icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科20巻10号

1965年10月発行

雑誌目次

グラフ グラフ解説

唾液腺撮影法

著者: 川島健吉 ,   鈴木宗治 ,   宮国俊雄

ページ範囲:P.1325 - P.1330

 唾液腺に造影剤を注入して撮影しようとする試みは古く,すでに1904年にCharpyが屍体の耳下腺を水銀剤で,1913年にはAacelinが生体のワノレトン管を蒼鉛浮遊液で造影したといわれている.1925年にはBársonyがステノン管拡張症を20%沃度カリウム溶液で造影したが,注入にさいして耳下腺部に激痛と一過性の顔面神経麻痺が現われたとのべている.ついで1926年にはCarlstenがLipiodolを用いて両側性ステノン管拡張症を証明した.
 今日広く行なわれている唾液腺撮影法は,唾液腺管開口部に先端の鈍な針またはカニューレを挿入し,直接造影剤を注入しながら,あるいは注入直後に撮影する5)6)9).管開口部を消息子で拡大したり,ときには切開を加えることもある,造影剤は沃度油(40%Moljodol)11),Myo-sil8)あるいは水溶性沃度造影剤(76%Urografin10)などが用いられる,針またはカニューレと導管壁との隙間から造影剤が口腔内に逆流しない工夫もいろいろなされている4)11).針尖で管壁を傷つけたり術者の手がX線に曝射されないようにカテーテルを使用する者もある6)8).われわれも柔軟性ガイド・ワイヤーでポリエチレン管を唾液腺管内に導入する方法を用いはじめてから,すでに150例ちかくの症例を経験し十分満足すべき結果をえているので主としてその手技についてのべることにする.

閉塞性黄疸に対する経皮経肝胆道造影—ことに不成功例の検討

著者: 堀内弘 ,   遠藤巌 ,   米山桂八 ,   植草実 ,   磯利次 ,   宮崎道夫 ,   杜子威

ページ範囲:P.1409 - P.1419

はじめに
 経皮的に直接胆道に造影剤を注人して胆管を造影しようとする試みは,経口的あるいは経静脈的に造影剤を投与して肝から排泄される造影剤によつて肝外胆管の影像を求めようとする方法よりも以前に始まつている.Burkhardt&Müller (1920)1)が初めて経皮的胆嚢造影を行なつて以来,Huard&Do-Xan-Hop (1937)2)は経皮経肝的胆道造影を,Lee (1942)3),Royer&Solari (1947)4)らは腹腔鏡下に胆嚢を穿刺して造影を行なつている.しかし優れた経口,経静脈造影剤の出現とともに,危険と技術的困難を伴う経皮的胆道造影法は一般に広く利用されなくなつた.とはいえ経口,経静脈法によつては,ことに黄疸指数30以上,血清ビリルビン値3mg/dl以上では造影不能で,診断的根拠がえられない場合も少なくない.したがつて肝外胆管の閉塞に由来する黄疽例ではこれらの方法は全く応用価値がない.経皮経肝胆道造影法はCarter&Saypol (1952)5,Nurich (1953)6)らによつて再評価されて以来,南米において普及し,ついで英米においてとりあげられて多くの報告が診断的価値の高いことをのべている7)−19,22.33).わが国においてもことに閉塞性黄疸の診断に,ひいては治療方針の判定に極めて有用な造影法として広く受け人れられてきている20)21)

