icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科20巻9号

1965年09月発行

雑誌目次

特集 腹部外科の臨床 綜説

腹部外科の進歩

著者: 島田信勝 ,   飯塚積

ページ範囲:P.1137 - P.1146

はじめに
 腹部外科に関する最近の内・外文献から,特に臨床的に注目される診断および治療上の進歩について紹介してみよう.腹部外科の領域は広く紙面は限られているので,重点的に興味のあるものについて綜説的にまとめてみる.

腹部外科の動向

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1147 - P.1150

はじめに
 19世紀後半に腹部外科の端緒がひらかれると,つぎつぎと第1成功症例の発表があり,20世紀には外科学の中心となつた.最近では脳外科,麻酔学,心肺血管外科,小児外科などの順に新しい分野が開拓されてきたので,華ばなしい業績が眼を引く.しかしこれ等専門的な分化した部門以外ではやはり腹部外科の比重は最大なものといえよう.腹部外科はもはや行詰つたと思うのは近視眼流の早計である.腹部外科は依然として外科学の中心で,最も進歩した部門であるから,その業績の集積は莫大なものがあり,依然として主流をしめている.こういう分野での症例をたんねんにつみかさねてゆくことは極めて大切であつて,思いがけない新事実も発見されるのである.
 最近は癌治療とか,その早期診断とか,内視鏡学の発展とかいう面で,内科外科をとわず消化器病学がだんだん確立しているので,各国でGas-troenterologiaが発展しているが,なお外科からの寄与の比重は内科にくらべると軽きに失すると思う.消化器病学が内科にかたよるというのは当を得た状態ではない.

開腹術の術前処置

著者: 秋田八年 ,   西村基

ページ範囲:P.1151 - P.1156

はじめに
 開腹術が安全に行なわれるためには選択的手術と緊急手術を問わず,術前にできるだけ患者の状態を正確に把握し,これに対する充分な術前処置が施されねばならない.
 以下,実際に患者に当つてわれわれが実施している方法を参考までに記載した.

開腹術後の管理

著者: 木村信良

ページ範囲:P.1157 - P.1162

はじめに
 開腹手術の術後処置は日常広く行なわれていることで,成書にも詳細に記されているのでここにそれをくり返す必要もないと思う.しかし,術後療法についてその一つ一つを検討してみると,必ずしも合理的なことばかりではなく,経験的あるいは習慣的なものが依然として行なわれている場合もあり,また,施設毎に考えかたが多少異なつていることもある.本項では,私共の教室で現在行なつていることを紹介し,少しく術後の合併症についてもつけ加えたいと思う.

開腹術の麻酔

著者: 中谷隼男

ページ範囲:P.1163 - P.1168

はじめに
 開腹術に限らず手術に当つて麻酔法が必要であることは無論のことであり,その際麻酔法の選択に当つては侵襲に対する身体的保護,精神的保護の両面より考慮決定すべきである.さらに腹部手術においては腹壁の弛緩は最も望ましい条件である.しかしいかなる麻酔法を使用するかは術者の好き嫌いで決定されることが多い.ある麻酔でたまたま不幸例を経験すると爾後絶対にその麻酔を行なわぬという人は実際にはたくさんある.
 戦後アメリカの麻酔の影響をうけて吸入麻酔剤による全身麻酔(全麻)が取り入れられ近年は各大学に麻酔科も設置されるに至つた.ことに気管内麻酔による全麻が盛んになつた.その結果麻酔は専門家が引受けてくれるので大学病院あるいは大病院では手術者は麻酔に関する概念をあえて必要としない.腹筋の弛緩も適当にやつてくれるのできわめて安易な気分で手術しているのが現状かと思う.

