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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻5号

1966年05月発行

雑誌目次

特集 癌患者の栄養問題

司会者のことば

著者: 陣内伝之助

ページ範囲:P.593 - P.593

 癌患者の栄養の問題は,日常臨床家の遭遇するもつとも卑近な問題であり,かつ重要な問題である.それにも拘わらず,今まで等閑に付されていたもので,おそらく患者から問われても自信をもつて,こんな食餌がよいといえる人はほとんどないであろう.その証拠に,昭和39年度の外科学会のとき,癌の手術をいつもやつており,平素常にこのような質問を患者から受けているはずの外科学会評議員の人達に,胃癌術後の栄養としてどんな食餌を奨めているかというアンケートを出してみたところ,つぎのような結果がえられ,大部分は高栄養食,とくに高蛋白食,高カロリー食をとらせるという結果であつたが,確固たる根拠を挙げた人は一人もなかつた.このように,もつとも重要な問題でありながら,問題がむずかしいだけに,誰もが敬遠して研究しなかつたというのが本当であろう.
 今日のシンポジウムで得られたことを,ごく総括的にのべると,癌患者では想像以上の代謝障害が見られ,一定の時期を過ぎると,もはや,いかに栄養を与えても,癌組織に取られるのみならず,体蛋白の崩壊も著じるしく,およそ栄養をもつて癌の進展を止めようなどということは考えられないけれども,しかしながら,実験的に高蛋白食は低蛋白食よりも,とくに腫瘍剔出後においては,担癌宿主の延命効果には有数であること,しかしまた一方高蛋白食は転移形成にはむしろ促進的にはたらくことなどが明らかにされた.

担癌生体の蛋白質および糖代謝異常—栄養生理の立場から

著者: 須田正巳

ページ範囲:P.594 - P.601

序論および蛋白代謝の項でものべたように外部から摂取する栄養によつて癌の異常増殖を阻止することはできない.担癌状態は,癌組織が生体内で増殖することに起因したhostの代謝調節の破綻であつて,hostは癌組織の代謝を支持する方向に同調させられている.糖代謝では,宿主の肝臓は,その重要な血糖維持の生理機能を減退させられ,律速酵素は,筋肉その他の糖分解をする酵素型に変化している.個体発生的にみると,この変化は,肝臓の脱分化(dedifferentiation)と考えられる.宿主側がこうむる影響の原因は,parabiosisの実験からも,まず癌組織からのhumoral factorが考えられる.今後はこれがいかなるものかに研究をすすめたい.このような考え方からすれば,癌患者には,energy源,蛋白源を十分に補給しつつ,癌組織には別個の治療対策をする以外に,少なくとも現在では方法がないと考えられる.もし幸にして将来humoral factorとその作用機序が明にされるならば,癌組織が,宿主側におよぼす代謝的変調を防止する手がかりが得られるのではないかと思う
 本研究の蛋白質代謝異常に関しては,大阪大学蛋白質研究所代謝部門の石川栄治博士,医学部泌尿科三瀬徹博士,糖代謝の異常に関しては,蛋白研代謝部門の田中武彦助教授,医学部栄養学教室大学院学生,森村弘子,原納優,医学部陣内外科陶文蟯の諸君の精力的な研究によつていることを記して,感謝の言葉としたい.

癌の外科的療法と栄養の問題

著者: 芝茂 ,   田口鉄男

ページ範囲:P.602 - P.606

 癌と栄養に関する問題は,いろいろ異なつた概念を含んで,それが相互に複雑にからみあつている.
 癌患者の栄養管理をいかにすべきかという命題に対して,実際的な食餌療法に応用するだけの癌病態生理生化学的データは今日までの所誠に乏しいといわざるをえない.

蛋白投与と転移形成

著者: 山本政勝

ページ範囲:P.607 - P.612

はじめに
 癌と栄養との関係については,多数の報告に接するが,なおその全貌が釈明されていない.就中,転移と栄養との関係についての知見は乏しい.そこでわれわれは蛋白投与と転移との関係について検討をすすめてきた.本来,転移と栄養との関係を解明するには,動物の自然発生癌によらねば,その真相を究明することはできない.とくに術後栄養と転移との関係を明らかにするには,自然発生動物癌の同一時期のものを選び,しかも均一な手術侵襲を加える心要性があるなど,各種の制約が加わるため,甚だ困難なものとなる.一方臨床家の関心事は消化器系の癌患者の術後栄養と転移との問題であろう.しかし,前述の諸条件を完全に充すことが不可能な現段階では,移植癌を用いて,可及的人類癌類似の状態下で検討することも止むを得まいと考え,以下のModel実験を行なつた.
 しかし移植癌による実験では,腫瘍がつくまでの時期と,これにつぐ増殖期とでは,栄養の影響も異なり,ことに増殖を開始してからでは,結局身体全般の発育状態に左右される可能性もあり,判然たる結果を把握し難い.

