icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻2号

1966年02月発行

雑誌目次

特集 癌の補助療法・2

癌の放射線療法

著者: 中塚春夫

ページ範囲:P.163 - P.169

はじめに
 癌に対する放射線療法は外科療法に匹適する主療法であり,ある種の癌に対しては外科療法以上の治療効果も挙げうることは周知のとおりである.しかしながら外科療法によつても,放射線治療によつても根治療法が困難で治癒率の低い癌も多く存在する.このような癌に対して外科治療と放射線治療の併用により治療効果の向上をはかるべく多くの努力がなされている.高エネルギー放射線装置の普及と共に外科治療と放射線治療の併用も比較的容易となつてきたので,主として高エネルギー放射線療法につき,著者らの15MeVベータトロンによる治療経験を加味して述べることにする.なお,併用療法に際して問題点となる照射の時間因子(time dose relationship),後期障害についても触れることにする.

食道癌の術前照射

著者: 赤倉一郎 ,   中村嘉三 ,   掛川暉夫 ,   保坂陽一 ,   久保脩 ,   山下久雄

ページ範囲:P.171 - P.179

はじめに
 1913年にTorek1)が胸部食道癌切除に成功して以来,現在に至るまで食道癌の治療成績向上に対して,幾多の努力が払われてきた.特にわが国の外科領域における,中山教授,桂教授等2)3)の活躍は広く内外の注目をあつめている.しかしながらその遠隔成績を見た場合,食道癌の5年生存率は約10%前後と4)6),他の消化器癌と比較していまだかなり低率である5)6).これらを解決するためには早期発見,早期治療が重要であることはしばしば述べられてきたところであるが8)9),しかし依然としてわれわれが取扱う食道癌患者の大多数は進行癌であることが多い.このような現況においては,食道癌の手術術式のほぼ確立された現在,手術のみによる食道癌の治療成績向上を期待することは困難であり,放射線療法または癌化学療法との併用等,なんらかの補助療法の必要性が強調されている.特に術前照射療法と手術の併用は近年とみに注目され,この併用の優秀性を説く論文にふれることが多くなつて来た10)−14).わわれれも3年前より胸部食道癌を主体に術前にCo−60照射およびLinac照射を行ない,その後手術を施行し,かなりの成果を上げているので,今回われわれの症例を中心に術前照射が食道癌治療に対し一つの優秀な補助療法であることについて述べたい.

食道癌の補助療法—食道内挿管法について

著者: 中山恒明 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.181 - P.190

はじめに
 麻酔,術後療法の進歩と共に,胸部食道癌に対する根治術も著しく進んできた.しかし諸家の報告では,手術死亡率は20%前後とかなり高い.一方,入院患者に対する切除率をみると,Macmanus46%,Mustard 24%,Miller 43%と低く,教室でも約60%と他疾患に比べかなり低くなつている(第1表).
 そこで切除不能食道癌に対する姑息療法も大きな意義をもつてくる.患者の一番の悩みである"食物が通らない""唾液やぬるぬるがでる"ということを改善し,栄養の補給を目的としたもので,従来いろいろのことが試みられてきた(第2表).

肺癌の外科的療法と放射線,化学療法の併用

著者: 香月秀雄 ,   山口豊 ,   河野宏 ,   小山明

ページ範囲:P.191 - P.199

はじめに
 40年の秋に学会の報告のためにわれわれの臨床例の手術成績を調査してみたが,これによると515例の肺癌の症例のうち189例に切除が行なわれている.この切除例の術後5年生存率は15%で,このうち根治手術例だけを遠隔成績の対象としてみると,5年生存率が46%という成績が出ている.
 この成績からみると,肺癌の手術成績は全体としてはまだはなはだ不満足なものであるということがわかる反面,根治手術(治癒手術という名でも呼ばれるが)の成績は一応癌腫の遠隔成績として当初の目標とされていた5年生存率50%に近づいていて,肺癌の治療というはなはだ困難な課題にもいくらかの希望が持てるように思える.

グラフ

異種摘出肝灌流による肝性昏睡の治療法

著者: 水戸廸郎 ,   ,  

ページ範囲:P.232 - P.236

 肝性昏睡の治療には枚挙にいとまがない程数多くの方法がある.これは肝性昏睡のmechanism,→ができないことによる.肝疾患末期の肝性昏睡に対する根治的治療は,臓器移植によらざるをえないがに何んらかの形で,肝機能を代行させ,危機を脱することができれば,その後は肝の再生力により救命わゆる"人工肝臓装置"の研究が主として日本において行なわれ,世の注目をあびたが,まだ実験研いえよう.一方,昨年来,米国においては異種肝臓灌流法が、あらゆる薬物治療に反応を示さなかつたに成功して以来,肝移植の前段階として,まだ"New concepts in the management of liver failure"されるに至つた(第1表).著者等も4例に合計13回の灌流を行ない.全例,昏睡状態より回復せしめよび灌流法の大要をここに紹介することとする.

