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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻12号

1966年12月発行

雑誌目次

特集 虫垂炎—その困難な問題点

他の疾患と誤診して開腹した場合の処置はどうすべきか

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1645 - P.1648

I.急性虫垂炎の誤診の考え方
 急性虫垂炎と思つて手術したら,他の疾患であつたという場合と,他の疾患と思つて開腹したら急性虫垂炎であつたという場合の2種の誤診がある、後者の方は対策も簡単であるし,元来虫垂炎が外科手術の1/3も占めるほど頻度の高い疾患であるから,あまり問題になることはないであろう,もつとも虫垂炎のぼう大な統計報告には私はあまり重要な価値を認めることができない.その理由は虫垂炎という診断があまりに安易に下されている上に,カタール性虫垂炎のごときあいまいな病型が広く採用されているし,慢性虫垂炎に至つてはほとんど確実な概念さえなしに診断され手術をうけているなどが主なる理由である.
 私自身今日カタール性虫垂炎の名称は採用しない.臨床的にも,病理組織学的にもカタール性虫垂炎の存在は明らかでないし,カタールから化膿性・壊疽性虫垂炎に進展する証拠は全くない.

虫垂炎と診断して,虫垂炎でなかつた場合の処置はどうすべきか

著者: 飯塚積

ページ範囲:P.1649 - P.1651

はじめに
 虫垂炎の自己診断で直接外科医を訪ずれる患者も少なくない現況ではあるが,虫垂炎に特有な他覚的症状もないままに,定型的な症例を除いてはその診断はなかなかむずかしい.虫垂炎の手術を数多く経験した外科医は,だれしも誤診のにがい経験をいくつか持つているにちがいない.診断学の進歩につれて最近における虫垂炎の誤診率は,どのように変つてきているだろうか.古典的文献からひもといてみると,本邦では2.2%1)ないし9.7%2)と記載され,欧米の11〜22%に比較して決して低率とはいえない.最近の誤診率の報告が見当らないので,私の医局でのカルテを調査してみた.昭和36〜40年の5年間に,虫垂炎の臨床診断の下に開腹した症例は1554例で,このうち虫垂炎でなかつたものが17例であり,1.09%の誤診率を示した.これは虫垂炎と鑑別すべき他疾患の診断法が向上したためにちがいないが,それでも誤診は避けられなかつた.虫垂炎と決定する信頼性の高い診断法がないためばかりでなく,慎重さを欠いた油断がなかつたとはいえまい.本特集のなかで私に課せられた表題も,こうした場合を考慮してのことであろう.

開腹して虫垂炎の見つからなかつた場合の処置はどうすべきか

著者: 中谷隼男

ページ範囲:P.1652 - P.1654

はじめに
 史垂炎も急性腹膜炎にまで発展進行する急性の場合もあり,慢性に経過するものもあるが,いずれにしても手術を奨められるものである.虫垂炎として手術されるものは日常極めて多く,外科病床の通常7割以上を占めるものであろう.しかし右下腹部に疼痛を伴う訴えがあれば一応虫垂炎として手術されがちであるが,病理組織学的に本当に虫垂炎であつたかは仲々むずかしい場合もあると思う.容易な手術でもあり,切除したために欠落症状の起こらない不要な器官であることは幸いである.例えばかつてある期間に右下腹部の疼痛性障害に対して虫垂切除術を行なつたものを詳細に検討してみたことがある(東京逓信病院 昭和20年〜29年),すなわち2,090例中切除せる虫垂に予期した炎衝の所見が証明しえなかつたものが419例(20%)であつた.また,さらにそれを詳しく検討してみると,第1表のごとくであつて,移動性盲腸が重要な役割を演じていることが判かる.
 次にまた開腹切除せる虫垂に充血も浮腫も認められない場合に慢性虫垂炎と片付けられることは多いと思う.それに関する検討も必要である.

