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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科20巻12号

1965年12月発行

雑誌目次

グラフ

胃冷凍療法

著者: 川俣建二 ,   立川勲 ,   渡部洋三 ,   山崎忠光

ページ範囲:P.1682 - P.1686

 最近,十二指腸潰瘍に対する胃冷凍法が行なわれているが,その効果の判定については,まだ結論を出すまでにいたつていない.
 胃冷凍療法は,米国ミネソタ大学のWangensteen博士が1962年に始めて試みたものである.胃壁に接した胃型バルーン内を−15℃前後の冷凍液で灌流することにより,胃の分泌能を低下させ,潰瘍を治癒に導くというのが,本法の原理である.

グラフ解説

胃癌の細胞診

著者: 田嶋基男 ,   柏田直俊 ,   近田千尋 ,   下山正徳 ,   北原武志 ,   三国昌喜 ,   木村禧代二

ページ範囲:P.1617 - P.1623

Ⅰ.Papanicolaou分類に対する見解
(序に代えて)
 周知のごとくPapanicohouは悪性腫瘍に対する細胞診断の分類基準として彼のClassⅠ〜Ⅴを提唱している(1941).その分類は記載により明らかなごとく,Atypismを基調としたものである.しかるにClassⅣのみに限り,"Atypical cell few in number"と定義している.本来,定性的な概念である「異型度」の序列の中へfewin numberという定量的な概念を一項目のみに限つて取入れたことは,かなり問題であつて,分類の目的を2分せしめたことにより後に混乱の原因となつた.分類は本来,事物に共通な本質的属性に基づいて系統的に配列することであるから,二つの異質の概念を同一系列に置いた点で,理論的に問題がある.
 1954年に到り彼自身ClassⅣを"strongly sugges-tive of malignancy"と訂正したのは当然であつて1941年の定義はすでに彼自身により撤回されたものと見るべきであろう.第4回日本臨床細胞学会総会(昭39)においてClass Ⅳの解釈をめぐつて1941の定義か1954の定義かで見解が分かれたがわれわれは後者をとるべきものと考える.

外科の焦点

超音波による乳癌の診断法

著者: 和賀井敏夫

ページ範囲:P.1627 - P.1633

はじめに
 診断のための生体組織の映像法あるいは透視法として従来X線が広く臨床的に使用されていることは衆知のことである.ここでX線がこのような目的に利用されるのは,組織にたいする透過度が良好である,組織により吸収減衰の差すなわち透過度に差があり,これを診断に用いる,波長が短いので得られる透過像が尖鋭である,X線の発生,投射,受像がわりと簡単である,生体にたいする障害作用が比較的少ないなどの性質によるのである.このような条件をある程度満足するγ線,中間子線や超音波のような波動の診断的応用は,一応考慮されるのも当然であろう.このような意味での超音波の診断的応用は最近各領域各疾患について活発に研究が進められ,種々の特徴,利点とともに診断領城において新しい分野を開拓しつつある現状である.本文では超音波による乳癌の診断法を中心に紹介することにする.

論説

若年者胃癌の臨床と病理

著者: 中津喬義 ,   後藤政治

ページ範囲:P.1635 - P.1645

はじめに
 胃癌はわが国の悪性腫瘍死亡率中,最も高率であつてその約半数を占め,しかも近年においてその死亡率は上昇過程にあるとされている82).その中で満30歳未満の患者に発生した胃癌は若年者胃癌と呼ばれ37)83)91)114),1848年にDittrichi11)により,またわが国では滝口89)(1894)その他35)により報告されて以来これに関する内外の文献も少なからず発表されており,年齢の若いものではWill-kinson110)(1905)の胎児症例を始めとし,Wie(ler-hofer108)(1859)の生後16日の新生児,その他10)の報告が見られる.また臨床例において,Block8)は若年者の胃疾患中,少なくとも30%は胃癌であるとし,石川26)は若年者悪性腫瘍の剖検例中の40%が胃癌によつて占められるとしている.しかし胃癌は一般に40歳代から60歳代のいわゆる癌年齢に多発するところから,若年者胃癌がそれほどまれなものではないのにもかかわらず,今日なお,継100),竹野内91)の強調するごとく,しばしば看過されて早期治療の時期を失することが少なくないと思われる.著者らは昭和25年より38年に到る14年間において慶大外科外科学および病理学教室関係症例から若年者胃癌30例を得たが,これらについて臨床的ならびに病現学的検索を行ない,同時に文献的考察を試みた.