外科病理アトラス

肺腫瘍

著者: 鈴木千賀志

ページ範囲:P.147 - P.151

外科の焦点

老人外科の問題

著者: 田中大平 ,   赤沢章嘉 ,   上野武男 ,   田村清孝 ,   永津正章 ,   大橋正世 ,   牧野資実 ,   篠崎淳彦 ,   荒木駿二 ,   水野登夫 ,   四宮義也 ,   田沢三郎 ,   山田忠義 ,   正務秀彦 ,   平賀義雄 ,   竹内靖司 ,   寺田和彦 ,   朴順京

ページ範囲:P.155 - P.162

 老年医学の一環として老人外科の問題が近年close upされてきたことは,60歳以上の患者の手術数が全手術数の10%以上となり,その一人一人について若年者と違つた慎重な注意を要することに由来するのであろう.実際,老人の手術死亡率は若年者の数倍に達しており,死亡しない迄も治癒が遅れ,あるいは合併症を発して社会復帰が困難となるものもかなり存在する.そしてこのような手術の予後を反映してか,今日なお,老人の手術率はその発病率に比してかなり低いといわねばならないのであつて,ただ老人という理由のみで手術されない患者も多いと思われる.したがつて,老人外科の問題点は手術の安全性を確保することと,従来は手術をためらつたものにまで安全に手術適応を拡大するというところに最も重要な課題が存在する.しかし,実際に老人患者をとり扱うと,老年の疾患は,その頻度,種類,性質,症状,経過などに特徴をもち,また,術前の身体的,精神的,社会的状態が若年者とかなり異なる場合があつて,これらは一方において当然手術の安全性と連なりながら,他方において独立した面をもつているので,これらも当然それぞれに老人外科の問題点となると思われる.

簡易検査法

尿検査(2)

著者: 茂手木皓喜

ページ範囲:P.200 - P.202

ウロビリノゲン
 1.臨床的意義 胆道閉塞の場合はビリルビンは腸に達しないためウロビリノゲンは生成されず,したがつて尿中に出現しない.肝障害があるとウロビリノゲン,ビリルビンの変化が障害されて大量のウロビリノゲンが血中に増量し,尿に大量排泄される.排泄されたウロビリノゲンは容易に酸化されてウロビリンに変化するので,検出は新鮮尿を用いねばならぬ.
 正常の場合…少量に存在する.判定(±) 増量の場合・・・・判定(+)から(+++)まで.主に肝実質障害の時,その他肝のうつ血,伝染性疾患.熱性病,出血,溶血性黄疸,疲労後などにも陽性を示すことがある. 欠如する場合・・・・胆道閉塞,判定は(−−)

外国文献

生存凍結皮膚,他

ページ範囲:P.202 - P.202

 Medawar (Proc.Roy.Soc.Med.47:62,1954)はglycerol加Ringerに浮べたブタ皮膚を−79℃に凍結,500日のviabilityを得た.Lovelock (Nature 183:1394,1959)が凍結の傷害を防ぐにdémethyl sulfoxide (DMSO)を考察して,Lehr (Surgery 56:742,1964)はそれを用い長期viableの凍結皮膚を得て,auto,homoの移植に成功している.Lehr一派(J.A.M.A.194:149,1965)はsplit-thickness human skinを手術その他で取り,10%DMSO液にsoakし,四角に切つて, dryiceで−79℃,24時間凍結,その後液体窒素中で−196℃に保存,608日におよぶ.使うときはdryiceを取り出し,37℃水槽で50〜70分ゆすぎ,fresh graftとして患者にあてる.この方法でautograft 22例(26個),homo8例(12個)保存日数2〜608日.保存日数には全く関係なく,auto 12例, homo 6例生着(homoは10日のsurvival).生着は受容者の病変部の性状に依存し,手術でつくつた新しい健康な欠損部によく,浮腫状・滲出物・感染創にわるい.viableでないものには血管再生がない.viableに維持するのにDMSOが最もよい.

実地医家のための診断シリーズ・11 対談

頭部外傷

著者: 森安信雄 ,   長洲光太郎

ページ範囲:P.203 - P.209

 長洲 今日は森安教授に頭部外傷について,分かりやすくお話していただこうと思います.
 近頃の人は子供が頭を打つたとか,酒に酔つて転んだとか,頭を打つと,非常に心配をして,精密検査をしてもらいたいなんていつて,私達の病院にも来るわけですが,どういう程度のものなら,安心させていいか,あるいは入院させるべきか.そんな点から伺いたいと思うのですが.

