icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻11号

1966年11月発行

雑誌目次

特集 小児疾患の早期診断と手術適応

小児の脳神経疾患の早期診断と手術適応

著者: 桑原武夫

ページ範囲:P.1495 - P.1501

はじめに
 乳児期における脳の発育はめざましく,生後1年のうちに脳は135%重量を増すという.そのため,この時期に頭蓋内に何らかの病変があると,脳の発育はいちじるしくさまたげられる,したがつて,治療によつてその疾患を治癒せしめえたとしても,治療が早期に行なわれたのでなければ,後に高度な知能障害を残すことになる.この意味においても,乳児期における神経疾患の早期診断はきわめて必要である.ところが,乳幼児は自分で症状を訴えることはできないし,また,精密な神経学的検査も困難で,こまかに症候を拾い上げることがむずかしい.そのため診断はとかくおくれがちである.要するに小児,とくに乳幼児期に神経疾患の早期診断は,きわめて必要なことではあるが,なかなかむずかしいといえる.
 小児の神経系疾患は,先天奇形,外傷性疾患,腫瘍,炎症性疾患,血管障害の多岐にわたつている.以下,各項目の主要な疾患について,早期診断上注意すべき点ならびに手術適応のあらましを述べることにする.

小児の心・血管疾患の早期診断と手術適応

著者: 蛯名勝仁

ページ範囲:P.1502 - P.1506

はじめに
 近年,心臓外科の著しい進歩にもかかわらず比較的未開拓なまま残されている領域に小児特に新生児期および乳児期の心疾患がある.
 初期の頃には先天性心疾患の手術も比較的高年齢層を対象としたが,重症例を救うためにより低い年齢,新生児期,およぴ乳児期に手術し救命する必要があつた.これらの年齢層に対する手術は困難かつ悲観的であつたのと同時に,これら,新生児期および乳児期心疾患に対する早期診断をする循環器系の小児科医が皆無に等しい現状ではないかと言える.しかしながら幸い,最近この方面の研究が刻々打破してきていることは喜ばれることと思う.そこで,小児心疾患,特に新生児期および乳児期心奇形を中心に私達の教室における知見を述べて見る.

先天性胆道疾患の早期診断と手術適応

著者: 葛西森夫 ,   木村茂 ,   平幸雄

ページ範囲:P.1507 - P.1512

はじめに
 わが国では欧米にくらべ小児の胆道疾患の頻度がいちじるしく高く,わが国の小児科および小児外科にとつて最も重要な対象疾患の1つである.とくに胆道の奇型のなかで臨床的に意義の大きいのは胆汁障害を伴うもので,その代表的なものが先天性胆道閉塞症と先天性胆管嚢腫である.

新生児期先天性腸閉塞症の早期診断と手術適応

著者: 森田建 ,   今井靖夫 ,   小林尚 ,   平本靖彦

ページ範囲:P.1513 - P.1518

はじめに
 先天性腸閉塞症は先天性の原因—主に腸管の奇形性疾患—によつておこるイレウスの総称であり,大多数は生後早期より発症し救急手術を要するもので,早期診断の重要性は成人のイレウスの場合以上に大きいものがある.
 しかし早期診断といつても,早期診断法として特殊な方法があるわけではなく,実際には新生児において疑わしい症状をみた場合,通常の先天性腸閉塞症の診断に必要な検査を迅速に施行し,できる限り早急に診断を確立することである.

腸重積症の早期診断と手術適応

著者: 伝田俊男 ,   秋山洋

ページ範囲:P.1519 - P.1523

はじめに
 腸重積症は小児の腸閉塞症の大半を占め,小児外科のなかで,古くから重要な疾患とされているが,本邦の報告例をみると5年間に50例前後の報告が多く,必ずしも非常に多いとは言いえないが,急性腹症として,小児科医,外科医が日常遭遇する疾患である.本症の手術療法の成績も,小児外科の進歩に伴い,非常に向上してきている.しかしながら,現在においても,診断,特に治療面において,必ずしも疑問の点がないわけではない.そこでわれわれが最近当院で経験した症例を中心として,これらの点についてわれわれの考えを述べてみたい.

