神經の切斷が氣管枝喘息及び狹心症發作に卓越した治療效果を招來する事を提唱し,以來再三力説したが,有名な外科醫Danielopoluも亦是を主張した。然し此の所謂頸動脈毬領域Karotis-drüsen Zoneの外科は此の時以前に發足して居たものである事も勿論であつて,稀有ではあるが毬體腫瘍の摘出手術は良く觀察報告されて居り,同時に毬體機能を研究の目的として動物實驗その他も進められて來た。
 就中1920年より35年に亙つては,R Leriche,Danielopolu其他多數の外科醫によつて人體に特殊の適應症を發見する可く努力が捧げられ,其等の研究が我邦外科學界に於いて取り上げられるやうになつたのは實に約10年の差があつた。蓋し泰西文獻が主としてラテン系に出た爲ではなかつたかと推察されるのであるが,前大戰にStfassburgLericheが極めて高く評價した殺菌劑の動脈注射法に高調葡萄糖液を併用したといふ瀨尾外科の中山博士と友田外科の松田博士等が喧傳されたのであるかと思ふ。

氣管枝喘息に對する頸動脈腺(毬)剔出手術の遠隔成績竝に適應

著者: 谷口恒郞

ページ範囲:P.25 - P.28

A 遠隔成績
 1. 緒言 從來の氣管枝喘息に對する外科的療法の中では,Kümmell,Kappisに始る植物神經系に對する一聯の手術が最も追試を受けており,從て手術效果に對する檢討,報告は尠くないが,何れも手術效果に較べ,手術的侵襲の大なる點と,尠からざる副作用,後遺症を伴ふ點に於て遺憾とするところが尠くなかつた。試みに種々なる手術的操作を試みその效果を比較したGoebell(1928)の報告(第1表)を見ても單に死亡率の點からだけ見ても,手術的侵襲の程度を想像し得る。又本邦諸家の報告を見てもその副作用,後遺症の除去に頭を痛めており,又手術效果の點に於ても輕快の多きに比し,治癒例の尠く,且相當數の無效例を見ておる(第2表)。一面氣管枝喘息の發生原因に對する追究の足らざりしため,從て手術の適應に對する觀念の薄かりしためと,他面,近時益々有力となりつゝある。氣管枝喘息の本態とも云ひ得べき「アレルギー」の除去に對しては殆ど無力なりし點にあると思ふ。私は昭和21年末迄に手術せる患者149例に就きその手術效果竝に遠隔成績を調査した。

頸動脈腺剔出手術に依る氣管枝喘息患者基礎代謝の變化に就て

著者: 小林太郞

ページ範囲:P.29 - P.30

 千葉醫科大學第二外科教室に於て現在迄に約200名の氣管枝喘息患者に對し頸動脈腺剔出手術を實施して居る。私は其の内31名に對し術前術後の基礎代謝を測定し次の如く興味ある所見を得たので茲に報告し諸賢の御批判を仰ぐものである。

氣管支喘息症の頸動脈腺手術と血壓との關係

著者: 佐藤欣一

ページ範囲:P.30 - P.36

緒言
 頸動脈腺と血壓との關係は1900年Kohnが頸動脈腺にクローム親和性細胞の存在を認め,是を副腎髓質と同樣「パラガングリオン」に加へて以來俄に學界の注目を惹く處となつた。1915年Mu—lonは頸動脈腺の抽出液が血壓を上昇せしめる作用ありと發表しVincentは是と全く逆に下降作用のある事を指摘した。
 最近ChristleもVincentと同樣頸動脈腺腫瘍から獲た抽出物で血壓の下降した事を報告してゐる。

臨牀例

ペニシリン濾液の外用について

著者: 早川滋美 ,   眞野春彥

ページ範囲:P.37 - P.39

緒言
 現在我が國に於けるペニシリンの生産は漸次増加しつゝあるも,尚其の製品少く且高價にして一般使用不可能なる爲,我々は直接ペニシリウムを培養し,その培養濾液を製造し,それを化膿創の外用洗滌に使用し,その臨牀的使用價値について研究した。培養基はCzapeck-Dox培地,及びこれに肉エキス,ペプトン各1%加えたCzapeck—bouillon培地,蛹培地,大豆培地等を使用し,菌株は名大久保氏のP. C株,米國B2,B21,Q176菌株を使用した。濾液は7-10日で最高力價を示した,時に無菌的操作のもとに菌蓋を濾別し0.3%の割にタンニン酸を加へ,5分間熱湯中に加熱し蛋白を沈澱させた後これを濾過し0.4%の割に食鹽を加へて等張液としてこれを氷室に保存して創傷に外用洗滌,内服吸入に使用した。

急性に經過せる皮膚癌の1例

著者: 鈴木恒二

ページ範囲:P.39 - P.40

症例
 患者は48の歳男子,職業は鑄物工。
 昭和21年10月中旬,作業中赤熱した鐵片のため陰嚢に火傷を受け,水泡より潰瘍を生じたが,其の儘放置してゐたため感染を來し,潰瘍面に膿汁を附着し,左鼠蹊部有痛性に腫脹した。潰瘍は次第に増大し,11月中旬には右鼠蹊部の無痛性腫脹を來した。受傷後3ヶ月の昭和22年1月20日來院。