診断のポイント

早期胃癌の診断(2)

著者: 市川平三郎

ページ範囲:P.210 - P.214

 前回は,早期胃癌の診断に際して応用されているX線診断,内視鏡診断,細胞診,生検等の現状を述べ,そのおのおのの長所,欠点について触れてみたが,今回は,X線診断を中心にして述べてみようと思う.

読影のポイント

脳波の読み方(2)

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.215 - P.219

Ⅳ.正常脳波
 脳波は年齢と意識の状態に大きく影響される.したがつて,脳波を読むにあたつては,年齢と記録時の意識の状態をまず前提として知らねばならない.健康幼児の正常脳波と同様の脳波が成人にみられるならば,それは明らかに病的脳波である.また,麻酔時や睡眠時の脳波と近似の脳波が覚醒時にみられるならば,これも明らかに異常脳波である.したがつて,脳波の正常,異常の判定には,被験者の年齢や記録時の状態を十分知つておかねばならない.

手術手技 乳幼児の手術手技・1

人工肛門造設術

著者: 森田建 ,   東悦雄

ページ範囲:P.220 - P.224

はじめに
 乳幼児に対する手術手技の上で,成人と異なり注意すべき点は,愛護的な丹念な操作を必要とすることである.往時は乳幼児の手術においては時間の短いことが必要と考えられ,とかく乱暴なあるいは粗雑な操作に走り勝ちであつたが,現在の進歩せる小児麻酔や術前術後の管理によつて,時間のみにこだわることなく,愛護的な確実な手術操作を行なうことができるようになつたのである.患児が幼児・乳児・新生児と幼若になるに従つてその組織や臓器はそれだけ繊細かつ脆弱となるものであり,それに応じて手術手技もより愛護的に,より細心なことが必要となるのである.これは単に執刀者のみの心懸けでできるものではなく,手術に携る全員が理解し注意することによつてはじめて可能となるのである.
 手術器具としては,摂子,鋏,各種の鉗子など小児のものがあれば便利であり,ことに新生児や幼若乳児などでは成人の手術器具は不便で副損傷の危険もあり,小型の器具を用いるべきである.最近は小児外科用の小型手術器具が市販されており,容易に入手しうるようになつている.

外来の治療 実地医家のための外来治療・8

外来における脳神経外科関連疾患の治療(2)

著者: 渡辺茂夫

ページ範囲:P.225 - P.229

 頭部疾患のうち第2の項目として,多くの症例を有し,外来を訪れるものは,麻痺,しびれである.これは多く半身,または部分的の,まひ,しびれ,を訴えてくる.しびれ感と称するものは,なかなか曲者であつて,特に,まひ,異常感覚,知覚障害との関連をよく分析して,患者の訴えをきく必要がある."シビレ"を訴える中に,まひもあれば,一時的の知覚障害もあれば,固定型の知覚異常,または,感覚の異常感の程度のものもある.これらをよく検査し,さらに,その形,範囲,程度をよく調べ,診断をつけ,外来治療の限度を定めて,とりかかるべきである.

アンケート

胃手術後の早期出血はどう処置していますか

著者: 田中早苗

ページ範囲:P.230 - P.231

 胃手術後の早期出血に対する処置は,出血の原因によつて異なるものであり一様ではないが,日常遭遇するものは殆んどが縫合部からの出血であろうと思う.これは当然術者の一寸した注意によつて防止しうるものであり,そうした注意を特にはらうようになつた最近の2年余りでは,1例もそうした不快な症状に遭遇したことはない.すなわち,後壁全層縫合をおこなつたのち,一応腸鉗子をはずして,すこしでも出血してくるところがあれば結節縫合を追加することによつて確実に止血をおこない.またそのとき胃の中を覗いてみて,クリップをかけて埋没してある部からも出血はないかということを確かめてみるのである.大抵の場合後壁に2,3針の追加結節縫合をおこなうことになる.こうした処置をすることによつて手術時間は2〜3分ほど延長されるが,それまでは1年間に1〜2例あつた術後のきわめて不快な胃出血を完全に防止し得ているので,それだけの努力を払う価値は十分にあると思つている.何事においても予防は最良の治療のはずである.
 さて,出血にたいする処置であるが,出血といつても術後のことであるから,胃潰瘍からの突然の出血の時にみられるようなショック状態に陥るまで放置されているようなことはなく,胃カテーテルからの出血あるいは血圧の低下などによつて早い時期にそれと診断がつけられ,輸血,輸液,酸素吸入および各種の止血剤投与などの処置がとられる.