担癌体の栄養と腫瘍発育の問題

著者: 佐藤八郎

ページ範囲:P.613 - P.618

 癌細胞は旺盛な細胞分裂をもつて特徴づけられるが,その根底にある生化学的変化としては,異常な核酸合成と,これに伴う,旺盛な蛋白合成をあげることができよう.癌細胞が正常細胞と異なつた栄養要求性を示す事実は見出されていないが,その増殖に必要な栄養素材は,正常細胞と同帳,血流を通じて供給されるものである.しかしながら,栄養素材の摂取面から眺めた場合,癌細胞が栄養素を摂取栄養素に直接求めているか,あるいは,宿主組織の分解に求めているかは,問題の多いところで,腫瘍発育の時期によつても相異すると思われる.いずれにしても,腫瘍発育と栄養の関連は,蛋白代謝面より検討するのが最も妥当と思われるので,摂取窒素源の面から腫瘍発育の問題を追究してみた.
 実験腫瘍としてはEhrlich腹水癌およびAH130腹水腫瘍を使用した.飼料としては,ラット飼養に適した蛋白のアミノ酸組成を示すRamas-armaなどの組成を参考にした.

討議

著者: 陣内伝之助

ページ範囲:P.619 - P.622

陣内
 これで4人の演者の方のお話を終りまして,ただ今から討論に入りたいと存じます.
 ゆつくり時間がとつてありますので,十分のこ討議をお願い致します.

グラフ 外科病理アトラス

乳癌

著者: 増田強三

ページ範囲:P.573 - P.577

 乳癌は乳管や腺胞土皮細胞から発生するものであるが,癌細胞の分化程度,分泌物,間質の分布,進度によつて肉眼的にも組織学的にも多種多彩な様相を示すものである.
 したがつて乳癌の分類も人によつてかなり異つている.また同一の乳癌組織内に多数の部分像を共存するものもあつて,どの部分像をもつてその癌の代表とするかには相当異論がある.

グラフ解説

ヨーロッパの新しい医学

著者: 渥美和彦

ページ範囲:P.664 - P.671

 私は,去年9月より3カ月にわたつて,"新しい医学"といわれるMedical Electromicsのヨーロッパにおける現状を視察する機会をえた.
 もちろん,限られした月日で,ヨーロッパの全体を見つくすことは不可能であるし,また,限られた紙数で,それらについて書きつくすことも完壁を期し難い.

外科の焦点

高圧酸素療法の臨床応用(2)

著者: 古田昭一 ,   高木忠信 ,   呉大順 ,   佐藤富蔵 ,   山本俊一

ページ範囲:P.579 - P.589

D.潜水病(Bends)に対する再加圧療法
 潜水病は潜函(Caisson)病とも減圧病とも呼ばれている.今日橋梁基礎工事,海底作業等に用いられている潜函工法を一番初めに実施したのはフランスで,Loire河の工事では潜函病が見られたということである1),(1841年Triger).
 本症は一般には"Bends"と呼ばれているが,その言葉の意味は症状である関節痛,筋肉痛,呼吸困難等の苦痛を柔らげるために,体を折り曲げることよりきたものである.発症のメカニスムスは衆知のように,血液,組織液,脂肪内に溶存したガスが急激な減圧により発泡し,ガス栓塞,組織の損傷を起こすためと考えられている.