研究と報告

小児虫垂炎の臨床的観察

著者: 池田恵一 ,   三戸康郎

ページ範囲:P.1171 - P.1175

 小児期における虫垂炎は,比較的発生頻度が高く,かつ,時には重篤な経過を取る事があり,その病像や予後の特異的な点から,小児の外科的疾患として重要な地位を占めている.疾患としても,その症状においても成人の虫垂炎と本質的には異なるものではないが,疾患に対する生体反応や合併症等の点において,全く異なつた病像を呈する事から,診断治療に当つて留意すべき点が多い.私達は,九州大学第2外科における昭和17年より昭和37年に至る21年間の小児虫垂炎の臨床統計的観察を試みたので報告する.

Malrotationに基づく先天性十二指腸狹窄症について

著者: 西島早見 ,   菅野理

ページ範囲:P.1176 - P.1178

 近時,外科学の進歩とともに小児外科の特殊性が広く認識されるに至り,先天性の各種奇形に対する手術的療法の成績も漸次好転しつつある1)〜5).十二指腸閉塞ないし狭窄症は比較的まれな疾患で,本邦においては岡田6)の報告以来50例内外にすぎず,かつ手術治験例も極めて少ない5).著者らは最近消化管のMalrotationによる先天性十二指腸狭窄症の1例を経験し,手術的治療を加えて治癒せしめえたので報告し諸賢の御批判を仰ぎたいと思う.

胃に原発した惡性血管肉腫

著者: 大島正弘 ,   潮田昇 ,   福村高和

ページ範囲:P.1179 - P.1184

 悪性血管腫瘍または血管肉腫について内外の文献を通覧すると,その概念,分類および悪性度などに関係して,多数の病理学者の間に種々の異なつた意見,ときには全く相反する見解が報告されている.Kinkade1)も指摘しているようにその定義,分類および名称の著しい混乱は,臨床成績の統計にも多大の混乱をまねく結果となり,血管肉腫に関する正確な資料を集計することは極めて困難な現況である.
 われわれは極めて稀有な胃に原発せる血管肉腫の1例を経過したので,組織学的所見を主にして報告し,併せて悪性血管腫瘍に関する文献的考察を行なつた.

潰瘍に対する胃切除術後の蛋白代謝,とくに術後栄養管理のそれに対する効果について

著者: 佐藤正

ページ範囲:P.1185 - P.1191

 胃切除術後患者の諸代謝は一般に極めて著明に変動する.これは手術侵襲そのものによるの他,一方術後栄養摂取の制限せられることなどによつても強く代謝が影響されるからである.術後管理の目的の一面はかかる異常を適正に処理して,術後早期の経過を円滑ならしめ,さらには遠隔成績にも貢献せんとすることにある.
 わたくしは胃切除術後蛋白代謝の2,3の面を改めて検討し,種々方式の術後栄養管理のこれに対する効果をみた.胃癌の場合にもほぼ同様の結果がえられたが,ここには胃・十二指腸潰瘍の場合について述べる.

巨大胃乳嘴腫の組織学的検討

著者: 大同礼次郎 ,   中川幸英 ,   松本真一 ,   石本雄康

ページ範囲:P.1191 - P.1194

 胃に発生する腫瘍は大部分が癌であつて,良性の腫瘍は一般に稀なものであるが,その中で最も多くを占めるのはいわゆる上皮性のポリープである.最近はレ線透視.胃鏡,胃カメラ等の技術的機械的発達によりこのポリープもかなり多く発見され,また手術されて,その報告例も多数に昇るようになり,もはや.稀とはいい難いようになつた.然しながらこれが胃癌の発生母地の一つとして重要なある位置を示し,種々の検討が加えられているが今なお不可解な問題が残されており,今後の研究に俟つべき点も少なくない.
 一般にその大きさは径2cm以下が大多数であり,少なくとも拇指頭大以上に及ぶものは非常に稀なようである.われわれは最近鵞卵大にも達するPapillomaを経験し.またその組織像は極めて興味あるものであつたので,ここに報告し,少しくその組織学的見解についても考察を加えたい.