トピックス

電子熱交換による生体温度制御

著者: 山崎善弥

ページ範囲:P.240 - P.241

 従来医学領域における低温化操作には,もつぱら氷や冷水が使用されている.また時に炭酸ガスやクロールエチルの断熱膨脹,あるいは機械的方式による冷却方法が使用されてきた.これらの方法は操作が面倒で温度制御も面倒である.
 最近の著しい電子工学の進歩に伴い開発された,ペルチェ効果にもとづいて,電気エネルギーを直接熱エネルギーに変換する熱電半導体を用いて実用化された電子冷却方式は,従来の冷却方式に比較して,小型化容易,動く部分がないので静かに動作する,温度制御が容易かつ精密である,冷却加温の切りかえが即座にスイッチきりかえで変えられる.すなわち冷却部が即座に加温部に変転するなどの種々の特徴があり,医学分野で用いると十分その特徴を発揮することが考えられたので,電子冷却の医学応用につき1962年来工学と医学の協同研究が続けられてきた1)

患者と私

患者のために医学教育の改善を

著者: 中山恒明

ページ範囲:P.242 - P.243

 今回 臨床外科の係の方から"患者と私"というテーマで書くよう申出があつたので,平常私が考えていることを述べてみたいと思います.
 最近,私がつくづくと感ずることは,日本ではいわゆる,医学者というものと,医者というものとが,ゴッチャに考えられている向があるのではないか.そしてまた医学者の方が何となく格が上であるというような観念が一般にゆき渡つているように思われる.

海外だより

黒衣の女と白い砂(3)

著者: 桜井靖久

ページ範囲:P.244 - P.246

 さてわが診療所の所長は私である.総勢14名のメンバー中で日本人は私1人だ.アラブの医師は3人いる.モハンムッド・ムーサ・アル・スルーリー氏とユーセフ・ハジャージ・ターベット氏がGeneral doctor,イブラヒム・ラシャード氏が歯科医である.いずれもカイロ大学出身で英国風の教育を受けている.ターベット氏は29歳で私より年下だが世が世ならパレスタイン地方のさる大名のプリンスとのこと.皆口ひげを蓄えて堂々たる貫禄なので彼等と並ぶと所長の私はチョット坊やのような印象を与える.
 周囲5,000人の人口に病院はアラビヤ石油の診療所一つしかないのだから患者は毎日200人位は押しかける.会社差し廻しのバスがfamily quarterに出向いて現地人の患者を運んでくる.9時頃にはこれらの患者さんと付添いの人々で一杯になる.診療はすべて無料,会社負担である.利権協定で"附近住民の福祉につくすこと"が一札入つている.中には診療所は海辺に近いからチョットー泳ぎして待合室のクーラーで涼みながらゆつくり皆さんと井戸端会議をやつて,まあきたついででもつたいないから何か薬をせしめていこうなどという輩もいる.沙漠の中の彼等の家に行くと貰つた薬と水薬の瓶とが飾つてあつたりする.

外国雑誌より

Selective Vagotomy

著者: 坂本啓介

ページ範囲:P.247 - P.247

 1943年Dragstedtに始まつた胃十二指腸潰瘍の外科的治療法としてのvagotomyは,特に米国において,胃切除に代る十二指腸潰瘍の手術法として広く用いられ,かなりの成績をおさめている.しかしこの方法は,術後の下痢,胃部不快感,腹部膨満などのいやな副作用があるため,わが国では現在ごく一部で用いられるに過ぎない.

雑感

盲点

著者: 小篠速雄

ページ範囲:P.248 - P.248

「目がよい」ということ
 「目がよい」ということは,単に視力がよいということではない.この点世間は大変な間違いをおかしていることに,気が付いていないようだ.
 この誤つた認識の原因は,その昔軍部の要請にもとついて,近視偏重の政策がとられたところにあり,この誤謬が何ら訂正されないで,今日に及んでいるのである.

傷の湿布療法?

著者: 横井秀雄

ページ範囲:P.249 - P.249

液体内でなければすべての細胞は機能を失うものである.組織培養も適正なる条件の液体内で行なわれるのである.一見大気に触れながら生命を保つかに思われる組織でも,その実は外気を遮る被膜あるいはこれに代る粘稠なる液体の膜によつて潤おわされているのに気付くのである
 われわれの身体も要するに皮膚という強靱なる被膜の袋に漲つた体液中に浮遊せる細胞群により構成されているに過ぎないことがわかる.

