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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科20巻7号

1965年07月発行

雑誌目次

特集 術後感染症

開頭術の術後感染症

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.847 - P.851

 外科的手術後に感染症を合併することは,たとえ身体のどの部の手術であろうと,忌むべきことである.とくに感染巣に対する手術でない限り,細心の注意のもとでの無菌的手術ならば当然避け得るものであるので,術後感染の合併は外科医の恥とも考えられる.
 術後感染が予後に重大な影響を及ぼすことは論をまたないが,とくに脳手術後の感染は,急性化膿性髄膜炎を惹起し,患者の生命をおびやかすのみならず,たとえ加療により治癒せしめても,髄膜の癒着,荒廃により水頭症,痙攣発作,視力障害などを後遺することがある.したがつて,開頭術に際してはとくに慎重に感染の予防に意を用い,仮りに術後感染を惹起した場合はできる限り早期に発見し適切な治療によつて感染の蔓延を防止しなければならない.

肺結核の外科治療における術後感染症

著者: 加納保之 ,   浜野三吾

ページ範囲:P.853 - P.859

はじめに
 抗生物質の開発により外科手術における感染に関しては一般に関心が薄れてきているように思われる.しかし肺結核手術後におけるリハビリテーション阻害理由の一半は術後感染に関係しているのであり,軽視すべからざる問題である.
 肺結核症は代表的な慢性疾患であるが本来感染症であり,その外科的治療にはつねに感染の可能性が存する.肺切除術は化学療法剤の出現により感染性合併症が激減し常用的外科治療法として今日広く実用されているが,しかし現在われわれの持つている化学療法剤が静菌的な効果を有するものである限り菌の薬剤耐性獲得に原因する感染性合併症の発生はさけ難い.したがつて,その対策として感性剤留保の勧奨が行なわれ,適応の選択および手術手技の研究等がなされている次第である.結核性合併症は一般に難治性であり,リハビリテーションに支障を来し,時には致命的な結果をもたらす主要な原因になるものである.実際臨床において重要な手術後の感染性合併症は胸腔内感染によるものである.以下これらを中心とし併せてその他の合併症について,われわれの経験を通じて若干の考察を加えてみる次第である.

肺癌における術後感染症

著者: 篠井金吾 ,   早田義博 ,   於保健吉 ,   林源信 ,   河村一太 ,   吉田知司 ,   斉藤雄二 ,   菊田一貫 ,   千葉彰彦 ,   辻啓次郎 ,   仲本嘉見 ,   清水正男

ページ範囲:P.861 - P.866

 近年,外科的肺疾患の中で結核や肺化膿症が下降線をたどるのに反して肺癌患者の増加はわが国においても欧米諸国と同様に顕著であり,従つて肺癌の手術例も増加し,その予後特に5年以上の生存率も種々な角度から十分に検討され長期生存例も得られるようになつた.然るに,その反面未だ手術死亡および術後合併症も少なくない,これは肺癌が他の肺疾患に比して老人性疾患であることにも一因がある,肺癌において,早期死亡例を検討すると,術後の肺炎,気管支炎,気管支瘻および膿胸等の術後の肺および胸腔内感染と手術創の感染とによる合併症があり,これらは他の肺疾患の場合と全く同じである.
 しかし,最近術後の感染症は化学療法の発達や麻酔技術が進歩し,手術前後の管理の向上と相俟つて,手術合併症も減少の傾向を示しているが,その反面,悪性腫瘍に対しての術前および術後の照射療法が普及され,手術適応範囲の拡大が計られ,肺癌においても近時術前照射の症例が増加し,その結果,副作用として術後の気管支断端移開による気管支痩の併発をみた症例等の報告が散見され,その他手術創の治癒遷延や皮膚の放射線潰瘍などが懸念されている.また開胸手術後の感染に関連して起炎菌の耐性の問題も起こり,その予後および治療も複雑性を増している.

