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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科20巻5号

1965年05月発行

雑誌目次

特集 胸部疾患縫合不全

肺癌手術後における気管支瘻の発生防止対策

著者: 鈴木千賀志

ページ範囲:P.557 - P.561

 気管支瘻は,肺切除術における特有的な合併症の一つで,頗る不快かつ重篤な合併症である.肺切除術後における気管支瘻の発生率は,術者の手術手技の功拙に関係することは言うまでもないが,原疾患によつてもかなりの差違があり,たとえば肺結核症や肺化膿症等のような感染症の肺切除術後には発生率が高く,肺癌,その他の非炎症性肺疾患においては比較的低く,われわれの肺切除術例における気管支瘻の発生頻度を疾患別に分けて調査してみると,肺結核症では1,180例中54例(4.6%),また肺化膿症,気管支拡張症,肺嚢胞症では229例中7例(3.1%)に気管支瘻の発生がみられたが,肺癌では142例の切除例中わずか3例(2.1%)に気管支瘻の発生がみられたのみであつた(第1表).
 しかし肺癌患者は,高齢者が多いので,全身抵抗力が減退している上に心肺機能が低下しており.而も肺癌では肺切除量が大きいので主気管支または肺葉気管支のような大きな気管支断端が開口することになるので,ひとたび気管支瘻が発生すると,呼吸障害がはなはだしく、かつ胸腔内に貯つた血性または感染性の滲出液を吸引して,窒息死を惹起する危険すらあるので,肺癌では他疾患の肺切除術におけるよりも気管支断端の閉鎖手技には一層の注意が必要である.われわれは肺癌の肺切除術においても気管支断端の閉鎖法は,もつとも単純なSweet氏法に拠つている(第1,2,3図).

肺癌手術後にみられる気管支瘻の問題

著者: 香月秀雄 ,   平田正雄

ページ範囲:P.563 - P.568

はじめに
 胸部外科が化学療法の開発と病態生理の解明,これにともなう麻酔の進歩によつてその分野を拡大した結果,従来では対象とされなかつたpoor riskにたいしても積極的に手術が行なわれるようになつてきた.肺癌の患者は高齢者の占める頻度が高く,心肺機能はもちろんとして全般的に生理機能の減退を示すものが多く,加えて癌腫にたいする手術として当然その侵襲も大きく術後合併症の発生は決して少なくない.かつ術後の合併症は他の胸部疾患に比べて肺癌の場合は生命の危機に直結する危険が大きく,その処置,予防には万全の策を構じなければならない.
 肺癌の手術は肺切除と広汎な縦隔のリンパ節廓清を行なうのを原則とするが,一般に肺切除術後に見られる気管支断端の縫合不全,すなわら気管支瘻の発生も重要な術後合併症の一つとして取上げられるのも当然である.しかし肺結核の手術の場合これが術後合併症としてもつとも大きな問題の一つとされているのに比べて,肺癌においてはGibbon,Gifford,Wolfgang,石川,篠井,鈴木らによつても報告されているようにその発生率はそれ程高いものではない(第1表).ただしさきに述べたように肺癌の手術では術後合併症のいかなるものでも生命にたいする直接の危険を招来することが多く,とくに気管支瘻にたいする処置が成功する可能性は著るしく低いと云わなければならない.

気管支断端の処理

著者: 宮本忍

ページ範囲:P.569 - P.571

 気管支断端の処理は肺結核,肺癌,肺化膿症など肺切除を要するすべての肺疾患に共通する問題である.その原則は,健康な部位で気管支を切断しその断端を気密air tightに縫合閉鎖し空気漏air leakを発生しないことである.縫合法を大別すれば結節縫合と連続縫合とあり,縫合材料には絹糸,ナイロン糸,木綿糸,腸線,不銹鋼線,クリップなどがある.一般に行なわれているのは絹糸を用いる結節縫合であるが,絹糸の組織反応を嫌つてナイロン糸や腸線を推奨する胸部外科医もある.われわれは肺切除の最初からこの方法を用い特別の不便を感じてはいないが、気管支瘻の治療として行われる断端の再縫含にはナイロン糸や不銹鋼線を用いている.ドイツの胸部外科医が絹糸を用いないのはそれが外国からの輸入品で比較的高価であるからであり,同様のことがアメリカについてもいえる.われわれが絹糸をあらゆる方面の縫合材料として用いるのは国産品で安価なためである.もちろん,絹糸による気管支断端の縫合には異物反応としての組織反応が強いことはわれわれの初期の研究から明らかであつて,今さら再検討の余地はない.したがつて,縫合材料として絹糸がよくないという議論にはわれわれとしてにわかに納得できない面もある.
 肺癌の手術では,気管支の断端が肺葉枝か,主気管支であるが,肺結核や気管支拡張症ではそれが区域枝である場合も多い.