先天性巨大結腸症の早期診断と手術適応

著者: 植田隆

ページ範囲:P.1525 - P.1529

はじめに
 先天性巨大結腸症はヒルシユスプルング病,(Hirschsprung's disease)と同義語であることは周知の通りである.ところが近年"無神経節性巨大結腸症"(aganglionic megacolon)とか,無神経節症(aganglionsis)とかいう病名が広く使用されはじめている,その理由は,巨大結腸そのものが本態的病変部ではなくて,直腸末梢からsigmaあたりまで,すなわち巨大な結腸の末梢から肛門に至る間の一見正常サイズを示す腸管の壁内神経叢が先天的欠損を示すことが疾患の本態であつて,巨大結腸そのものは2次的作業性肥大に過ぎないことが判つたためである.
 すなわち,巨大結腸症=ヒルシユスプルング病ではなくなつたのである,新生児期の本症を数多く取り扱つている著者らは巨大結腸を示さないヒルシユスプルンゲ病(aganglionosis)を診断し治療しているのである.

新生児ソケイヘルニアの診断と治療

著者: 石田正統 ,   斎藤純夫 ,   角田昭夫 ,   佐藤富良 ,   堀隆 ,   土田嘉昭 ,   沢口重徳 ,   中條俊夫 ,   塙正男

ページ範囲:P.1531 - P.1536

いとぐち
 近年小児外科の進歩により,従来の手術適応の基準が少しく変つてきたように思われる.小児ソケイヘルニアの外科的治療もその1つである1)
 従来この手術は俗に"Appe,Herniaのたぐい"といわれて外科医の初歩課程として取扱われてきた.すなわち,19世紀の終りから20世紀初頭にかけていろいろな創意工夫がなされ,そのEtio-logyと共に充分検討し尽くされた問題であり,もはや一般外科の初歩課程と見なされているのである.

追悼

故篠井金吾先生

ページ範囲:P.1481 - P.1482

篠井金吾教授略歴
明治38年10月10日 石川県金沢市に生る
昭和2年3月 東京医学専門学校を卒業

篠井金吾教授への追憶,他

著者: 青柳安誠

ページ範囲:P.1483 - P.1484

 9月3日夕8時,私は木村忠司教授から「いま篠井教授が亡くなつたという電報がありました」との電話を受けた.その前に,危篤だ,という電報もあつた由だが,なにも知らなかつた私はほんとうにびつくりしてしまつた.そのうえ,どういうことで亡くなられたのか皆目わからない,という木村教授の話である.
 その日は土曜目であつたから,私は2時すぎに帰宅して,恰度コペンハーゲンでの国際胸部疾患学会から帰られた長石忠三教授の訪問をうけて,いろいろと話していたが,私は「あちらで篠井さんにも会われましたか」と尋ねた.すると,プログラムには載つていたが本人は見えなかつたから,どこか悪るかつたかもしれない,という答.私はこの夏,篠井教授から,同学会へお嬢さん同伴で出席するつもりだ,とあつたので,父娘づれで楽しい欧洲旅行をつづけておられるものとのみ思つていたのである.しかし,われわれがこんな噂をしていた時には,篠井教授はすでにこの世におられなかつたわけである.

グラフ

自家遊離腸管による静脈移植

著者: 小泉博義 ,   松本昭彦 ,   和田達雄

ページ範囲:P.1485 - P.1488

 静脈の移植は,血流域,血圧など血行力学的差異に起因するのか,動脈移植に比し,その成績が著しく劣つている,移植材料も各種合成代用血管,気管,筋膜,心膜などの同種および自家組織の多種類にわたる実験報告がある.また,早期血栓,晩期狭窄に対するヘパリンの使用,吻合部補強,代用血管をまず動脈に移植して,仮性内膜形成後に静脈移植を行なう方法などの努力がされているが,いまだ決め手がない現況である.
 昨年の日本外科学会総会における,米軍座間病院の松元輝夫氏の自家遊離腸管を静脈に移植し,これが生着かつ100%の長期開存をみたという実験報告は非常に興味深い.