横隔膜ヘルニアの経験

著者: 志村秀彦 ,   荒木正実 ,   岡沢猷夫

ページ範囲:P.1194 - P.1201

 横隔膜ヘルニアは稀な疾患であるが,放置すると高度の発育障害や栄養低下を来たしたり,続発症のため生命を失うことも少なくない.特に最近新生児期に横隔膜ヘルニアを発見し,可及的に早く外科的処置を加えることが最良の処置と考えられているので,この疾患に対する認識を深めることは極めて有意義なことと思われる,
 われわれは最近8例の本疾患を経験したので,その概要を報告すると共に本疾患の診断,合併症,手術適応等について2,3考察を加えたい.

強化麻酔による腹部手術後に生じた脱毛症について

著者: 中田嘉則 ,   伊崎駿

ページ範囲:P.1202 - P.1203

 クロルプロマジンは,その特異な中枢作用と自律神経遮断作用を有する為,広く臨床各科において使用されているが,一方,それに伴つて,種々な副作用が報告されるようになつた.中でも,川村他,平田他,皆見他等による強化麻酔後の脱毛症についての報告はわれわれの興味をひくものである.
 われわれも,腹部手術に対して,腰麻と共にカクテルM1による強化麻酔を行ない,術中,患者の安静,血圧の安定を計り,好結果を得ているが,時として術後において,頭部の脱毛,臀部の褥創等が見られたので,これらの症例をまとめて報告する次第である.

腹壁結核の1例

著者: 三輪浩次 ,   塚田義明

ページ範囲:P.1204 - P.1207

 腹壁に発生する結核については,その発生機転,形態等より従来色々の名称が与えられている.すなわち,Isolierte Bauchdeckentuberkulose (Melchior)1),Primäredh.Idiopathische Bauchmuskel tuberkulose (Hiller)2),腹壁結核(藤田)3),腹囲結核(盛)4),腹壁冷(寒性)膿瘍などである,本邦においても,山村等5)が,25年間に53例を集め得たように,そう稀のものではないが,前記の多くの名称が示すように,その発生機転についての疑義より注目されて来ているので,最近当教室で経験した1例を,若干の考按を加えて報告する.

短食道を伴った食道裂孔ヘルニアの1手術例

著者: 可知稔己 ,   渡辺裕 ,   佐々木英 ,   鈴木誠

ページ範囲:P.1208 - P.1211

 わが国でも多数の横隔膜ヘルニアが報告されているが,外国の例に比較して食道裂孔ヘルニア特に短食道を伴うものは少ないようである(井出ら),いわゆる真の短食道胸胃は稀であり,1836年Brightが初めて剖検例を発表したといわれる.Sweetは食道裂孔へルニアを傍食道型,短食道型(滑脱型)と,さらに先天性短食道とに区別しているが,この後2者はたがいに区別しにくい時もある.
 われわれも短食道を伴つた滑脱型の食道裂孔ヘルニアの1例を手術する機会を得たので報告したい.

閉鎖孔ヘルニアの1治験例

著者: 吉武泰男 ,   吉見博夫 ,   島田喜一郎

ページ範囲:P.1211 - P.1213

 閉鎖孔ヘルニアは稀有な疾患で,本邦では大正15年川瀬の報告以来昭和34年までに15例の報告を見るに過ぎない.われわれは最近本症の1例を治験したので報告する.

横隔膜ヘルニア(Morgagni氏孔)の1治験例

著者: 鈴木茂 ,   吉田則武 ,   松村一雄 ,   河西健夫

ページ範囲:P.1213 - P.1215

 横隔膜ヘルニアは1579年Ambroise Paréが剖検例を報告し,1874年Leichsternが臨床的に診断して以来数多の報告例が見られる.しかしヘルニア全症例に対する比率から見ると比較的稀な疾患で,米国でのヘルニア手術患者3395例のうち鼠径ヘルニア2559例(75.4%)に対し,横隔膜ヘルニアは僅か40例(1.2%)に過ぎない.本邦でも昭和29年までには44例の報告があるに過ぎなかつたが,その後麻酔,手術術式の普及進歩にともない現在では180余例の多きに達している.しかしながらForamen Morgagniより起こるParasternal Hernia(L-indskog & Lieboro)は大正15年飯田氏の報告以来14症例(治験例4例)の記載しか見られない.われわれは最近に本症の1例を経験し,開腹手術により全治し得たので2〜3の考察を加えて報告する.