心臓外科における術後感染症

著者: 榊原仟 ,   林久恵 ,   荒井康温

ページ範囲:P.867 - P.870

はじめに
 1950年気管内麻酔の発達に伴い胸部外科は著しく発展し,抗生剤の種々発見によりその進歩も目覚しくなつた.しかし腹部の手術に較べ比較的術後感染が多く,その治療にも感染源に対する抗生剤の使用が重要な役割をなすようになつた.病院内にもいわゆる「Hospital Disease」等と云われるようなあらゆる抗生剤に対しての耐性菌が蔓延し,手術機械の消毒,手術操作は勿論のこと,感染予防に対する抗生剤の使用法の選択が重要となり,なお一旦感染を起こした場合は,感染源に対する抗生剤の使用法もむずかしくなつて来ている.著者らは心臓外科に限つて術後感染につき,いささか検討を加えたので最近の傾向とその難治例について記載する.
 なお最近頻発する輪血後肝炎も一種の術後感染症とみなし得るのでその発生と対策についても附記する.

複雑骨折と感染

著者: 水町四郎 ,   鈴木勝巳

ページ範囲:P.871 - P.876

 作用外力が強大になつてくるにともなつて,骨折特に複雑骨折を治療する機会は多くなつて来た.単純骨折の場合には骨折の局所と外界との直接の連絡がないので,正しい整復と適当な固定によつて治癒におもむかせることが出来るが,複雑骨折の場合は外界との直接の連絡があるため,感染を起こす危険が多い.そのために正しい整復,適当な固定以外に感染の防止ということが大切になつてくる.化学療法の進歩は創感染の方面でも大いに進歩をもたらしたが,骨感染のもつ特殊性と耐性菌の発現によつて,複雑骨折の治療は現今においても,むずかしいものの一つと言うことが出来る.わねわれの病院においては新鮮な複雑骨折を取扱う機会も多いが,またすでに感染した症例をもち込まれることも,また多い.すでに感染の症例の治療については,治療法の選択に迷うことが多い.われわれの所に来院した時,すでに感染を起こしていた症例の2,3を検討して見ることにする.

空中細菌による手術野の汚染

著者: 長田博之

ページ範囲:P.877 - P.880

 患者が療養する病院の環境のうち,そのすべてを病院に依存しなければならないものに手術室がある.この建前でゆくと,病院はこの室で手術に従事する人,手術を受ける人,さらにこの間にあつて手術の進行を介助する人などの立場からと,ここで使用されるものなどから,その設備と運用が考えられないと,手術操作の円滑な進行が妨げられ,時には,手術が巧みに行なわれても,その時あるいはそのあとで,不測の災がおこり,療養期間の延長・再手術・致命などをひき起こすことがある,患者の側からみた不測の災の一つに手術室での感染があるが,これを院内感染の一つに含めているのもこのような考え方によるものと思われる.
 手術室での感染の原因は複雑でいろいろな要素が含まれている.それには手術そのものと技術以外の要素,すなわち,手術材料・器械・器具・製剤・術者の手・手術野・水の滅菌または消毒と保全,使用の時の心構え,作業をする人の呼吸・衣服・毛髪・履物からの排菌,手術室の中の目につかない落ちついている塵埃と細菌,室内に浮遊している塵埃と細菌などがある.

グラフ

キュンチャー氏骨髄釘による骨折手術

著者: 伊丹康人

ページ範囲:P.833 - P.838

 適応:上腕骨,尺骨,大腿骨,脛骨の骨幹部骨折で,骨折部が骨幹の上・下1/3の間にあるもの①骨折線は横骨折,斜骨折いずれにも応用できる②③.下1/3の斜骨折では,末梢骨片がややずれるために,0.5cm前後の短縮がおきる④.第3骨片を有するものでも骨幹部の場合は有効である⑤。環状の第3骨片を有する骨幹中央骨折も適応である⑥.