外科の焦点

食道アカラシアについて

著者: 篠井金吾

ページ範囲:P.1331 - P.1336

Ⅰ.アカラシアの概念
 アカラシア(Achalasia)とはinability to relux(無弛緩症)という意味で,噴門の弛緩性の失われた状態のものに名付けられたのである.本症では,食道の種々の程度の拡張が必発するので,初期の文献(Zenker et al.1876)には特発性食道拡張症(Idiopathische Oesophagusdilatation,idopa-thic dilatation of the esophagus)として記載され,わが国でも明治の終り,大正の初めから同様の病名の下に報告されている.その他,本症はまた巨大食道症,(Megaesophagus),食道拡張症(esoph-agectasia)などとも記載されている.
 本症の原因については,はじめは,噴門部の攣縮によつて起こるという考え方から特発性噴門痙攣症(Idiopathic cardiospasm)あるいは単に噴門痙攣症(Cardiospasm)と命名され,Allisonは胃食道接合部閉塞症(obstruction of gastroesophagealjunction)と呼びこれらの考え方は,先天性あるいは精神的要因,食道胃接合部の横隔膜支持部の病変,大動脈による圧迫,寒冷刺激などの種々な要因によるものとした.

論説

腎性高血圧症の外科

著者: 上野明 ,   野原不二夫 ,   菱田泰治 ,   村上国男 ,   関正威 ,   根本〓 ,   若林明夫

ページ範囲:P.1337 - P.1344

 腎性高血圧の一部は副腎性のそれとならんでいわゆる"治癒しうる高血圧"として手術対象とされているものである1)43).その比率は高血圧の5〜6%から,20%前後を占めるともいわれるが,従来なら本態性高血圧と考えられた症例が検査法の進歩と相まつてさらに増加する可能性がある.著者らは教室における手術経験から腎性高血圧症をとくに血管外科的立場からその現段階の考え方について簡単に論説を試みてみたいと思う.

ファイバースコープならびに胃カメラ所見についての臨床的考察—ことに胃切除後残胃所見について

著者: 前田昭二 ,   比企能樹 ,   守谷孝夫 ,   東条慧 ,   榎本耕治 ,   山本修三

ページ範囲:P.1345 - P.1351

 切除胃標本の病理組織学的研究の基礎がKon-jetzny1)2)らにより確立されつつあつた1920年代に,これと並行してSchindler3)4),Gutzeit5),Hen-ning6),Moutier7)らにより胃鏡学的研究もしだいにその形態を整えつつあつたが,1932年Wolf-Schindler8)型軟性胃鏡が発明されるにおよび胃鏡検査法はごく一般に実施されるようになつた1950年胃カメラ9)10)がわが国で発明されたが,この検査法は操作が比較的容易であることおよびその優秀な記録性から急速に発展したが,一方1962年従来の軟性胃鏡と全く光学系を異にし,著しく柔軟性に富んだファイバースコープ11)12)13)が輸入されてからl4)15)16),胃内視鏡検査は著しく普及した.慶大外科学教室でも1947年以来Wolf-Schin-dler型軟性胃鏡の改良型および胃粘膜撮影装置を併用したGastro-Photo-Scope17)を併用し,慢性胃炎,胃潰瘍,胃癌の診断に努め,一方独自の見解に立脚した慢性胃炎の分類法を発表してきた18)

胆道癌手術成績の向上策について

著者: 大内清太 ,   小野慶一 ,   鳴海裕行 ,   小田桐充孝 ,   小原和夫 ,   阿保優 ,   山形尚正

ページ範囲:P.1353 - P.1361

はじめに
 一般に胆道系悪性腫瘍は症状の発現が遅く,また初期病像に特有な所見を欠くため,根治手術可能な時期に診断を下すことはきわめて困難である.したがつて多くの内科,外科医の努力にもかかわらず,その治療成績は他の消化器癌に比しきわめて不良な現状にある.
 最近わが国においても胆道癌手術例の増加にともなつて,多くの症例集積による臨床像の分析1)-5)が行なわれるようになり,同時に術前診断法5),16)-21)や切除術の拡大を意図とした術式1)2)8)9)22)-25)などにも新しい工夫がみられるようになつた.したがつてその予後にもわずかずつながら向上の兆しがうかがえるようである.