肺癌切除における気管支瘻の問題

著者: 末舛恵一 ,   成毛韶夫 ,   尾形利郎 ,   米山武志 ,   石川七郎

ページ範囲:P.573 - P.581

 1933年,R.Graham1)による最初の肺癌にたいする肺切除術成功以来,今日の肺癌にたいする外科療法は術式の改善,直接死亡,術後合併症の減少,術中術後の病態の解析とその治療の進歩により非常な進歩をとげた.
 それでも現在の術後生存率は決して満足すべきものではない2)−9).この切除成績改善をはばむ一因子である気管支瘻は,肺癌切除のばあい,はなはだ低率であることは知られているが,近時,術前照射の併用にともなつて問題が起りつつある.

食道癌手術の縫合不全

著者: 桂重次 ,   阿保七三郎

ページ範囲:P.583 - P.586

 食道癌手術の縫合不全は食道癌の外科的治療で外科医を悩ます最大の問題である.食道癌手術では吻合部に胃癌手術等より遙かに高率に縫合不全が起る.それは手術手技の誤りというよりは寧ろ解剖学的関係によることが多い.その理由は食道癌病巣を切除しても食道と食道の端々吻合は解剖学的関係からできない.すなわち食道にくる血管をそのままにして食道を剥離し上下の断端を近づけることができないからである.したがつて当然癌病巣下方の食道は癌とともに切除し,食道と遊離して胸部に挙上した胃または腸と吻合せねばならない.このさい食道には漿膜がなくかつ周囲と固定されている.胸腔内に食道胃吻合をするにしても漿膜のない食道と胃との吻合には技術的に困難がある.
 とくにこの手術は胸腔内の深い部分で行なわなければならない,いま,胃を胸壁前皮下に挙上しても吻合は浅いところでやるゆえ,技術的に困難ではないが,吻合部の循環障害とか吻合部にかかる緊張とかでまた高率に縫合不全が起る.

食道癌手術における縫合不全

著者: 内山八郎 ,   加治佐隆

ページ範囲:P.587 - P.591

Ⅰ.緒言
 最近胸部外科の進歩とともに,食道外科領域の発達にも目覚しいものがある.しかし今日なお食道癌の手術成績を他の疾患のそれと比較すると,決して満足すべき状態とは言えない.中でも縫合不全はもつとも重篤且つ忌むべき術後合併症であるので,これが防止に努めることが外科医として第一の責務である.私どもは十年来縫合不令防止の手術法の工夫に努力してきたが,ここ数年来漸く食道癌の手術で縫合不全を見ないようになつた.
 この度食道癌手術の縫合不全と言うことで,私の考え方,日常行なつている手術手技について述べるように依頼されたので,この機会にいささか私見をのべ,諸賢のご批判を仰ぎたいと思う.

食道癌手術の縫合不全

著者: 井口潔 ,   中村輝久

ページ範囲:P.593 - P.600

Ⅰ.はじめに
 食道癌手術において従来各種の食道再建術式が考案せられているが,その要点の一つは如何にして食道吻合部の縫合不全を防止するかにある.一般に食道癌患者の多くは高齢者であり心肺機能の低下したものが少なくない上に,栄養障害が加わつているので術前にどの程度までこれらを改善できるかということが,術後合併症の防止に最も重要なことである.そこで,手術侵襲を軽減する為に癌切除と食道再建とを分割して行なう方法も行われる.縫合不全防止のための対策としては,一般的には強力な化学療法による腸内細菌の抑制,術後酸素テントの使用,チューブ栄養法の強化等が行われているが,今回は紙数に制限があるのでこれらは省略し,縫合不全の対策として実際の手術手技の面でつねづねわれわれが注意している点を述べてみよう.