小児外科の術後管理

著者: 勝俣慶三

ページ範囲:P.1558 - P.1561

 最近わが国において,小児外科の特殊性が認められるようになり,一部の大学病院でも小児外科講座を設置している現況である.乳幼児の外科は成人と異なり,疾患に対する理解,それに対する手術方法,手技が必要なことはもちろんであるが,経験ある小児外科医が一致してのべることは,術前,術後管理,処置が手術成績を左右する重要な因子であるということである.
 われわれの教室では,2年前より小児外科の特殊性を考え小児外科病棟を設置し治療にあたつている.病棟は治療および看護が合理的に行なわれるように看護室の隣りに手術直後病室および新生児外科病室があり,すべて中央パイピングシステムがとられ,また術後室には,挿管用具,加圧人工呼吸器,心電計,Heart Scope等をそなえ,術後管理を容易ならしめている.

外科の焦点

乳幼児外科の術後管理

著者: 勝俣慶三 ,   井上迪彦 ,   石井勝己 ,   横山譲太郎

ページ範囲:P.1489 - P.1493

はじめに
 近年わが国でも,小児外科に対する関心が高まるとともに,小児外科領域の発展に目覚しいものがあり,新生児,乳幼児手術症例は急速に増加しつつある.
 この領域における進歩は,麻酔および抗生物質に負うところ大であるが,疾患に対する充分な知識,それに伴う適正な手術術式を行なうことが重要である.しかしながら,たとえ手術が成功しても術後管理の不備により死亡する症例がみられる1).従つて水分電解質あるいは栄養素の補給などの術前術後管理および処置も,手術成積向上の重要な要因としてあげることができよう.

座談会

小児外科における早期診断と手術適応

著者: 若林修 ,   駿河敬次郎 ,   馬場一雄 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.1538 - P.1548

 若林(司会) 本日は,順天堂大学の駿河先生,東京女子医大の織畑先生,日大の馬場先生と,小児外科に関してはとくに御関心の深い,また御経験の多い先生方がお集り下さいまして有難うございました.年をとつているという関係で,わたくしが司会の役をつとめるようにとのお話をいただきましたので,僣越ながら本日の座談会の進行係りを勤めさせていただきます.
 「小児外科における早期診断と手術適応」というのが本日のテーマでありますが,小児外科手術の症例数が,最近著しくその数を増している本邦の現状におきましても,その成績の向上のためには,この2つの事がらが最も重要な点であると思いますので,読者の皆様のために,きわめて有益で直ぐにでも役に立つようなお話を沢山に伺いたいと存じます.

検査法

新生児・乳児外科における術前の検査と処置—とくに脱水を中心として

著者: 富永幹洋 ,   加部吉男 ,   片桐克之 ,   安藤豪彦 ,   大西雄太郎

ページ範囲:P.1549 - P.1554

はじめに
 新生児・乳児の外科においても,種々の生化学的検査やレントゲン検査を必要とすることは言を俟たない.しかし各疾患ごとの各論的な検査を除外すると,新生児乳児の外科症例,とくに術前に最も共通の問題となることが多いのは,脱水の問題とショックの問題であろう.本稿では,各論的な検査ないし検査法そのものの検討は避けて,このような術前の脱水あるいはショックの判定と治療のために有用な検査と治療方針の概要を,日常の臨床の立場から略述してみたい.しかしはじめに注意しておきたいことは,新生児や乳児では僅かな測定成績や推論の誤差が結果的に大きな差を生むことになるので,測定成績のみに頼らず臨床的な綜合判定,患児の全身状態の判断ということが常に必要であり,検査成績にもとずいて種々の計算をやつてみても,多くの場合1つの方針樹立のための資料になりうるにすぎず,刻々と変化する状態によつて修正を加えてゆかねばならぬということである.