ヨーロッパの2,3の病院における火傷の治療

著者: 森本憲治

ページ範囲:P.1647 - P.1652

 最近の日本の外科の学会では,火傷に関する演題はあ主り見かけないが,私は昭和38年秋ヨーロッパに出張した際,2,3の病院を視察して火傷の治療を調査したので,その大要を報告したい.

新鮮自家空腸による大静脈の移植

著者: 松元輝夫 ,   ,  

ページ範囲:P.1653 - P.1656

 上大静脈あるいは下大静脈の閉塞は比較的稀な症候群ではあるが,その外科的対策は今日なお未解決にとどまつている1)2).これら大静脈の同種移植はいずれも不成功に終り3),代用血管による移植も短期成功例を見るにすぎない4)5)6).大静脈を小腸により移植しようという試みは今日まで報告さわていないよらに見受けらわる.新鮮自家小腸は容易に入手できるのみならず,さらに移植に要する長さの点にも何等の制限を受けないという利点もある.
 本論文は犬の上あるいは下大静脈を新鮮自家小腸,特に空腸により移植したわれわれの経験について記述し,さらに下大静脈移植に新鮮自家空腸を利用した臨床例について報告する.

緊急検査法 血清検査

交叉試験

著者: 大河内一雄

ページ範囲:P.1660 - P.1661

 交叉試験の意図するものは,輸血にさいして,安全に輸血できるかどうかを試験管内で調べることである.絶対大丈夫という保証は,しかしいかなる一方法を用いてもなし得ない.まず安全ということは,食塩水法,酵素法,間接クームス法等々を併用することによつてのみはじめて言いうる.これらを全部やるとすると最低1〜2時間を要するとみてよい.大体,交叉試験の精度,あるいは信頼度は,それに要する時間に比例するものと考えてよい.ここに述べる緊急時の交叉試験はしたがつて,理想的なものでもなく,これをやれば事故を全く防げるというものでもなく,ただABOの型の間違いによる事故,あるいは強い不規則抗体,たとえば抗Rh式抗体による事故を防げるであろうというに止まる.

診断のポイント・10

神経性胃炎の診断

著者: 池見酉次郎 ,   中川哲也 ,   村瀬政行

ページ範囲:P.1662 - P.1665

はじめに
 与えられたテーマは「神経性胃炎」の診断ということであるが,「神経性胃炎」という言葉は,ばくぜんとしていて一般的には使用されていないように思われる.少なくとも,われわれのところでは,「神経性胃炎」というような病名はほとんど用いていない.したがつて,「神経性胃炎」とは何を意味するかが,まず問題になつてくるが,ここでは,一応,便宜的に「胃神経症」ないし「慢性胃炎の中で,心理的色彩の濃いもの(心身症)」というふうに解して,われわれの考えをのべることにする.
 さて,ここで「胃神経症」とか「慢性胃炎」という言葉を用いたが,現段階においては,これらの言葉によつて表現される内容も,人によつてかなりニュアンスの違いがある.