食道癌手術の縫合不全について—胸腔内食道胃吻合術を中心に

著者: 中村嘉三 ,   森末久雄

ページ範囲:P.601 - P.605

 食道癌手術にともなう合併症として,肺合併症とともに吻合部の縫合不全が多く認められることは諸家の報告でも同様である.縫合不全は術者の技術的問題に左右されることが多く,細心の注意をはらつて,その発生防止に努めなければならない.
 食道癌手術の食道再建術式は,腫瘍の発生部位によつても相違があるが,いろいろ考按されている.空腸または結腸(結腸左半,横行結腸,結腸右半)を利用して行なわれる場合もあるが,もつとも普遍的に行なわれている術式は胃を利用して行なう術式である.逆行性に胃の大彎側を利用する逆行性胃管食道吻合術式を好んで行なう少数の人達を除けば,順行性に食道胃吻合術が行なわれる.すなわちもつとも一般的に行なわれている術式は

グラフ

高圧酸素チェンバー—がんセンター・東京医科大学

著者: 梅垣洋一郎 ,   三宅有

ページ範囲:P.628 - P.631

ポータブルタイプ高圧酸素チェンバー
 高圧酸素チェンバーを用いた治療は,治療医学上での新らしい進歩をもたらしつつある様である.心臓血管外科,冠状動脈疾患,嫌気性菌感染の治療,一酸化炭素中毒の治療,放射線治療等にその効果が知られている.図示した高圧酸素チェンバーは,ポータブルダイプで,チェンバー部分がアクリル板で出来ているので患者の監視や放射線治療に最適である.酸素圧は気圧まで上げられ,加減圧の速度は任意に調整(最高8ポンド/分)出来,プリセットされた圧力に達すると自動的に加圧が止るが,換気はどの圧力にもかかわらず99l/分で行われる様調節されてある.スムースな加減圧が可能である事が,患者の耳痛や不安を除くのに最も大切であるのでその点このチェンバーは有用である.一方安全,操作の簡便さをはかつている為に,心電図や4つのコネクターを有する以外にはチェンバー外からの操作は出来ない,たとえば,チェンバー内で麻酔をかけたり,注射したりする操作は望めない.この目的には大きな酸素室か又は別個のデザインによるチェンバーが必要であろう.しかし,ポーダブルという事,放射線治療での利用にはこれで十分である.

外科病理アトラス

脳腫瘍(1)

著者: 星野列

ページ範囲:P.545 - P.549

a.astrocytoma
① HE染色,×100.主として分化したastrocyteからなり,細胞密度は低く,均等に分布する.核は円形ないし楕円形,散在性のクロマチン顆粒を含んで比較的あかるく,大きさはほぼ均一である.胞体はHE染色では明瞭に染らないことが多い.血管に乏しく,血管壁の増殖性変化は少なく,組織内出血や壊死もほとんど認められない.
② Mallory染色×400.glia染色によれば,星状の細胞体および突起が認められ,突起のあるものは血管壁に接着してsucker footを形成する.

外科の焦点

胃鏡か胃カメラか

著者: 前田昭二 ,   比企能樹 ,   守谷孝夫 ,   丸山圭一 ,   桑野研司

ページ範囲:P.551 - P.555

 胃疾患の診断を行なうにあたつてレントゲン検査とともに胃内視鏡検査は日常の臨床に不可欠のものとして日ましに発展,普及しつつあり,両者を併用すればたがいにその短所を補ない合つてさらに効果をあげ,より正確な診断を行なうことができる.わが国における胃内視鏡検査の歴史は,すでに昭和初頭先人により開かれ,一部では重要な検査法としての地位を確立したが,戦前,戦後を通じてもつぱら用いられたWolf-Schindler型軟性胃鏡にはかなりの構造上の制約があり,そのため,だれでもが行なえるというわけには行かず,実施上なお多くの難点が認められた.
 1950年にわが国で発明された胃カメラは著るしく柔軟性に富み,操作が簡単であるのと鮮明な画像が得られることから現在では広く普及している.しかし,胃カメラでは胃内の肉眼的観察が行なえず,撮影されたフィルムが現像されるまでは診断に充分な画像が得られたかどうかが分らない欠点がある.

緊急検査法 生化学・1

血糖,尿素窒素

著者: 茂手木皓喜

ページ範囲:P.606 - P.607

 緊急検査については,すでに"救急患者の臨床検査"というテーマで藤田氏が本誌に発表している.今回,ここでとり上げるのは,臨床医がベットサイドで必要とする検査の術式である.したがつて精密な機器も不要であるし,訓練された技術員でなくてもよい.誰がいつ,どこでやつても実施できるという,迅速にできる簡易検査を主に紹介する.