開腹して虫垂炎の見つからなかつた場合の処置はどうすべきか

著者: 志村秀彦

ページ範囲:P.1655 - P.1659

はじめに
 一昔前は虫垂炎といえば死病として怖れられたものであるが,最近では手術の安全性のため「ああアツペか」と馬鹿にされるほどポピュラーな疾患となつている.事実大学病院を訪れる患者はほとんどなく,大部分が実地医家の手で手術されている現状である.しかしあまり安易な気持で手術すると時に手いたい目に会うことがある.すなわち一つは虫垂炎と誤診して他の重大なる疾患をみのがすことであり,一つは術後の合併症の発生であるが,もう一つ術中どうしても虫垂が発見できない場合がある.第1,第2の問題は他の執筆者によつて述べられると思うので第3の問題についてその原因および対策を筆者の経験から述べてみたい.
 まず発見し難い原因であるが2つの場合が考えられる.

膿瘍形成の場合の処置はどうすべきか

著者: 長尾房大 ,   木村宣夫

ページ範囲:P.1660 - P.1663

はじめに
 最近は,早期手術の方針が徹底しているため,虫垂の炎症が汎発性腹膜炎や限局性膿瘍を呈する程度のものは,往時に比較すると,きわめて少なくなつた.とくに都会地ではこの傾向が強いが,それでも時にかなり進行した虫垂炎に遭遇することがある.一般に交通不便な地方では,いまだに重症例に遭遇することが決して少なくないようであり,教室の各出張病院別の統計をみても,この間の消息を如実に物語つている.

基部埋没に困難な場合の処置はどうすべきか

著者: 石川義信 ,   藤田孟

ページ範囲:P.1664 - P.1666

はじめに
 虫垂切除にさいして,その切断端,つまり虫垂基部の処置については,古くから種々の方法があるが,1904年Seelig1)が記載して以来,おもに次の3方式に大別された様式が行なわれてきている2).すなわち(1)断端は結紮せずに盲腸腔内に向つて内飜せしめる法,(2)断端を単純結紮したまま腹腔内に遊離する法,(3)断端を結紮し,煙草縫合あるいはZ字縫合,8字縫合,十字縫合,Lembert結節縫合などにより埋没する法の3法である.
 本邦では現在,(3)の埋没法が他2者に比較して広く行なわれているようである.それゆえ筆者に与えられたテーマも,基部「埋没」の困難な場合が問題点として浮かびあがつてくるわけである.なお著者は虫垂断端の埋没法のほかに(2)の単純結紮をして,断端の粘膜を電気メスで,焼灼して腹腔内に還納する方法をも用いているが,そのための支障をきたしたことはない.

壊疽性虫垂炎の切除断端の処置はどうすべきか

著者: 代田明郎 ,   服部博之 ,   吉岡正智 ,   恩田昌彦 ,   山下精彦 ,   柴積 ,   塚原英之 ,   埴原忠良 ,   清水良泰

ページ範囲:P.1667 - P.1671

はじめに
 虫垂の壊疽性変化が,主としてその中央部から先端にあるような場合には,その切除断端処理に特別の困難を伴わないが,虫垂根部に強い場合や,盲腸壁にも虫垂の炎症が波及して蜂巣織炎を起こしていたり,あるいはまたすでに穿孔を起こして,膿瘍の形成や汎発性腹膜炎を併発していると,虫垂根部や根部周囲の盲腸壁も脆弱となつていて,その断端処理に困難をきわめることが少なくない.
 このような場合,その断端処理をいかにしたらよいか,教室の臨床材料を基として,次に述べてみよう.