脳血管撮影装置の工夫—一方向撮影装置

著者: 脇坂順一 ,   倉本進賢 ,   渡辺光夫 ,   吉村恭幸 ,   高根重信

ページ範囲:P.914 - P.921

緒言
 脳血管撮影は1927年Egas Moniz1)により始められたが,その後種々の改良が加えられ現在では脳疾患に対する重要な補助診断法の1つとして広く行われている.
 しかし,この発展をもたらした最初の因子は,脳血管撮影に伴う副作用の主な原因となる造影剤の改良であつた.現在では造影能の良好なしかも重症な副作用も殆んどない造影剤ができてこの撮影も安全に行なわれるようになつた.

外科の焦点

グラム陰性桿菌による術後感染症

著者: 石井良治 ,   石引久弥 ,   大井博之 ,   恒川陽 ,   中村泰夫 ,   内田博

ページ範囲:P.839 - P.845

はじめに
 化学療法によつてもたらされた耐性菌問題と菌交代症は臨床上では感染症の病態の変貌と治療面における障害としてすでに注目されているところである.外科領域では優れた新抗生剤,特にペニシリナーゼの影響を受けにくい新合成ペニシリン群は耐性ブドウ球菌(ブ菌)感染症に対して威力を発揮していると云えよう.しかし,この反面現在までいわゆる弱毒性菌として臨床的に余り考慮されなかつた他の細菌のうちグラム陰性桿菌が次第に意義を持ち1)2),重篤な術後感染症を引き起こすケースが少なくない.われわれは術後感染症の検討を永年にわたり行なつて来ているが,最近術後に発生したグラム陰性桿菌敗血症を経験したのでこの問題の重要性を痛感している.そこで以下にわれわれの成績に基づいてグラム陰性桿菌による術後感染症の現況にいささか触れてみたいと思う.

緊急検査法 血液検査・1

血色素,ヘマトクリット,白血球数

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.881 - P.883

 ここでとり上げるのは,臨床医がベットサイドで必要とする検査の術式である.したがつて精密な機器も不要であるし,訓練された技術員でなくてもよい.誰がいつ,どこでやつても実施できるという,迅速にできる簡易検査を主に紹介する.

実地医家のための診断シリーズ・6 対談

輸血問題をめぐって

著者: 徐慶一郎 ,   長洲光太郎

ページ範囲:P.884 - P.887

 長洲 今日は血液型,血清肝炎,これに関連してVirusについて,徐部長のお話をうかがいたいと思いますが,最初に実際輸血をする場合に血液型というものをどの程度に調べたらいいかということ.
 徐 供血者と受血者の間に型の不一致がないことを必ずたしかめなければならないのですが,それにはクロスマツチが必要です.両者の血球と血清を分けて相互に反応させてみるので,これで凝集反応が起らなければ,型の名称はわからなくても,とにかく不一致はないことだけは確実です.型にはAB型,Rh型MN型等多数ありますが,それ等のどこに属するか不明でも,不適含がなければ輸血して差支えないのですから,

診断のポイント・6

新生児のイレウス

著者: 松林冨士男 ,   小金沢滋 ,   海老沢健二 ,   吉井勇 ,   戸塚哲男 ,   佐藤薫隆

ページ範囲:P.889 - P.892

 司会(松林)本日は生後2日の男児の症例のConfe-renceを行ないます.まず最初に受持医から病歴などの説明をお願いします.
 受持医(小金沢)患児は生下時体重3,415g,胎齢309日の成熟児で,当院で出生し,妊娠,分娩共に特記すべき異常なく,生後28時間で腹部膨満著明となり,グリセリン5ccの浣腸により初めて大量の胎便の排出がありました.胎便々性は正常で,この胎便排出により,腹部膨満は一時軽快しましたが,3時間後再び膨満し初め,さらに5時間後より嘔吐するようになりました.そしてさらに4時後すなわち生後43時間では,持続的に吐出する嘔吐内容によつて,口角部に糜爛を生じてきました.そこでX線検査が行なわれましたが.はつきりした診断が得られず,また腹部膨満はますます増大する傾向が見えたため,小児科へ紹介されました.