実地医家のための診断シリーズ・5

一般外科手術に必要な肺機能検査

著者: 村林彰

ページ範囲:P.608 - P.611

 肺手術における手術適応の限界を決定する手段として.肺機能検査法は欠くべからざるものであり,今日ほぼ完成されたものとなつている.肺以外の一般外科医手術に際しても,術後肺炎や無気肺などの肺合併症を起すことがあり,また麻薬や麻酔剤による呼吸抑制が思わぬ合併症をもたらすこともあり,ことに老人や肺疾患を有する患者等,術前から肺機能障害がある場合には起りがちである.では一般外科手術に際して,術前肺機能検査はどの程度の項目について行う必要があろうか.
 従来術前機能検査として肺活量,呼吸停止時間等を習慣的に行い今日に至つている施設が多いと思うが,最近の肺機能の概念では,肺活量とは単に最大呼吸の容量を表わすもので,それだけでは換気機能を論じることはできないし,止息(呼吸停止)時間の意義については,意思による因子が大きいためほとんど問題にされなくなつている.最近の肺機能検査の進歩は著しく,非常に細分化されてきているので,まず判り易く整理し,次いで一般外科に必要なもつとも簡単な検査項目をとりだしてみたい.

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名教授,他

著者: 石川純

ページ範囲:P.611 - P.611

 日本では名教授ともいわれるような大先生になると,定刻より15分か20分は遅く講堂に現われ,近よりがたい威厳をもつて学説をとき,そしてまた定刻より15分か20分早く講堂から消えてゆくようなタイプが多いのではないだろうか.
 海の向うでの名教授といわれる人は徹底的に教育を大切にする先生であつた.朝は定刻より2〜30分も前に講堂に現われて,自らスライドの映写準備などをやり,定刻とともに講義をはじめ,立板に水であることよりも,学生たちに理解させることのうまい人が名教授としての評判が高いのが常であった.

診断のポイント・4

縦隔腫瘍

著者: 四方淳一

ページ範囲:P.612 - P.615

 医長 患者は9歳の男子で,昭和36年4月25日ツベルクリン反応が陽転し,その時X線写真を撮りましたけれども特別の所見は認められなかつたそうです.
 今年の9月14日に風邪気味で発熱したので治療のために本院小児科を訪れた.その時,胸部のX線写真を撮つたところ,左上肺野に円形の陰影を認めた.それが第1図です.

外国雑誌より

X線単純乳房撮影とその評価

著者: 井上善弘

ページ範囲:P.616 - P.616

 乳腺疾患に対する補助診断法として乳房撮影は広く行なわれているもので,本法によつて早期乳癌の診断が可能かという問題が論ぜられている現在,その必要性は今さらいうまでもないが,その適中率については各報告者によつてまちまちである.
 たまたまDie Chirurg 1964Sept 35 Jahrg Heft 9に二つの論文がならべて記載され,しかもそれぞれ異つた結論を述べている点に興味があつたので両者を要約する.

外来の治療 実地家のための外来治療・1

一次切除・縫合術ならびに創の手術的清掃法

著者: 出月三郎

ページ範囲:P.617 - P.619

はじめに
 外科を開業している医師の外来を訪れる患者は,普通生命の危険をともなうものは比較的少ない(しかし近時交通事故などによる救急治療を必要とする重症患者が逐次増加しつつある).それゆえ外来診療は一般に軽視され勝ちである.しかし外来診療の対象になる患者は,その絶対数においてまた患者に与える苦痛において,決して軽視すべきでない.日本の学会などでは,外来診療の対象となるような傷病はまつたく問題にされない.これを問題にするのは学者の恥辱くらいに考えている人もなきにしもあらずである.私がかつてドイツに留学していた時の所見であるが,1936年ドイツ外科学会の席上Lexer教授が"Allgemeinen-fektion"の宿題報告をした.これにたいしてSanerbruch, Payer, Kirschner, Löhrその他の教授連が追加討論をしたのであるが,その状況を見るとたとえば熱性膿瘍にたいしある人は十分に大きい切開を行なうと云い,ある人は小さなLochinzisionが良いと云うように,日常の小外科の治療についても,極めて真面目に熱心に討論するのであつた.これは日本外科学会ではなかなか見られない光景であつて,私には不思議に思えた.それと同時に小外科といえども決してゆるがせにしない彼の国の教授連の真摯の態度に強く心を打たれたのであつた.