虫垂間膜にまで高度の炎症のある場合の処置はどうすべきか

著者: 中島佐一 ,   奥村太郎

ページ範囲:P.1672 - P.1674

はじめに
 急性虫垂炎はその診断が確定した場合には早期手術を行なうことが,もつとも安全適切な処置であることはいうまでもない.最近では早期手術の普及と手術手技の進歩向上,さらに化学療法の発達とによつて軽症例が多くなり,典型的な急性化膿性虫垂炎は減少して重篤な合併症もまれにしか見られないようになつた.しかしいわゆるカタル性炎が切除虫垂炎のほぼ半数を占める反面,かかる軽症例には術後の愁訴,あるいは後遺症といわれるものが多く,そのために再手術を余儀なくされる症例は必ずしも少なくない.また,一方においては手術時の不注意な操作や,不適当な手術が原因となつておこる合併症も皆無ではなく,不適確な化学療法によつてその十分な効果が期待できず,治癒の遷延を見る場合もある.
 したがつて安易な診断による無用の手術をさけると共に,的確な手術手技と術前後の管理とによつて不愉快な合併症,あるいは後遺症をさけなければならない.特に老人や小児の場合には,初期の症状が不明確で病像も異なるため,しばしば早期手術の時期を失い,予期しない合併症に遭遇することもまれではない.このため診断と手術手技,および術前後の管理には特に慎重でなければならない.

虫垂炎術中の副損傷の処置はどうすべきか

著者: 本多憲児 ,   元木良一

ページ範囲:P.1675 - P.1679

はじめに
 虫垂炎に対する手術中に副損傷を来すことは一般にまれである.しかし虫垂の炎症所見高度で周囲組織の癒着がはなはだしい時には不測の事故としていろいろの損傷がみられる.かかる場合,一般に癒着が強いため,その処置が困難なことがある.以下,2,3の事項について述べる.

虫垂切除の時期の問題

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1680 - P.1682

はじめに
 Creeseの報告によれば1736年Cladius Amyandによりはじめて虫垂切除が行なわれたといわれる.本邦においては近藤が明治32年(1899)間歇期の虫垂切除を行なつたのが第1例である.その後,内外における幾多の論争を経て現在のような早期手術が普及し,さらに抗生物質の出現があつて虫垂炎の治療成績はいちじるしく向上した.今日虫垂炎の治療は早期手術が原則とされているが,抗生物質の進歩の目覚しい今日,積極的に保存的療法を行なうことをすすめるものもある3).一方,虫垂の変化の程度,患者の年齢,合併症の有無などにより今日なお虫垂切除の時期が問題になることがある.本稿においては著者の経験に文献的考察を加え,虫垂切除の適切な時期についてふれてみたいと思う.

グラフ

術中細胞診

著者: 林田健男 ,   瀬戸律治 ,   後籐一博

ページ範囲:P.1633 - P.1637

従来,手術中の迅速診断には,病理組織学的なfrozensectionが用いられており,その診断の精度はかなり高く,確実な方法であるが,胃粘膜などの小病変より,試験切除を行ない,組織学的検索を行なうことは,病変損傷のおそれがあり,また1〜2コの試験切除では,微小な早期胃癌例の場合,その目的を達しえないこともある.しかるに細胞学的診断法は,細胞単位の判定法であるので,擦過,穿刺・吸引などにより得られる極めて少量の標本で足りることになり,また簡便,迅速で多数の検体を短時間に処理することが可能である.すなわら細胞学的診断法が,その診断成績において良好であれば,迅速診の有力な方法として成立しうると考えられる.私はこのような考えのもとに,術中細胞診を提唱し,昭和38年10月以来,現在まで,300例近い種々の疾患(約半数は胃疾患)について施行してきている.
 染色法としては教室考案の"Giemsa原液法"の他,Field法,Acetogentiana Violet法,Acridine Orange法(螢光染色),位相差法を用い,大略1分30秒ないし2分以内に完了し,4〜5分で報告するといつた迅速性を経験している.その成績は全体で93%の正診率で,検者が熟練したGiemsa法や,Field法では95%に達しており,各分野における細胞診の進歩,発達とともに,より秀れた成績を挙げうるものと考えている.

閉胸式心臓マッサージの仕方

著者: 織畑秀夫 ,   秋元富夫 ,   横山和子

ページ範囲:P.1714 - P.1717

 昭和35年(1960)7月1日,私(織畑)は生後3日の新生児の臍帯ヘルニア兼腸閉鎖の開腹手術後の心停止に対し,偶然,心臓そのものを胸壁の上から前と後にあてた手掌の間で圧迫し,心臓マッサージができることに気付き,人工呼吸も附加して,ついに蘇生に成功したことがある.
 このような閉胸式心臓マッサージは従来,経験したことがなく,まつたく意外な発見であり,文献にもみたことがなかつた,ただ乳幼児には簡単に実行できても成人ではどうかという疑問があつた.