手術手技

冠動脈の手術法—(1)直接法

著者: 麻田栄 ,   武内敦郎

ページ範囲:P.893 - P.897

 昨年秋,東京で行なわれた第17回日本胸部外科学会におけるパネルディスカツション「胸部外科の将来」の席上,Albert Starr教授は心臓外科の将来の課題として冠動脈疾患の手術に言及されたが,改めてこの方面の外科の重要性とむずかしさを痛感させられたしだいであつた.世界各国でこの方面の研究がはじめられてから30年近い時が流れ,決して新しいテーマではないのであるが,心臓外科の他の領域のごとく,比較的短時日の間に長足の進歩をとげたものと比べて,今なお夫解決の点が多いのである.その理由として考えられる点は,1)冠動脈疾患がはなはだ多様性であるため,末梢動脈の閉塞性疾患のごとくに画一的な術式を全症例にあてはめることができないこと,2)罹患冠動脈が解剖学的にも機能的にも心筋と直結しているため,病変の程度に比して疾患としては甚だ重篤であり,かつその診断ならびに治療法も,末梢動脈疾患の場合にくらべてはるかに複雑かつ困難となつていることなどであろう.
 したがつて現在,あるタイプの症例には種々の間接法(Myocardial revascularization)が適当とされ,一方他のタイプには直接法が行なわれている状態であつて,かかる治療法が一般には容易に普及せず,欧米においてもごく限られた施設で少数例の報告がみられるにすぎないのである1)2)3)4)5)

外来の治療 実地家のための外来治療・3

熱傷・骨折・腰痛治療・小さな工夫

著者: 出月三郎

ページ範囲:P.899 - P.901

3.熱傷
 熱傷もまた外来診療の対象として重要である.熱傷の場合は患者が医師を訪れるまでに,本人や周囲の人が如何に処置したかその第1処置がはなはだ大切で,これによつてその後の予後が大変に違つてくる.最も注意すべきは,受傷後被服などを脱がせる時または輸送途中などに,熱傷部の皮膚を剥がさないように慎重に取扱うことである.熱傷部にただ油を塗布し清潔のガーゼなどで被つて来ればよいのに,中には味噌をつけたり,蒲団綿などで被つて来る患者もあつて,それを取り除くだけでも苦労をしなければならない.
 全身の皮膚の1/5以上に及ぶ熱傷は,すでに外来治療では無理である.外来で治療できる熱傷で,治療上最も大切なことは,化膿させないことと患者に痛みを感じさせないことである.これがためには治療上の総ての操作を,無菌手術を行なうと同様にする.また熱傷部の皮膚を出来るだけ温存し水疱や表皮などを出来るだけ剥さないように務めなければならぬ.

アンケート

出血性シヨツクの救急処置—救急疾患

著者: 井口潔 ,   渋沢喜守雄

ページ範囲:P.902 - P.904

 急性出血にさいしての致死出血量を動物(犬)でしらべて見ると,略々50cc/kg (体重)であり,これは循環血液量の1/2強に当る.出血性ショックという診断がまちがいないとすれば,まずとるべき処置は,血液の喪失を補つてとりあえずの救命をはかることであるが,この場合何をもつて血液喪失量を補うかが問題となる.
 急性出血の場合,循環血液量は上記のごとく正常の約1/2に減少すれば死に至るに対し,ヘモグロビンのみについていえば,正常の1/3〜1/5にまで減少しても生命維持に必要な最低限の酸素運搬能は保持される.したがつて,救命処置の緊急に目標とするところは,ヘモグロビンの補充ではなくして,循環血漿量の回復である.私共の教室の動物実験の結果を見ても,出血後直ちにAlginon,Dextranのような血漿増量剤を出血量と同量だけ輸注してやると,輸血の場合と同様40cc/kg (体重)まではこれを救命るし得ことが分つている.このさい5%糖液,生理食塩水のような晶質液では,血圧,循環血漿量の回復,保持効果が劣る為,出血生体の救命にははなはだ不満足である.