アンケート

重篤患者の初期全身管理—救急疾患

著者: 橋本義雄 ,   藤田五郎

ページ範囲:P.620 - P.622

Ⅰ)心臓停止時の救急処置
 1.現場に居合わせた人は時間を記録する.まず患者の両脚を挙上し,できたら頭部を下げる.3回心臓部を強く打ち,咽頭部を清拭し,口から呼気を吹き込む,患者は堅い床に仰臥させ,躊躇なく非開胸心マッサージを行う,大体1分間に60回の割で体重をかけるように強く圧迫する.同時に5回毎に1回口から口への人工呼吸を行い肺の換気をはかる.この間に救急用具を整える.次に気管内チユーブを入れ,純酸素でベローまたはバックを用い換気する.心マッサージを続け心電図をつけ,末梢搏動,瞳孔,胸部運動などを観察する.こうして脈搏を触れ,換気も十分ならばそのまま30分間続ける.もし自然搏動が現われない時には開胸し,心膜を開き,直接心マッサージを行う.再び観察して脳への循環が回復した時にはそれ以上あわてないこと.
 2.脳への循環が回復しないときにはまず無収縮が心室細動かを鑑別する.この両者は互に交替することがある.無収縮の時はマッサージを続け,カウンターショックはかけない.5〜10ccの1%塩化カルシウムも心室内,心房内,または大血管内に注射し,反応がなければ5〜10ccの1/10.000アドレナリンを用いる.純酸素で十分換気をしつつ強くマッサージを行う.これでも反応がなければペースメーカーを用いる,もし心室細動がある時はマッサージを続けながらカウンターショックの準備をする.

他科の知識

医療用リニアツクについて(Ⅰ)

著者: 梅垣洋一郎

ページ範囲:P.623 - P.625

 癌の治療が医学の最重要課題となつた現在,放射線治療に対する関心も急速に高まりつつある.癌の放射線治療の発展の歴史をふり返つて見るとヨーロッパ諸国では癌病院が放射線治療を主として発展したという事情もあり,治療設備が充実しており,治療装置の研究も広く行なわれてきた.米国は原子核物理学の研究を終始リードしてきた国であり,したがつて粒子加速器を医療に応用する高エネルギー放射線治療においてもすでに1930年代から研究が始められ,戦前にはかなりの実績を挙げていた.しかし日本では従来この方面の設備が不十分で,戦前には満足な治療施設は癌研附属康楽病院を除いてはほとんどないといつてもよかつた.したがつて放射線治療に対する認識も少く,専門医も少く,十分な成果が挙がらなかつたのは当然であろう.その原因は結局放射線治療の設備が高価でその負担に耐えなかつたということにつきる.最近になりようやく日本も経済事情が好転し,治療装置の開発製作にも急速な進歩が見られたことと相まつて,諸所に放射線治療の設備を充実した癌治療施設を設置する機運が高まつて来ている.
 放射線治療に用いられる装置は大きな機械が1台あれば何でもできるというものではない.治療の対象により適当な装置と方法を選択して用いる必要がある.

他科の意見

婦人科領域で感じること(1)

著者: 真田幸一

ページ範囲:P.626 - P.627

はじめに
 中央医療界における最近の専門細分化傾向は,われわれメッサーザイテに立つものにとつて共通の関心事である手術学の分野にも強い影響をおよぼし,そのため各分野における奥行きを深めるとともに,手術学全体のレベルを高めることに多大の貢献がなされていることはまことに喜ばしい,一方また,このような細分化傾向の下では,ことさらに,各専門分科相互間における境界領域的諸問題に関する活発かつ真剣な討論が行なわれなければならないし,また実際に第一線の医療機関にあつて臨床の仕事にたずさわるものにとつては,隣り合せの専門分科の人達から示される知見や示唆がどれ程尊いものであるかは云うまでもないことと思う.
 ここで,われわれが取り扱う疾患の中で,外科の専門医諸兄の日常のお仕事に時として関連をもつようになるかも知れない幾つかの手術上の問題をとり上げ,産婦人科医の立場から,私なりのちえ方を述べさせて頂こうと思う.幾分無責任な放言(?)に逸脱する部分もあろうかと思うが,上に述べたような意味で,諸兄のお仕事の上に多少なりともお役に立てば幸である.また逆に外科の立場からいろいろご批判御指導をいただきたいと考えるしだいである.

カンファレンス

シルダー病か脳腫瘍か

著者: 小島憲 ,   松田源彦 ,   福田圀如 ,   上野幸久 ,   松見富士夫 ,   太田怜 ,   隅越喜久男 ,   堀之内宏太 ,   森永武志 ,   原田敏雄 ,   緒方鍾 ,   伊勢泰 ,   芳賀稔 ,   森松義雄 ,   有馬正高

ページ範囲:P.632 - P.636

 森永(司会) 只今から第259回CPCを行います.今回は小児科の方からSchilder病の疑いという珍らしい症例が出されましたので内科は勿論,外科の方も脳腫瘍との鑑別等で活発な討議をお願いします.では担当医の伊勢医官に家族歴,既往歴を伺いましよう.
 伊勢 患者は6歳の男児です.両親は,血族結婚ではなく,健在,同胞2人,共に健康で,家族に遺伝的神経疾患はありません.既往歴では,昭和36年に麻疹に罹患しましたが普通の経過をとつて治癒した他,特に申し上げることはありません.ソーケワクチンの接種を受けていますが,狂犬病などの特別なワケチンの接種は受けておりません.