外科の焦点

Zollinger-Ellison症候群

著者: 田中早苗 ,   朝倉晃 ,   田井千秋

ページ範囲:P.1639 - P.1644

Zollinger-Ellison症候群について
 ある種の内分泌疾患が消化器症状を伴うことは周知の通りであり,またいろいろな内分泌腺の刺激によつて胃液の分泌や運動などが影響をうけることも明らかなことである1)18)20)22).なかでも副甲状腺,副腎,膵ラ氏島が胃液の分泌機能と深いつながりを持つていることは古くから考えられていた.1903年に濃厚な家族歴を持つ多発性内分泌腺腫の1例が報告されているが,1953年にはWermer21)がこの多発性内分泌腺腫(multipleendocrine adenopathy:M.E.A.)と消化性潰瘍の関連性を指摘し,特によく合併する内分泌臓器として,副甲状腺,副腎を挙げ,その濃厚な家族歴からみて遺伝性因子によるものであると主張している,1955年になつて,Zollinger, Ellison25)が特に消化性潰瘍にしばしば合併してみられる膵ラ氏腺腫を,その潰瘍の直接の成因であると考え,1つの独立した疾患単位としてZollinger-Ellison症候群の名のもとに発表した.そして今日外科の立場からは膵ラ氏島機能充進症として,むしろInsu—linomaよりも,この電撃性消化性潰瘍をもたらす本症の方に,より多くの関心が集まつている状態である4)

論説

腹部外科手術時の創汚染と術後創化膿予防対策

著者: 加藤繁次 ,   宇都宮利善 ,   神野一

ページ範囲:P.1685 - P.1690

はじめに
 手術後にその創が化膿することは,手術全体としては些細なことであるが,患者ならびに術者にとつては非常に不快な現象である.われわれは以前よりこの問題について,検討を行ない,報告しているが1-6),この原因がいかなるところにあるのか,またこれに対する対策はどうすればよいか,またペニシリン発見以来数多くの抗生物質ができ,外科手術に大きな貢献を示したが,この現象に対しどれくらいの予防効果があるものか,またいかなる薬剤をいかなる投与法を行なえばもつとも効果があるのかなどについて再検討を必要とするのではないかとの観点から,主として細菌学的見地からこの研究を行なつた.

トピックス

Ultrasoundcardiogram(UCG)について

著者: 広瀬益雄

ページ範囲:P.1693 - P.1693

 近時,超音波の医学的応用には,注目すべきものが多く,すでに診断面では,臨床上重要な検査法として,一般に行なわれるようになつてきた.脳,甲状腺,乳腺,腹部臓器,胆石の検出等で,広く応用されている.
 一方,超音波の心臓への応用は,1949年W.D.Keidelが,透過法を用いて心臓の検査を試みている.しかし,puls法の応用は1954年頃から EdlerやHeatzによつて,始めて試みられた方法である.

海外だより

デトロイトのウエイン大学に学んで

著者: 千葉智也

ページ範囲:P.1694 - P.1695

 デトロイトといえば,誰でもすぐ思い浮べるのが自動車工業のことであろう.フオード,ジエネラルモータース,クライスラーなど巨星が顔をつらね,ここに来られる方々はたとえ医学関係の方でもまず第一にこれらの工場を見たいと申し出られるほどである.したがつて街も自場車を持つているということが前提としてつくられているから,人口180万,アメリカ第5番目の大都市とよばれるにしては公共交通機関の粗末なのはもつともで,筆者も渡米当時,土,日曜などバスを待つて30分以上も立ちんぼうをさせられたことがしばしばあつた.アメリカの貧困家族に対する福祉法が,ともすればゆきとどきすぎているという苦情をきいたが,ここでは電気冷蔵庫と共に自家用車を持つていることは,その適応を受けるに差支えないとされ,また借金の差押えの対象にもならないというから面白い.福祉法による食料配給切符を受けに行く貧しい人達が,やや旧式であるが,キャディラック,クライスラーなどに乗つていくのをみると,正に奇異の感にうたれる.