論説

肝疾患の超音波診断—肝機能検査・組織像との比較

著者: 萩原貞二 ,   菊池由夫 ,   河野均也 ,   久保田裕 ,   和賀井敏夫

ページ範囲:P.627 - P.633

はじめに
 今日,一般に肝疾患の診断に用いられている検査法としては,肝機能検査と,腹腔鏡,肝生検等の形態学的検査法とがあるが,肝疾患には明かな肝機能異常を前景にもつものと組織学的変化のみが著明で肝機能障害の極めて軽微なものとがあり,肝機能検査成績と形態学的所見との間に恒常的な開連性を見出すことはできない1)2)3)4)5)
 元来,肝機能検査は,その大部分がいわゆるhepato—bihary system6)のactivityの反映であり,肝細胞変性そのものの表現と考えられるものではない.とくに,肝硬変の場合などのように,細胞変性の組織反応として,肝内に異常血行路が形成されるようになると,両者の関係は一層複雑となる.一方,現行の形態学的検査法には種々の実施上の制約が附随するは.たとえば肝生検によつて齎らされる情報は,肝臓の極めて限られた範囲の組織学的所見に過ぎないし,腹腔鏡の場合は肝実質内の変化が腹腔鏡の視野の範囲の肝表面に波及することが診断上の要約となる.

簡易検査法

血清学的簡易検査法(2)

著者: 鈴田達男

ページ範囲:P.634 - P.638

FI テスト
 外科手術のさいに出血傾向の有無をあらかじめ知ることの必要性はいうまでもないが,手術侵襲によつて線維素溶解性紫斑病がおころことも知られており,この検査のためには単なる出血,凝固時間のみでは不十分で,フィブリノーゲンを大まかでもよいから測定しておく必要がある.
 このためにもちいられるのが本反応で,やはりラテックス凝集反応を応用した簡易法である(写真1).すなわちあらかじめヒトフィブリノーゲンで動物を免疫して得た抗面青をラテックス粒子に吸着させておき,この試薬と被験血液(全血)の適当な希釈を混合すると,フィブリノーゲンの含有量によつて凝集のあらわれ方がちがうので,おおよその見当をつけることができる,この検査はbedsideまたは手術室でも施行することができ,検査の経験のない人でも指示通りに行なえば正しい結果が得られ,ごく短時間に成績がわかる特長があるので,もつと広範な利用が期待されるが,輸入品であるので高価な点(6検体当り15000円)が欠点である.他のラテックス凝集反応と手技が多少異なつた点もあるので少しくわしく解説する.

診断のポイント

左→右短絡心疾患—心室中隔欠損症,心房中隔欠損症を中心に

著者: 新井達太

ページ範囲:P.639 - P.645

 左→右短絡心疾患とは動脈血が直接静脈系にそそぐ場合で,連続性心雑音を呈する心疾患(第21巻3号に掲載)も全て含まれているが,今回は収縮期雑音が主に聴かれる左→右短絡心疾患をとりあげ,心室中隔欠損症,心房中隔欠損症を中心として,その類似疾患との鑑別診断をとりあげる.
 今回述べる左→右短絡心疾患の特徴はチアノーゼがなく,胸骨左縁時に右縁に収縮期雑音を聴取する点である画また,右心カテーテルで短絡の部位(心房あるいは心室)で血液の酸素含有量の増加があることが兵通の特徴である.

読影のポイント

脳波の読み方(5)

著者: 善多村孝一

ページ範囲:P.646 - P.649

脳波の賦活activation
 脳波記録はまず,患者に眼を閉じさせ,精神的なストレスから解放された安静な状態において行なう.この安静覚醒時の脳波記録は臨床脳波検査の基礎である.しかしながら,多くの場合これのみでは不十分である.とくに,発作的に脳波異常を呈し,その間歇時には異常を呈さないてんかん性疾患の場合には,限られた検査画時間中に発作性異常波に出あわなければ,これを診断することはできない.いつ現われるかわからない異常波の出現を漫然とまつのはいかにも心もとないことであるし,これでは診断の正確を期すことはできない.したがつて,発作波を誘発し記録することが必要である.このように,脳波の賦活は主としててんかん脳波の検査を目的に行なわれる.

手術手技 血管外科の手技・1

大動脈を中心として

著者: 高橋雅俊 ,   工藤武彦

ページ範囲:P.650 - P.656

 大動脈疾患のうちで手術の対象となる主なものは大動脈瘤と大動脈縮窄症である.大動脈を切開切断し,あるいは吻合縫着する場合に大動脈壁の物理的強度をまず念頭に入れておかなければならない.すなわち血管は健康な場合でも外力の働く方向によつて耐性が異なり,または引き裂くあるいは圧挫するなどの外力の種類によつても損傷の程度が部位によつて異なつている(第1表).ことに大動脈瘤などで壁の変性が高度な場合にはさらに脆弱性を増加することも見逃すことはできない.