Pain clinic・1

顔面神経麻痺,顔面痙攣

著者: 西邑信男

ページ範囲:P.906 - P.910

 麻酔科の1つの試みとして,ペインクリニックを私どもがはじめてよりすでに5年有余になるが,正式に麻酔科外来として発足したのは4年前のことである.この間取りあつかつた患者は数百例に及ぶが,適当な場所と周囲の理解にあまりめぐまれず,外来患者数は延び悩みの状態である.多くの疾患をこれまでペインクリニックの対象として治療してきたが,このうちで,一般臨床家がもつとも多く見,治療を必要とする疾患について述べ,読者の参考に供したいと思つている.

他科の知識

医療用リニアツクについて(3)—臨床応用

著者: 梅垣洋一郎

ページ範囲:P.922 - P.923

 前2回は主にリニアツクの構成や機械の特長について述べた.どんな名刀であつても使い方で利器とも兇器ともなるのと同じ様に,リニアツクもその効果は治療する対象や,治療の態度で異つてくる.癌の放射線治療はいわば射撃のようなもので的に当ればよく治るし,当らなければ治らない.きわめて当り前のことである.けれども狩猟と違うのは癌の治療は要するに銀座の雑踏の中で賊を迫つかけるようなものでまわりにいる癌でない細胞にも弾丸が当る危険が大きい.広い範囲に弾丸が散らばる霰弾のような治療では話にならない.リニアックの治療が従来の治療よりも優れているとすれば,射撃の精度がよくなつてよりよく当るようになつたからであろう.けれども一番大切なことは標的をはつきりと見定めることにある.つまり癌の占居している部位を診断することである.現在放射線治療がよい成績を挙げているのは診断の精度と治療の精度がよく合つている場合である.頭頸部や子宮等の癌がそれである.しかし胸腹部の癌ではなかなか診断がむづかしくて精度が悪く機械の精度につりあつておらず,したがつて成績もなかなか挙らないわけである.

他科の意見

泌尿器科から外科への希望(1)

著者: 仁平寛巳

ページ範囲:P.924 - P.925

 泌尿器科というと直ちに連想されるのは皮膚科という言葉であろう.たしかに日本においてはすべて皮膚泌尿器科から分離して泌尿器科が新設されるという経過をとつている.ところがこの皮膚科と泌尿器科とは性格の全く異なる領域であり,両者は単に性病を仲介として結びつけられていたに過ぎないもので,泌尿器科の診療内容からいうと皮膚科よりは外科に関係が深い.すなわち尿路を含めた後腹膜腔と男子性器の疾患を対象とし,治療の手段として手術を多く必要とするので泌尿器外科といつた方がわかりやすいかも知れない.一般外科の中でも脳神経外科,心臓血管外科等と専門化されて来たように,泌尿器科は検査,診断,治療等において複雑な器具と高度に訓練された技術を必要とするがゆえに一般外科から分れて専門化されたものと考えている.実際欧米においては,泌尿器科が独立した診療科目となつていない病院ではUrological ClinicはSurgicalDepartmentの中の一つのDivisionとなつていて,日本式のDermato-urologyという診療科目はなく,これを言うと不思議な顔をされるそうである.
 ところで日本の現状は泌尿器科専門医の数が非常に少なく,大学病院以外では限られた少数の大病院に専門の泌尿器科が設けられているに過ぎない.そして大部分の病院では,この分野の疾患の診療は外科において行なわれているものと考えられる.