統計

最近における頭部外傷の統計

著者: 土田富穂 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.1363 - P.1373

はじめに
 近年,医学の輝かしい進歩と発展によつて諸疾患における本態の究明と治療法の著しい改善が行なわれ,それら疾患による死亡率が大幅に減少しつつあるが,一方では近代文明の発達によつて高速度交通機関,産業生長などにともない外因性疾患なかんずく外傷性疾患が年々増加の傾向にある.しかも外傷の中では頭部外傷の発生率および死亡率が高く,またその年齢分布が青壮年に集つていることと相まつて今や大きな社会問題となつている.筆者はその実態を客観的にとらえ頭部外傷の重篤性を再確認すると共に,それらの対策のためのなんらかの資料とならんことを希い以下のごとき調査統計を行ない興味ある結果を得たので報告する.

緊急検査法 細菌検査

塗抹検査・培養検査・感受性検査

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1380 - P.1381

 細菌検査の内容は,塗抹検査,培養検査,感受性検査に分けられるが,このうち緊急検査として行なえるのは主として塗抹検査で,培養検査はせいぜい検査材料をその場で培地に植える程度であつて,あとは採つた検査材料を正しく保存することである.

実地医家のための診断シリーズ・9

排便障害と直腸肛門の検査

著者: 長洲光太郎 ,   高橋正司

ページ範囲:P.1383 - P.1386

Ⅰ.排便障害
 排便障害と便通異常とは必ずしも同じものではない.食中毒や腸炎の時の下痢は普通排便障害とは言わない.しかし慢性便秘やテネスムスは排便障害と呼ぶし,単なる下痢と思つていると,実は通過障害口側の急性腐敗性腸炎であることもある.潰瘍性大腸炎などは突然血便をもつて発病することがあるし,排便停止とテネスムスとを示す患者をしらべると単に直膨大部に大量の糞便が充満し,直腸筋を過度に伸展しているためで,指で便をのぞいてやると症状が消退するfecal imp-actionというものがある.だから排便障害はつぎのように分類してよいであろう.

診断のポイント・8

日本住血吸虫症に吐血をきたし,胃潰瘍よりの出血を疑つて手術した症例

著者: 松林冨士男 ,   小金井滋 ,   吉井勇 ,   海老沢健二 ,   佐藤薫隆 ,   戸塚哲男 ,   岩淵勉

ページ範囲:P.1387 - P.1391

 司会(松林):今日は63歳,主婦についてのカンファレンスを行ないます.例によつて受持医から病歴,検査事項について説明していただきます.
 受持医(佐藤):主訴は吐血と下血です.既往歴は山梨県韮崎市近郊に生まれ,1昨年まで農業に従事していました.山梨県の地方病である日本住血吸虫症にかかつたことがある他に,特記すべきことはありません.この地方病にかかつたといいますのは,約20年前に自覚症状はありませんでしたが,近所の人と一緒に検査し,糞便中に虫卵ありと言われました.さらに10歳代の頃,下半身に寄生虫性皮膚炎と思われる疾患を経験しています.

手術手技

直腸脱の手術手技

著者: 盛弥寿男

ページ範囲:P.1392 - P.1394

 結論をまず述べるならば直腸脱の手術方法はまだ完成されていない.これは直腸脱の成因がまだ十分明らかに把握されていないことによる.
 今までに直腸脱の原因とされているものをあげると 1.肛門括約筋が薄弱であること 2.直腸の周囲組織が粗鬆で固定が弱いこと 3.直腸間膜S状・結腸間膜が長すぎること 4.直腸膀胱窩(女子ならばDouglas窩)が異常に深いこと 5.骨盤底が弱いこと 6.下部直腸の走行が仙骨に沿つて彎曲せず垂直に近い走行をとつていること などがある.
 したがつてこれらの原因を除こうとする手術があるわけであるが,従来発表されている手術術式を目的によつて分類するとつぎのようになる.