手術手技

頭蓋内血腫の手術

著者: 桑原武夫

ページ範囲:P.1666 - P.1675

 頭蓋内血腫は,血腫の存在場所によつて硬膜外,硬膜下および脳内の三つに分けられ,また経過によつて急性,亜急性,慢性に分けられる.急性というのは受傷後3日以内に重篤な症状が現われるものをいい,亜急性というのは4〜20日に現われるもの,慢性というのは3週以上経過しているものをいつている.したがつて,場所と時期との種々の組合せによつて頭蓋内血腫はいくつかの種類に分けられ,それぞれが,出血源,経過,予後等をことにし,もちろん手術手技もことなつてくる.適確な手術を行なうためには,それぞれの型についての十分な知識がなくてはならないのであるが,ここではこれらの一切を省略し,以下手術の適応,手術準備などを簡単に述べ,主要な頭蓋内血腫,すなわち,急性硬膜外血腫,急性(亜急性)硬膜下血腫,急性脳内血腫および慢性硬膜下血腫の手術手技を図解することにする.

外来の治療 実地医家のための外来治療・7

外来における脳神経外科関連疾患の治療(1)

著者: 渡辺茂夫

ページ範囲:P.1676 - P.1678

はじめに
 「脳神経外科」が医療法に認められて,わずか1ヵ月余であつて記念すべき時代の進展である.私が脳神経外科の外来を独立させたのが昭和25年であつて,十有五年の星霜が流れた.もちろん,神経外科は広い意味における神経学の一部であって,毎日外来において診療する症例では,新しい領域における神経学の開拓すべき一面であつて,広義の神経学と神経外科学とは表裏一体である.脳神経外科「クリニック」を訪れる患者は,広い意味での神経学的疾患と,時に,偶々,精神的疾患もまぎれこんで来る.脳神経外科の外来疾患はこの意味で大きく「脳神経センター」としての組織を作る必要がある.しかし現実に外来を訪れる頭部疾患の中で,外来において治療できるものがきわめて多い.最近の経験から頻度の高いものを選んで見た.これらの中には,将来手術の必要のものも含まれることもあり得るが前述のごとく,神経学的疾患と神経外科的疾患とは自ら共通の母体を有している.まずこれを来院する患者の主訴を分析して見ると大きく三つに分けることができる,これらの主訴を持つて訪れるものを頭部疾患の外来患者として取扱つている.

アンケート

イレウスの問題点(2)

著者: 志村秀彦 ,   植田隆

ページ範囲:P.1679 - P.1681

 イレウスは急性腹症の一つとして一刻を争つて処置せられろべき疾患、であり,早急に診断をつける必要がある,イレウスでは以前に開腹,慢性便秘,ヘルニアなどの既往があつた者,あるいは腹腔内に急性慢性の炎症疾患の経過中,急に腹痛嘔吐,排ガス停止が起こつた場合もし腹壁緊張がなく.腸管蠕動不毛穏,腸雑音の亢進が見られればまず機械的イレウスの疑いがおかる.しかし腸管の血行障害を伴ら絞扼性イレウスでは初期のショック症状に引続き早期から腹膜炎症状を伴うので漸次その特徴はうすれて鑑別は困難となる.排ガス停止はイレウスの最大の特徴であるが,時にイレウス経過中少量の排ガスあろいは排便を見ることがありあたかもイレウスの自然緩解のごとき印象を与えるが,これは閉塞下部腸管にたまつた内容が排出されるもので,初期症状の一つである.またイレゥス時の疼痛発作は一定の間隔をもつことが特有であり,下部腸管の閉塞ではその間隔が長く,上部に行く程短かくなる.したがつて腸雑音聴取に当つては腸蠕動音の性質の他に,少なくとも数分間の間,聴診を続けてその間隔を記載する必要がある.しかし機械的イレウスの初期,特に内臓神経が過度に刺戟された場合にはかえつて腸の蠕動が抑制されるし,また疼痛緩和の目的でナルスコ,モピアトなどの鎮痛剤が与えられた場合も同様,腸雑音は聴取できず患者は平静となり症状あるいは病機の進展を見誤ることがあろので注意を要する.