機械の使い方

直腸鏡の使い方

著者: 原田尚

ページ範囲:P.926 - P.928

 直腸鏡検査(proctosigmoidoscopy)は,便秘下痢下血原因不明の下腹部痛および不快感等の症状を呈する大腸疾患の診断に欠くべからざるものである.しかも本検査は肛門および直腸下部の急性炎症等を除いてはきわめて安全かつ有効であり,臨床的にまたは組織学的に広く用いられている.

トピックス

アメリカのI.C.U.について

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.930 - P.931

 米国の病院で過去5〜6年の間に急に盛んになってきたものにI.C.U.がある.筆者は米国で一般外科ついで胸部外科のレジデントをやるためいくつかの病院で勤務したが,その中で最も印象的なI.C.U.の運営を行なつていたのはDetroitのChildren's Hospital of Michiganだつた.病床数は300余りにすぎなかつたが,廻転率が早くミシガンの殆んど全部から珍しいまたは難治の小児患者が送られてくるので,小児疾患を勉強する者には宝庫のような観があつた.この病院の一角にベット10位をひとつの大きな部位に配置した所があり,ここにはI.C.U.と標札がでており,その横に看護婦が右示指でこちらを指さしている絵がでていて彼等特有のユーモアで"I See You!"と書いてあつた.しかしI.C.U.は実はIntensiveCare Unitの略で邦訳すると強化看護病棟とか濃厚看護病棟とかいうことになる.ここには科の如何を問わず,疾患の種類にかかわらずとにかく院内全部から重症の患者だけを集めてある.この部屋では各病床の間のスペースを大きくとつて働きやすいようにしてあり,各ベットごとに壁にはめこみの吸引パイプ,血圧計,流量計とネブライザー付きの酸素パイプ等がついていて,ゴム管さえつなけば吸引や酸素吸入が直ちにできる.

海外だより

ドイツ留学所感—ある断章

著者: 柳沢文憲

ページ範囲:P.932 - P.933

 筆者は過去3年ほどドイツへ留学した.帰国にさいし,アレキサンダー・フォン・フンボルト財団の報告書に次のような所感をかき加えた.
 Sein und Wesen der Akademiker in Deutschland ist nmeiner Meinung nach ausgezeichnet durch drei wese-tliche Komponente: 1.Dignität 2.Recht 3.Verantwortungsbew-usstsein.

患者と私

開業して感じること

著者: 関根博

ページ範囲:P.934 - P.934

 Deloreによる「患者は医師に何を望むか」という質問に対する回答調査によると次のごときことが述べられている.
 1.いつでも患者を助けに行けること. 2.非常に多くのことを知つていること. 3.常に最新の科学的知識を持つていること. 4.献身的で快活で熱心で愛他的で忍耐強く楽天的であること. 5.身体強健で疲れを知らぬこと.
 しかし私は以上のどれにも満足できる医師ではない.またこれを満足できる医師はどんなにか現医療制度下において不幸な結末をとげることかと考えながら私と患者関係を考え始めた.一開業医としての患者関係は旧来の村長,校長,医者的対人関係から対職業的関係化しており日常患者生活内で,関根先生という言葉より関根さんという言葉を多く聞くことが最もこの関係を明確にするものと思われる.

雑感

耳鼻咽喉科より外科へ

著者: 田中敬明

ページ範囲:P.935 - P.935

 耳鼻咽喉科は外科の一分科ですから,外科学の原則が耳科学に通用することはもちろんです.しかし細部の点では耳科特有のこともあり,その中には外科の参考になることも少しはあるのではないかと思います.

小児科の第一線で想う

著者: 毛利子来

ページ範囲:P.937 - P.937

 最近,小児外科の必要性が叫ばれ,しだいに脚光をあびつつある.これまで手をつかねていた病児が,新しく誕生した小児外科の手で救われるのを見るのは,百万の味方を得たおもいである.
 ただ,私は一介の町医者として,その陰にハデではないが考える必要のある一連の小児の外科的疾患が,とり残されているような気がしてならない.それらが,ハデでないからといつて,旧式の技術にのみ,ゆだねられているのを目にするのは,つらいことである.