外来の治療 実地医家のための外来治療・5

開放性損傷の治療(1)

著者: 安冨徹

ページ範囲:P.1395 - P.1397

Ⅰ.いとぐち
 開放性損傷とは表皮の正常な連続が断たれた状態をいうとあるから,その程度は多種多様である.そのすべてについて述べることはたとえ紙数の制限がなくても,限りのないことである.まして「外来治療」という欄であるから,ここでは「開放性軟部外傷性損傷」に限ることにする.
 最近,工場災害や交通事故が急に増加している.あまり付近に工場地帯もないし,交通量のおびただしく多い道路から,かなり距つている私どもの病院にも搬入される患者が少なくない.数からいえば,これらの災害患者の大部分は軟部の開放性損傷である.いそがしい外来診療時間中にも遠慮なく「救急」としてわりこんでくる.われわれ実地外科医としては,これらの処置に「手なれる」必要もあるし,また器材の準備も怠るわけに行かない.以下私どもが日常行なつているやり方を御紹介しよう.

アンケート

虫垂炎の問題点

著者: 高山坦三 ,   四方淳一

ページ範囲:P.1398 - P.1400

 I.
 古くて新しい問題といえば外科の領城ではまず第1に虫垂炎をあげることができるであろう.それほど虫垂炎は感冒的様相をそなえている.いや,ばあいによつては感冒以上に不明の点が多いともいえるかもしれない.だいいち虫垂炎のEtiologieはまだはつきりしていない.そのEtiologieに関する研究業績はまさに牽牛充棟の表現が適当するほどの量に及んでいる.枚挙に遑がないと称しても過言ではあるまい.しかし,なぜであろう.なぜそのように多くの研究があつて,しかもなおかつその本態が解明しつくされないのであろう? こういう疑問を提示するひとのまたいかに少ないかも理解し難いことである.わたくしは編集者の提起されたこの問題につき,思いつくままいささか卑見をのべてみたいと思う.

Pain clinic・3

顔面痛(2)

著者: 西邑信男 ,   木内実 ,   久場襄

ページ範囲:P.1404 - P.1407

顔面神経痛の治療方針および治療法
 神経痛の発作が顔面に起こり,しかも三叉神経の分布野に一致していることが確かめられても,ただちに半月神経節のアルコールブロックをすることは早計であり,やはりじよじよに色々な原因をしらべいかなる型の神経痛であるか十分鑑別診断したのちに最も適切な診療方法をとるべきである.したがつて第1,2表のごとくわれわれは種々の方法はまずとり,真性の三叉神経痛のみに半月神経節のアルコールブロックを行なつてきている.まず,しらべるべきことは,trigger zoneである.これは三叉神経の骨から皮膚に出てくる所,すなわち,眼窩上縁,眼窩下孔,おとがい孔などを圧迫してみると三叉神経痛の場合においてはその部が非常に過敏となつている.さらに発作をひきおこすことができる.しばしば患者自身がどこがtrigger zoneであるかを知つていることが多く,時にはある歯に一致した歯齦部もしくは舌根の一部などにtrigger zoneを見ることがある.または外傷などによつて瘢痕の生じている場合においては,その瘢痕部がtrigger zoneになることがある.もしかようなtrigger zoneが発見される患者においてはその部において1%Carbocaine®またはXylocaine®0.5〜1.0ccで神経遮断を行なつてみるのが第1の方法である.

--------------------

人事消息

ページ範囲:P.1407 - P.1407

土居通泰 (旧姓植田)(東京大学整形外科)
 都立大塚病院に整形外科が新設され同医長に転任
 自宅:杉並区上荻3の13の5に住居表示変更
武下 浩 (京都大学講師麻酔科)助教授に昇任

カンファレンス

胸水貯溜を合併した神経芽細胞腫

著者: 小島憲 ,   平野謙次郎 ,   松田源彦 ,   上野幸久 ,   布施為松 ,   松見富士夫 ,   森永武志 ,   前原義二 ,   伊勢泰 ,   大橋成一

ページ範囲:P.1424 - P.1430

 森永 胸水貯溜を合併した神経芽細胞種という症例をとりあげました.担当の伊勢先生からお話し下さい.
 伊勢 患者は6歳の女児で家族歴には特記事項はありません.既往歴には11ヵ月,急性肺炎になつております.現病歴は,昭和38年10月26日より周期的な激しい腹痛があり,食欲不振となりましたが,下痢,嘔気,咳嗽はありませんでした.同年11月1日より胸痛がありました.熱は出なかつたようです.2日後,胸痛が増加し,2,3の医院を訪れており,滲出性胸膜炎と診断され,某院に入院.胸腔穿刺を2回受けましたが菌培養は(−)でした.抗結核治療を受けていましたが,胸痛はさらに増加し,11月10日ごろ,左胸壁に鳩卵大の腫瘤が二つ出現,12日に症状が進行し,るい痩が出まして,検査のため当院に入院しました.