機械の使い方

胃カメラの使い方

著者: 伊藤庸二 ,   酒井巌海

ページ範囲:P.637 - P.640

 胃カメラの種類としては,GT-V型(普通診断用),GT-P型(集団検診用),GTF型(ファイバースコープカメラ),GT-Va型(幽門前庭小彎,胃体部高位,残胃撮影用),逆視式(噴門部撮影用),GT-P改良型(集検用)などいろいろあるが,初心者にはGT-V型の標準レンズのものが適当である.
 以下に,GT-V型胃カメラ検査手技について,私どもの経験にもとづいた要点をのべる.

トピックス

Polymaskについて

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.641 - P.641

 酸素療法は最近広く普及し,経鼻カテーテル,酸素テント等による方法が気軽に行なわれている.この場合,呼吸が追迫するかチアノーゼを認めるかなどで適応を深く考えないで無批判的に行なわれたきらいがある.
 酸素療法の適応はhypoxia (酸素欠乏)であり,この原因は肺から組織に酸素が達するまでの過程すなわち呼吸,循環,血液系のいずれでも障害が起つてもhypoxiaが現われ,酸素療法の適応となる.そして原因療法によつて状態が改善されるまで,症状の悪化を防ぐ意味からも酸素療法は行わるべきである.

患者と私

医者と患者の人間関係

著者: 榊原宏

ページ範囲:P.642 - P.642

 私が小学校の頃,郷里に有名な耳鼻科のA先生がおられた.門前市をなすと云つた盛況を呈していたが,恐しい先生,どなりつける先生ということでも有名で,私が中耳炎になつたとき,子供心にも泣いては叱かられると,歯を喰いしばつて治療を受けたことを想い出す.この先生は患者が病気のことを聞くと「耳が悪いのじや」の一言.なおも病状の説明を求めると「馬鹿者,お前が病気のことを聞いて何になる,まかせておけ」と大喝一声,患者は「申訳けありません」と引き下がるのであつた.この神がかり的な言動は多数の患者の信頼を受けていたようであつたが,それは新興宗教の教祖的なものであつて患者対医者の人間関係はかくあるべしとは申せないのである.ところが先日医局員がアナムネーゼをとつているのを聞いていると誠に不思議な問答がなされている.「では,1ヵ月間入院されていたのですね.B先生の診断はどういうことでしたか」「それが何とも仰言つて下さらないのでどういうことになつているかわかりません.胃が悪いのではないかと思つています」誠に時代遅れの感があるが,案外にこのようなケースの多いのに驚く.A先生と全く同じではないか.この患者は胃潰瘍の患者であつたがどうして医者もその病気について説明し,患者も一番大切な自分の体の病気について説明を求めなかつたのであろうか.

留学感

ドイツに留学して感じたこと

著者: 松井将

ページ範囲:P.643 - P.643

 私がはじめてHamburg大学のNeurochirurgische Klinikを訪れたのは,1957年の秋である.
 以来6年間を研究員としてここで勉強もし,働きもしたわけであるが,いま省るとき誠に尽ることを知らないものがある.当時は97歳のProf. Nonneがいまだ元気な姿を教室に見せており,彼の後継者で70歳になるProf.Petteや,それより少し若いProf.Kautzky, Prof.Janzenと子供や孫とでもするように談笑しており,一面なごやかな中にも学問の真髄にふれた論議が交されていたものである.

雑感

"ある内科医と縫合糸"のおはなし

著者: 春日豊和

ページ範囲:P.644 - P.644

 わたくしの家の一軒おいて隣りに印刷の町工場がある.24歳の若い主婦が夜半に腹痛で転げ込んで来た。熱発は37.6℃,右下腹部に圧痛があり,デフアンスも著明,急性虫垂炎の諸症はまことに具備している.ヤンヌルカナ,小生,白血球も算定せず,腟診も行なわずに,すぐ患家が,そこの婦長を知つているというので,その某大学病院へ送つた.もちろん,こちとら町医は大学へ送れば片道切符と心得て一向に返事のないのも気にしなかつたが,もちうん「あの患者の手術はうまくいつたろう」くらいには考えていた.ところが一ヵ月程して,その若い主婦が現われた.熱が高く,ゾクゾクし,ノドが痛むというのである,おきまりの「カゼ症候群」であるが,手術はどうしましたと尋ねたところ,「先生が盲腸とおつしやいましたが,向うで手術したところ,盲腸は何でもなくて,右の卵巣出血だったのですよ」とのこと,そしてなおまだ外来に通つているのです.とのことなのでさらに「手術の結果でも悪かつたの?」と尋ねたところ「手術は順調でしたが,傷がふさがらないのです」とて,おもむろに腹帯を解きはじめた.そして術創を見るとパラレクに瘢痕があり,術創の一番下のところに赤い肉芽が覗いている.