他科の知識 外科領域に必要な泌尿器科的疾患・4

腎性血尿をきたす疾患

著者: 宍戸仙太郎 ,   夏目修

ページ範囲:P.1687 - P.1692

 腎性血尿は通常結石,腫瘍,炎症,外傷などによりみられることが多いが,これらの疾患は最近急速に進歩した泌尿器科的検査法により容易に診断されうるものである.しかし腎性血尿でも常にその原因を究明できるわけではなく,なかには種々なる臨床的諸検査によつても出血病因を明らかにすることができず,またときには腎摘除術を行なつてからはじめて診断が確定することもあり,さらには摘除腎の病理組織学的検索によつても出血が如何なる機転でみられるのか解明できないこともある.これが臨床的に特発性腎出血とよばれるものであるが,われわれ泌尿器科医でもときに泌尿器科的検査を丹念に行なわない場合には血尿の原因が遊走腎によるものであつてもこれを見逃して特発性腎出血と診断したり,また非常にまれな疾患で,しかもその上血尿を呈することがほとんどないため多発性骨髄腫による血尿を腎腫瘍によるものと誤診することもある,したがつてここでは特発性腎出血,遊走腎,多発性骨髄腫などまれなものではあるが腎性血尿をみる疾患について考察するとともに血尿の系統的検査などについても触れてみたい.

他科の意見

呼吸器疾患について外科への希望

著者: 島村喜久治

ページ範囲:P.1693 - P.1694

はじめに
 いうまでもないことだが,臨床医学とは病気を治す学問ではなくて,病人を治す学問である.ことに慢性疾患を扱つてみると,この感じはひしひしと身に迫るのだが,手術が医療行為の主要部分を占める外科医の中には,手術さえ上手に行なえば能事終れりとする人がなくもないようである.結核のような慢性の感染症がいい例だが,手術は治癒のスタートである.断じて治療の終点ではない.気管支拡張症の外科にしても,心理的な接触・精神的な指導が伴わなければ医療は完成しない.そこで患者は新興宗教に逃げこんでしまう.

カンファレンス

脳腫瘍(肺癌の脳転移か)

著者: 小島憲 ,   平野謙次郎 ,   平福一郎 ,   福田圀如 ,   宍戸隆典 ,   上野幸久 ,   小沢啓邦 ,   大出良平 ,   太田怜 ,   堀之内宏太 ,   森永武志 ,   藤田五郎 ,   蓬来裕 ,   細田誠治

ページ範囲:P.1695 - P.1701

 藤田(司会) 今日の臨床検討会は,脳神経外科から提出され,脳腫瘍という臨床診断のついている51歳の男性の症例です.記録を一とおり読ましていただいたところでは,昭和36年末に,某療養所において肺癌のために,肺の区域切除をうけており,その翌年,当院においてCo60の照射による後療法をうけたといら既往歴がありますので,そのあたりに重点をおいて大いに検討願いたいと思います.
 脳神経外科の細田医官のほうから,既往歴と現病歴について先に説明してもらうことにします.

器械の使い方

膀胱鏡の使い方,尿道鏡の使い方

著者: 水本龍助

ページ範囲:P.1702 - P.1705

 最近における泌尿器外科学の急速な進歩は,日常,泌尿器疾患の診療にたずさわつている私どもにとつても目をみはることがあるが,この進歩の源は,Nitzeが1879年に今日の膀胱鏡の最初のものを,完成したことに始まる.
 由来今日もなお多くの工夫,改良が行なわれており,膀胱鏡の使用なくしては,殆んどの泌尿器疾患の診断,治療の完壁は期せられず,また泌尿器科医の多くは,膀胱鏡を内科医の聴診器と考えて使用している.