患者と私

病人をなおす

著者: 高島令三

ページ範囲:P.1696 - P.1697

 医者も人間であれば患者も人間である.人間には動物にはない感情というものがある.そこで病気を治す職業である医者ではあるが,病気だけを治すのでは完全な医者とは言えない。もう一歩進んで,病人を治す医者でなければならない.病気さえ上手に治せばそれでいいではないか,さらに病人を治す,とは一体どういうことかと思われる若い医者があるかも知れぬから,一寸この点を説明すると,病気だけを治すのでは,患者はまだ心からその医者を尊敬,信頼する段階に入つていないのである.病気が治つてからもその本人はもちろん,家族親類の者までが何かというと訪ねてやつて来,またその医者が言うことなら何でも絶対に信用するという段階,つまり自分の体はすべてこの医者にまかせ切つてあるという心情にまで達したとき,さらにはこんないい結果の場合のみならず,たとい予後が不良の場合でも,患者が死ぬ瞬間までその医者を信頼し,その医者に感謝しながら死んで行かれるという,そういう医者がすなわちほんとうに病人を治したことになるのである.これで始めて完全な医者といえる.

雑感

眼科の窓から

著者: 手代木由紀子

ページ範囲:P.1698 - P.1698

私が医局に入つた当時は,ペニシリンやストマイガ普及し始めた頃で,眼科の患者は半減するだろうと言われたものでしたが,爾来10数年,抗生物質は今や花ざかりの状態となりましたが,病気のほうは半減どころか,結膜炎だけでも,あらゆる抗生物質無効のアデノヴィールスによる流行性角結膜炎が年々増加して,プールの頃になると私ども開業医を苦しめます.このはやり目は点眼薬はおろか,あらゆる日常用いられる消毒薬では,かえつて媒体になるくらいの抵抗力と感染力をもつていますので,私どもは自分自身が感染源にならないために必死の努力をします.薬用石鹸で水道の水を流しつ放しにしてブラシで何回もこする—そしてアルコール綿で拭いてしかる後消毒液—こんな患者に5人も来られるとそれこそ手はガサガサとなり,こちらが皮膚科へ行かなければならないようです.そのため皆いろいろ工夫しているようです.A先生は正午から10分間だけをこの患者の診療にあてているそうです.B先生は手術用のゴム手袋をたくさん用意して,一人見るたびにはずしては,後でまとめて煮沸する由,C先生は窓口に水を入れた洗面器をおいて,患者のお金はすべてこの中に放りこませるとのこと,親和会の席上この話が出て,当然,「お札はどうするんでしようね」との質問に直ぐ「お札も煮て,あとでアイロンをかけるとピンと致しますよ」と言うお返事あり.

外科医に産婦人科医よりもの申す

著者: 本田三郎

ページ範囲:P.1699 - P.1699

 雑誌社から"外科を切るべし"というご託宣をうけたものの,錆刀をいかにせん,逆に自分の手を切つてしまいそうである.そこで,自分の手を切らないようにと心掛けてみたら,ヌケヌケとマトモなことをいう始末となり,てれくさいことてれくさいこと,以下そのもの申す次第.

ニュース

第28回臨床外科医学会総会

ページ範囲:P.1700 - P.1701

 今年で28回目の日本臨床外科医学会総会が香川県医師会長三宅徳三郎総会会長のもとで,11月11日〜13日の3日間にわたつて,栗林公園で有名な高松市で開催された.
 高松市民会館,県庁ホール,県文化会館の3会場で行なわれたこの学会には,全国から約2600人の会員が参加して,一年間に集積した研究成果を熱心に討論しあつた.273の一般演題,特別講演6,教育講演3,シンポジウム9が盛況のうちに行なわれ,四国名物"阿波踊り"の豪快なアトラクションを最後に幕を閉じた.