トピックス

結核に対する最近の外科療法

著者: 浜野三吾

ページ範囲:P.1565 - P.1566

はじめに
 抗結核剤が導入されて約15年を経た今日,結核の死亡率および罹患率は著しく減少し,結核対策がようやく浸透してきたものと言えよう.前時代における結核は,不治の慢性伝染病であり,公衆衛生上最優先施策を要するという社会通念は現在の治療成績により大幅に改められなければならなくなつた.肺結核は公的な治療基準を設けて大量治療が行なわれ,外科治療も40万件にのぼるものと推定される.しかしこれらの標準治療の設定によつて,治療理念が固定化し,従来の経験では予想しえなかつた肺結核症の質的変化が起こつてきたことに注意を払わなければならなくなつた.すなわち「患者の高齢化」,「未治療耐性保有例」,「菌陰性空洞」,「耐性例の外科治療」,「外科的難治結核」などの現象である.これらの病像の変貌に対しては,従来の固定化した治療概念をそのまま適用することは妥当ではない場合が多いようである.外科治療においても,化学療法の成績を評価することにより,その適応を再検討することが必要であり,また今後増加が予想される新しい課題に対応する治療法がとられなければならない.

海外だより

ヨーロッパの旅

著者: 岡田和夫

ページ範囲:P.1567 - P.1569

1.フランスの学会から
 1962年のフランス留学から,はや4年の歳月が過ぎた.筆者は本年5月末,パリで開かれた「第1回フランス語による国際麻酔学会」に出席する目的で,横浜港からバイカル丸でナホトカ経由でヨーロッパに向かつた.ヨーロッパ,ことにパリへの郷愁,パリに住んだことのある者のみ知る,そこはかとないパリへの想いにとらわれ日本を発つた.
 学会は,パリの凱旋門に近いPleyel Hallで6月3日,4日,5日,6日と開かれた.「フランス語による学会」なので,かなり参加者が限られるのではないかと思われたが,ヨーロッパはイギリス,ドイツ,スイス,イタリア,スペイン,ポルトガル,共産圏からソ連,ユーゴー,ハンガリアなど,アメリカ,その他メキシコなどかなりの参加国があり,開催国のフランスは大いに意気が上つたわけである.学会の主要テーマは「脳と麻酔」ということが一貫しており,これはフランスの神経生理の進歩を考えるとうなづけるが,ユニークな学会と思われた.開会式はパリ大学代表者も祝辞を述べ,他方,会長Kern教授,副会長Bauman教授はいずれもフランスでの麻酔学の地位を回顧し,これからの発展を願うという強い言葉を述べて喝釆を拍した.

患者と私

メスと四十年

著者: 河合直次

ページ範囲:P.1570 - P.1571

  刻々と手術は進む深雪かな  みづほ
 メスといえば,わたくしの最も畏敬する外科医の一人新潟の中田先生の句を思い出す.真面目な先生の手にメスがするすると静かに運ばれてゆく場景が目の前に浮んでくる.
 手術といえばメス,メスといえば手術,メスと手術は切つても切れない深い縁があることは今も昔も変りがない.