薬剤の知識

酵素剤の使い方(1)

著者: 石井兼央 ,   竹内正

ページ範囲:P.1706 - P.1708

はじめに
 近年の酵素化学の臨床応用の進歩は目ざましいものがある.消化酵素のようにかなり以前から治療に用いられたものもあるが,本格的な臨床面への応用は第2次世界大戦後,とくにこの数年以来広く行なわれるようになつた.疾病の鑑別診断に,経過や治癒の判定に血清中の酵素の測定が行なわれている.酵素蛋白として純粋なものをうることができるようになつてからは,酵素そのものを治療に用いるようになつてきた.
 歴史的に顧みると,古くから経験的に酵素の作用を治療に応用していることが知られる.たとえば,皮膚の化膿部位がハエの卵から孵化したウジ虫によつて浄化されることが認められており,これを現在の酵素化学から考えると,ウジ虫の産生する蛋白分解酵素,とくにcollagenaseによる作用であると解される.また,胃液や膵液を浄化の目的で皮膚の潰瘍や化膿創に用い,胃から分泌される蛋白分解酵素であるpepsinが発見されると,これを消化不良に内服したり,植物起原のpapainがジフテリー義膜の除去や,皮膚結核の潰瘍に用いられたりした.これらは19世紀後半のことである.20世紀になつて純粋の酵素標品がえられるようになつて,本格的に治療に応用できる酵素剤が出現したといえる.

外科病理アトラス

肺化膿症および肺真菌症

著者: 鈴木千賀志

ページ範囲:P.1713 - P.1718

Ⅰ.肺化膿症
 肺膿瘍は,ブドウ球菌,連鎖状球菌,肺炎球菌,フリードレンデル肺炎桿菌などによつておこり,こわれた肺組織,滲出液,多核白血球,リンパ球,大単核細胞およびこれらの残骸から成る単純な膿瘍であり(非腐敗型),肺壊疽は,肺組織がこわれて液状壊死に陥つたもので,主として紡錘桿菌,スピロヘータなど口腔内に常在する腐敗菌の混合感染によつておこり,喀痰は悪臭を放ち,放置すると数層に分離すること(腐敗型)が特長とされた。これらの発生経路は,直達性や血行性感染のものもあるが,口腔または鼻腔内細菌の吸引による気管支の栓塞,閉塞および肺感染による壊死によつておこるものが多く,かつこれら両者の区別が明らかでない場合が多いので,今日では「肺化膿症」の総称名で呼ばれるようになつた.

統計

急性虫垂炎—墨東病院外科における5,523例の分析

著者: 四方淳一 ,   杉原礼彦 ,   浮島仁也 ,   渡部脩 ,   千葉勝二郎 ,   松尾泰伸 ,   高橋正樹 ,   早川勲 ,   山上明倫 ,   鈴木勲 ,   鈴木荘一 ,   黒田慧 ,   加賀美尚 ,   原輝彦 ,   小野美栄 ,   坂田晃康

ページ範囲:P.1719 - P.1724

はじめに
 急性虫垂炎の手術は外科の医局に入局して最初に教えられる開腹手術であり,その死亡率の低いこと,大がかりの設備・器具を要しないで行ない得ることから病床を有する外科医院で比較的容易に行なわれている現状である.
 しかしながら急性虫垂炎の手術といえども,他人の腹を開く手術であるから,手術自身の危険はもとより,術後後遺症の発生を避けるべく最大の努力を払うべきである,現在のごとく,急性虫垂炎の手術が普及すると,急性虫垂炎の手術で死亡するということは重大である,手術そのものによる不慮の事件を避けるには,あらゆる手術にさいして万全の注意を払うことが必要である.