降圧剤をめぐる文献と感想

著者: 永井友二郎

ページ範囲:P.645 - P.645

 私たち実地医家が本態性高血圧症を問題にする主な理由は,脳卒中や虚血性心疾患との関連を考えるからだと思う.
 ところで,もし血圧がいくら高くても,それがからだの大小や,皮膚の色のような個人差であるならば,すなわち,「血圧の高いことが生活に何らの支障をもたらさず,その人の天寿をまつとうできるということであれば,私たちは今までほど高血圧症を問題にしないと思う.

海外だより

アメリカ南部での3年間

著者: 片山勲

ページ範囲:P.646 - P.647

 「貧困に対する斗い」と称して,アパラチア山脈地域の貧乏人を向上させようという政治経済運動が,ジョンソン大統領の下で,いま盛んにすすめられています.その手初めとして,昨年の春大統領自ら視察に来たとき足場にしたのが,アパラチア山脈の南端,人口17万,アメリカ73位の部市テネシー州ノックスビルでした.一方,第2次大戦前から貧しい南部に産業を与えるということではじめられたTVA(テネシーヴァリーオーソリティによる電源開発計画)が大半完成し,ノックスビルを中心としてテネシー州,ケンタッキー州には数多くの大きなダムや豊かな人工湖があります.副産物として,景勝,魚釣り,ボート,水上スキーなど観光,スポーツの地として有名にもなつています.ノックスビルにこのTVAの本部があり,その郊外には,有名な核医学研究所やユニオンカーバイト原子力工場のあるオークリッジ市があります.従つて,ここノックスビルには云わばアメリカの先端的な近代科学の成果と,昔ながらの南部の貧困とが,混然と同居しているといつてよいでしよう.
 昭和31年,32年,38年の計3年間,私はこの町のバプティスト病院で過しました.

随筆

それからそれ(その5)—大原総一郎さんと私

著者: 青柳安誠

ページ範囲:P.648 - P.649

 昭和37年5月23日.この日は,私が定年63歳の故を以て,満24年間在職した京大外科学教室を去らなければならない,私の誕生日である.京大は,日本で最初に定年制をしいた大学であるが,恩師島潟隆三先生の時代は,60歳が定年であつた.併し私の在職中に,それが63歳に延び,またその後において,誕生日を迎えた時の学年末ということになつたのである.
 ところで,その年の3月のある日,突然に大原総一郎さんが,三階の私の部屋にみえた.私はその2年ほど前に,胆石症を手術してあげたことがあるのだが,当時,入院されたからということでべットに出向いてみると,久留米がすりの着物でやすんでおられるのをみて,いわゆる社長らしからぬこのかたの,人柄に私はいたくうたれていたのであった.

血液型の知識 血液型の外科領域における問題点・1

基礎的なことがら

著者: 国行昌頼

ページ範囲:P.650 - P.652

はじめに
 血液型とは赤血球の表面または内部にある血液型物質の有無によつてわける血液の分類である.
 ヒトの血液型は現在ではすでにABO式をはじめ40余種類の血液型系をかぞえ,これらの血液型系は互に関係のない独立したもので,個々の血液型系にはいくつかの血液型因子があり,この因子の組合わせによつてさらにいくつかしの種類にわけられるので,すべての血液型因子がまつたく同一であるヒトを求めることは不可能に近いといつてよい.