巨大肝膿瘍を併発した肝包虫症の1例

著者: 片山勲 ,   菊地敬一

ページ範囲:P.1215 - P.1217

 包虫症は,条虫Echinococcus granulosus,または,Echinococcus multilocularisが,人間を中間宿主として偶然に寄生することによつて起こる疾患である.その主な発生地域は,シベリア,北欧,南米など,日本では礼文島に地方病的に存在していることが知られている.その症例は比較的稀なもので,山下1)によれば,本邦では1956年までに単房性包虫症49例,多房性包虫症32例,計81例が報告されているに過ぎない.
 昭和25年,慶大外科において,診断困難な腹部腫瘤を主訴とする症例を開腹したところ,肝に無数の小嚢胞を発見,これを手術的に一部切除してともかく一時的に軽快退院した多房性包虫症の一例がある.この患者が最近になつて,弛張性高熱と腹部腫瘤を主訴として再入院した.これは肝包虫症に合併した単発性巨大肝膿瘍で,切開,排膿により寛解させることができた.非常に興味ある症例と思われるので,ここに報告する.

乳児にみられた肝血管腫の1治験例

著者: 鈴木正弥 ,   深田弘治 ,   望月宣明 ,   稀代幸雄 ,   熊谷公明

ページ範囲:P.1218 - P.1221

 肝臓に発生する腫瘍のうちで血管腫は比較的多いとされているが,乳幼児の肝血管腫はきわめて少なく,その診断や治療も困難な場合が少なくない.
 われわれは最近生後4ヵ月の乳児に発生した肝血管腫の1手術治験例を経験したので報告する.

胆嚢乳嘴腫の1症例

著者: 菅野節夫 ,   鈴木礼三郎 ,   高橋希一 ,   菅原利次

ページ範囲:P.1222 - P.1224

 胆嚢の良性腫瘍を臨床的に見い出すことはかなり稀であるが,さらに其が数年の間隔を経て再び観察されるような例は極めて稀であろう.胆石症の術前診断で他医の許で開腹され,その際胆嚢の腫瘍と総胆管下部の狭窄があつた為胆嚢癌と考えられてRoux-Y型腸管胆嚢吻合術を施行された症例を,4年後,われわれは再開腹して前回認められた腫瘍を含めた胆嚢の切除術を行なつた.今回切除した胆嚢の腫瘍は病理組織学的に胆嚢乳嘴腫であつたが前回手術時の組織標本と比較検討し得たので知見の1,2を述べたいと思う.

トロトラスト注射後発生した胆管癌の1例

著者: 田中富雄 ,   河野恒文 ,   今川玄一

ページ範囲:P.1225 - P.1229

 トロトラストは1928年頃から優秀な造影能をもつ肝,脾,血管系などの造影剤として使用されて来た.投与後の組織分布や直接副作用については多数の研究があり,細網内皮細胞に長年沈着残留することが知られている.またその成分であるトリウムは半減期の極めて長い放射性元素であり,それによる晩期障害時に発癌の可能性が最近とみに重要視され,発癌症例の報告が見られるようになつた.
 著者は約26年前に静脈内に投与されたトロトラストが肝,脾に大量に沈着して難治性の肝障害を起こし,剖検によつて胆管癌の発生を認めた1例を経験したので報告するとともに文献的考察を試みたい.