他科の知識 循環器疾患の治療・1

心不全の治療

著者: 森博愛

ページ範囲:P.255 - P.259

 心不全の治療には,速効性および遅効性ジギタリス各1種について十分その特質を理解し,心不全症状の重症度に応じて使い分ける必要がある.心不全は一つの症候群であるから,キサンチン薬,利尿薬などの適切な併用により,始めてジの持つ最大効果を発揮させ得ることも多い.この場合は体内電解質均衡の維持に留意することが大切で,この意味からK保有性利尿薬を用いることが望ましい.

他科の意見

循環器疾患について外科への希望(2)

著者: 斎藤十六 ,   木川田隆一

ページ範囲:P.260 - P.262

Ⅲ.歯口科・耳鼻咽喉科方面の麻酔について
 虚血性心疾患をもつヒトが,抜歯するとき,局麻薬に注意すべきことを専門の同僚から学んだ14).局麻薬のなかには,たいてい,アドレナリンがはいつている.それゆえ,多量を使えば,血圧はあがり,狭心痛がおこることもある.不注意にも,溶液が,たくさん脈管内にはいると,この危険は,かなり大きい.かような場合,内科がわでは,アドレナリンのような血管収縮薬をふくまない局麻薬を使つてほしいと思うことがある.しかし,外科がわの専門家は,脈管収縮の作用をもたない局麻薬などのうちには,満足すべきものが,ほとんどないことを知つている!Chamberlainは15),虚血性心疾患をもつヒトにも,1:50,000のわりでアドレナリン類を入れた2%のプロカインを,1ヵ所につき10mlまで使うことは,まず,危険がないといつている.アドレナリン類なしのプロカインを使えば,血管は拡張し,害作用を起こすに十分なほど,血行中に急にはいることもありえよう.不適当な麻酔によつて痛みがはげしければ,患者自身のアドレナリンが分泌される.こうして,患者は,プロカインとともにあたえられるよりも多いアドレナリン量の作用をうけることにもなる.lignocaine (lidocaine,xylocaine)類は,プロカインほどの血管拡張をおこさないが,それでも,1:100,000のわりあいでアドレナリンを加えることがある.

講座

外科領域における水分電解質の問題(2)

著者: 高藤歳夫

ページ範囲:P.263 - P.266

 外科患者にしばしばみられる脱水の状態を判定することは,重要であります.これには,理論的にいうと,身体の全水分量とともに細胞外液の測定が必要となります.しかしこれらを測定することは,実際問題として,日常どこででも行ない得ることではありません.そこで臨床的の所見として,まず問題とすべきものは,1日の尿量とその比重であります.すなわち脱水の状態においては,尿量は少なくて暗色を呈し,比重は高いのが常であります.Maddockらも,臨床的に大ざつぱにいつて,1日の尿量が500ccに近いものは,だいたい脱水状態と考えてよい,といつております.しかしこの場合に,腎機能について深い注意をはらわねばなりません.というのは,もし腎機能に障害があるならば,尿はその量のいかんにかかわらず,稀薄であつて比重も低く,蛋白を証明するからであります.渋沢らによれば,脱水において尿量が減少するのは,その血清にさらに抗利尿物質の濃度が高まつており,減尿は濾過率の低減によるのみでなく,さらに細尿管再吸収の亢進によると考えられるといつております.
 この尿所見のほかに,血液検査の成績においては,非蛋白窒素の増加,クレアチニン濃度の上昇など,一連の変化が認められます.

カンファレンス

食道癌

著者: 小島憲 ,   平野謙次郎 ,   若山晃 ,   宍戸隆典 ,   布施為松 ,   大出良平 ,   隅越喜久男 ,   森永武志 ,   蓬莱裕

ページ範囲:P.267 - P.270

 森永(司会) ただいまから第297回CPCを行ないます.今回の症例は食道癌で放射線科の受持になつていますが,一度外科で手術を受けた症例です.担当の蓬莱先生にお願いします.
 蓬莱 患者は53歳の男子自衛官.家族歴は父および同胞2人結核死.既往歴としては34磯で軟性下疳,43歳外地で熱病(マラリアらしい).52歳で高血圧(170〜100)を指摘.

薬剤の知識

酵素剤の使い方(3)

著者: 石井兼央 ,   竹内正

ページ範囲:P.271 - P.273

 すでに消化酵素剤の使い方についてのべ,酵素の局所への応用,注射療法として蛋白分解酵素についてふれた.本稿ではムコ蛋白分解酵素,核酸分解酵素,呼吸酵素の非経口的に応用する場合をのべる.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?