外来の治療 実地医家のための外来治療・13

外来における四肢外傷の治療(2)

著者: 小谷勉 ,   豊島泰

ページ範囲:P.657 - P.660

I.外来治療が可能の骨折
 われわれは諸種の事情で一般に行なわれている程度をこえて,外来治療に適しないものまでもそれを敢えて行なつているきらいがあるが,外来ではとり扱い難い骨折としては,脊椎,骨盤の骨折,大腿骨・膝蓋骨の骨折,数本以上の肋骨骨折,上腕,下腿の骨折の大多数のものなどと考えている.
 治療は一般に転位部の非観血的整復を試みるが,これが不十分なものは入院・牽引療法が必要となることもあり,観血的整復を要するもののうち,手術侵襲の大きなもの,長時間の麻酔を要するもの,骨移植や植皮をも必要とするもの,術後のギブス固定の広範なものは人院を要し,合併症の有無ならびにその可能性の多寡,一般状態,患者の年齢なども人院あるいは外来治療を決定する要因となる.

トピックス

肺と神経

著者: 平田正雄 ,   嶋田晃一郎

ページ範囲:P.675 - P.675

 肺移植の研究が進むにつれて,神経遮断(Denervation)ということが大きな問題となつてきている.臓器移植のなかでも腎移植ではDenervationはあまり問題にされていないが,肺ではHering-Breuer反射の消失により気管支分泌物の潴溜や排出障害を招き,必然的に各種の肺合併症の発生,さらに機能不全に進展するものとされている.肺のDenervationには多くの研究報告があり,Hawardは部分的なDenervationでは呼吸数とその大きさを変えることはあつても呼吸麻痺はつくらない.しかし全肺の完全なDenervationでは常に1次性の呼吸麻痺を起こして死亡するといつている.しかし一方Faberのように横隔膜神経が保存されている限りdenervateされた肺にも呼吸が出現するといつている人もある.Hardy,Faber,Rech等はdenervateされた肺における肺浮腫の発生について注目し肺動脈圧の上昇,肺換気機能の低下を指摘している.これらの報告に見られるように,Denervationの肺への影響は非常に大きく,肺移植にさいして重要な問題であることに異論はないように考える.
 ところで,肺の支配神経に関する研究は古くから行なわれ,本邦でも沖中,瀬戸,瀧野らの業績があり,肺の神経には求心性と遠心性の両者があり,迷走神経も交感神経もともに両性をもつているとされている.

患者と私

患者は最高の恩師と思う気持

著者: 武藤完雄

ページ範囲:P.676 - P.677

 臨床医学は病気を,患者を対象とする.患者は恩師,先輩に勝るとも劣らない有難い先生である.医師の向学心の程度に応じて,患者は何んでも教えてくれる.熱心さが不足では何も教えてくれないかもしれない.患者は医師を先生というが,実際は反対かもしれない.
 むかしは教室に入ると最初のテーマは病例報告であつた.文献や少し詳しい成書を読むと,ある疾患の重要な点や問題点がいくつか判つてくる.先輩が書いた病歴には重要点が見逃されたか,記載がない.こんな時はこんな記載では報告にならないと悲観したこともあつた.しかし先生の命令だからと思い直して何んとかまとめた.ここで判つてくるのは病歴の記載が重要なことである.教室のためにも,後輩のためにも詳細な記載を残すように努力するようになる.

海外だより

北欧医学"あれこれ"(1)

著者: 沢村献児

ページ範囲:P.678 - P.679

 筆者は1960年1月より12月まで,デンマーク国コペンハーゲン市で開かれたWHO(世界保健機構)とデンマーク政府共催の麻酔講習会に参加する機会を与えられ,その間,コペンハーゲン市内の大病院7カ所における手術場の実際をつぶさに知ることができ,またデンマーク国内のほとんどの土地を旅行し,各地の病院を見学することを得た.
 欧米,ことに米国,ドイツ,英国,フランス等の諸国の医療事情はよく紹介されているが,世界の中でもユニークな先進国である,社会保障の完備した北欧諸国のそれは,案外知られてないと思われるので,この1年間に見聞した印象の"あれこれ"をデンマークにしぼつて書き連ねてみよう.