他科の知識 外科領域に必要な泌尿器科的疾患・2

上部尿路結石症

著者: 宍戸仙太郎 ,   夏目修

ページ範囲:P.1431 - P.1437

 上部尿路結石症は泌尿器科疾患のうちでも他の腹腔内臓器が原因の急性腹症との鑑別にしばしば問題となる.すなわち本症では比較的狭小な尿路に結石が嵌入して腹部の疝痛発作を惹起したり,2次感染による熱発などをみるため急性虫垂炎,胆石症,さらには胃,十二指腸潰瘍などにみられる症状と類似する点も多く,これら疾患との鑑別が非常に重要となる.

他科の意見

消化器疾患について外科への希望(1)

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1438 - P.1439

まえがき
 わが国では消化器疾患は極めて多く,しかも逐年増加の傾向にある.たとえば昭和31年から35年までの5ヵ年間の外来患者について全国の大学病院などについて調査したところ,外来患者総数約191万のうち,消化管疾患の頻度は,大学病院内科では31%,大学病院外科では26%,一般病院内科では33%,総計では31%となつている.しかし,このほか急性および慢性肝炎,胆石症などの肝胆疾患や膵疾患を加えたならば,消化器疾患は外来患者総数の半ばに達すると考えられるのである.
 このように消化器疾患患者はきわめて多いので,したがつて外科へ廻る消化器疾患患者の数ははなはだしいものであることは想像に難くないことであろう.

薬剤の知識

抗生物質使用上の注意(2)

著者: 真下啓明

ページ範囲:P.1440 - P.1441

 いかなる薬剤といえども生体内に存在しない物質を生体内に投与した場合にはなんらかの影響があり,一面それは薬効と考えられるが他面副作用として表われてくる.直接薬物自体の副作用以外に,抗生物質療法の場含には本来の目的である抗菌作用の結果みられる副作用がある.これを副現象と称したい.それは本来の抗菌作用の結果であるから不可避的であることになり,宿命的な問題である.また副作用のなかにはアレルギーないしアナフィラキシーの問題もふくまれて来る.以下順次これらの概略を記す.

器械の使い方

麻酔器具の使い方(1)

著者: 若杉文吉

ページ範囲:P.1442 - P.1446

はじめに
 手術や麻酔,検査において,器具の良否,準備の仕方,使用方法のよしあしがその効果,能率に及ぼす影響はきわめて大きい.いずれも生命と直接関係のあることから,これらの器具に対して正しい理解をもつことはすこぶる重要である.
 麻酔に使用される器具として多くの種類はあるが,日常臨床によく使用されるものとして局所麻酔用と全身麻酔用の二つに大別できる.そこで本文においてはまず局所麻酔用器具を脊椎麻酔,硬膜外麻酔,伝達麻酔(狭義)に分けて,どのような準備で,どのような注意を払つて使用したらよいかについて簡単に述べてみたいと思う.なお局所麻酔においては必ず救急蘇生要具は準備すべきであるので,特に呼吸の面の蘇生要具についても簡単にふれることにする.

トピックス

"肝腎"の再認識

著者: 堀原一

ページ範囲:P.1449 - P.1450

 中国の古典において「肝腎」という語に,造語の先賢が今日いう肝腎相関の意味をもたせたかどうかは知らないが,肝腎両臓器の同時に侵される,いわゆる肝腎症状群の記載は19世紀の後期にはじまる1)
 それ以来今日までこの肝腎の問題は多くの臨床家や研究者によつて関心をもたれていながら,その本態となるとほとんど未知のままであつた.ここでは筆者が最近までの2年余の間この問題に携わり,得た知見について述べてみたいと思う.