遺残ガーゼによる胆石再発の1治験例

著者: 杉本雄三 ,   古家正年 ,   宇都宮綱夫

ページ範囲:P.1235 - P.1236

 われわれは胆石症で胆嚢別出後一時は健康であつたが,間もなく複雑な経過を辿つて再発した患者に再手術を施行した処,遺残ガーゼ片を囲んで多数の結石を胆道周囲および総胆管内に発見してこれを摘出し,幸い治癒せしめたので報告する.

乳児および成人の原発性肝癌剔出の各1例

著者: 竹田文次 ,   伊藤信義 ,   玉垣龍

ページ範囲:P.1237 - P.1240

 乳児における原発性肝癌はしばしば報告される処であるが(第1表)その臨床手術例は数例に過ぎない.私達は生後10ヵ月の乳児の原発性肝癌の剔出例並びに成人の原発性肝癌別出の1例を経験したので,いささか文献的考察を加えて報告する.

腺腫状Polypを伴う所謂Cholesterosisの稀有な1症例

著者: 塩島正二 ,   長野正行 ,   高橋運三 ,   鈴木善久 ,   都沢良造 ,   薄場元

ページ範囲:P.1240 - P.1243

 胆嚢の良性腫瘍特に腺腫状Polypについては,Kir-aley1),Kane等2),副島3),松尾等4)を始め数氏の報告がある.また一方CholesterosisについてもWomack,Haffner5),Mackey6)等の記載があり,本邦では三宅,村山7)等が「絣様胆嚢」として報告している.
 しかしこれらを見ると,PolypやPolyposisが単純に存在するか,胆嚢結石,胆嚢炎と合併しているかどうかあるいは悪性化等について述べているものが多く,良性腫瘍とCholesterosisとが同一胆嚢内に併存しているものの報告は非常に稀である.

胃蜂窩織炎の1例

著者: 広瀬周平 ,   清藤敬

ページ範囲:P.1244 - P.1246

 胃蜂窩織炎は稀なそして術前診断困難な疾患である.本症はCruveilhier (1820),Andral (1832),等の記載に始まり,1900年にはStiedraが癌性幽門狭窄に対し,胃腸吻合術を行ない,2次的に胃蜂窩織炎を起こした剖検例を報告した.引き続き1902年にはLangemannが排膿治験例を報告し,1911年Königが胃切除例を報告してより,積局的に外科的治療が加えられるようになった.われわれも最近本症の1例を経験したので発表し多少の考按を加えて見たい.

胃に発生した嚢腫性リンパ管腫

著者: 河村基 ,   高橋希一 ,   菅野節夫

ページ範囲:P.1246 - P.1249

 胃の良性腫瘍の中で,血管性腫瘍殊にリンパ管腫は極めて稀な疾患の一つである.私共は胃レ線検査で胃腫瘍疑いの所見を得,その切除術を施行し,組織学的に嚢腫性胃リンパ管腫であることを知つた1症例を経験したので報告する.

術後消化性潰瘍の4例について

著者: 間野清志 ,   広瀬周平 ,   延藤栄男 ,   清藤敬

ページ範囲:P.1250 - P.1253

 胃切除後の重要な合併症としての術後消化性潰瘍は,1899年Braunにより報告されてより今日まで,諸家により多数例が報告され,原因予防について種々検討されて来た.術後消化性潰瘍は空腸に発生することが最も多いといわれているが,術式による発生頻度については,諸家によりかなりの差があり,必ずしも一定した傾向は認められない.一般にBillroth I法の方がII法よりも術後消化性潰瘍を発生することが少なく,またBillroth II法においては,結腸後吻合の方が前吻合よりも発生が少ないようである,胃切除全体に対する発生頻度も報告者によりまちまちであるが,われわれの病院では昭和33年より本年1月までに,胃切除後,胃十二指腸吻合または胃空腸吻合を行なつた781例に対し,術後消化性潰瘍発生は3例で発生率は約0.4%である.他の1例は他の病院で胃切除術を受けた後,術後消化性潰瘍を発生し,われわれの病院で再手術を行なつたものである.