新しい工夫

脳血管撮影装置の工夫—(そのⅡ.2方向同時撮影装置)

著者: 脇坂順一 ,   倉本進賢 ,   渡辺光夫 ,   高根重信

ページ範囲:P.1726 - P.1731

はじめに
 脳血管撮影は種々の脳疾患の診断にあたり欠くことのできない重要な補助診断法の一つであり,これを行なうにさいし特別の場合を除いては正面および側面の2方向についておのおのの動脈像および静脈像の撮影が必要とされている.この場合,一般的には正面および側面の撮影についてはそれぞれ別々に造影剤の注入を行なつているのが現状である.しかし,造影剤の注入回数や注入量が増せばそれだけ副作用の発現も増加し被検者の苦痛も多くなり検者にとつても一層繁雑になるのは当然である.したがつて,脳血管撮影にさいして正面および側面像を1回の造影剤注入で同じ瞬間に両側同時に撮影できることを誰しも望むものであるが実際には散乱線などによる写真上の鮮鋭度の低下などの問題でかなり困難である.
 われわれは数年来,脳血管撮影の普及を目的として種々の脳血管撮影装置の試作と製作を行なつて来たが,今回は2方向同時撮影装置の試作に成功し十分実用に供することができる段階に達したので報告する.

トピックス

超音波血流計について

著者: 尾本良三

ページ範囲:P.1732 - P.1732

 血流量の測定は循環動態の検査項目の中でも特に重要なものの一つである.血流を直接的に測定するには熱流量計,電磁流量計,超音波流量計,核磁気共鳴吸収を用いる方法,白金型血流計など種々の方法が行なわれているが,そのなかでも電磁流量計は,すでに内外で市販品もありここ数年来わが国においても,かなり多くの施設で使用されるようになつてきた,電磁流量計のうちでも血管を切断せずに,血管外から血流を測定するタイプのものは,臨床的にも埋込み可能であつて,その価値は高い.しかし現在入手しうるこれら電磁流量計にも,なかなかの難点があるのであつて,その一つ二つをあげてみると,かなり高価であることまた,トランスデューサの小型化に伴つての性能の不安定さや再現性の問題などである.特に不安定さということは,ユーザーとしては,有難くないことである.
 さて,ここでとりあげる超音波血流計,一正しくは血流速度計であるが,これは将来,電磁流量計の欠点を一部補い,用途によつては,十分普及しうるものと思われている.本年8月東京で開かれた第6回国際医用電子,生体工学会議においても,内外から超音波血流計に関する五つの論文が発表され,大いに注目をあびた.また同会議のSpecial groupmeetingでも,超音波流埴計がテーマの一つにとりあげられ,熱心な討論が行なわれた。今後急速に,この方法の進歩がなされる可能性がある.

外国雑誌より

肺静脈の門脈流注

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1733 - P.1733

 肺動脈の流入異常はWinslowの古へから知られていたそうだが,生前,心カテで診断しえたのはFriedlich (Bull.Johns Hopk.Hosp.86:20,1950)が最初で,以来,文献欄で何回か紹介したように,手術成功例がいくつも報ぜられている,Darling (Lab.In-vest.6:44,1957)はこの流入異常を4型にわけ,1型,V.cavasupへ流入(supracardiac),2型coronary sinusまたは右房へ流入(cardiac),3型横隔膜下でV.cava infへ流入(infracardiac),4型1個所以上へ流入とした.門脈へ流注したのはButler (Thorax7:249,1952)が精査し,(A)総肺静脈が食道裂孔で横隔膜を通過し,門脈の左枝へ入る.(B)総肺静脈が食道に沿い,裂孔を通つて,左胃静脈へ入つて門脈に入るという2型を区別した,A型ではpatent ductus venosusがあつて血液は肝をバイパスしてしまう可能性がある.B型では酸素化血は門脈一肝一肝静脈一心という経過をとる.Laurence(Brit.HeartJ.22:295,1960)3歳幼児はB型で,食道静脈が拡張し瘤をなし,そこから出血死した.Muir(Th-orax 20:254,1965)27日の支那系乳児もB型だが,食道静脈は正常であつた.

海外だより

黒衣の女と白い砂(1)

著者: 桜井靖久

ページ範囲:P.1734 - P.1735

 私が日本を離れて沙漠の国アラビアに飛びたつたのは昭和39年6月の盛夏だった.
 目的は,マア海外旅行を加味した出稼ぎというところである.アメリカの一流大学に留学して生命の本質の奥儀を究めるなどというのとは違つてあまり威張れた目的ではない,どちらかというと不純な動機である.帰国してからもう半年以上経つが海外旅行というものは結婚と似ているなと思う.一度もやらないと何となく欲求不満を感じるし経験してしまえば落ちつく.