雑感

外科医に耳鼻科医よりもの申す

著者: 本橋政男

ページ範囲:P.680 - P.680

外科医に何かいえつて?私も五十を越すと本を読むにも老眼鏡が必要になり,勉強も嫌になり,あんまり物を云いたくないね.何かいつても揚げ足取られて老人はひつこめと云われるくらいがおちさ.まあ老人の茶飯み話でもするか?!心して聞け!!
 第一に,外科に額帯鏡をおすすめする.馴れると便利だぜ.肛門鏡を使う時など便利だよ.また手術の時だつて,看護婦!電気が暗いぞ!なんて怒つてるが,怒つても電気の光は強くはならねえよ,額帯鏡を使つてごらん.いともやすやすと光が奥まで入るよ.自分の頭を一寸動かすだけでさつと光が入るぜ.

外国雑誌より

Postcommissurotomy Dilutional SyndromeとADH(Antidiuretic Hormone)

著者: 上井巌

ページ範囲:P.681 - P.681

 僧帽弁狭窄症に対して交連切開術を行なつたあとに起こるPostcommissurotomy SyndromeはSoloff1)らによれば術後ある期間ののちに起こり胸痛,発熱を主徴とし,ときに精神神経症状,不整脈,心不全,喀血などをともないまれに死に至ることもあり原因としてはリウマチ熱の再発であろうという.またPostcommissurotomy Hyponatremic SyndromeあるいはPostcommissurotomy Dilutional Syndromeといわれるものがあり,これは血清のNa値Cl値の低下が特徴的で術後比較的早期におこりWilsonら2)によれば手術侵襲によつてNaの貯留がおこるにもかかわらずそれを上まわる著明な永分蓄積によるもので厳重なNa制限を行なつてもなおかつ起こり回復には数カ月を要するとのべている。またGoodyerら3)は水分の摂取量とは直接の相関はないといい何等かのAntidiuretic Stimulusの存在を想定している.D'Angeloらはこの異常な水分の蓄積の原因としてADH(Antidiuretic Hormone)に注目し治療としてはADHの遊出を抑制するといわれるAlkoholの投与を推奨している.

外国文献

癌—癌転移,他

ページ範囲:P.682 - P.685

 Wheelock(Am. J. Cl. Path. 37:475,1962)がそれまでの文献を展望したところ,癌—癌転移は23例あり,転移を受けた癌は腎腺癌が多いという.Jernstrom(Cancer 19:60,1966)は72歳黒人女,嘔吐,体重減少で入院,レ線で胃癌とは見えぬが大出血をきたしたので開腹胃は幽門前庭から噴門まで,漿膜まで播種あり,周囲リンパ節多数転移胃90%切除,照射.10カ月後満足すべき状態,胃全体腫瘍化し,大彎背側に5cm大の潰瘍あり.胃全体はlymphocytic lymphosarcoma,潰瘍部のみ腺癌で,リンパ肉腫化した胃壁を穿つている.大網リンパ腺,リンパ肉腫転移巣の中に,腺癌が転移していた.著者らCalifornia Tumor Registryでは胃腫瘍の4%がリンパ肉腫.限局型としてくることが多い.この例は真のcollision tumorで,carcinosarcomaではない.胃に同時に癌が重複するのは案外に多く,Moertel(Gast-Toent.32:1095,1957)1.25%,Mayo Cl 2.18%,一方は胃の腺癌,他方はリンパ肉腫,Hodgkin.白血病・滑平筋肉腫など,重複癌の中ではリンパ肉腫が合併しやすいようで,Moertelは全癌の7.4%にリンパ肉腫が重複したという.

MEDICAL Notes

villous adenoma/燕麦細胞癌のカルチノイド症状

ページ範囲:P.686 - P.686

 S結腸・直腸の絨毛状腺腫は高度の水様下痢便と共に電解質を失いショックを招くことがある.最近Solomon(J.A.M,A.194:5,1965)が自験2例を追加し,文献に36例,こういった症例を見いだす.その平均年齢は64歳で,愁訴継続期間は平均4.2年で,長いのは15年というのがある,水様下痢便あるいはrice water stool,copious rectal mucusなど,ときに出血があり,脱力・疲労・乏尿・低血圧・confusion・尿毒症・悪心嘔吐・dep-ression・ショックなどを末期には多少とも著明に呈してくる.脱水・電解質欠乏のために,副腎不全・喪塩性腎炎・尿毒症・Guillain-Barré・家族的周期的四肢麻痺などと誤認されることが少なくない.前には起立性低血圧が主症状であつた例がある.しかし腺腫は指診ないし直腸鏡で発見容易で,注意すれば見おとすはずはない.脱水のほかに,低Na血・低Cl血・低K血症,多くは低CO2血を伴い代謝性アシドージスで,低K血にもかかわらずアルカロージスにならぬ点も,本症の特色であろう.K1.5mEq/lでアルカロージスというのはSolo-mon第2例ぐらいでほかにない.36例のうち7例は手術前に,こうした物質欠乏のため死亡した.