雑感

食欲の秋

著者: 奥山虎二

ページ範囲:P.1572 - P.1572

 「天高く馬肥える秋」と昔から言われてきたが,近頃では肥えるのは馬ばかりではなさそうだし,また秋とばかりには限つていないようである.ここ数年来,大人はもちろん,幼児,学童にも大分肥満体が目につくようになつた.食糧事情の最も悪かつた終戦当時は別として,戦前にも学童の肥満体はほとんど見受けられなかつた.われわれ学生の頃,小児科においては栄養障害の項で,急性消化不良症,慢性栄養失調症については数時間をさいて,講義を受けたし,臨床面においても多数の患者を扱つてきたが,肥満症については,特殊な内分泌障害によるもの以外についてはほとんど触れなかつたように記憶している.
 顔色の悪い,なんとなく元気のない,ひよろひよろ脊の高い,胸壁の薄い,肋骨の走行の見えるような子をみると,大抵それは終戦子であつた.それからわれわれ医師も母親達も,とにかく元気な肥つた子を育て上げようと努力した,ミルクについては各会社が研究に研究を重ね,なるべく母乳成分に近づけ,腸内細菌叢の整調を保ち,また早期離乳を奨励して,身長体重の平均のとれた「大きい子」にしようと皆で努力した.またビタミンの補給も盛んにすすめた,そして子供がいわゆる標準曲線より越せば,それで医師も,親も,子供自身もまず一安心と一息ついたものだ.

近ごろ感じたこと

著者: 山田辰一

ページ範囲:P.1573 - P.1573

 戦後,研究および診療の分野—したがつて学会も—の細分化が甚だしくなつてきているようだが,その反面,ある一つの臓器または一系列の疾病について各科の統合が,特に最近進んできているようだ.老年医学会に出席すれば内科・外科・眼科・整形外科・精神科などの研究発表を聴くことができるのもその現われだし,女子医大の心研は外科・内科・小児科および眼科や病理の経験を有する医師により構成されており,研究と診療はこれらの各科医師の協同のもとで行なわれている.癌研また然り.
 多くの開業している先生方,ことにこれから医局より巣立つ先生方は,細分化された医学のごく一部分を研究してきたのであり,当然のことながら,他の分野の知識は大学卒業の時点において止つておることも少なくなく,経験は極めて乏しい.知識と技術の上で他の医師との協同と交流が必要であるし,一国一城の主というような気持は時に患者の不幸を招こう.

外国文献

塞栓によるsubclavian steal症状,他

ページ範囲:P.1574 - P.1577

 subclavian steal syndrome(SSS)は鎖骨下動脈(無名動脈)が椎骨動脈起始部よりproximalで閉塞ないし狭塞したときにおこるので,1側椎骨動脈血が同側鎖骨下動脈へ下行性に流れる症状である(Contorni, L:Nea-rology 12:698, 1960)が,Reivich(N. Engl. J. M. 265:878, 1961)がレ線学的に明確にした.SSSという呼称もこのさい,N. Engl. J. MedのEditorialで附けられたものである.1962年までに13例のSSSが報ぜられたが,以来,その報告は甚だ多い,その大多数は粥状硬化症が主なる原因になつている.Blalock-Taussig手術の結果という1例があるが,塞栓にもとついたというのはGorman(Arch. Surg. 88:350, 1964)1例あり.高安病にもとつくという報告はない.Dardik(Ann. Surg. 164:171, 1966)は60歳家婦,左上肢痛で来院,3年来右半身不随あり,僧帽弁不全による脳梗塞と考えられていた.大動脈造影で左鎖骨下動脈完全閉塞(塞栓)SSS像をたしかめたが,poor riskで僧帽弁手術せず,抗凝固剤と血管拡張剤で症状を軽快した.

実地医家のための診断シリーズ・12

胃集団検診用ミラー方式X線間接撮影装置

著者: 長洲光太郎 ,   辻勝博 ,   吉村克俊 ,   佐藤幸雄

ページ範囲:P.1578 - P.1580

 従来用いられてきた胃集検用X線間接撮影装置は,胸部間接撮影とまつたく同じく,主としてレンズ方式によるもので原理は簡単である.最近外国製ミラーカメラを用いての方法も2,3の病院で利用されているが,本邦製のミラーカメラ方式による撮影装置が完成し,利用されはじめ,本院では本年1月以来もつぱらこれを利用している.
 胃集検用X線間接撮影装置の様式としては次のことが問題になる.