胃癌と胃潰瘍の1併存例

著者: 佐藤敏朗 ,   菅野久義

ページ範囲:P.1253 - P.1255

 潰瘍,または癌として切除された胃剔出標本は詳細に検討するならば,はなはだ多様な病態を示すものであるが,われわれは最近同一胃に癌と潰瘍の併存した極めて稀な1例を経験したので報告する.

十二指腸に陷入した胃ポリープの1例

著者: 古江嘉明 ,   田原明

ページ範囲:P.1256 - P.1258

 近年,消化器疾患における診断方法は,X線,胃鏡,胃カメラ等の発達により,著るしく進歩し,疾患の発見も容易となつて来ている.
 胃ポリープは,1824年Otto1)が最初に報告して以来,内外の諸氏により数多くの報告がなされているが,ポリープの十二指腸内陷入については,最近では,横山2),山路3),村上4)等の報告があり,あまり多くはない.われわれは幽門部に発生した胃ポリープが,十二指腸内に嵌頓し,徒手整復すら困難な症例を経験したので報告する.

胃と回腸に発生した平滑筋肉腫の2治験例について

著者: 豊島純三郎 ,   石戸谷武 ,   伊藤忠一 ,   近藤勝雄

ページ範囲:P.1259 - P.1265

 最近,岩手県立宮古病院外科において比較的稀な疾患とされている平滑筋肉腫の2例を経験した.1例は胃,他は回腸より発生したものであるが,前者は手術前胃癌あるいは胃憩室と診断され,後者は前立腺肥大症と何れも誤診された興味ある症例なので報告する.

大網膜炎症性腫瘤の1例

著者: 中隆 ,   新野武吉

ページ範囲:P.1265 - P.1266

 腹部臓器の悪性腫瘍から転移した大網の腫瘍の発生は稀ではないが,大網に原発的に発生せる腫瘤は珍らしい.炎症性のものとして結核,梅毒,アクチノミコーゼ等の特殊炎症性のものは少なく,虫垂炎,胆嚢炎等の腹腔臓器の炎症から由来するもの.また,虫垂切除時およびヘルニア手術時の結紮糸を中心とした腫瘤は少しとしない.すなわち,Schnitzler,Braun等の名を付した腫瘍が知られている.しかしわれわれは最近開腹手術の既往,また臨床的に何ら腹腔内に著しき炎症を自覚しない炎症性大網腫瘤の1例を経験せるにより報告する.

腸間膜根(Radix Mesostenie)より発生せるHaemoangioblastomの1例

著者: 坂本光生 ,   巷岡昭雄 ,   服部昭夫 ,   木村隆吉

ページ範囲:P.1267 - P.1269

 腸間膜と後腹膜とは,胎生発生学的には,同じ組織であり,ここに発生する腫瘍は他臓器の腫瘍に比べて比較的稀である.また,腫瘍発生の場合には両者に跨る場合が少なくない.
 すなわち,Schmid1)によれば,後腹膜および腸間膜腫瘍276例中,移行型は57例となつている.最近,移行型ともいうべき腸間膜根より発生するHaemoangiobl-astomaの1例を経験したので若干の考察を試み報告する.

総腸間膜症の1例

著者: 大湾朝忠 ,   山内譲

ページ範囲:P.1275 - P.1277

 総腸間膜症は胎生時における腸管発育不全に基づく抑制奇形の一つであつて,腸管の異常走行を示すものである.
 本症がはじめて報告されたのは1850年Bender1)の乳児剖検によるもので,爾来剖検および手術時偶然発見された症例の報告は枚挙に遑がないが,生前または術後にレ線検査のみで本症を診断し得たのは,1924年Alts-chul2)の報告を以て嚆矢とする.

Peutz-Jeghers症候群の1例

著者: 岩淵隆 ,   守屋明 ,   橋本美輝

ページ範囲:P.1277 - P.1279

 口唇または頬粘膜に,明らかなメラニン色素斑が見られ,同時に小腸ポリポージスを伴う場合には,Peutz-Jeghers症候群として,近来広く知られているが,報告例はさほど増加していない.最近われわれも,本症候群の典型的と思われる1例を経験した.