外国文献

halothane,他

ページ範囲:P.1702 - P.1705

 米国National Acad.Sci.のなかに1962年10月halothane研究小委員会が設けられ,J.P.Bunkerがchairmanとなり,1963年6月から大規模な研究がすすめられてきたが,最近JAMA197(10):775-788,Sept.5, 1966)にその結論が報告された.まず1959〜1962間の各種全身麻酔薬による致命的肝壊死の頻度が比較検討された.hによる広汎肝壊死は稀である.ショック・敗血症・前駆する肝傷害がその基盤になる.他の麻酔薬による全死亡率は1.93%だが,hでは1.87%で,hはむしろ安全な麻酔薬といいうる.胆石,開頭術についてもhは危険でない.middle-death-rateでもhは他剤に比し安全である.cyclopropaneの死亡率2.5%,hおよびN20—barbiturate 2.0%で有意差である.エーテルの研究はよくなされていて,その死亡率は最も低く出ているが,その使用がこの研究期間急減したので必ずしも確実でない.hを使用した病院間で死亡率に差があるのは問題だが,それは指標の取り方によるのでなく,今後の研究に俟ちたい.なお3個条ほど小委員会としてのrecom-mendationが附け足されている.

読影のポイント

脳波の読み方—(11)てんかんの脳波〔3〕・脳血管障害の脳波

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.1718 - P.1721

Ⅴ.てんかん脳波の検査法
 てんかん患者の脳波検査を行なうにあたつては,単なる安静覚醒時の検査だけでは不備で,いろいろの賦活法のもとに検査することがとくに大切である.脳波の賦活法についてはすでに本誌21巻5号に詳しくのべたとおりである.賦活法のうちでとくに臨床脳波検査に有用であり,広く行なわれているのは過吸呼と睡眠であり必要に応じて光刺激も併用される.
 過呼吸は皮質下てんかん,なかでもpetit malの脳波賦活にはもつとも適している(第1図).皮質てんかんではepileptic dischargeが賦活されるばかりでなく,cortical lesionによつて生ずるfocal slow waveも強調される.cortical lesionのなかでは側頭葉の焦点が過呼吸によつてはもつともよく賦活されやすい.しかしながら注意を要するのは,過呼吸によつて現われるparoxysmalwaveがすべててんかん性異常波とは言えないということである.正常人にも過呼吸を行なわせるとslow waveburstがしばしばみられ,小児ではむしろ正常なnonspecific responseと言えるのである.本誌21巻5号p.647の第1図にその1例を示しておいた.小児ではhighvoltage delta wave burstに,あたかも低振幅のspikeをおもわせる小さな刻みが重なつて現われることさえ正常にみられる.

手術手技

胃切除術六題—胃潰瘍に対するBillroth I法

著者: 中山恒明 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.1722 - P.1730

 臨床外科の手術手技の項に私達が現在ルーチンの方法として行なつているいろいろな胃に対する手術方法を書くようにという依頼により,これから6回にわたつて,記載します.
 第1回はもつとも広く行なわれている胃切除術ですが,これは胃十二指腸潰瘍に対する手術ということで,私達は現在98%まではBillroth I法の私(中山)の新法を行なつています.そこで一口に胃十二指腸潰瘍といつても,胃潰瘍と十二指腸潰瘍に対しての手術は,少しく十二指腸断端の処置において異なるところがあります,したがつて十二指腸断端の処置については,十二指腸潰瘍の手術の方で別口に話することにして,まず胃潰瘍の手術についてこれから話してみたいと思います.

他科の知識 眼科の立場より

救急時顔面の外科

著者: 大橋孝平

ページ範囲:P.1731 - P.1734

はじめに
 眼部はわずか一握りの狭い範囲であるが,それで血管,神経,皮膚,粘膜,腺,運動筋なども,特殊の配置で連絡し,これら副眼器のみならず,極めて精密な眼球を蔵し,わずか直径1cmの精巧な透明で光学的の角膜を通じて,この感覚器官は視神経より中枢へと結び続くという重要な連繋を保つている.誠に小さいながらも,複雑な構造と機能を持つているので,これの外科的侵襲には,特に解剖,生理機能学の知識に広く通暁するを必要とするのであり,一般外科と同じく,ステロイドと抗生物質の応用が重視されているわけである.