印象記

国際腎臓移植会議印象記

著者: 太田和夫

ページ範囲:P.1451 - P.1453

 腎臓の移植はイムランなどの免疫反応抑制剤や臨床経験の増加によつて,成績もしだいに向上しつつあるが,まだ多くの困難な問題が残されている.そこで今までに臨床例を行なつた研究者達が集まつて,お互のデーダを交換し,同じ失敗を2度くり返さないよう検討しあう会議が,米国のNational Academy of Scienceの後援のもとにHarvardのMurrayらが中心となつて,昨年より年1回ずつ行なわれている.今年は5月16,17の両日ワシントンで開かれ,幸い著者も教室の稲生講師と一緒に参加する機会を得たので,そのあらましを紹介し御参考に供したいと思う.
 会場はリンカーン記念館のそばにあるNational Aca-demy of Scienceの建物で,参加者はアメリカ,イギリス,フランス,カナダ,ドイツ,ベルギー,オーストラリアおよび日本の8ヵ国よりの約100人であり,冷房のない古い講堂ではあつたが,夜の10時過ぎまで熱心な討議が行なわれた.会議は五つのSessionに分かれ,それぞれ2時間ずつであり,指定発言者が2入で20分位の話をしたあと,残りの時間は自由討議を行なうという形式で進められた.

患者と私 患者に接して40年・1

臨終と信仰

著者: 桂重次

ページ範囲:P.1454 - P.1455

 40年の臨床生活で一番印象深いことは何といつても手術の結果が悪く,あるいは診断がおくれて手の施しようもなく患者が死亡する場合である.患者の死期が明らかにわかつておつても,これを患者に最後まで知らせないでおくということは問題である.
 自分は金沢大学外科に勤務しているさい,暁烏敏師に叱かられたことがある.海外留学を終えて昭和13年に金沢大学外科に赴任したばかりの時であるが,1等室に入院している女の患者で胃癌の人が居つた.私の赴任前に助教授に手術を受け胃切除不能としてそのまま試験開腹に終つた人である.回診の度に「私の胃癌は十分手術できたのでしようか」ときく,外からもはつきり腫瘤が触れるのであるし,「すでに手術の時期を失して胃切除はできなかつたそうです」と真相を告げると,「2,3日外泊させて頂きたい.暁鳥敏師の所へ行つて御話を伺い死に対する心構えをしたいのです」という,その後3泊位で患者は帰院したが打つて変つた安心しきつた顔貌で「お陰様でこれで安堵して死ねます」といつた.その後間もなく退院し数ヵ月後に安らかに死んで行つたと聞いた.

雑感

"病室のいけ花をながもちさせる簡単な方法"

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1456 - P.1456

 花は病人の療養生活に"うるおい"を与え,気分の転換をうながすのみならず,ときには"生きる意欲"をかきたてて,"起死同生"のきつかけとなることさえあるのです.したがつて,病院では花が療養に欠くことのできはい要素の一つとなつており,しばしば病院自身の消耗備品の一つとなつているばあいもあります.
 ところで,いけ花は,病室に備えつけられる花のなかでは,かなり重要な部分となつていますが,さいきんのように中央煖房方式をとる病院では,むかしのような開放的な病院とちがつて,室温もかなり高く,毎日花器の水を換えないと,いけ花は急速に萎んでしまうばかりでなく,茎が腐敗して不快な悪臭を放ち,かえつて逆効果さえおこしかねません.