幽門狹窄症根治手術時に偶然発見せる空腸憩室の1例

著者: 佐藤進 ,   大内謙二 ,   庄司忠実 ,   川嶋聡 ,   奈良坂俊樹

ページ範囲:P.1280 - P.1281

 私どもは最近,吐血を主訴として来院した十二指腸潰瘍による幽門狭窄症の根治手術のさい,偶然に空腸憩室を発見し,これを切除し全治せしめた1例を経験したので報告する.

腸管回転異常症の4例について

著者: 植田隆 ,   曲直部寿夫 ,   中島邦也 ,   岡本英三 ,   渡辺厳 ,   岩崎武 ,   近森淳二 ,   前田昌純 ,   榊三郎

ページ範囲:P.1281 - P.1286

 近年本邦において新生児,乳児の外科に対する関心が高まつてくるとともに新生児・乳児の腸管廻転異常症の手術症例の報告も増加して来ている.われわれも最近,腸管廻転異常症の4例を経験したので多少の文献的考察を加えて報告する.

成人の小腸逆行性5筒状重積症の1例

著者: 池尻勝 ,   中田嘉則 ,   永井彰 ,   伊崎駿

ページ範囲:P.1287 - P.1289

 腸重積症は外科の領域においては必ずしも稀な疾患ではない.しかしながら,腸重積症例の3/4は廻盲部重積症であつて,廻盲部以外の小腸,結腸にはその発生は少なく,また,腸重積症例の半数以上は10歳未満の幼少者で,成人は幼少者に比してかなり低頻度である.
 われわれは,最近,成人における小腸重積症の1例を経験して,腸切除術を行つたが,切除せる腸管は逆行性5筒状の重積であつた.このやうな小腸の逆行性5筒状重積症は,広瀬も述べているように,甚だ稀であつて,本邦では,広瀬は.自験2例共例であるといつている.われわれも、文献を渉猟した結果,広瀬の報告以後において,われわれの例も含めて8例を見出したに過ぎなかつた(第1表).

腸管嚢胞様気腫の1例

著者: 米川温

ページ範囲:P.1289 - P.1291

 腸管嚢胞様気腫(Pneumatosis cystoides intestinalis)はMeyer (1825)が豚の小腸に発見し,又Bang (1876)はS字状結腸捻転症によるイレウスで死亡した婦人の剖検に際し,たまたま小腸に本症をみいだした.Hahn(1899)は幽門狭窄の1例に開腹術を行なつた際これを発見した.その後内外文献に報告例が散見された.がなお比較的まれな疾患に属し,わが国では三輪(1901)の報告以来80例あまり過ぎないといわれる.その発生原因についてもいまだ十分に解明されていない.著者は最近,胃癌の1症例の開腹手術に際し,腸管の広汎かつ高度の嚢胞様気腫を合併していた症例を経験した.ここにその臨床所見の大要を記し,大方の御参考に供したいと思う.

クローン氏病の1例

著者: 田内力 ,   服部保次

ページ範囲:P.1292 - P.1294

 本症は1932年Crohn,Ginsberg,Oppenheimerが回腸下部に発生する非特異性炎症としてRegional Ileitisを発表して以来,今日までわが国においても多数の発表を見ているが,なおその定義,病理組織,原因について確定的なる学説なく,治療法についても定説を見ぬ未解決の点多き疾患である,われわれは最近典型的なるクローン氏病の1例を経験したのでその詳細を報告し,これに文献的考察を加える.

左尿管損傷によるイレウスの1例

著者: 浦上輝彦 ,   竹森繁晴 ,   関谷義治

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 私達は最近婦人科手術後イレウスをおこして来院した患者が左尿管損傷による尿性腹膜炎であつた症例に遭遇したので報告する.