外国雑誌より

Basedow症におけるLATSの意義

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.936 - P.936

 long-acting thyroid stimulator(LATS)はAdams & Purves(Proc.Univ.Otago Med.School34:11,1956)の報告以来,ひろく承認され,本邦でも野口博士(J.Cl.Endocr.24:160,1964)の追加研究がある.B病がLATSによるものなら,活動期BにはLATSが100%に証明され,治癒後は消失しなくてはならぬはずだが,今日のところ30〜40%の活動Bに証せられるにすぎぬ,(Solomon,D.H.Cl.Res.12:119,1964).McKenzie,Purvesらの改良法で濃縮した成績では100%に証明されるという(Werner編.Thyrotropin,C.C.Thomas,1963).したがつてLATSが証されぬときは連続何回も検すべきであるが,そうした微量のものでBがおこるのか.McKenzie(JCE 25:425,1965)はB病5例をI131で全治せしめたが,その後2年,依然としてLATSは血中に全例みとめられている.35年前亜全別でeuthyroidとなった患者血中になお,高価のLATSが証明されている例もある.

MEDICAL Notes

熱傷免疫療法/慢性膵炎

ページ範囲:P.938 - P.938

 熱傷の初期ショック相の死亡は現在残り,むしろ,2〜3週後のfulminating toxemia死が最も多い.Sim-onart (Tr.Am.Coll Phys.20:50,1952)によると数時間から数日後に患者血漿euglobulin分屑に毒性物質が証明されるという.Feodorov (Proc.VI.Internat.Soc.Blood.Transf.p.54,1956)一派は回復期患者血清を用いて重症熱傷治療に卓効をみとめた.体温は低下し,白血球正常化し,呼吸困難が去つたというし,創治癒,上皮形成も促進された.しかし,これに反しPus-hkar (Khirurgia p.948,1955)は体表15〜90%のⅡ〜Ⅲ度熱傷に同様の免疫療法が奏効しなかつたとしている.熱傷皮膚に対する抗体は3〜8日ごろ証明され一旦消失するが回復期に再びあらわれ約6ヶ月つづく.ソビエトとアメリカとを比較すると,回復期血清を用いた治療成績はアメリカの方が最近はよいようだ.英国ではNationalResearch Council(1963)で,免疫療法がとくにすぐれているという有意の結論は得られていないとしている.英国のCraig (Plast.Reconst.Surg.35:263,1963)は10歳以下,体表35%以上のfull-thickness burn 10例を,18〜65歳の熱傷回復期の血清で治療した.

血液型の知識 血液型の外科領域における問題点・3

実際的なことがら

著者: 国行昌頼

ページ範囲:P.939 - P.942

ABO式血液型の検査
 血液型不適合による輸血障害防止の第一は,ABO式血液型の同型輸血の厳守であり,そのためのABO式血液型の正しい判定である.

カンファレンス

閉塞性動脈炎か(第1回)

著者: 小島憲 ,   石川浩一 ,   松田源彦 ,   手墳正二 ,   福田圀如 ,   布施為松 ,   小沢啓邦 ,   藤田五郎 ,   太田怜 ,   岸本孝 ,   森永武志 ,   堀之内宏太 ,   笹村義一 ,   前田昭三郎

ページ範囲:P.943 - P.948

 藤田(司会) 只今から第277回臨床検討会を行ないます.75歳の男子で,臨床診断は閉塞性動脈硬化症,高血圧症ということになつておりますが,いろいろな事情で一昨日手術が実施されましてさらに詳しい所見が明かになつておりますので,この方はあとから追加させていただく予定です,今日は,本院顧問の石川教授が出席くださつており,いろいろ教えていただけることになつておりますから,皆さん大いに活発なご意見なりご質問なりを出してください.
 外科の担当の前田医官,初めに既往歴,現病歴を話してください.