雑感

自信のない小児科医より外科医へ

著者: 浦田久

ページ範囲:P.1736 - P.1736

 赤ん坊が病気になると,取りあげてくれた産科の先生のところへ連れていく母親がいるくらいだから,やけどや外傷の子どもが小児科にきても不思議ではない.これは医者が近いという距離的な問題ではなく,かかりつけの医者には何の病気でも診てもらいたくなるという親近感がそうさせるのである.
 小児科医は,もとをただせば,切つたりはつたりが嫌いで,子ども相手の医者になつたのであるから,血をみると親よりも医者の方が青くなる.A.Herrmanという小児科医が,ある本に「両親を驚かす小児の病的状態として夜間痙攣・高熱・重症出血の3症状をあげることができる」と,他人ごとのように書いているが,実は彼自身が驚いたに違いない.

一耳鼻科医のつぶやき

著者: 小西一衛

ページ範囲:P.1737 - P.1737

 「盲腸を取るなんてキミイ,手術のうちに入らんよ,ワッハッハッハ」と笑いとばされる先生がいらつしやるそうである.誠に頼もしい先生である.患者は先生のその自信に満ちた態度に安心し,欣然とまではいかなくても,不安を抱かずに手術室に入つて行くことができるだろう.たしかに患者に安心感を与えるという意味では効果的であり,いやがる患者,興奮ぎみの患者を無理やりやるよりは,手術はスムースに行なわれ易いことも事実と思う.だがこれはあくまでも患者むけの態度であり,素人向けの言葉である.私は最近つくづく手術は難かしいとの感を深くしている.そして,アッペの378.0点の1割にもみたない30.2点のアデノイド切除でノイローゼ気味である.つまりうまく取れないのである.
 「奥さん,こりやあ坊ちやんのアデノイドをお取りになつた方がいいですね」というと,「先生この子は1昨年手術しました」なんてことがある.開業当初は自分で手術をした患者の名前も顔も一々覚えているが数年たっと一々覚えきれない.「アデノイドを取りましよう」なんていうと,「先生に取つて貰つた筈です」なんて逆ねじを食わされ,とんだ恥をかくことがある.アッペならナルベがあるから,とにかく腹を切つたことは分るが,アデとなるとよく分らない.

外国文献

ショックと内臓神経遮断,他

ページ範囲:P.1738 - P.1741

実験ショックで遮断剤が不可逆相を防ぐことは周知のごとくであり,Lillehei一派(Ann.Surg.148:513,1958)は不可逆相成立にintestinalfactorが重要であるとし,Fine一派(NewEngl.J.Med.269:710,1963)は内臓神経を遮断すると不可逆相を防ぎうるとしている.Boston大学Berger (Ann.Surg162:181,1965)はイヌでFine法の不可逆出血ショックを作り,これを対照,ショック1時間前dibenzyline0.5mg/kg注,腹腔神経節・上下腸開膜神経節切除し同名動脈剥皮,14日後ショック,同手術6週後ショック,腹腔神経節,上下腸間膜神経節ノボカイン遮断の各群とした.maximalbleedingvoliim (MBV),maximalbleedingtime (MBT),MBV時より再輸血までの時間(UT),腸管変化,生存率を,これらで比較した.ノボカイン遮断はいずれの指標から見ても何ら効果なしdibenzyline群,生存6/10(対照10頭全部死亡).MBV低下,MBT,UTも低くなった.交感神経切除(14日,6週)はdibenzylineよりやや良い結果(但し統計学的に有意ならず)を収めた.従って実際問題としてはdibenzylineが最も有効ということになる

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「臨床外科」第20巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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