第一肋骨骨折による皮下性氣腫治驗例

著者: 土屋準之

ページ範囲:P.40 - P.40

症例 21歳。男子
 2臺の自動車の後部に兩肩を挾さまれ右第一肋骨骨折を起しその外側斷端によりて肺を損傷し右緊張性氣胸及主として右胸腹部前面に及ぶ皮下性氣腫を惹起し,呼吸困難著明,全身症状不良であつたが,手術によりて右第一肋骨斷端の一部を切除し,胸壁肋膜缺損部には近くより作製せる有莖筋肉瓣を挿入して閉鎖し,其の後ペルテス氏胸腔持續吸引と胸腔穿刺によりて空氣を吸引排除することにより之を治癒せしめた。皮下性氣腫の消失と共に左鎖骨骨折あるに氣付いた.

腸管嚢腫樣氣腫の1例

著者: 宮崎五郞 ,   德橋正

ページ範囲:P.41 - P.43

緒言
 腸管嚢腫樣氣腫は1825年Meyer,Colquet andDuvemeyに依つて始めて報告され,本邦に於ても1901年に三輪がその第1例を報告して以來,注目せられてゐるが稀有なる疾患である事は依然であり,殊に術前診斷の附せちれた場合は甚だ稀の樣である。その原因としては本症が稀であると云ふ事も大きな原因であらうが,又他面には本症特有の臨牀症状を缺如する事が擧げられよう。
 從來の報告を見るに,本症には多く幽門狹窄,小腸及腹膜の炎症を伴ひ,殊に60%の多數に於て胃十二指腸狹窄を合併する。その際心窩部又は他の腹部に發作性の疼痛を訴へ腹壁よりは腸管は彈力性軟に觸れ,輕度の壓痛,胃部膨滿感があり,腹壁緊張等を缺如すると言はれてゐる。

腸管嚢腫様氣腫の1例

著者: 森川不二男

ページ範囲:P.43 - P.45

緒言
 腸管嚢腫樣氣腫(Pneumatosis cystoides intc—stini)とは腸管壁に無數の氣胞集簇し發生する疾患にして一見恰も「スズコ」或は葡萄の房の如き外觀を呈するものである。本症名は1825年Meyerが豚の小腸に之を見て命名したもので,人に於ては1867年Bangにより腸閉塞にて死亡せる屍體解剖に於て,本邦では1901年三輪先生により同樣剖檢時に發見され以來内外共に報告される樣になり約200例近く報告されて居ると云はれる。而して報告例の大多數は總て手術時又は剖檢に際し偶然發見されたものであるが,併し最近レントゲン診斷の進歩と共に術前に診斷された症例も漸次報告される樣になつて來た。
 最近河合外科教室にても良性幽門狹窄症の手術時偶然本症を經驗したので之を追加報告する。

腸管嚢腫樣氣腫の1治驗例

著者: 加藤正勝

ページ範囲:P.45 - P.49

緒言
 腸管嚢腫樣氣腫(Pneumatosis cystoides inte—stinorum)1825年Meyer氏が初めて豚の小腸に無數の瓦欺を含める小嚢文胞あるを發見し之に與へた名稱で,人間の小腸に之と同樣の嚢腫を觀たのは,1876年Bang氏を以て嚆矢とする。氏はS字状部軸捻轉症に於て死亡した婦人の屍體解剖の際本症を偶然發見し,Pneumatosis cystoidesintestinorum hominisなる名稱を以て報告した。續いて1899年Hahn氏は幽門狹窄を有する男子の開腹術に際し大腸並に小腸の大部に亙る高度な氣泡の集簇發生した症例に遭遇した,是即ち生體に於て發見せられた最初のものである。爾來本症は諸國に於て發見せられ屡々報告せられたが尚稀有なる疾患の域を脱しない。今日迄内外文獻に報告せられた余の調査に於て總數180餘,その内本邦のもの51例である。余は最近松倉外科教室に於て極めて廣範圍且高度な本疾患を幽門狹窄症手術に際し發見したので報告する。

空腸蜂窠織炎の1例

著者: 片岡一朗 ,   松井文英

ページ範囲:P.49 - P.52

緒言
 最近,腸管蜂窠織炎,急性局所性腸炎或は「クローン」氏病急性型等の症例相次いで報告せられるに及び,腸管蜂窠織炎との異同に疑義を生じ殊にその分類,命名亦區々不統一のな觀が免れない。併し乍ら,本疾患が古くから報告せられ諸家に依つて研究論義され乍ら,今猶ほ疑義があるのは,近來兩疾患の報告例が次第に増加してはゐるけれども,未だその數は少く,成因,臨牀診斷,治療等に關しても尚明確なものを見ないが爲である。
 扨て,腸管蜂窠織炎の報告例を見ると,Rokitanski(1824)が"Enteritis submucosa suppurativa"と云ふ病理組織學的命名を附して報告しなものを嚆矢とし,Bamburger(1855)によつて初めて腸管蜂窠織炎と命名報告された。その後本邦でも吉田(1931),河村洪(1934)等に依り報告され,余等は本邦の文獻から腸管の肉眼的所見並に病理組織學的所見から明かに腸管蜂窠織炎として記載報告されておるもの31例を蒐集することを得た。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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