法律の知識 臨床医に必要な法律の知識・1

医師の過失

著者: 唄孝一

ページ範囲:P.653 - P.656

—法律というもの—
 Q先生,先日はお邪魔いたしました.国民が誰れでもいつでも,たやすく,最高水準の医療を受けられるようにするにはどうすればよいか.いつたい今の医療制度はこれでよいか.それらについて,の先生のあの火の吐くような論鋒をきき,私は冬の夜道を歩きながらも体の中がかつかと燃えてくる思いでした.それにつけても,先生がいつたい法津なんでいうものは,と慨嘆されていましたあの言葉が耳についてはなれません.そのとき,詳しくお聞すればよかつたのですが,お話しの主題でもなかつたし,せつかくのお話の腰を折つてもと思つて黙つていたのですが,あのとき先生が何をいわれようとしていたのか,つぎの機会に是非もつとよくうかがいたいと思います.人一倍医師の責任を強調され医療の道義性を主張される先生があのようにいわれたので,法律を勉強している一員として,改めて法律というものの存在意義や意味を私もめらためて考えました.ただ,同時にそのとき私は先生ほどの人でさえ——先生,失礼をお許し下さい——.なにか法律というものについてちよつと感ちがいされているのではないか,いや,もつと卒直にいえば先生はほんとうに法律を正確にご存知の上でいつていられるのだろうか,という疑いをもつのです.どうも世間には法律を必要以上に重んじ,しかも一方で法律を必要以上に軽んじている.という両方のかたよりがあるのではないでしようか.

症例

小児における成熟奇形腫の1例

著者: 森永堯 ,   大江宏一 ,   西井長武 ,   宍戸元

ページ範囲:P.661 - P.664

 本邦における睾丸奇型腫の報告は1899年片山の第1例にはじまり,じらい多くの人々によつてなされて来た,しかしそのうち小児の成熟奇型腫は極めてまれにみられたにすぎない1).私たちは最近6歳の小児に発生した成熟奇型腫の1例を経験し,約2年間の術後経過を観察する機会を得たので,ここに報告するとともに,文献的考察を加え,睾丸成熟奇型腫の概念を再検討してみたい.

含毛嚢胞の2症例

著者: 中村嘉三 ,   半谷真 ,   植田正昭

ページ範囲:P.664 - P.667

 1833年,Herbert Mayo14)が始めて本症を記載し,1880年,Hodges8)は本症に対して"Pilonidal Sinus"と命名して以来,欧米においては多数の症例と共に,その発生病理および治療法に関する数百にのぼる報告が重ねられている,ラテン語のPilusは毛髪,Nidusは巣の意味である.本症は仙骨部正中線上皮下に発し,表皮嚢胞に似て内に毛髪を含んでいる.しかし,このものは化膿性炎症症状をもつて発病し,発見されることを臨床的特徴としており,一般的には表皮嚢胞とは別な疾患として扱われている.最近私共は慶大外科において,東洋人には稀とされている含毛嚢胞の2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Arthrogryposis multiplex congenitaの1症例

著者: 山本一男 ,   蓑毛正巳

ページ範囲:P.668 - P.671

 Arthrogryposis multiplex congenitaは比較的に稀な疾患であり,1841年Ottoが生下時より存在する多発性関節硬直として初めて報告し,1905年にRosenkranzが55例について統計的考察を加えてArthrogryposisと呼称し,1923年SternがArthrogryposis multiplex con-genitaと名付け,以来この名称が広く使用されているが,病理解剖学的根拠より,Scheldon (1932)はAmio-plasia congenita, MiddletonはMyodystrophia foetalis deformans, Bauer, Bode,はMyodysplasia fibrosa mul-tiplex, Rossi (1947)はArthromyodysplasieと名付けている.
 そしてその病状は骨は二次的変化を除いては通常正常であり,筋肉質の減少と関節周囲の線維組織の増加による関節可動域の著明な制限および関節変形が,比較的に左右対称的に現われることを特徴としている.

外国文献

Thyrocalcitonin,他

ページ範囲:P.672 - P.675

 本欄で紹介されたように,上皮小体エキスから血清Caを低下させる因子calcitoninをCopp(Endocrinol.70:638,1962)が見いだし,賛成者が多いが,実はそれが上皮小体から産生されるか否かには疑問があり,むしろ甲状腺から産生されるのではないかと云われる(Foster,G. V.:Nature 202:1303,1964.それがcalcitoninと同一か否かわからぬので,Hirsch(Endocrinol.73:244,1963)はthyrocalcitoninとよんでいる.thyrocalcitoninはマウス・ラツト・イヌ・ブタ・サル・ヒトなどの甲状腺から証明され,他の臓器からは抽出されない.つまり甲状腺のホルモンであろう.thyrocalcitoninの純化について,Baghdiantz(Nature 203:1027,1964)とHirsch(Science 146:412,1964)との2論文が発表され,ブタ甲状腺から,出発点より500倍強力のペプタイドを得ている.そのluは血清Caを1mg/100ml低下させる.thyrocalcitoninは腎でなく,骨へ直接はたらく.甲状腺疾患におけるCa代謝異常はthyrocalcitoninにもとづくのであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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