家庭医の立場から

著者: 秋月源二

ページ範囲:P.1457 - P.1457

 開業して,1人で無床の家庭医として診療に従事していると,いろいろ考えさせられる.まず日進月歩の医学から取残されて,だんだん頭も技術も古くなつていく心配である.それはそれとして,(1)胃痙彎で往診した小母さん,複合ブスコパン静注で痛みはとまつた.翌日発熱,黄疸.定型的胆石胆嚢炎.大病院の外科に入院,30個以上の石と胆嚢切除して1ヵ月後帰宅,(2)午前0時劇しい腰痛で往診した若者.とりあえず鎮痛注射.血尿を証明,尿路結石と診断,大病院の泌尿科に人院,(3)腹痛で往診した老婆.下腹部に小児頭大の卵巣嚢腫.産婦人科に入院手術,全治退院(4)上腹部によく動く腫瘤のふれるお婆さん.胃癌,入院胃切除退院(5)数年前から脚気として他の医師でB1注数年.バセドウ.大病院外科手術.(6)とつぜん劇しい下腹痛の主婦,一時はショック状態,まもなく回復.外妊破裂,ただちに大病院入院手術.
 病名らしい病名のつく患者はだいたい入院手術の例が多い.都会では1人の医師がはじめから最後まで取扱う症例はきわめて少ない.内科から内科に転医したり,さらに入院すれば,検査科,X線科,麻酔科,外科等複数の医師の関係することが多いし,またそうしなければ完全な治療が実施できなくなつている.組織診療,複数診療が能率をあげる.

MEDICAL Notes

門脈造影/手術時間と手術危険性

ページ範囲:P.1459 - P.1459

 伊のAbeatici(Acta Radiol.36:383,1951),ベルギーBoulvin (Acta chir.belg.50:534,1951),仏Leger (Mém.Acad.Chir.77:712,1951)が殆んど同時に脾内に経皮的に造影剤を注人して門脈造影(P)に成功した.これは本邦でもさかんに活用され,Eck手術,門脈閉塞の診断,門脈系の副行枝証明などに便利である.しかし注射部の脾から出血する危険も少なくない.黄疸・出血傾向のあるものには行なうことができない,脾剔を受けてある患者には当然行ないえない.また,造影剤が副行枝へ行つてしまつて主門脈は造影されぬ例がある(Benhamou,J.:Press.Med.71:2358,1963).Biei-man (J.A.M.A.158:1331,1955)は肝内に造影剤を,経皮的に注人してPに成功した.しかしBieaman法は失敗も多く,危険も少なくない.Parks (Lancet 1:136,1962)は痔静脈瘤に造影剤を人れて造影する方法を発表したが,直腸静脈を手術的に出さなくてはならぬ不利がある.つづいてÖdman (Acta Radiol.Suppl.159,1958)は経皮的に股動脈に針を入れ,腹腔動脈に造影剤を送る.造影剤は脾静脈・門脈に入つてSplenoportog-ramを得た.上腸間膜動脈へ造影剤を送れば上腸間膜静脈が造影される.

外国文献

Pyroglobulin血,他

ページ範囲:P.1460 - P.1463

 56℃に熱して不可逆性の沈降物をつくる血漿蛋白をpyroglobulinという.cryoglobulinが冷却させると沈降するというのに,相対するわけである,補体を非活性化させるべく,血清を56℃にあたためるとき偶然に発見することが多い.多発骨髄腫に最も多く報ぜられるが,その他の疾患(リンパ肉腫・食道癌・SLE・macroglob-ulinemiaなど)にも見出される.その化学は研究十分でなく,Bence-Jones蛋白かといわれる,South.Calif.Univ.のSolomon (Am.J.Med.38:937, 1965)はこの点を精査,とくにそのturnoverをしらべた.64歳黒人骨髄腫,pyrogl濃度4.36%,plasma vol. 3510ml,体重62kg,血管内pyrogl 量307g (4.95g/kg),pyrogl半減期9日,pyrogl 1日破壊量7.7%,turnover 0.38g/kg/24h (I131をラベルした検査).pyroglはelectropho-resis, chromatoで7Sγ-glに属す.したがつてBen-ce-Jones蛋白とは異つている.macrogl血症ではma-crogl turnoverは早いから,異常glを含むとき,そのturnoverはalbuminよりも早いと考えられる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?