他科の知識

内分泌疾患の内科的治療(1)

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.689 - P.693

はじめに
 内分泌疾患には内科的治療で充分なものもあれば,外科的治療による他はないものもある.現在,だいたいにおいてこれら両者の区別ははつきりしている.たとえば内分泌腺機能亢進症のうち,内分泌腺の腫瘍によるものの場合には,診断がつきしだい,腫瘍の摘出を行なうことになる.これは,他の臓器の腫瘍の場合と同じである.しかし腫瘍でも,根治手術不能の場合には,止むを得ず内科的治療を行なうことがある.内分泌腺機能低下症に対しては,補充療法を行なう.現今,多くの内分泌腺において,そのホルモンを製剤として入手することができるようになつたので,補充療法も容易となつた.
 問題となるのは,内分泌腺の過形成による機能亢進症の場合である.これに対しては現在のところ,外科的治療が重要視されているが,薬物療法あるいは放射線療法の効果もしだいに認められてきている.たとえばBasedow病やCushing病のごときである.しかもこれらの疾患は実地上,症例としては内分泌疾患の中で比較的に多いものである.また機能異常はなくても甲状腺の疾患では,近年外科的治療よりも内科的治療の方が奨められるようになつたものが2〜3ある.

他科の意見

内分泌疾患について外科への希望(1)

著者: 三宅儀 ,   鳥塚莞爾 ,   森徹 ,   井上博 ,   森田陸司 ,   小西淳二

ページ範囲:P.694 - P.696

古くは内分泌腺機能亢進症の治療は主として外科的療法に主眼がおかれていたが,現在では内分泌腺機能亢進症に対する外科的治療一辺倒の考えは漸次訂正され,また手術前後の内科的治療も重視されるに至つている.ここに本号では甲状腺および副甲状腺疾患,次号では副腎疾患の治療法に関して内科的立場よりの希望を述べることにする

藥剤の知識

降圧剤の使い方(2)

著者: 新城之介

ページ範囲:P.697 - P.699

Ⅲ.各種降圧剤の特長
 降圧剤使用に際しては主な降圧剤について,その作用の特長と効果,また起こりうる副作用などをよく知つておくことが必要である.今日一般に用いられている降圧剤としてはRauwolfia製剤,Benzothiazide系製剤,Hydralazine,自律神経遮断剤,脱炭酸酵素阻止剤などがあげられる.

講座

疾患別にみた局所麻酔のかけ方(2)

著者: 西邑信男 ,   木内実

ページ範囲:P.700 - P.703

Ⅰ.腰部硬膜外麻酔
 硬膜外麻酔はすでに30年以前より行なわれていたが,全身麻酔剤および全身麻酔法の発達がめざましいため,そのかげにおくれて,広く行なわれないでいた.
 1950年以後になると,一般の外科に臨床上有効な麻酔法として使用されだし,わが国でも1951年以来胸部外科,一般外科に一時用いられ,その後1957年頃よりしだいに広く行なわれるようになつてきた.

カンファレンス

穿通性胃潰瘍・十二指腸憩室か

著者: 小島憲 ,   若山晃 ,   宍戸隆典 ,   松田源彦 ,   上野幸久 ,   小沢啓邦 ,   太田怜 ,   森永武志 ,   藤田五郎 ,   佐藤亮五 ,   高島民守 ,   杉本研士 ,   豊島穆 ,   伊東貞三

ページ範囲:P.704 - P.711

 藤田(司会) 第307回のCPCをただ今から始めます.71歳の男性で,最初は三宿病院の内科に心疾患と消化管の出血ということで人院したのですが.その後に外科に転科した症例であります.したがつて、外科の高島医官に経過を説明して頂きますが,今日は,当時太田(怜)医長と一緒に内科で診療された伊東貞三先生も大学からみえていますので,内科関係のところは補足説明して頂きたいと思います.
 高島 患者は71歳の男性で,職業は会計士です,入院時の臨床診断は,胃潰瘍の疑,十二指腸憩室,心疾患と消化管出血で,術後の診断は穿通性胃潰瘍と十二指腸憩室となつております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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