読影のポイント

脳波の読み方—(10)てんかんの脳波〔2〕

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.1581 - P.1587

Ⅱ.皮質てんかんcortical epilepsy
1.発作間隔時脳波
大脳皮質のてんかん源の部にspikeがみられる.一般に皮質下のてんかん源によるspikeは日常の臨床検査で行なう頭皮導出では徐波を伴うことが多いが,皮質の焦点から発するspikeは徐波を伴わず単独に現われる傾向がある.皮質てんかんに特異な脳波所見は,限局性のspikeで,sporadic spikeとしてあらわれることが多いが(第1,2図),multiple spikeの形をとることもある(第3図).一局所に限局してSpikeが現われれば容易に皮質てんかんと診断できるが,皮質てんかん必らずしも焦点に限局したSpikeを呈するわけではない.前頭葉や側頭葉は左右の間の神経路連絡が緊密なため,一側の皮質焦点の場合でも反対側にも対称的にspikeを示す.mirrorfocusと呼ばれている.さらに,反対側対称部位のみでなくdiffuseにspikeが拡がつていることもある.このような場合は三角法,直列双極導出による位相の逆転その他によつて慎重にspikeの発現部位の局在を決定しなければならない.とくに皮質てんかん焦点が大脳半球内側面やinsulaにある場合は,皮質下てんかんとの鑑別が困難である.

診断のポイント

術後性腹部神経症

著者: 木村忠司

ページ範囲:P.1588 - P.1593

Ⅰ.術後性腹部神経症とはどんなものか
 手術は一種の外傷を与えることであるから,その後ある期間は,後遺的症状を残すのは当然である.例えば開腹術後に癒着をまつたく残さぬなどということはなく,そのための腹部異和感は当然残るのであるが,幸いにして反応性炎症は暫時消退し,癒着は自然に解離して, 自覚症状もまた治つてゆくものである.
 然るに一部の症例においては開腹術後の愁訴が1年〜2年またはそれ以上の長期間に亘つて続き,しかも再開腹を行なつてみても,愁訴に相当するだけの器質的変化を見いだしえないものがある.これらの症例の中にはしばしば精神神経症的要素が多分に含まれているものがあり,開腹術という損傷を契期として,両者が結びつき腹部に焦点を有する一種の器管神経症organneurosisを形成したと考えられる場合がある.このような症例群をわれわれは術後性腹部神経症postoperative abdo-minal neurosisと呼ぶのである.この命名は荒木千里教授でそれに関する報告は1950年著者が"反射性通過障害と腹部神経症"なる標題で雑誌『医学』に発表したのが最初であつた.

他科の知識

交通外傷と法医学

著者: 宮内義之介

ページ範囲:P.1595 - P.1599

はじめに
 一般路上で発生した致死的人身自動車事故の場合は,現場,目撃者,加害車(運転手を含む),被害者(車両を含む)の4方面からの調査ならびに検査を行なつて,逐次的に事故の模様を再現し,その責任のあり方について考察を下すのが普通である,しかし,実際には被害者のみからその経過を推定する必要にせまられることがもつとも多い.
 自動車事故における損傷は,一般外傷と異なつて,特有な作用面を有するはなはだ高度の外力が作用し,複雑な経過をとつて形成されるため,多種多様の形状を示し,成因の解析は困難のように思われたが,当教室の研究によつて,多数例について損傷の分析判断を行なつていくと,複雑な損傷の排列と形状も自動車作用面の構造形態と事故の様相とに関連していることが判つてきた.したがつて,被害者損傷の分布,排列,形状などから,逆に事故発生当時の,被害者と加害車との相関関係を逐次的に再現することが可能となり,また,加害車の車種推定もある程度可能となつた.このためには,被害者の重篤な損傷ばかりでなく,軽度の表皮剥脱や皮下出血に至るまで詳細に検査することが必要であり,またこれに関連して,被害者の乗車していた車両,被害者の着用していた衣類の損傷や汚染の検査も欠くことができない.私は事故時の損傷を形成機序の上から衝突創,転倒創,轢創に大別して検討している.