胃に内瘻を形成せる若年者横行結腸癌の1例

著者: 坂本光生 ,   蓮見悳彦 ,   服部昭夫

ページ範囲:P.1296 - P.1297

 結腸癌の発生頻度は年齢的に見ると,50歳代に多発し,ついで60歳代40歳代の順であるが,われわれは最近28歳の女子で上腹部激痛があり急性腹症として入院,胃穿孔の診断にて開腹せる所,横行結腸癌が胃え内瘻を形成し穿孔を起こせる稀有な症例を経験し得たので,若干の考察を試み,報告致します.

結腸Polyposisの2症例について

著者: 新田則孝

ページ範囲:P.1298 - P.1300

 腸管粘膜におけるPolyposisはLuschka (1861)により発表され,その後Bardenhauer (1891)が直腸癌を伴つた腺腫性Polyposisの1例を報告して以来,Polyposisと癌発生との関係について多くの研究がなされている.著者らは,九大第1外科教室において,最近2例の結腸Polyposisを経験したので,その経過を報告し,併せて2,3の文献的考察を加えた.

巨大なる蓄便を伴つた鎖肛の1例

著者: 角南敏孫 ,   松田義朗

ページ範囲:P.1301 - P.1302

 先天性鎖肛は臨床的に比較的まれな奇形であつて,Anders1)によれば6000〜15000人に1人の割合で発見され,同氏の集計した鎖肛100例中で異常排泌口を有するものはこの中45例と報告されている.私は最近日余にわたる弛張熱に苦しんだ本症の1例に遭遇し巨大なる蓄便を発見してこれを除去し,手術によつて治癒せしめえたのでここに報告し,併せていささか文献的考察を加えたいと思う.

虫垂結石の1例

著者: 小倉利通 ,   蜷川栄蔵

ページ範囲:P.1303 - P.1304

 われわれは,最近虫垂内に,10コの茶褐色結石を充満していた例に遭遇したので,現在までに経験した虫垂内異物について,統計的に観察し,併せて文献的考察を試みた.

腹膜垂炎の1例

著者: 中隆 ,   新野武吉

ページ範囲:P.1305 - P.1306

 私達は最近,急性虫垂炎による穿孔性腹膜炎の診断のもとに開腹したところ,上行結腸末端に付着する腹膜垂1コが,肉眼的に壊死状を呈し大網に包まれ限局性腹膜炎症状を示した稀なる1例を経験したのでここに報告する.

腎腫瘍かと思われた虫垂粘液嚢腫の1治験例

著者: 土屋定敏 ,   犬塚貞光 ,   弘中哲也 ,   平田邦彦

ページ範囲:P.1307 - P.1309

 虫垂粘液嚢腫Appendixmucocele, Appendiceal Mu-cocele or Mucocele of the Appendixとは,虫垂が主としてその根部において内腔がなんらかの原因により閉塞され,その末梢の方で分泌される粘液が貯溜されて虫垂が嚢状を呈するようになつたものをいい,小坂等によればRokitansky (1842)により初めて記載され,本邦においては冨田(1909,明治43年)の報告が最初であるという.以来時々症例報告や実験結果の発表をみているが,私共は最近術前診断が困難で,右腎腫瘍かと思われた虫垂粘液嚢腫の1治験例を経験したので簡単に報告する.

虫垂Myxoglobuloseによる回盲部腸重積症の1例

著者: 西本忠治 ,   神野高光

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 虫垂Myxoglobuloseは,虫垂粘液嚢腫の異型とされ,球体群は,蛙の卵に似ており,frog-egg Mucoceleとも呼ばれている,1909年Cagnettoの報告にはじまるが,本邦では27例の報告をみるに過ぎない.私達は,最近本症による回盲部腸重積症の1例を経験したのでここに報告する.

--------------------

人事消息

ページ範囲:P.1243 - P.1243

清水健太郎(中央鉄道病院長)顧問に就任
喜多村孝一(東大講師 脳神経外科)助教授に昇任

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?