カンファレンス

胆嚢癌転移

著者: 小島憲 ,   林豁 ,   松田源彦 ,   小沢啓邦 ,   上野幸久 ,   布施為松 ,   太田怜 ,   藤田五郎 ,   福田健 ,   近藤正太郎

ページ範囲:P.1735 - P.1739

 藤田(司会) 第323回CPCの症例は,66歳の女性の方の,三宿病院に入院しておつた症例です.臨床診断は,胆嚢癌の再発となつていますが,前回入院時に胆嚢を摘出されておりますので,胆嚢癌の転移ということだと思います.
 現症の経過を説明してください.
 近藤 患者は66歳の女性で,前後2回人院しております,今回の主訴は,心窩部痛および背部痛,悪心,全身倦怠感であります.

症例

巨大孤立性肝嚢胞の1例

著者: 大和哲郎 ,   加藤嘩 ,   武藤賢二

ページ範囲:P.1743 - P.1746

はじめに
 肝における嚢胞形成の多くは,寄生虫性嚢胞か,組織崩壊によつて生ずる偽性嚢胞で,真性嚢胞は稀有である.しかも緩慢に発育経過し,特有な症状がなく,臨床診断も困難であるため,剖検あるいは開腹術のさいに偶然発見される場合が多い.
 最近,われわれは気腹レ線撮影法によつて,術前に診断し,完全別出術に成功した,巨大な孤立性肝嚢胞の1例を経験したので報告し,あわせて文献的考擦を加えた.

外傷性(脳室内)気脳症の1治験例

著者: 倉本進賢 ,   森平真 ,   渡辺光夫 ,   末安種行

ページ範囲:P.1747 - P.1750

はじめに
 気脳症の発見は古く,McArthur1)によれば,すでに1741年にLecatにより報告され,また1777年には,Olof Aerelによってtraumatic pneumatoceleが報告されている.その後1913年にLukett2)がレ線学的にこれを認めて以来,Holmes3),May4),Potter5),Killian6),Dandy7)をはじめ欧米では多くの報告がなされている.しかしわが国では近年の交通事故および労働災害による頭部外傷の激増にもかかわらず,本症に遭遇することは比較的に稀であり報告も少ない9)10).私共は最近外傷後に脳内気脳症を生じ,これがさらに脳室内気脳症に発展した1例に開頭術を行ない,治癒せしめえたので報告する.

胆嚢内隔壁形成

著者: 正津晃 ,   岡田是美 ,   内山忠勇 ,   戸倉康之 ,   小張志郎

ページ範囲:P.1751 - P.1755

はじめに
 胆嚢奇形には多くの種類があるが,そのうち比較的多くみられるのは,胆嚢内に隔壁を形成して内腔が2つの室に分かれている症例である.しかしその臨床的意義,病理所見については報告が少なく,その名称についても不明確な点がある.1つには従来欧米文献に記載されていた胆嚢奇形の分類,命名が,著者により異なる点があつて混乱しやすく,本邦の報告でも胆嚢内隔壁形成とすべき例を.重複胆嚢あるいは胆嚢憩室として記載している例もみられる.ここにわれわれの経験した本症手術例7例の概要を述べ,あわせて胆嚢奇形の分類およびレントゲン診断上の注意についてふれたいと思う.

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第17回日本医学総会 風見鳥ニュースNo.6/第17回日本医学総会 風見鳥ニュースNo.7

ページ範囲:P.1706 - P.1708

 第17回日本医学会総会および分科会の宿泊予約申込要項決まる
 4万人の参加が予定される第17回日本医学会総会ならびに各分科会の宿舎につきましては,かねてより十分に意を払い,検討を重ねてまいりました。その結果,宿泊関係事務については,関係各機関協力のもとに,日本交通公社に一括委託し,同社内に総会宿舎事務局を設置することにいたしました。したがって宿舎予約はすべて同事務局を通じて行なわれることになり,その予約申込要領が下記の如く決定されましたのでご報告いたします。

人事消息

ページ範囲:P.1750 - P.1750

堀 孝郎(札幌医大講師 麻酔) 鳥取大学教授に昇任
池尻 泰二(九州大助教授 外科) 厚生省に出向,国立福岡中央病院

「臨床外科」第21巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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