症例

乳房異物

著者: 高橋勇 ,   伊藤久寿 ,   高田貞夫 ,   井上善弘 ,   岩淵正之 ,   林和雄

ページ範囲:P.949 - P.953

 成人女性の象徴である乳房の大きさは個人差はもちろん,人種的にも非常な相違があつて一概には論じられないが,乳房の発育が異常に小さい小乳房症あるいは過大である乳房肥大症は,いずれも本人にとつては深刻な問題として悩むものであろうことは想像される.その多くは機能的な疾患とはいえないものであつても,本人は異常なまでに意識して劣等感を抱く場合もあり心理的な疾患とでもいうべきである.
 本来の外科の立場からすれば,臨床における治療の対象となるものは,病苦と機能障害を伴うものであるが,従来より異常状態を正常にするという目的のために多くの美容手術が行なわれ,さらに近年これらを拡大して形成外科的な立場から種々な方法が構ぜられるようになつた.

先天性胃壁筋層欠損による新生児胃穿孔の2症例

著者: 吉井勇 ,   松林冨士男 ,   小金沢滋 ,   海老沢健二 ,   戸塚哲男 ,   佐藤薫隆

ページ範囲:P.953 - P.956

 1825年Sieboldが新生児の原因不明の胃穿孔例を報告して以来,種々の原因によるものも含めて新生児胃穿孔症例の報告をみるようになり,内外文献で大凡100例を数えるに至つた.
 われわれは最近,新生児の先天性胃壁筋部分的欠損による胃穿孔の2症例を経験した.この種の症例を文献上32例(本邦5例,外国27例)を集め得たので考察を加え報告する.

肩甲軋音症の1例

著者: 木下博 ,   吉松俊一 ,   杉山義弘

ページ範囲:P.956 - P.961

緒言
 肩甲骨の自動運動に際し,肩甲骨と胸郭の間で,弾撥するような異常軋音を発するものを肩甲軋音症と総称し,非常にまれな病的現象である.軋音の軽度なものは生理的摩擦音と考えられて病的意義を有しないが,肩甲軋音症といわれる高度なものは,しばしば数m離れたところでも聴取され,疼痛や倦怠感をともない,治療の対象となる.この疾患については1867年Boinetが初めてパリー外科学会で報告してより,軋音の原因や発生機転に興味がもたれ,Küttner9),Grünfeld10),Hohmann11),Bergmann13),Geyer14)等の報告がある.
 Mauclaire (1904)は音の大きさをFroissment, Frott-ment, Craquementの3群に分け前2者を生理的摩擦音とし,Craquementを病的原因によるものとした.生理的摩擦音の頻度につきBassompiereは健康な兵士72人を調査して51人に認め,Grünfeld10)は100人中31人(31%),Eufinger12)は210人中59人(28%)の高率にみている.

外国文献

麻酔後の肝壊死,他

ページ範囲:P.962 - P.965

 halothaneが普及してから麻酔後の肝壊死が再注目されてきた.Beecher (Ann.Surg.140:2,1954)の莫大な集計では麻酔死は1560回に1例となつているが,肝壊死による死は1例もなかつた.Brunson (New Eng.J.Med.257:52,1957)の剖検では3229麻酔死のうちに62例の肝壊死があつた.肝壊死がだんだんふえていることは世界共通だが,生検あるいは剖検によらないと,その確実なcriteriaがない点がこの方面の弱点である.Herber (Arch.int.Med.115:266,1965)は内科的立場でこの点を精査した.およそ800回のhalo麻酔に1例の肝死がおこり,13例の肝壊死を精査すると12例がhalo麻酔であつた(うち3例死亡).やはり諸検査上確実な診断法がなく,生検が最も確か.それで黄疸,肝胆道疾患,肝糖原減少のある患者にはhalo麻酔を避けるのが一番よい予防法であろう.術前,副腎皮質ホルモンは予防上完全ではないが,多少の庇護作用があるようだ.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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