論説

逆行性椎骨動脈撮影の経験

著者: 石郷岡隆 ,   高杉都三雄 ,   高橋敬 ,   栗林明弘

ページ範囲:P.1605 - P.1612

はじめに
 脳神経外科領域における脳血管撮影法の占める診断的価値は,周知のごとく検査手技の安全化と造影剤の発達により,ますますその重要性を増している.脳血管撮影法のうち頸動脈撮影法は,あらゆる年齢層の患者にわたり,広く一般的に施行されているが,経皮的椎骨動脈撮影法は,技術的にも困難で,ことに小児では成功率が低く,簡単に施行しえない難点がある.しかしながら,椎骨動脈撮影は,後頭蓋窩内病巣の存在が疑われる患者の診断には,最も重要な検査の1つであり,造影手技の確実性と普遍性が望まれるところである.一方1955年Gould1)は,上腕動脈を切開し,逆行性に造影するいわゆる"Brachial Cerebral An-giography"を発表している.
 本邦においては,経皮的椎骨動脈撮影法が主として行なわれ,Gouldらの方法はかえりみられなかつたが,経皮法の技術的困難さと種々の副作用2)3)の出現により.近年,逆行性椎骨動脈撮影法の価値が再認識され,各所で追試されている.

症例

いわゆるPost-phlebitic Syndromeの1治験例

著者: 平井象三 ,   西村和雄

ページ範囲:P.1613 - P.1616

はじめに
 脈管に基因して発生する浮腫,硬結,色素斑,潰瘍などの皮膚障害は下肢、ことに下腿に比較的好発するが,これは下肢における循環系の解剖学的特殊性に負うところが多いと思う.しかして,このような皮膚障害は原因別からして,静脈性のものと動脈性のものに大別できるが,静脈性に発生するものは慢性に経過して長期間に亘り,徐々に進行し,遂には運動機能にまで影響を及ぼすに至るものである,この静脈性のものには静脈瘤に併発するものの他に,いわゆるPost-phlebitic syndromeなるものがある.最近われわれはいわゆるPost-phlebiticsyndromeの症例を経験し種々の検討を加えて見たので報告する.

外傷性十二指腸皮下損傷の5治験例

著者: 村山英太郎 ,   小沼澄 ,   仁藤清一

ページ範囲:P.1617 - P.1621

はじめに
 外傷性腹部内臓皮下損傷の報告は多い,最近は交通災害による内臓皮下損傷も増加している.しかし十二指腸皮下損傷の報告は割合に少ないようである.たとえばわれわれが調べた,部位別の明らかな外傷性腹部内臓皮下損傷の最近の報告を見ても明らかである(第1表).
 垣内らは1959年に,昭和8年橋本の報告に始まる外傷性十二指腸後腹膜破裂の本邦例を集計されたが,その後も時折発表された文献例は,われわれのここに発表する4例を含めて29例にすぎない.もちろん文献上に記載されないもの,われわれの調べの行き届かなかつた症例もあろうが,かなり稀なものであるかも知れない(第2表),なおこの表には増田(11),小川(16)らの十二指腸上部破裂2例を加えた.われわれの5例中1例も十二指腸起始部の腹腔内破裂なので,前記29例という数値はこの3例を除外したものである.

--------------------

第17回日本医学会総会 風見鳥ニュースNo.7

ページ範囲:P.1478 - P.1478

第17回日本医学会総会 学術講演日程

人事消息

ページ範囲:P.1566 - P.1566

西本 詮(岡山大講師 付属病院) 教授に昇任 脳神経外科
山本信二郎(金沢大助教授 付属病院) 教授に昇任 脳神経外科

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?